18話「一緒にゲームしようぜ!!」
夏真っ只中! 燦々と眩しく太陽が青空から照らしている。暑い。
もう宿題も終わってるしいいんだけど、夏休みも残り少なくなってきたなぞ……。
そんな折、オレとヤマミはテレビに向かって格闘ゲームで白熱していた。
「ぐぬぬ!!」
「ご愁傷様」
ヤマミは覚えが良く判断も速いから段々勝てなくなってきたぞ。詰め将棋みてーにジリジリ詰んでくるみてーでキツい。
ええい!! 波光拳ー波光拳ー! 今だ、翔龍拳だー!!
「うお──! やった──!!!」
「あーあ負けたわ……」
オレがすかさず放った技でヤマミのキャラがKOされたぞ……。
ギリギリって時に底力出せたぞ。これでまた負け越しはなくなったな。
ヤマミは「ふふっ」と微笑んでくれる。
「あー疲れたな──!!」
オレはゴロンと仰向けに倒れて息を抜いた。ふう……。
ヤマミもコントローラーを離し「じゃあ飲み物持ってくるね」と部屋を出て行った。オレはボケーと天井を眺めていた。
一緒にゲームやるなんて久しぶりだったな……。
以前は後輩とも一緒にやってたっけな。勝ち負け関わらず盛り上がってたっけな。オレは特に中くらいの強さで、そんな器用じゃないよな。
こんな風に逆境に底力を出して逆転勝ちだなんて……、ってそういえば!
逆転勝ち、妙に多いなぞ……? まさか……?
「麦茶持ってきたよ」
柔らかい顔でヤマミが麦茶ポットとコップ二つを乗せたトレイを持ってきていた。
コトンとテーブルに置き並べているヤマミに、オレはジト目……。
「……わざと負けた?」
「え? ……な、なんの事かしら」
珍しく口笛吹きながら視線を明後日の方向に逸れた。いつものヤマミには珍しくウソが分かりやすかった。本来なら冷静な顔で「そんな事ないわ」ととぼけられるだろうに……。
それだけオレには心許しているんだなーっと察した。
以前(元いた並行世界での)オレなら「なんだよバカにしやがって!!」と邪険に苛立つところだが、今は違う。
もうネガティブにならなくていいんだー。
「ありがとな。おかげで対戦弱えーオレでも楽しめたぜ」
オレは愛想良く笑い、麦茶を注がれたコップを手にする。
ヤマミはポワポワ嬉しそうだ。
……本気出しゃオレなんか完封できるってのに、敢えて手抜いてくれた。それにオレが対戦が嫌いなの知ってるからこそなんだよな。
お互い楽しければいいのかもしれないな。実際楽しいし。
ごくごくごくごくぷぱー! うめぇ!! 冷たい麦茶が効く~!!
「あははっ!!」
こうやってヤマミと笑い合いながら過ごす日々は本当に貴重だぞ。
……なのにピンポーンと鳴り響いてくる。誰だよ!
玄関でドアを開けてみると、なんと地蔵坂で会ったヒデキとエラがいた。
やたら上機嫌でニッコニコしてるぞ。
「何の用だよ?」
「へへへっ! ナッセ先輩~!!」
学校生活でさえ呼ばない先輩付けが不気味すぎる……。
両手でさすりさすり擦り合わせてニッコニコ。怪しいほどにニッコニコ。
「……昨日パチンコ負けてよ。五万貸してくんねぇ?」
「帰れ!」
オレは蔑んだ視線で即答。
「先輩だったらよォー! 可愛い後輩様の為に恵んでやるところだろーが!!」
「そうですよ!! あんまりです!! せめて七万ずつ!」
「……おい増えてんぞ」
はぁ、とため息つく。
「おいおいおい! 調子に乗ってねーか? ナッセよォ?」
ヒデキは徐々に青白い肌に変わって体格を大きくして、こちらを睨みつけてくる。
エラもメガネをキランと輝かせて不穏な表情を見せている。しかし二人が大人しく玄関を出たと思ったら、外にはガラの悪い男たちがバイクに乗ったまま大勢でいるのが見えた。
「表出ろや! 逃げ場はねーぞ!」
オレは玄関を出ると、確かに大勢のならず者が家を取り囲んで「おうおう」威張り散らしている。
「分かったか? こ~んな可愛い後輩様たちがいるんだぜ?」
「そうそう。騒がない方がいいですよ」
へっへっへ、とヒデキとエラはいかにもな三流悪党みたいなニヤけた面してやがる。
「……ってか、こんなガラの悪い後輩いねーぞ!」
「ああん? 痛い目に遭いたくなかったら一人ずつ一〇〇万配れや!!」
「家族ごとリンチにされたくなかったらですけどね! それと彼女暴行されてもいいんですか~?」
「おいおい、マジで恐喝されるとは思わなかったぞ……」
ヤレヤレと呆れて、肩を落としてしまう。
ヒデキはムカついたのか怒りに滲んで「いいから配れや!! 殺すぞコラ!」と凄む。
……こんな後輩だとは思わなかったなぞ。
確かに二人は仲が良くて、通学でも一緒だったほどだ。なのに、こんな強盗みてーなクズになってるとは思わなかったぞ。
どの道、金を配っても以降もせびり続けるだろうな……。
しかもコイツらカルマホーン生え出してる。今まで生えなかったのが不思議なくらいだ。
「早くしろや!! 俺様たちはパチンコとか色々遊びてーんだからよォ!!」
「そうですよ! 早くしないと彼女が酷い目に遭いますよ。ヒッヒッヒ」
「酷い目に遭わすって? どういう事かしら?」
なんと全身に影が覆うほど殺気立ったヤマミが玄関から現れた。サラッと長い髪をかきあげ、冷たい視線で見やる。
重々しい威圧が場を席巻し、小刻みに地面が震え始める。
「ぬ……!!」
「う、うわわっ!!」
さすがの強気だったヒデキもエラも冷や汗いっぱいで竦み上がっている。
更にヤマミは全身から黒い墨が溢れ出して巨像を象らせていく。漆黒に染まった三角帽子にギザギザの裾のローブに水晶のようなヤマミの凍った顔。
なんとヤマミを覆い囲む『偶像化』が高圧的に顕現化されたぞ。ズオオ……!!
「で、なに? やるの?」
凄むヤマミにヒデキとエラは「ひょええええ」とショベンちびりながら完全に竦み上がってしまった。
取り巻きの後輩(?)たちも一緒に同様に竦んで尻餅をついていってしまう。
力の差を覆せぬほど圧倒的強者……! イキっていた後輩(?)たちは戦意喪失してしまった。
「じゃあせっかく遊びに来たんだからゲームしましょうか?」
「えええ!?」
「え、いえ……」
しかしヤマミの『偶像化』が逃すまいと巨大化してきて恫喝。
すごすごと家の中へ入らせてもらった。
「私に勝てたら一〇〇〇万出すわ。それでいい?」
事もあろうか、ヤマミは自信満々とテレビゲームの前で後輩(?)たちに宣言したのだった。
もちろんヒデキも乗らない手はなく「へへ……このゲーム得意なんだ」と下心漏らしていた。
「ヤマミいいのかよ?」
「いい。それに本気出したいから」
ヤマミはこちらにニコッと笑いかけてくる。
……実際、本気のヤマミはとんでもなく強かった。
オレには手を抜いているのが完全に分かるくらい、ヒデキたちをメッタメタに完膚なきまで打ちのめしていったぞ。
なんだよそのコンボ! 早業に次ぐ早業! ハメ技してるかってくらい一方的過ぎる!
「うわー!!」「ぎゃああー!!」「ぎえー!!」「つ、強ぇえ!!」
多くの後輩(?)たちをコテンパンに返り討ちして、二度と立ち直れないくらい心を粉々に粉砕していった。
「「すみませんでした──!! もう二度としませ──ん!!」」
泣きっ面のヒデキたちはペコペコ頭を下げて、後輩(?)たちと一緒に逃げ帰ったのでした。
そして当のヤマミはニッコニコ! スッキリしてるぐらい満面だ! こえー!
「次はシューティングで二人同時プレイしよか?」
楽しそうなヤマミにオレは「ああ、やろう」とテレビに向かい合った。
今日は二人でゲームに夢中になれて楽しかったー!
ちなみに後日、夜道でオレが一人で散歩してた所をヒデキたちが懲りずにカツアゲと襲撃してきたが、天と地の差を分からせてやった。
今度は完膚なきまで世話してやったので、二度と来る事はなかった。