表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
結月ゆかりは画面を見つめる  作者: hikoyuki
クラシカルクラフター
4/30

結月ゆかりは布教する

「……あかりちゃん、二足歩行の車を実用化するのやめてもらえませんか?こっちに遊びに来た村人がみんな乗ってて気持ち悪いんですけど」


「気持ち悪くないよ!私から言わせれば四足歩行の車のほうがダサいと思うな」


「うちの車は四足じゃなくて四輪なんですけどね」


「そもそも足で動く車は車って言うのかな」


「……ゲーム的には車から着想を受けたようですし、車扱いなのでしょうね。動作原理は全く違いますが」


 ドット絵で形さえ作ってしまえば仕組みは関係なくどんな物でも動作する。そして足が2つ付いているのなら動くのは当たり前。転ぶドット絵がなければ転ぶこともなく安定して世界中を駆け回ることができる。


 だからこのゲームにおいては四輪の車と二足の車に本質的な違いはなく、移動手段としての優劣もない。ゆかりが嫌がる素振りを見せていることから彼女の村では採用されていないが、それさえなければインスピレーションを受けた様々な派生ドット絵が生まれていたことだろう。


(ある意味ではそれこそがこのゲームの醍醐味なのかもしれませんね。……さすがにこんな車は受け入れられませんが)


 他所の村との交流で新たなデータを得た村人たちが独創的なドット絵で村を開拓していく。単純な資源の交換はこのゲームの本質ではなく、学習データの共有が主目的。ゲームの紹介文には特に書かれていない内容だが、ゆかりはクリエイターの設計意図を推察していく。


「もっといろんな人と貿易したら楽しくなりそうだね!」


「あかりちゃんも気づきましたか」


 相変わらず眼鏡をすちゃっとかけ直す仕草をしつつ知的な雰囲気をアピールするあかり。それに対してゆかりは首肯した。


 しかしその提案には1つ問題がある。ゆかりはぱたぱたとキーボードを叩きゲームの評判について検索し、無情な現実を突きつけた。


「このゲーム……ダウンロード数50以下なんですよね。特にレビューとかもないですし、完全に見捨てられてます。逆によく見つけましたね」


「えへへ、ドット絵を使ってるゲーム自体が希少だからね」


「褒めてないですよ」


 胸を張りながら自慢げな表情を浮かべるあかり。それを横目で見ながらゆかりは新たなアプリケーションを起動させる。


「仲間が少ないなら布教するしかないですね」


「おっ、ゆかりさん!久々に実況しちゃう?」


「まあやってみましょう。まずは実況というよりは紹介動画のほうがいいかもしれませんね」


 スクリーンキャプチャを立ち上げ、ゲームを再びアクティブにする。そのまま画面を録画しようとしてから少し悩み……ウィンドウをもう1枚立ち上げることにした。


 実況するにしても紹介するにしてもゲーム開始直後の絵が欲しい。そこでゆかりはゲームファイルをコピーして、まっさらな状態の村を追加起動させる。


 住民たちは柵もないテント1つだけの村でしょんぼりと佇んでいる。外部からの刺激がなければずっとこのままなのだろうか。それを観察するのも一興だとゆかりは思ったが……ちょこんと住民を優しくタップして、それからあかりの方へと振り返った。


「さて。あかりちゃんも一緒に撮りますか?」


「いいねー!じゃあゆかりさんの村と交流する役で出ようかな?」


「最初は堅実に発展してる私の村1とやり取りして、後からあかりちゃんの村が出てくるとインパクトがありそうですね」


 これまでパジャマ姿でダラけていたゆかり。その理由は極めて単純、彼女が心の底からプレイをしたいと感じるゲームがなかったからだ。だからこそ砂漠で針を探すゲームなどという虚無に等しい道楽に興じていた。


 ゆかりは右腕を高らかに掲げぱちんと指を鳴らし——世界が変貌する。


 縞模様のパジャマ姿は一瞬にして移り変わり、彼女のイメージカラーである紫を基調としたワンピースへと変化を遂げる。その上から黒色のパーカーを着こなし、クールに微笑む大人の女性。これが彼女の正装、実況に臨む際のワークスタイルだ。


「まあ見た目だけですけど……構いませんよね?」


 そんなワークスタイルはその実すべてがハリボテ。彼女に貼り付けられたARテクスチャによって巧妙に偽装された外向けの服であり、実際には先ほどまでと同様のパジャマ姿でダラケている。


 眠たげな表情でぼーっと画面を見つめるその姿は仮に外へ漏れ出たならば視聴者の激減が起きるレベルであると他ならぬ彼女が断言するほどだ。


「けれど所詮この世はすべてがハリボテですから。VRでイケメンムーブや美少女ムーブしてチヤホヤされてる方々に比べたらこれくらい可愛いものですよね」


「実際可愛いよね。ぶっちゃけみんな知ってるし」


「なにか言いました?」


「んーん、なんにも」


 同時にそんな他所向けの姿が単なる余所向けに過ぎないという事実はファンの大半に知られている。そしてそのギャップこそが『結月ゆかり』という実況者の強みであることも言うまでもない。


「さて、みなさんこんにちは。天才実況者の結月ゆかりです」


「なんの脈絡もなく突然収録始めたね」


「今後ろであかりちゃんが喋ってますが、カットしますので時々脈絡のない会話が生じます。悪しからず」


「なんで!?」


「これは私の動画ですよ。あかりちゃんは別で撮るかコラボの申請をしてください」


「一緒に暮らしてるのにそんなこと言っちゃう?もうホラーゲームやった後におトイレついていってあげないからね」


「こちら天才実況者の紲星あかりさんです。私を凌ぐゲーム腕前と美貌をお持ちのお方です」


「はい、いつものテンプレ。改めましてこんにちは、紲星あかりだよー」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
▼ 他のオススメ作品 ▼
【VR】ブレイブファンタジー【神ゲー確実】
掲示板形式で進む謎のVRMMOモノ。
卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる!
バグと仕様と環境のインフレを主題とした謎のVRMMOモノ。
サキュバスさんがおうちにやってきた
平和な謎の日常コメディモノ。
これが僕らのMMO!
現実のMMOを主題とした謎のエッセイ。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ