19話「オレTUEEEEE無双!!」
夏とはいえ山は涼しいなぞ……。
そう、オレとヤマミは夏休みを楽しむ為に立山アルペンルートを通って楽しんでいるのだ。山地の景色が見渡せるロープウェイで結構高い所まで来て、バスで蛇行道をクネクネ通って行くと標高二四三四メートルの室堂まで着いたぞ。
その山岳地帯では、高い木がほとんどなく草原と点々とする岩が広がっていた。
「うおー久しぶりだなぞ」
「見て! 山に雲がかかっている!」
「本当だ!」
間近に聳える山に雲がかかっていて、どことなく神秘っぽく感じる。
ヤマミは初めて見た子供のように、キラキラした目であちこち見渡しながら興奮していた。時に「早く早く!」と手を引っ張って催促してくる事もあって微笑ましかった。
「こんな山、初めて見たわ……。これが登山…………」
落ち着いた所で施設内のベンチで共に座って、大窓の向こうの山岳風景を眺めながら温かい茶をすすっていた。
ヤマミはこれまで登山した事がなかったようだ。夕夏家の箱入り娘だった事もあるが、転生し続けている時期は余裕がなかったのも大きい。
そして夕夏家総統ヤミザキとの因縁にケリをつけるまで、のんきに旅行だなんて思い付きはしなかった。
全てが終わってからだからこそ、彼女と一緒にゆっくりできる。ほぅ……。
「定期連絡。立山の『洞窟』にて三名ほどの創作士が二週間前から帰還していません!」
突然の放送に、不穏な空気が漂った。
次いで「もし真琴ミッカさん、真琴ナカシさん、友哲チキクさんを見かけたら連絡を!」とモニターに顔が映し出された。オレはそれに見開く。
またコイツらかよ! 懲りないなぞ!
立山の『洞窟』の位置はその辺のパンフレットの地図にも記されている。
「行くの?」
「ああ、待っててくれ。パッと済ませる!」
「……止めないけど、はい」
ヤマミは漆黒の小人を一人生み出すと、オレの背中へ潜り込ませた。
「これで時空間繋げられるから」
「そんじゃ、行ってくる!」「いってらっしゃい」
互いに手を振り、オレは外へ駆け出す。そして開けた場所で「はあっ!」と気合を入れる。
足元に花畑を広げ、背中から羽が二枚拡大化。ドウッとフォースを全身から噴き上げて周囲に砂煙を吹き散らす。
周囲の人々は地響きに驚き戸惑い、ビリビリと威圧に当てられる。
「行くぜ!! これが超ナッセだ!!」
オレは某漫画のアレをイメージして変身したつもりになってるぞ。
烈風を巻き起こして高速で飛び立ち、あっという間に『洞窟』へ辿り着いて入口へ飛び込む。周囲にいた人はその余波に煽られて「うわぁー!!」ときりきり舞う。
内部は鍾乳洞みたいな感じで薄暗い。
オレはフォースを纏いながら超高速飛行で洞窟のフロアを次々と通り抜けていく。すると途中のモンスターがニョキッと阻んでくる。
ぞろぞろと数十匹と大勢だぞ。
【ハリマウス】(獣族)
威力値:770
山の森に潜むモンスター。背中のトゲトゲのデカいハリネズミ。下級下位種。
【ドラキッス】(獣族)
威力値:900
暗い洞窟に潜む。真っ暗闇の中でも位置を把握できる超音波で敵を狙い撃つ。ヤワラル連発で守備力をドンドン下げてくるぞ。下級下位種。
【ヒョコベアー】(獣族)
威力値:1300
山の森に潜む小型のクマ。小さいが車を粉砕できるほどの膂力を持つ。下級下位種。
「どけどけー!!」
ドゴゴゴーンッ!!
超高速飛行のまま突っ込んで、モンスターたちをはねて肉片に飛び散らせた!
一日かけて通る距離を数十分で通り抜け、阻むモンスターはドカンドカン体当たりだけで木っ端微塵だー!!
一キロほどの『察知』を広げたまま、遭難者を探しまくりーっ!!
「まだいない! 奥か!」
結構進んでいると一段と強い気配が!
【マウンテンベア】(獣族)
威力値:8000
山の森に潜む凶悪な猛獣。バズーカ砲をものともしない防御力に、戦車をすら叩き潰せる攻撃力はただただ脅威。視界に入った獲物に執着する為、いかなる威嚇や逃亡は通用しない。下級上位種。
【セイバータイガー】(獣族)
威力値:5400
剣のように鋭い犬歯が剥き出しの猛獣。上位種の割に単体では弱いものの、集団で狩るので実は恐ろしく手強い。知能も高く、意思の疎通もできるので厄介。常に十匹以上で群れる。下級上位種。
【クラウドシャドー】(精霊族)
威力値:6400
雲のようなモンスター。氷魔法ヒェピラァと吹雪で攻撃してくる。集団で連発されると全滅の危険もある。下級上位種。
「どけー! 邪魔だー!!」
身も蓋もなくドゴゴゴゴーンと体当たりだけで肉片に散らした。
例え先制で魔法とか飛んできても、オレのフォースが弾くから効かーん!
容赦のない轢き逃げで数百匹ものモンスターは昇天。どうせ元は極悪人だし。
とあるボスの部屋へ入ったら、オドロオドロ……赤黒く混濁した空が見える、天井も壁もない広大なフィールド……、まるでラスボスの戦場かってくらい奇妙な風景だぞ。
地平線からのそっと山のような巨人が現れてきて「グオアアアアア!!」と全て震わせる咆哮を上げた。
【キョダイダラボッチ】(精霊族)
威力値:65000
半透明の漆黒体を持つ巨人。鹿のような枝分かれしたツノ。まん丸い目に大きな口。精神体であるため、普通の物理攻撃は一切受け付けない。
その力は地図を書き換えかねないほど天災レベルの攻撃力を持つ。
現在、撃破できた人は皆無……。
「悪いけど用はねぇ!! ズバアアアアアン!!!」(30万の攻撃)
「ギエ────!!!」
ボスは死 ん だ。
引き返して、通ってないであろう他のフロアを通って行った。
「あ、ここか!!」
とあるフロアにたどり着くと、ぐるりと宙返りして着地。スタッ!
そこはまるで氷の世界のようにキラキラした青白い結晶の大広間だった。中心に鏡のような湖、そのさらに中心には大きな杉の木のようなものが聳えていた。
あちこち背の低い果実の木が点々としている。そこでテントがポツンと張られていた。
「おい! 大丈夫か!?」
テントの中へ覗くとイカ臭さが充満しててミッカ、ナカシ、チキクはぐったり倒れていた。
何故かパンツを頭にかぶった全裸のミッカと紐で全身を縛られたナカシが抱きついていた。一方、離れた所で放置されているチキクも全裸で目隠しされて手足がふん縛られてボコボコにされた打撲傷がひどい。何このプレイ!?
ってかここまで来て何してんだよ!!?
「早く助けねーとな……。何があったか知らんが」
オレの肩からニョキッとヤマミの小人が出てきて、ズズズズ……と黒い花吹雪の渦を発生させてゆく。
あっさり遭難者救助完遂! 決まったぜ!
んでミッカたちは近くの立山創作士センターで回復された。その後、色々根掘り葉掘り調査員に聞かれてミッカたちは赤面&顔芸で悶えていたようだ。
詳細としては、ムリに突き進んでしまい帰還できなくなったので性癖全開の変態プレイしたまま最期を迎えようとしてたワケだ。
チキクに至っては完全に口封じ。
まさか助かるとは思わなかったので、赤っ恥かいてるってトコか……。
アホかよ!