1話「彼女を連れて帰郷だ! うまいっ!」
かつては普通の人間だった『城路ナッセ』は死後、『運命の鍵』に「ワクワクできるような世界へ行きたい!」と願い『鍵祈手』となって、数多の並行世界を飛び越えて行って、魔法やスキルなどが存在する理想の世界へ転生できた!
そこで多くの仲間と一緒に数々の困難を乗り越え、大魔王をも打ち倒したぞ!
そして再びナッセの物語は始まるぞっ!! うおおおおっ!!
瑞々しい青空の元で、緑の山と木々と田んぼなどが流れていく窓の風景。ゴトンゴトン感覚的に揺れる特急列車。
オレはダルそうに背もたれに体をあずけていた。
青いTシャツにジーパンと軽快な服装。そして夏なのに首に巻いているマフラーはお気に入りだー。
その隣の席でヤマミが静かな顔でラノベに読み耽っていた。黒髪の姫カットの凛とした顔立ちに、スラッとしたスレンダーに寒色のワンピースでクールながらも奔放さが窺える。控えめに膨らんだ胸にはドキドキさせられる。
いやー、何度見てもオレの彼女って信じがたいよなー。最初、高嶺の花って思ってたもん。
実はこのマフラーは彼女からのプレゼントだったのだ。じまーん!
「ん、なに?」
と、ヤマミがひょいと顔を向ける。
普段、性格上から生徒会長っぽい冷静な態度が多いが、オレには幼さを見せたような純朴な顔を向けてくる。そういうのがたまらなく好きなのは内緒だ。
くー! 抱きしめたいっ!!
「い、いや……夏休みの宿題どうしようかなーって、あと今回の帰郷も気が進まないなぞ」
「宿題なら心配ない。付き合ってあげる」
ありがてぇ……! さっすが優等生!
リョーコやエレナちゃんだったら宿題手伝ってくれるのムリだろうなー。あいつらオレと同じく苦手だろうし。
「それに城路家本家の宴会招待で帰郷の事だけど、ナッセならなんとかなるでしょう。自信持って」
「ん? だといいなぞ……。とはいえ昔っから本家は苦手だぞ」
「大丈夫。大魔王より厄介って事はないでしょ?」
オレは「でも苦手なもんは苦手……」とグデーと項垂れる。呆れたヤマミがオレの頭に軽くチョップ。ぺしーん!
すると床から不意に黒い円が広がってきて、瞬く間に周囲の光景を覆った。
「エンカウント!」
電車は動いたまま、普通の人間だけが忽然と消え、創作士としてのオレたちだけが取り残される。いわゆるRPGゲームでいう敵遭遇システムと同じだ。
以前は荒廃した世界に移転していたのだが、大魔王を倒した頃からは周りの風景をそのままコピーした戦闘空間に転移される仕様になったらしい。
多分師匠が弄ったんだろ。もうループする必要ねーし。あ、気になったら本編で読んでね。
「ナッセ!」「うむ!」
電車内に二足歩行の豚の集団がワラワラと棍棒を手に徘徊し始めた。
額からツノを生やした豚の顔に太った体型。革の鎧と汚い衣服。いわゆるオークである。ありふれたザコモンスターか。
「ぶひふひひー!」「でゅふふ」「ぶもぶもー!」
おー、こいつらも魔界オンラインのヤツらかなぞ?
改心の余地のない悪人がカルマホーンを生やしてモンスター化する事で、魔界オンラインへ堕ちログインする。
そこは絶え間のない闘争の世界。そこで悪人たちは群雄割拠と争い合っている。時たまにこちらの世界にも干渉する事がある、だったか?
ソースは漆黒の魔女と会ったヤマミからだぞ。
「片付けるわ」
ヤマミが本を閉じると、自身の周囲から黒い小人たちが躍り出る。それらは複数の一筋の影となって電車の室内を這うようにオーク全員の足元へ忍び寄り、黒炎がゴウッと噴き上げ「ぐああああ!!」と断末魔と共に消し炭にしていく。
問答無用で全滅だ。
ヤマミは並行世界とはいえ、大切に想っていたオレを殺したショックで『血脈の覚醒者』となった。
その能力は自分の『分霊』をスキルとしてではなく生態として生み出し、周りの地形に伝播して移動できるっぽいな。強ぇーし汎用性高いし、いいなー。
「デカいのくる!!」「うん!」
後ろへ飛び退くと、目の前でドスンと巨大な棍棒が降ってきて電車が断ち切られた。微細な破片が粉塵と共に吹き荒れてくる。
その衝撃で電車が脱線してめちゃくちゃ転がっていく。咄嗟に飛び出したオレとヤマミは屈んだまま地面をズザザザッと滑りながら惰性を失わせていく。
普通の人はマネしないでね。マジ死ぬから。……っと!
「ブモオオオオオオ!!」
見上げると、ビルほどの巨大な棍棒を手にした超巨大なオークがズシンズシンと足を踏み鳴らしていた。
……ギガントSオーク。オーク族最強のモンスターだぞ。
見ての通り、図体がデカくて強すぎるので初心者や中堅クラスの創作士では全く歯が立たないぞ。威力値は多分二〇〇〇〇そこら?
オークのザコ集団で油断させておいて、これはひどっ!
「いやぁ、これ初心者騙してるだろ!」
「サクッとやっちゃって」
こちらへ棍棒をふり下ろそうとするギガントSオーク。
オレは杖を握りしめた右手の甲に、円で囲む星のマークを灯らせて浮かび上がらせる。それが『刻印』だ。
「星光の剣!」
星屑を散らしながら、杖の先っぽから光の刀身を生やした。シャキーン!
このように武具を生み出したり、自身にバフをかけたり、様々な効力を発揮できるんだ。オレはインテリじゃないから単純なのしかプログラミングできねーけどな。
「恨むなら、オレと出会ってしまった己の不運を恨めッ!!」キリッ!
突っ立ったまま切っ先から刀剣波もとい剣ビームをバシューッと撃って、棍棒もろともギガントSオークの上半身を木っ端微塵に消し飛ばした。ボーン!
オレにかかれば図体だけのザコだぞ! わはは!
「な、なにが!?」「何をした……?」「もう終わった?」「えぇ……」
「手練れ創作士十人でも苦戦する中級上位種モンスターじゃなかったか?」
気付けば他の創作士数人が、呆然と言葉を失っていた。あ、他にもいたんだ……。
なんか宝箱とか数個転がってきたが、他の創作士に譲る事にした。
オレって優しい! えへん!
エンカウントが収まると、夢でも見てたかのようにオレたちは座ったままになっていて、電車はいつもの通り走り続けていた。
いやーエンカウント後でも電車壊れてると困るもんなー。
開いた豚肉の弁当を召し上がって「うまいっ!」と満面で叫んだ!
「うまいっ! うまいっ! うまいっ! うまぁぁいっ!」ガツガツ!
「静かに食べて!」
ヤマミのチョップがオレの頭上にドスン!! ぶふっ!
あとがきでキャラやモンスター紹介がされる事がありまーす!
この話で登場したモンスター紹介。
オーク(獣人族)
威力値:560~750
ブタが人型になったモンスター。太った様相しているが筋肉モリモリ。様々な武器を使う。下位種。
ギガントSオーク(獣人族)
威力値:20000
オーク族最強のモンスター。ビルのように高い巨人で、巨大な棍棒を振り回す難敵。中級上位種。