174話「六界篇⑩ ジャオウ逃亡ァ!」
ジャオウは震える右手の手首を、左手で握り「ぬうううう!!」と唸る!
ズズズズズと、右腕から黒龍が這い出て巨大化していく! それ空に向かって放った! その数二〇匹!! それらは急降下して、屈んでいるジャオウの背中へ殺到!!
「邪凶滅殺拳! 獄炎・二十頭黒龍装威!! コオオオオオ!!」
凄まじい稲光を放ってジャオウはエーテルを噴き上げていく!
「第三の目とか全身邪気眼はいいのか?」
「……ダウート戦で無茶したせいでな」
実は全身筋肉痛みたいなのが迸っているァ……。
四〇匹を憑依合体なんて無茶しておいて惨敗だからな。ナッセとヤマミが治療してくれたが、それでも不十分。
「だが、貴様ごとき! この程度で充分よ!」
地を蹴って、千手王へと間合いを縮めて「ハァ────!!」と黒炎纏う拳の乱打を叩き込もうとする! しかし千手王は刹那の暇で滑らかに合掌作法を行う。
狂気とも呼べる感謝の正拳突きの果てにたどり着いた境地! その成果を!
《感謝するぜ! お前と出会えた、これまでの全てに!》
千手王は合掌の手をハートのポーズに象った。
そして背中の千手千眼が一斉にジャオウへ────!!
ドダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!!
「!!!!」
ふつーに千手王はボコボコにされました!
《ウボァー!!》
尻餅をついて倒れていく千手王に、スピリアは汗をかき「効果はなかったな」と真顔で言う。
《一年ぐらい感謝の正拳突きしたのに効果無いじゃんかよォォォォォ!!》
ジャオウのフックを頬に食らってぶっ飛ぶ! バキッ!!
更に追い討ちと黒炎の拳で猛攻をしかけていく。
「気持ちは分かるが、あれは漫画の世界だからな。私でさえ完璧再現は無理だ」
《いててて! 力を封印するってだけでもスゲーよ!》
漫画の影響を受けて特訓をしたという黒歴史というヤツだ。
スピリアはトレジャーの影響を受けて鎖を具現化する修行として、本物の鎖を弄ったり、目を瞑って触感したり、何千枚と写生したり、眺め続けたり、舐めたり、齧ったり、音を立てたり、匂いを嗅いだり、それを繰り返していた。
師匠に「絵を描くようにエーテルを練れば簡単だぞ」で呆れていた。
実際は絵を描くように、エーテルをイメージ通りに形に整えて少しずつ本物へと近づくよう何回も練習すればオッケー!
まず『形状』を整え、『質感』を練り込み、『質量』を持たせ、『効果』を付加するなどで完成できる。結構時間がかかるがクオリティ次第で本物より凄くなる事もある。
この辺は絵描きとそう変わらない。
ナッセも『刻印』という形で似たような事をしていたのだ────っ!
「懐かしいな。思い出す」
《千手之陰我応砲!! 侵壊刺!!》
千手王は背中から黒炎を纏った千手を急速に乱射して、ジャオウを滅多打ちァ!!
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!
「!!!!」
スピリアはエーテル纏う鎖を────!
しかし周囲からボコボコッと千手千眼が無数生え出てきて、スピリアの手足を握り、胴体に絡まって、宙吊りにしてしまう!
「!!!?」
しかも『封印』を付けられて、具現化していた鎖が霧散してしまったァ!!
《じゅっふっふ! お前から食らった『鎖縛天罰』を返したぞ。大人しくしとけ》
な、な、な、なんと────!! 自分が食らった特殊能力まで返したァ!!
さすがのスピリアも身動きできず!
震えたまま「ぐっ!」と悔しそうに唸るしかない!
「なにっ!!」
煙幕の最中、起き上がったジャオウは驚愕した!
千手王はニヤリと悪辣に笑んで《どうする?》と脅す。
しばし戸惑うジャオウは、自分の胸に手を当ててアレを確信していく。
「フッ!」
不敵に笑んだ。
すると、事もあろうか黒龍に乗ってピュ──────ッと空の彼方へ逃げた!
「ああっ!? ジャオウ!?」
そう! 無効化されているので、ジャオウとスピリアを重く結ぶ『永久に繋がる愛の鎖』が消えちゃったからなのだ!!
その隙を突いて逃げたのだ────────っ!!!
「なんてヤツアル~~~~!!」
「テメェの彼女を見捨てやがっアルァ~~~~!?」
「でもよぅ、あの女の愛情重い感じするアルネ」
「あ、それ思ったアル」
餓鬼が色々無駄にコマごとに解説してくれる。
スピリアはフルフル震えていく。それを千手王は笑んだまま見やる。
《なぁに心配するな! お前を取って食うワケじゃないんだァ》