17話「地蔵坂の怪……!?」
数日前の事…………。
夜な夜な薄暗い、地蔵だらけの不気味な坂。
九十九折りという幾重にも曲がりくねった坂道を、懐中電灯を手に二人の男が歩いていたのだぞ。
「ここ出るんですよね……?」
「そんなワケねーだろ!」
メガネをかけた優男で茶髪。おどおどしている。コイツは羅川エラ。
そしてもう一人は丸刈りで太り気味の体格がいい男。コイツは覧伏ヒデキ。
「おらぁ!! 出てきやがれ!!」
げしっ!
んなぁんとヒデキは罰当たりにも地蔵を蹴倒したのだ!
するとあからさまに青白い人魂がオドロオドロそこらじゅうに漂い始めたぞ。
エラは「ひいっ」と青ざめて身震い。しかしヒデキは「ハハハハ!!」と大胆不敵だ。幽霊など怖くともなんともないと言った感じだぞ。
「俺様を誰だと思ってるよ?」
なんとヒデキはメキメキとランプの魔神みたいな青い肌の大男へと身を変えていく。大柄で三メートルも身長が伸びたぞ。
「どこからでもかかってきやがれ!!」
『覧伏ヒデキ(蛮族)』
丸刈りで。太り気味の体格がいい男。大胆不敵で命知らず。
ナッセの後輩にあたる。乱暴な性格なので他の人から煙たがられている。
ランプの魔神のような青白い肌の大男に変身してボカスカ殴る脳筋タイプ。
あまり鍛錬するタイプじゃないので、見た目のわりに弱い。
威力値:2100
《罰当たりな事したな~! おまえも地蔵にしてやろうか~?》
なんと顔のない泥の巨人がヌウッと、坂の上から覗き込んできたぞ。デカい!
ドロドロと粘着性のある触手がビュッと高速でヒデキの全身を絡め取ってしまう!
「んぐ……ッ!」
グチュグチュ包まれて縮んでいく。そしてそれはやがて地蔵となって坂の地蔵たちと仲間入りだ。
「ひいいいいいいあああああああああああ!!!!」
ビビったエラは股間からブシャーッと水魔法を噴出させてすっ飛んで行ったぞ。
『羅川エラ(魔道士)』
茶髪で耳が見える程度の短めのロン毛。メガネをかけている。猫背で内気なのが見て取れる。
水魔法が得意なのだが、その方法がアレなんで省きますわ……。
ナッセの後輩にあたる。ヒデキが親友で、いつも一緒にパチンコしている仲。
割と頭が良く成績も抜群。しかし戦う事が苦手なので弱い。でもずる賢い。
威力値:1600
……逃げただけなのに自己紹介しちゃった。ともあれ、こんな感じぞ。
なのでそのエラがオレの家へ来てたんだぞ。
風鈴を鳴らして涼しい風が吹いてくる広間。大窓からは青空が見えている。
「……話は聞いた。しかし久しぶりだな。元後輩?」
「はい。久しぶりです」
オレとヤマミが並んでて、それと向かい合っているのが羅川エラ。ペコペコと内気っぽいぞ。
「卒業してから全くの音沙汰なしで、どうせヒデキとパチンコ打ってるんだろうと思ってたぞ」
「は……はい……。その通りです……。パチンコいいですよ……」
ニヤニヤしだすエラにヤマミは顔をしかめた。
「で、砺波の地蔵坂でヒデキが地蔵にされたんです! 助けてください!!」
キリッと真顔に戻って土下座を何度もしながら頼み込むエラに、オレは困り果てたぞ。
ヤマミと顔を見合わせて「分かったぞ」と承諾した。
砺波にある山岳の急な九十九折りの坂。そこに地蔵がたくさん並んでいたぞ。
エラの車に乗せてもらってここへたどり着いた頃は日が沈んでいた。不気味な薄暗さが霊的な雰囲気を醸し出す。
そこらじゅうに無数とある地蔵……。
オレとヤマミはエラに導かれて、とある場所へ着いた。エラは一つの地蔵を指差して「これがヒデキさんなんです!」と声を荒らげた。
おお! 確かに太り気味の体格に顔つきがそれっぽいぞ!
「でもなぁ……、何一つ気配ないぞ? 妖怪現れたって言うけど何も感じないぞ?」
「そうね。私も感じないわ」
「そ、そんなはずは!!」
オレの『察知』はゆうに一キロ範囲も広い。それを張り巡らして感触するがモンスターも何もいない。
ついにヤマミは腕を組んで「見間違いじゃないの?」と呆れる。
「え、う~ん! 分かった!! こうすればいいんですっ!」
エラは何を思ったか、ヒデキと思わしき地蔵をドカッと蹴り倒したぞ。更に上に乗ってガシガシ踏みつけまくる。
「金返せよバーカ!!」
「前からムカついていたんです!」
「地蔵になってどんな気分ですかー!?」
とか高笑いしながら踏みつけしまくっていたぞ。しまいに股から水魔法を放って水浸しにする始末……。
どんだけ不満あったんだよ、とオレとヤマミは後頭部に汗を垂らした。
すると途端に全体に気配がゾワッと湧き出して、無数の青い人魂が漂い始めたぞ。
さすがにオレもビクッと竦んだぞ。
《罰当たりな事したな~! おまえも地蔵にしてやろうか~?》
なんと坂の上から、ヌウッと顔のない泥の巨人が覗き込んできたぞ。デカい!
するとビュッと泥の触手がエラを絡め取ったぞ。ジュクジュク包み込んでたちまち地蔵に変わっていったぞ。
今度はこちらへ殺気が向けられた。
泥の触手が超高速でオレとヤマミへと四方八方から襲い来る!!
しかしピタッと止まった!?
《よ、妖精王様!!?》
なんか泥の巨人がビビってるぞ?
顔は見えぬが、あたふた動揺してるのが分かる。するとシュルシュル縮んでいって人型になったぞ。ついでに地蔵になってたエラを解き放ってくれた。
粘着性の泥が張り付いた裸体の美女だぞ!?
ボイーン巨乳で目も丸くて髪の毛の代わりに泥の髪造形。やはり恥部は泥でちゃんと隠している。
《スミマセン! これはとんだ無礼でした。私めは『ぬっべらぼう』と言う地属性の精霊です》
……畏れ多いと跪いてきたぞ?
どんだけオレ偉いの?? まだ何も言ってないんだけど???
「あ、あの……オレたちが妖精王ってなんで分かったの?」
《恐れながら……、我々精霊族は生命体の漏れ出す精神エネルギーを視る事ができるのです》
ぬっべらぼうの目には、ナッセとヤマミの全身から至高のエネルギーが漲っている。
例え人間として気を抑えて隠していても精霊族には隠し通せない。一目見て分かるのだ。妖精王となれば尚更だ。
……というような説明を聞かせてくれたぞ。
「って事は、精霊族なら誰でも分かるのね?」
《はい恐縮ながら……精霊族のみならず魔族や妖精族など、精神界に精通する種族なら誰でも……》
なんか頭が重くて上げられないみたいに跪いたままで、申し訳ないぞ。
オレはヤマミと顔を見合わせた。
……別に悪いヤツじゃないみてーだし、大丈夫そう。
「なぁんだ! おまえ大した事ねーな!! 脅かしやがって!!」
事もあろうかエラは「はははっ!」と調子に乗って、跪いているぬっべらぼうを蹴り倒す。
更に「バケモノがー!!」「おまえなんてやっつけてやる!!」「これで僕の手柄だー!!」と本性をあらわにしてボコボコにイジメ始めたのだ。さすがのオレも引いた。
むしろ人間の方が害悪な気がする……。
「コイツやっちゃっていーから!」
《はい!! 直ちに!》
怒ったぬっべらぼうに泥のムチで、エラは「ぎゃああああ!!」とビシバシ嬲られた。
「「ご、ごめんなさーい!!」」
解放されたヒデキとエラはボコボコにされた状態で土下座して、ぬっべらぼうに謝った。
────なんでも地蔵はぬっべらぼうの趣味でたくさん作っていたらしい。それに乱暴した人に鉄槌を下したりしていたようだ。
基本的に悪いモンスターじゃなかったのだ。そもそもエンカウント起きてねーし。
【ぬっべらぼう】(精霊族)
威力値:15400
妖怪と噂されているが無害の存在。普段は泥の巨人で威圧している。泥の触手でムチのように敵を打ち据えたり、巻きついて動きを封じたりできる。
地蔵を作るのが趣味らしい……。
実は可愛い女の子の姿だが、恥部はしっかり泥で隠している。下級特上位種。
帰り道の途中でヒデキとエラは上機嫌でパチンコ打ちに行ったとさ。
こいつら地蔵のままにされてた方がいいんじゃねーか? と思ったり。