2話「オレの彼女で家騒動!?」
かくて数時間、電車に揺られて目的地の駅まで着くと、バスに乗り継いで家まで帰っていったぞ。
都会とは違い、住宅の密度が薄くて田んぼの多いのどかな地域。
地元の、相変わらず見慣れた二階建ての家が見えて、懐かしく感じた。
玄関へ入ると、母さんが「おかえり」ニコニコと迎えてくれた。そして遅れて父が「お疲れだったな」と穏やかに笑んだ。
紹介すっぞ。父である城路カカオと、母である城路アサリだ。
「あらあら彼女さんねぇ……、じゃあ部屋を用意しなきゃね」ほほ!
「遠慮します! ナッセと一緒に寝るので、よろしくお願いします!」
泊まるからと案内しようとした母に、ヤマミは丁重に頭を下げた。
オレは苦笑い。
「お……おお……!!」
「な、なんて事!!」
なんか父さん母さんワナワナ震えているぞ。やべ、家族会議一歩手前ぞッ!?
「お前! まさかCまでッ!? そこまでいってたとはッ!!」
「あらー、今日の晩飯は赤飯だねぇ……。これは張り切っちゃうかな」ほほ!
「おう!! 食材足りなかったら買いに行ってくるぜっ!」
「頼りにしてるよ、あなた」ほほ!
急に真顔の父が「ゴムあるのか?」と聞いてきて「いや大丈夫」と答えておいた。
「いやっほぉぉぉぉお!! 孫が見れるぞぉぉぉお!!」
急にハイテンションに戻って、父が「うおおおおお」とドタバタしながら去っていった。母はいつも以上にニコニコしながら「ごゆっくりね」と後を追いかけて行った。
そんな予想外な反応に唖然させられたぞ……。
ってか、今まで淡々としてたのにな。
「……初めて会ったけど、そういうキャラなの?」
「いやぁ……、あんなテンションの親は初めて」
「あとゴムって何?」
「…………今は聞かないでくれ。頼む」「そ、そう?」
両親は創作士ではなく普通の人間だ。モンスターに襲われる事もなく、普通に仕事して生計立てて暮らしている。
以前はそんな地味な生活をオレも送る事になるかと嫌気がさしてたっけ。
だが、あんな生き生きとした親は久しいような気がする……。
「むむう……美人だな」「ああ……、まさか彼女……?」
声に気付くと、角の隅っこから弟二人がこちらをジト目でじーっと見ていた。
「いやー彼女さん連れてくるとはな!」ハハハハ!
ダイニングテーブルで囲んで晩飯を頂いてる時に、親父が上機嫌に笑っていた。母もしんみりと嬉しそうだ。しかし高校生の弟二人は不機嫌そうだ。
「どうせ宿題手伝ってもらう為に来てもらっただけじゃない?」
「そうそう、コイツ恋愛経験皆無だろ!」
「ぐっ!」
痛いトコ突くよな!
次男は城路ツバサ。三男は城路ヤスシ。これまた創作士ではなく普通の人間。内気なオレと違い、二人は仲が良くて理想の兄弟図とも言える。
実を言うとオレの事を「兄さん」と呼んだ事がない。
元いた並行世界では引きこもってたのが原因で、今の世界では師匠に師事してて弟たちと絡まなかったのが原因と、それぞれ理由は違うものの仲が良くないのは共通だ。
見かねたのか、ヤマミはオレの腕に抱きついて、訝しげな顔のまま寄り添ってくれる。
「もう互い色々あった仲。もはやナッセとは一蓮托生。彼氏彼女という軽い関係ではないわ」
ピト────って感じでオレに引っ付いている。
深い関係だぞって言わんばかりの見せ付けである。あと胸が密着してて、ぷにぷに。
「あらぁ……、こんな美人に言わせるなんて罪ね」ほほ!
母は上機嫌に微笑む。だが弟たちは両手をわなわな踊らせ声にならない言葉を発し、悶え始めていく。
つか抱きついているヤマミの胸が腕に……。おおぅ……柔らか……。
とろけるような心地良い気分のままヤマミへ身を傾けていく。
「嘘だ────ッ!!!」
「信じないぞ────ッ!!!」
弟たちは涙目で立ち上がり、どったんばったん廊下へ消えていった。
その深夜…………。
父と母はベッド上で激しく盛って、ツバサは狂ったように包んだティッシュの山を築いていた。ヤスシはベッド上でうーんうーん寝苦しそうだ。ちなみにオレとヤマミは二つの布団並べて、普通に寝ただけでした。何もなくてゴメンね?
そんなこんなで、朝の太陽が地平線からやってきたぞ……。
「ナッセおはよう」「ああ、おはよう。ヤマミ」
オレはヤマミと一緒に起きて、歯磨きを済ませ、外ですーはーすーはー深呼吸しながら体操していた。
するとババッと父母弟たちが出てきた。未だ興奮冷めやらぬだ。
「見ろ!! なんか覚醒したぞっ!!」
なんと全身からオーラが溢れてきていた!? ズズズ!
父母三男はついに創作士の扉を開いたようだ!?
「えぇ────────ッ!!!?」
まさかの急展開!!?
一方、次男ツバサは痩せこけたままベッドの上でビクンビクン瀕死になっていた。