12話「これ真に受けないでください!!」
「我は主らの先祖に当たる『城路辰衛門』なりぞ!!」
ギン、と猛者らしく鋭い眼光を見せ、精悍とした青年顔が兜から窺えた。身を武将の鎧で包み、腰には大きな刀と脇差が差されている。
兜の額部分には黄金龍が付いている。キラーン!
オレたちはポカンと目を丸くして、汗を垂らす。
「……だれそれ?」
「知ってる?」「いや」「誰でしょう?」ほほ!
ばがごっ! 辰衛門は逆さまにコケた。
「先祖に対して無礼なりぞッ!! そこになおれーッ!!」
振り下ろしてきた刀を咄嗟に白羽取りして「なぜオレにーッ!?」と返す。
刀を鞘に収め、コホンと咳払いする。
遠い目であさっての方向を見やって「……忘れられた武将も数知れずかぞ!」とため息。
「……不躾で申し訳ないけど、城路家の先祖なのね?」
「如何にも!」
ヤマミの問いに、辰衛門は毅然と頷く。
「遠い未来の子孫のようだが、主らは本家なりぞ?」
オレは首を振って「いえ、分家です」と答え、辰衛門はピクリと眉毛をはね上げた。
なんか深い溜息を付いて「本家は何をやってるなりぞ……」とボソッと。
「それよりも何故、オレたちをこんな過去にッ!?」
「歴史を変えたいとでも言うの!?」
しかし辰衛門は「そうではない!」と首を振った。
するとヴィンと一帯の影が横切って場面が切り替わったぞ。オレは「あっ!」と目を丸くした。
夜空の下、辺り一面の森林、都市、城までもが炎上していた。正しく灼熱地獄だ。
ゴオオオオオオオオオ……!!
「へはーっはっはっはっはっはっはっはぁ!!!!」
なんと炎上している城を陣取って、ヘインに似た戦国武将が高笑いしていた。
そしてその元で武者風の数千体ものミニシュパが火縄銃を手にぞろぞろと隊列を組んでいた。それに対峙する武田信玄、上杉謙信、豊臣秀吉、徳川家康が傷だらけで「くっ!」と焦燥を滲ませていた。
「ま、まさか……織田信長めが、私の謀反を見破ってたとはッ!」
血塗れで跪いている赤髪イケメンな明智光秀が悔しげに唸る。
「ちょっと待てぞぉぉぉぉぉ────ッ!!!」
オレは有り得ない光景に思わずツッコミ!
辰衛門は「……幾百年もお盆で降りている内に、日本史は捏造されている事に気付いたんぞ」とキリッと真剣な顔を見せていた。
ついオレは「いやいやそれは……」と首と一緒に手を振ってしまう。
つまり織田信長は依然と最強の武将として、日本の天下を取らんがために全方位でケンカ売って最終決戦みたいな流れになっているらしい。
教科書や歴史資料では、明智光秀が「敵は本能寺にあり」と反旗を翻して信長を自死させて三日天下を得たと書かれている。
大勢のミニシュパが絶えず火縄銃をぶっぱなし、数千騎もの足軽と騎馬が散り、名だたる武将が「ぐわああ」と命を落としていく。
更に大砲までもがドカンドカン連発してきて爆炎を巻き起こして、更なる屍を増やす。
「「織田ァ!!!」」
武田信玄と上杉謙信がオーラを纏って、獅子奮迅とミニシュパを数百体ずつドカンドカン吹き飛ばしながら、織田信長へと目指す。
しかし織田信長はニヤリと笑い、背後に巨大魔神がごとしミニシュパが顕現化され、両肩に載せたダブル主砲を撃ってきた。
山をも木っ端微塵にするほどの火力でドガドガアァァンと尋常ならざるダブル大爆発を巻き起こした。
「がはぁっ!!」
「……これまでか!! ぐふっ!」
煙幕に塗れながら、横たわった武田信玄と上杉謙信はガクリと息絶えた。おい、史実と違うぞ。
「徳川バリアーをも突き破るとは……!! ぐっ!」
マジ顔の徳川家康さんに悪いが、いつからそんなバリア張るキャラになってんだよ!
明智光秀は実はマグマ人間で溶岩を使った攻撃するし、伊達政宗は手足合わせて二〇本の刀を振るったり、豊臣秀吉なんか大阪城風巨大ロボットに変身するなど、ワケ分からん武将になってるし!
オレは疑心暗鬼で辰衛門をジト目で見やる。
「捏造しているのは、先祖様の方では……?」
「し、失敬な!! 全て本当にあった史実なりぞ!! 見ろ!!」
炎上している最中、ボンと炎が弾けて一人の武将がエーテルを纏って飛翔する。
なんと目の前の城路辰衛門ではないか! 勇猛で精悍とした顔で刀を手に、龍を象るエーテルこと『エーテ龍』を纏う!
長い龍の身が空を駆け抜け、辰衛門は信長へと目指す。
ミニシュパの猛攻を弾き、かわし、殺意を剥き出しに刀を構え────!
「辰昇武心流・百宝龍爆砕ッ!!」
刀で叩きつけた爆心地から、百頭もの大量の龍が四方八方へと飛び去って衝撃波を拡げつつ激しい地響きを引き起こした。
一気に数百体ものミニシュパがバボボボボーンと消し飛んでいく。
これは本家のアッキーが繰り出したものより数段上の威力だ!
「面白い!! これほどの力を持ちながらも野心を持たぬ武将とは!!」
「織田信長!! 覚悟なりぞッ!!」
互いの刀が交差!! 天変地異と、岩盤が巻き上げられ、白光の世界に彩られた。
それでもミニシュパと共に織田信長は血気盛んと銃と刀を縦横無尽に振るい、辰衛門と激突の嵐を巻き起こしていく。
その戦いは三日三晩に及ぶ────!
しかし織田信長は依然と余裕綽々。逆に辰衛門はボロボロで疲労困憊で息を切らしていた。
「へはははっ! うぬもこれまでじゃな!」
「ぐうっ! ヤ……ヤツはッ、三日間も野糞せずにいられるのかいぞッ!?」
「余は便秘じゃわい!」
その事実にガガァンと驚愕した辰衛門。
「く、くそ……!」
このままでは一太刀浴びせる事叶わず、命を散らす。
そう己の運命を予感した辰衛門はカッと覚悟を胸に、全身全霊の最後の力を解放していく。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!
「辰昇武心流奥義……! 宝龍天上天下疾駆ッッ!!!」
辰衛門は初速で超神速に達する飛翔を発揮した。まさに龍が吠えながら空を翔るような獰猛なエーテ龍を身に纏いながら辰衛門は信長へと目指した。
弾幕はおろか、ミニシュパの兵隊をも容易に蹴散らし、己が命を燃やす龍となり「ゾオオオオオオオオッ!!」と気合いの一太刀を浴びせた!!
それは咄嗟にかざした全力こもる刀を砕き、信長の胴へと直撃!!
「ガハァァァッ!!」ブリブリバボッ!!
さすがの織田信長も見開き、盛大な吐血をぶちまけ、尻からもなんかぶちまけた!
長い身をくねらしながらエーテ龍が信長を噛み砕きながら、あちこち超速で暴れまわって森林を薙ぎ散らし、連ねる山脈を貫き、地平線の彼方でズッドオオオォォォンと天高く爆煙を噴き上げた!
後にズズズズズズ、と大きく大地を震撼させていく。
オレは白目で唖然。側のヤマミも唖然。……父母も弟二人もあぜーん!
「まだ信じとらんなッ!!!」
「「「「うんっ!!」」」」
オレたちは一致して頷いた。
と言うか、これが史実としても荒唐無稽過ぎてとても信じられないのが本音だぞ。
まさに事実は小説より奇なり?
「この一戦で私は命を落としたなりぞ。だが織田信長めは辛うじて生きていて、どこか別の大陸へ逃れたなりぞ。そして現代の今、その子孫がいるなりぞ!」
オレは白目で「あ……!」と、アメリカの四首領ヘインが脳裏に浮かぶ。
「そう! アメリカの四首領ヘインこそ、織田信長の子孫なりぞ!!」くわっ!
※この史実はフィクションです。実際の史実とは一切関係ありません。