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結月ゆかりはかく語る

ハーメルンに投稿するにあたって作成した番外編です。

続きません。

「あれ?ゆかりさん、新しいゲームを見つけたの?」


 ゆかりがゲーミングチェアに深く沈み込んで画面を凝視していると、あかりが猫のように背後から顔を覗かせる。


 ここ最近のゆかりは【クラシカルクラフター】を起動しながらシェリルを握りしめて【マジックファンタジー】をプレイするのが日課だった。


 しかし今モニターに映っているのは、いつものゲームとはまるで違う未知のタイトルだ。


「はい。せっかくですし、ジャンルを当ててみますか?」


「えっ、いきなりクイズ!?うーん……」


 ゆかりにクイズを出されて、あかりはまじまじと画面を見つめる。ゲームの中では鎧を着たキャラクターが剣を片手にドラゴンと激しい戦闘を繰り広げていた。


「どう見てもファンタジー系のアクションゲームだよね」


「さあ?それはどうでしょう?」


 あかりの導き出した、極めて凡庸な回答は、ゆかりによってあっさり否定される。


「えー、違うの?じゃあなんだろう」


 疑問符の感情表現(エモート)を浮かべながら、あかりはしばし考え込む。けれど今の映像から導ける答えは、残念ながら一つしかない。まさかムービーシーンか?とゆかりの手元へ視線を落とすと、彼女は例の最強コントローラーを神業とも呼ぶべき手さばきで操っていた。


 リアルタイムにこのレベルの操作を要求されるゲームとなると、やはりアクションゲームしかないと、あかりは判断する。


「『それはどうでしょう?』なんて言ってたけど騙されないよ!答えはアクションゲーム!それしかない!」


「ぶぶー。答えはローグライクゲームでした」


「なんで??????」


 ゆかりが口にした予想外の答えに、あかりは思わず仰け反る。そんなはずはない。それだけはありえない。ローグライクゲームといえばターン制でマス目移動。縦横無尽に部屋の中で衝突を繰り返す画面内の光景とは、完全に相反する概念だ。


「なんでと言われても、そう名乗っているんだから仕方ないですよね」


「つまり自称ローグライクってこと?」


「そもそも『ローグライクとは何か』という部分から定義しなくてはなりませんね。端的に言えば太古の昔に生み出された『Rogue』と似ているゲーム、ということなのですが……」


「『ランダム生成』で『ターン制』で『シングルプレイ』で『マス目移動』で『死んだら終わり』が特徴かな。細かいところだと食料の概念があったりするね」


「しかし実際にはいくつかの要素が欠けていたとしても『ローグライク』を名乗るゲームも少なくありません。『パーマデス』の要素が欠けていても『ローグライク』の名作と認められることもあります。それどころか——」


「合ってる要素を探すほうが難しいゲームもあるよね」


 一致している要素が少ないゲームのことを、一時期は『ローグライト』と呼称していたこともあったが、今やその言葉は完全に死語である。もはや『ローグライク』は、何でも許されるフリーパスの合言葉になっていた。


「そこでこのゲームの作者は考えました——どこまで欠けても許されるんだろう?」


 ゆかりの試すような問いかけに、あかりは背筋に冷たい汗がつっと伝うのを感じながら、身構えた。


「まさか……」


「そうして完成したのがこのゲーム……。『ランダム生成』ではなく、『ターン制』でもなく、『マルチプレイ』であり、死んでもやり直しができる『ローグライクゲーム』——【オーバーレジェンド】です」


「いや、許されないからね????」


「残念ながらダウンロード数は15なので、許す許されない以前にそもそも認知されていないのが現状ですが、私はこのゲームを実況しますよ!!」


「うん……布団の中から全力で応援してるね……」


 やる気満々のゆかりとは反比例するように、あかりの気力はみるみるしぼんでいく。そんな彼女に対して、ゆかりは容赦なく追い打ちをかける。


「ちなみに現在も撮影中です。あかりちゃんにもこのまま出てもらいますからね」


「えー!?いつものネタやってないよ!?そもそもパジャマ姿だし!」


「それも含めてどこまで許されるかを試していますので」


 ゆかりの口角がわずかに吊り上がり、その瞳にいたずらっぽい光が宿る。


 あかりはしぶしぶゆかりの隣に腰を下ろし、机に寝そべっていたシェリルの頭を撫で回しながら、問いかけた。


「で、ゆかりさんがわざわざ実況するってことは、そんな一発ネタにとどまらない面白い要素があるんだよね?」


「あると思いますか?」


「あるんでしょ?」


 『ローグライク』のジャンル詐欺に一石を投じるためだけに作られたゲームに、面白い要素があるとはとても思えない。そう思いつつ、あかりはひそかに期待していた。


「強いて言うなら毎回まったく別のダンジョンが待っているから、何度でも新鮮に遊べますよ」


「え、ランダム生成じゃないんでしょ?」


「はい、ランダム生成じゃないですよ。999万通りのダンジョンを手作業で作成したそうで、それがランダムに選ばれるんです」


「……確かにランダム生成ではないね」


 あかりは呆れ顔でつぶやく。間違いなく『ローグライク』を愚弄するためだけに作られた、手の込んだ仕様——面白さに直結しておらず、ゲームとしては無駄以外の何物でもない。


「さらにこのゲームでは装備もランダム生成ではないんですよ。9999万通りの『銘付き装備』の効果がすべて事前に設定されていてですね……」


「え、今回ずっとこんな感じ???」


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