171話「六界篇⑦ 下克上ァ!」
カレンにボコボコにされた馬頭王は血まみれで土下座していた。
「ご、ごめんなさい……。もォ~堪忍して……」
しかしカレンは険悪な顔で「おうおう! 罵倒してくれやがってーァ!」と凄む。
馬頭王は涙目でペコペコしている。
「ねぇ、ここから出してくれない?」
毛で全身を覆われてしまって胸が異様に大きくなっているリョーコは聞いてみる。ほぼ牛の獣人だ。
大女カレンも毛で覆われて、体格も骨格もラーテルに近づきつつある。いやこの状態だとクマっぽいか。
馬頭王はビクッとしたが、首をブンブン振る。
「で、出られませ~ん。ぶひひ」
なんか冷や汗をかいてトボける感じだ。目も泳いでいる。
「それよりゆっくり話しませんか? 友達になれそうですし~」
馬頭王は白々しく、ニヤけた笑顔で会話を提案。
その実、時間稼ぎをしてリョーコとカレンの動物化を目論んでいたのだァ!
上手くいけば理性を失って、本能のみで動くしかなくなる。クマ、ティラノサウルス、クジラと同じようにな……。
しかしそれをリョーコとカレンはジト目で見透かしていた。
「へー、そんじゃ……」
「オウ! ちょっとジャンプしてみろーァ!」
「ひいっ!」
同じく毛で覆われてしまっているカレンに凄まれて、馬頭王はピョンピョン飛ぶ。コロンコロン音がする。
すかさずカレンはキラーンと両目を輝かせた。
「中のモン出せーァ!!!」
思い切ってハンマーで腹を穿つ!! ドゴォン!!
馬頭王は目玉を飛び出させて「ギョヘ~~!!」と何か小さいものを吐き出したぞ。
リョーコは慌ててそれを両前足で受け止める。
カレー色の透き通った宝石だ。
「これはアクトが持っていた『六道石』!!?」
「ハッ! めぼしいモン持ってたなーァ!」
「ああ!! それだけは返して~~!! これがないと帰れないよ~~!!」
涙目で馬頭王は慌てている。
カレンとリョーコはニヤ~リと悪そうなツラをする。
「これを持ってないと帰れないの?」
「うんうん!」
「じゃあ、どこから帰るんだーァ?」
「そりゃあ、あの渦から……」
馬頭王が前足で指さしたのは、なんと上空の大渦。
「馬さん、ありがとう!!」「サンキューァ!!」
「じ、じゃあ返してくれるんですね!」
もはや牛のリョーコとラーテルのカレンは「あ?」と怖い顔で凄む。
動物に近づいているせいか、より怖く見える。
「返したら一人で逃げるんだろーァ!」
「うっ!」ギクッ!
「ちょうどいいわ。なんかアンタ縮んでいるみたいだし、ここで可愛がってもらったら?」
馬頭王は少しずつ縮んでいって、クジラよりも小さくなってきている。
それと対照的にリョーコとカレンは人間へ戻りながら、グングン巨大化していく。もしかしたら『六道石』の奪取で逆転するのかもしれない。まさに弱肉強食を体現したかのような変化だァ!
「これ、どこまで大きくなるの~?」
「へっへーァ! デカくなるってのも悪くなーァ!」
ついにクジラよりもデカくなったリョーコとカレン、無事に人間に戻ったァ!
ここまで巨大化できれば上空の大渦へ飛び込めれる。
クマ、ティラノサウルス、クジラを見下ろし手を伸ばす。
「一緒に帰ろか?」
しかし彼らは首を振る。
もう完全に動物化してしまって、戻れなくなってしまっている。
それに元いた世界は時代が進んで、帰る場所はもうない。
「気にすんな! こっちで楽しくやるからよ!」
「久しぶりに人間らしく話せたガウ!」
「わっはっはっは! 友達もできた事だし、畜生道を変えるってのもいいかもな」
そっか、とリョーコは儚げに笑う。
「短い間だったけどありがとー!!」
「へん! ありがとーァ!」
クマ、ティラノサウルス、クジラに手を振られて、二人は大渦へ飛び立った……。
「こんなトコへ来るなよー!」
「よかったガウ! よかったガウ~~!」
「気を付けて帰れよ!」
なんか白目で瀕死オオガもひっそりと吸い込まれていった。(笑)
「待って~~~~!! わ、我を置いていかないでくれ~~~~っ!!」
馬頭王は必死に泣き叫ぶが、もはや二人はいない。
逆に黒い影覆われたクマ、ティラノサウルス、クジラが両目を光らせている。
ハッとして、恐る恐る振り向く……。
「よくも長い年月、さんざん罵倒してくれたな~!」
「いつも好きなように言ってくれたガウ! 許せんガウ!」
「バカにしてくれた分、思う存分可愛がってやろう!」
ただの馬に成り下がった馬頭王は青ざめていく……。
「ぎえ────────っ!!」