豊かな貿易の街
ノイド達3人はシャル連れられ彼女の行きつけだと言う酒場に入った。
4人は空いている席に座り、シャルはメニューを差し出して言った。
「パーティー結成記念に奢ってあげるわ。好きなもの頼みなさい」
ノイドはメニューを受け取り中を眺める。
記されているのは全て聞いたことが無い未知の料理の数々。
「どれもこれも知らない料理だな……ピリル、お前気になったヤツ頼んでみろよ。参考になるかもよ」
「う〜ん……じゃあこのレッドマッシュルームのパイと3種の薬草サラダを頼む」
「オレはこの八面鳥のグリルで」
「じゃあ俺は……ブラッドベリーのアイスクリーム」
「お前、此処でスイーツかよ」
「あんまり腹減って無いんだよ」
「3人共決まった?なら注文するわよ」
シャルは手を挙げて店員を呼び注文をした。
「所でさ、俺達の保釈金払って更に飯まで奢って金大丈夫なのか?」
「ああ、大そう羽振りが良いんだな。見た目はそんなに金持ちには見えないが」
「うん……まぁ…ちょっとね……」
シャルはノイドから目を逸らしながら言った。
「パーティーになるんだ。なら何でそんなに金があるのか、保釈金払ってまで何で俺達とパーティーを組みたかったのか。それを教えて貰いたい。パーティー内の信頼関係って大切だろ?」
「…そうね、この際全部教えてあげるわ。先ずはアンタ達を最初に見かけた時の事から話すわね。あの日私は守備兵の宿舎に忍び混んでちょっとした盗みを働いていたの。その時運良くアンタ達が騒ぎを起こしてくれたお陰でタップリ金目の物を運び出して金を作る事が出来たってわけ」
「盗みの金かよ……」
「アンタ達の保釈金として返したから問題無い!」
シャルは口からチロリと下を出して言った。
「それで何でアンタ達と保釈金払ってまでパーティーを組んだのかっていうと……私実は今まで2回パーティー組んで2回共私以外のメンバーが全滅してるの」
「はッ!?2回組んで2回共全滅!?」
「そう、そしたら私が呪われているとか、仲間を裏切って報酬を独り占めしているって噂が立ってね………今じゃこの街の誰も私とパーティーを組んでくれなくなって、仕方無く金でパーティーメンバーを雇おうと守備兵の宿舎に盗みに入ったの。そしたら運良く外部の人間で壁に穴開けれる実力の持ち主のアンタ達に目を付けたってわけ」
「一応聞いておくけどその2回の全滅ってお前に原因が有る訳じゃ無いよな?」
「当たり前でしょ!!」
シャルは身を乗り出して怒気を孕んだ声で言った。
「悪い…気分を害したなら謝る。唯、パーティーを組むなら確認しておきたかった」
そうこうしている内に料理が運ばれて来た。
テーブルいっぱいに料理が並んだ。
ピリルは早速パイかき込んだ。
「うーむ……パイ生地に合いびき肉150g、卵一個、パン粉40グラム、レッドマッシュルームは60g、塩胡椒は大さじッ……………」
料理の具材をひたすら呟くピリルを見てシャルは苦笑いを浮かべる。
「かッ、変わった食事の楽しみ方ね……」
「ははッ、コイツは世界一の料理人を目指してんだよ。まあゴーレムだから味覚無いみたいなんだけど」
「ゴーレムッ!?この子が?あのねえ、ゴーレムっていうのは人の倍くらい大きくて耳障りなエンジン音上げながらモクモク煙りあげてるヤツの事をいうのよ」
「まあ、普通は信じられないよな。そうだピリル!料理の礼にアレ見せてやれよ」
「料理の礼なら仕方無い………ほら」
ピリルはグリグリッと首を回して胴体と頭を切り離した。
「キャァァッ!!わッ、分かったから!早くその頭戻してッ!!」
ピリルは再び頭を嵌め込み何事も無かったかの様に食事を再開した。
「本当にこの子ゴーレムなのね……冬ノ国製かしら…
売ったら200万ゴールドは下らないッ…」
「何か変な話してないか?」
「あっ、ごめん何でもないわッ…!それより、食べ終わったら冒険者とパーティーの登録をするわよ」
「あ、手続きあるんだ」
「そう、基本的に冒険者へのクエストは冒険ギルドが斡旋しているの。そしてクエストはギルド公認の冒険のみパーティー単位でクエストを受ける事が出来るわ。かなりの実績がない限りソロでクエストを受ける許可は下りないの」
〜数分後〜
「よし、アイトも食い終わったな。シャル、その冒険者登録って何処で出来るんだ?」
「そのまま此処で出来るわ。この酒場はギルドが運営してる所でギルド受付とくっついてるの」
そう言われて辺りをキョロキョロ見回してみると右手の壁に受付があり、そこに列が出来ていた。
「あの列?」
「うん、列に並んで順番が来るのを待ちましょ」
ノイド達が列に並ぶと周りにいた冒険者達からコソコソ話始めた。
「おい見ろよ、シャルがいやがるぜ」
「ああ、あの組んだパーティーが必ず全滅するって噂の?」
「ちッ、疫病神が。とっくに冒険ギルド辞めてると思ってたがまだ未練がましく続けてやがったか」
周囲の囁きは明らかにシャルへの誹謗中傷の意思が込められていた。
シャルもその事に当然気付いている様で苦笑いしながらこちらを向いた。
「ごめんね、私のせいで変な目で見られちゃって…」
「別に気にしてねえよ、しかし何処でもあるんだなこういう事」
アイトはそう言ってケタケタ笑った。
「ん?ノイドどうした」
ピリルが後ろに並ぶノイドの方を振り向くとノイドは腕を組、複雑な表情をしていた。
「ちょっとな…」
そうこうしている内にノイド達の番が来た。
受付の女性もシャルの姿を見ると複雑な表情をした。
「この3人の冒険登録と私含めた4人でのパーティー登録をお願いするわ」
パーティーの申請と聞くとより一層受付の表情が曇る。
「パーティー登録、ですか?」
「ええ、何か問題でも?」
「いえ…では先ずお三方の冒険登録から行わせいただきます」
ノイド、アイト、ピリルの3人は受付から渡された書類に簡単な個人情報を書き込んだ。
記入後に書類を受付に渡し、判子が押されて登録は終了した。
「それではパーティー登録を行います。この書類に契約筆で各々の名前を記入して下さい」
そう言って銀色の万年筆の様な物を渡された。
風ノ国製の魔道具で、書いた内容は即座に複製されてギルドに厳重に保管される事になる。
「パーティーを組んだ方同士にはそれぞれが守らなくてはならないルールが存在します。下の欄に書かれている注意事項を良くお読み下さい」
書類の下にはクエストで得た財宝等は各々の貢献度をギルドが公平に判断し分配する、パーティー内での裏切り行為はギルドが厳しく処罰する等の文が書かれていた。
「なお、パーティーを組んだ方同士は互いの冒険としての活動報告を自由に閲覧出来ることになります。ご覧になりたい時は受付までお申し付け下さい。以上で説明は終了です。問題無ければ名前の欄に記入をお願いします」
4人はそれぞれの名前を書類に記入した。
「はい、これでパーティー登録は終了となります。お疲れ様でした」
複雑な手続きが有ると思っていたが簡単に手続きは終了した。
「所でさ、面会の時に言っていたダンジョンの攻略について何も教えてもらってないんだが、何か情報は無いのか?」
「あっ!ごめん忘れてた!私達が攻略するダンジョはアレよ!!」
そう言ってシャルは背後の壁を指差す。
そこには巨大な張り紙が掲載されていた。
『ドラド北西に巨大ダンジョンが出現。ギルドに申請が通りしだい探索クエストを発動する。ダンジョの最深部に最も早く到達し、ダンジョンコアを破壊した者には貿易街ドラドの盟主であるダンクの宝物庫より好きな宝一つをもらい受ける権利を持つ ドラド自治会』
「ドラド自治会依頼のクエスト!?」
「そう、ダンジョンっていうのは何の前触れも無く突然発生する巨大な穴の事よ。そこでは魔物が無限に発生して溢れ出てくるの」
「成る程な、貿易都市であるこの街付近の安全が脅かされれば他国からの信頼度が下がるという事か」
「そういう事。だからこそ盟主自らの宝物庫まで開いてるってわけ。此処は国じゃなく、そしてトップも盟主であって街の運営金を報酬に当てる権力は持って無くてね。まあ、盟主のドラドは商売の先進国である興ノ国を除けば一番の金持ちだから痛くも痒くもないだろうけど。街単位で被害が発生する場合には偶にある事なのよ」
「で、クエストの発令はいつ頃になりそうなんだ?」
「恐らく今週中には。どのクエストも発令前日に事前登録出来るからそれに登録して最速攻略目指すわよ!」
「攻略っていうのはそのダンジョンコアってヤツを壊せば完了するのか?」
「そう。ダンジョンコアっていうのは、ダンジョンっていうのは魔物を発生させる不思議な力に満ちていてコアがその源。これを壊す事によって魔物の発生を抑えられるの」
「最速攻略の報酬目当てか?」
「まッ、まあそうね…とにかくクエスト受付が始まるまでお休み!はいコレ!一般的な冒険向け宿屋なら3人共1ヶ月は止まれるだけの金が入っているから。今日は解散!明日は街を案内してあげるから此処で待ってて」
こうしてこの日は解散となった。
酒場を出ると冒険者向けの宿屋が所狭しとひしめき合っていた。
ノイド達3人は小高い場所に在る相部屋で比較的休めな宿を選んだ。
『マタタビの宿』という店の名前が店先に出ていた。
扉を開けて中を覗いたが誰も居ない。
「すみませーん。暫く泊まりたいんですけどー!」
アイトがそう言うと何処からとも無く返答が帰って来た。
「部屋は大部屋?個室?」
しっかりとした声で聞こえたが声の主は見当たらない。
すると玄関のすぐそばにある番台の上に黒猫がちょこんと座っているのに気が付いた。
部屋が薄暗かったので気付くまで時間がかかったのだ。
「おッ!可愛い猫だな」
アイトは近づいて猫の頭を撫でた。
「なあ猫ちゃん。お前のご主人は何処に居るんだ?声はさっき聞こえたけど何処にも姿が見えないんだが」
「ワシに主人などおらん。此処はワシの宿屋じゃ。そして大部屋か個室か聞いておる」
アイトの手の下から声がした。
見てみると黒猫が真っ直ぐアイト遠見上げていた。
「えッ……お前が、喋ってるの?」
「うむ。で、大部屋?個室?」
「お、大部屋で……」
すると黒猫が尻尾を数回クネクネと揺らすと、独りでに番台の奥にある棚が空いて中から鍵が落ちた。
「勝手に鍵拾って持ってけ。支払いは2日以内なら一日中500ゴールド。それ以上なら350ゴールド計算だ。出てく時に払ってもらうぞ」
そう言い残して猫はあくびをして寝てしまった。
アイト達は呆気に取られたが取り敢えず部屋に向かう事にした。
扉を開けると良く日が入り、大きめの部屋2つと中位の部屋がくっついた部屋が現れた。
安めといっても一年以上の野宿の後、独房に入れられていた3人にとっては極楽の如し。
旅を開けた瞬間3人のテンションは否が応にも上がった。
「おい見てみろよ!風呂まで付いてるぞ!」
「眺めも抜群だな」
「キッチン付いてる」
久しぶりに落ち着ける空間に入った3人が騒いでいると
背後で扉が閉まる音がした。
振り向くとそこには身体の3/2程の大きさの袋を背負ったポタリが立っていた。
「あ!ポタリお前今まで何処いたんだよ!?オレはてっきりオレの中に入ってるもんだと思ってたぞ!?」
『いやー独房の中とかつまらんやろ?アイト坊から20kmくらいなら離れて行動できんねん。ワイそう言えば壁擦り抜けられるなーって事思い出して此処を観光して回ったったんや』
「観光って、お前俺達が酷い目に遭ってるときに何やってんだよ」
『いやーすまん、すまん。お土産持って来たからかんにんしてな』
そう言ってポタリは背中に背負っていた袋から酒や菓子、酒のつまみ等を出した。
「まあ結局オレ達も出られたし結果オーライだろ。オレはこの燻製貰うぜ」
「それもそうだな、じゃあ俺はこのチーズを」
「この瓶詰め何だ?」
『それは魚のオイル漬けやな、ちょっこし匂いがキツいで。あ、嗅覚無いんやったか』
そう言いながらポタリは部屋に備え付けられたグラスを4つ運んで来て酒を注いだ。
『まあ何はともあれドラド到達を祝って乾杯しようや』
そう言ってポタリは飴色の瓶の栓を備え付けの栓抜きを探し出して開けた。
「これ酒か!?オレ飲んだ事無いんだけど」
『男が酒の一つも知らんでどないすんねん!ほらッ、お前らも手にコップ持ちッ!!持ったな?ほな、恥ずかしながらワイが乾杯の音頭取らせてもらいます。ゴホンッ!では、最初の街ドラド到着を祝ってッ!乾杯!!』
「「「乾杯ッ!!」」」
そう言って4人はグビッ、グビッとグラスに入った酒を飲み干した。
「ゲプッ、これが酒か…何か喉奥が熱くなるな。それに何かフワフワする」
『何やアイト坊、この程度で酔っ払とるんかい。まだまだ子供やのお』
「俺は未だ何とも無いな……」
その後飲み会はヒートアップ。
ノイド、アイト、ポタリの3人で互いにつまみを挟みながら酒を回していく。
「野菜炒め出来た」
「おッ!待ってました!!」
ピリルはやはり酔えなかったので奥のキッチンでつまみになる料理を作っている。
身長が足りないので椅子の上を立って調理しているので大変そうだ。
『せっかくや、ワイのとっておきの隠し芸見せてやろうやないか』
そう言うとポタリは右手にグラスを持つと腹が風船の様に膨れる程息を吸い込んだ。
そして、
『グエアァァァァァァァァァァァァァァ』
とんでもないビブラートが掛かった鳴き声を発した。
そしてグラスが小刻みに揺れてピシッと一筋の亀裂が走り、そこが発端となって粉々には割れた。
『ドヤッ!!』
ポタリは机の上に達両手を上げて決めポーズを取った。
「うおお!凄え!声だけでグラスを粉々にしやがった!!」
「次やる」
ピリルが次の隠し芸を名乗りを上げた。
ピリルはいつも着ているカッパの様な物を脱いだ。
「隠し芸、ブレイクダンス」
ピリルは静かに脳天を床に着け、そして其処を軸として回転を始めた。
完璧なヘッドスピンである。
しかもそれだけに収まらず、どんどん回転は加速していく。
そして回転しながら何やら手で首周りを弄り始めた。
カチッという音がしたと思うと胴体が頭から外れてぶっ飛んでいった。
そして残った頭は次第に回転速度が落ちていき、やがて止まった。
そして一言。
「ドヤっ」
ワアアアアッ!!3人は手を叩いて歓声を上げた。
『やるやないかピリル坊!隠し芸の起・承・転・結全て完璧やで!!』
「胴体飛んでた時はマジでビビったぞ!!大道化なら10万ゴールドは稼いでるね」
するとノイドがムクッと立ち上がった。
杖を支えにしながらふらふらとしている。
「次俺やりまぁす……えっとぉ、この部屋の中で花火ぶっ放しまぁすッ!!」
余りににぶっ飛んだ発言に一同はノイドを見る。
ノイドは顔が真っ赤に紅潮し、声も上擦り、完全に出来上がっていた。
そして本当に魔法陣の構築を始めたのだ。
『こッ、この馬鹿完全に出来上がっとるで!!おい全員でノイド坊抑えつけるんや!!この部屋吹き飛ばす気やでッ!』
慌てて3人で飛び掛かり魔法陣が完成する直前で押さえつけた。
「こいつッ、突然酔いが回るタイプかよ…」
抑えつけて暫くは暴れていたが次第に動かなくなり寝息を立て始めた。
『まさかノイド坊が一番酒に弱いとは……今度から飲ませる時は注意が必要やで』
危うく全員爆死する所だったので流石に興が冷めた。
その日はそれでお開きとなり、皆寝眠りについた。
翌日、アイトはベーコンの焼ける良い匂いで目を覚ました。
キッチンの方を見るといつも通り早起きなピリルが朝食を作っていた。
起きようとすると腹の上に重さを感じる。
見てみるとポタリがだらしなく着物を着崩しながら鼻提灯を膨らませて寝ていた。
起こさないように気を使って布団から這い出す。
隅っこの方を見るとノイドが蓑虫の様に布団でグルグル巻きになって寝ていた。
ノイドは小さい頃からあの寝方だ。
酒のせいなのか未だ眠りは深そうだ。
「おはよピリル。今日も早いな」
「アイトか、うるさかったか?」
「大丈夫だよ。元々起きる時間だったし」
ピリルはフライパンでハムエッグを作っていた。
ベーコンは興ノ国の赤毛豚という魔物の肉を使用している。
卵は風ノ国産で、オオコッケイという鳥の卵だ。
調理料も様々な国の様々な場所から着ている。
この豊かな食材は文化の合流地点であるこの街の賜物だろう。
「ちょっと摘んでいいか?」
「少しだけなら」
ベーコンを一枚摘んだ。
ベーコンや調理料が親和して階層的厚みのある美味さだ。
森で自分達だけで生活していては絶対に実現出来ない味。
貿易の偉大さが身に染みる。
その後アイトは朝食の準備を手伝った。
今では料理の腕前ではとっくにピリルに抜かされているが森で一年以上時給自足していたので手伝い程度なら出来る。
数分で朝食が完全した。
「そろそろあいつら起こしに行くか」
布団の引かれている部屋に戻るとポタリとノイドは未だ寝息を立てていた。
先ずはポタリから。
ポタリはアイトの布団の上で大の字になっている。
アイトは静かに忍び寄りピーピー音を立てて収縮する鼻提灯を指で破る。
「フグウッ!?」
パンッ!という小さな破裂音に驚きポタリが飛び起きた。
「グムム……何やもう朝かいな…」
部屋の明かりに目を細めながら寝ぼけ眼のポタリが言った。
「ポタリおはよ」
「ん?あぁアイト坊おはようさん……いでで…昨日の酒が残っとるなこれ…頭痛がするわ。アイト坊、アンタは?」
「俺は…」
アイトは首を小さく回した。
「特に何ともないな。次の日に持ち越さないタイプなのかな?」
「羨ましい限りやわ。朝飯出来とるん?」
「ああ、もう出来てるよ。今日はハムエッグだ。ノイド起こしてから行くから先行って待っててくれ」
「オッケーや。遅なったらアンタのハム無くなっとるかもしれんぞ」
そう言ってポタリは布団から這い出し、ペタペタ歩いて行った。
「なら急がねえとな」
次にノイドを起こす。
ポタリは二日酔いの頭痛に悩まされている様だった。
ベロベロになっていたノイドは大丈夫だろうか?
アイトは布団でグルグル巻きになって布団の塊と化したノイドを揺らした。
「んんッ………」
ノイドは少し唸って薄目を開けた。
「おーい、ノイド?一応朝ご飯出来たけど起きれるか?」
「ああ…悪い、頭が割れそうに痛くて…起きれそうに無い……」
「あはは、昨日死ぬほど酔ってたもんな」
「後半何も覚えて無いんだけど」
「お前部屋の中で花火上げようとしてたんだぜ」
「マジかよ」
そう言ってノイドは少し笑った。
どうやら笑える程度の元気は有る様だ。
「じゃあ後で食うか?」
「悪い……そうさせて貰う…迷惑掛けて済まない」
「気にすんな、布団の中で吐くなよッ!」
やはり二日酔いがキツそうだった。
ノイドにはこれから余り飲ませないようににしなきゃな。
テーブルに着くと丁度ポタリが痺れを切らしてフォークをアイトのベーコンに伸ばしている所だった。
アイトは即座にスプーンを取りポタリのフォークを弾き飛ばした。
「ベーコン一枚位でムキになりよって、まだまだガキやな」
「人のベーコン盗もうとする奴に言われたく無いね。ピリル、ノイドやっぱ二日酔い酷くて食えないって」
「分かった」
アイトも席に着いた。
「昨日は少しやり過ぎたな。少し反省や」
「そうだポタリ。二日酔いになった時ってどうすれば良いんだ?」
「そうやな……迎え酒何てどうや?」
「それ意味ないってダラムが言ってた」
「……なら熱めの風呂に入るやな。汗でアルコールを出すねん」
「へえー。なら後で熱めの風呂沸かしておくか」
3人で談笑しながら朝食を進めていると話題は今日の予定に移った。
「そう言えばシャルが町の案内してくれるって言ってたな。俺は行こうと思うけどお前らはどうする?」
「僕も行く。珍しい料理に興味がある」
「ワイも行くわ。アンタらの保釈金支払ってまでパーティーに入れたそのシャルって女を見てみたわ」
3人ともシャルの案内での観光に参加する様だ。
食後、片付けを終わらせて熱めの風呂を沸かした。
アイトとポタリは再び寝室に戻った。
「ノイド、生きてるか?」
布団の塊の中からモゾッとノイドが顔を出した。
「何とか……」
「はあぁ…こりゃあまた顔面蒼白やな。いつもアホみたいに色白やが今回はまるで死人やな」
ポタリの言う通りノイドの血の気は引いていた。
元々ノイドは貧血もあったので二日酔いとのダブルパンチになっているのだろう。
「俺達これから街を見に行くんだけどさ。一応聞くけど…….行く?」
「ムリ」
するとポタリがノイドの布団の塊の上でピョンピョン飛び跳ねだした。
「オラァッ!!ノイドォ!シャキッとせんかいッ!!男やろうがッ!!」
「ヴゥエッ!ギブッ!ギブッ!マジで吐くからッ!」
ノイドはガチの嗚咽を上げたが何とか吐瀉物の噴出は抑え込んだ。
「うわッ……流石に引くわ」
「何言うてんねん。ちょっと元気なったやろ」
そう言ってポタリはノイドを指差した。
そのノイドは目を向き顔を赤く染めてヤバイッ、ヤバイッと小さく唱えていた。
「血色はよくなったけどコレ逆に悪化してない?」
「捉え様しだいやな」
「ノイドあんま無理すんなよ。テーブルに朝食置いといたから食いたい時に食える料食べろよ。後、熱めの風呂沸かしておいたから起きたら入った方が良いぞ。
楽になるらしい」
「…分かった。ポタリお前後で覚えてろよ」
「アイト坊、はよ街の観光行くで」
こうしてアイト達は部屋にノイドを残してシャルとの待ち合わせ場所に向かった。
待ち合わせ場所の酒場の入り口でシャルは腕を組んで待っていた。
「悪いシャルちょっと遅れた」
「10分遅刻ね。普通世の男性は女性より早くに待ち合わせ場所に来て女性の方が10分遅れて到着するものなんだけど……ん?ノイドは?」
「アイツはちょっと昨日飲み過ぎて二日酔い。その介護で遅れた」
「二日酔い?冒険者なら酒に強くて当たり前なのよ?」
「シャルは酒強いのか?」
「強いわよ?冒険者の中では女性は酒や食事は男性が奢ってくれるシステムなの。それでもし女性の方が男性より先に酔い潰れたらお持ち帰りOKっていう暗黙の了解があるのよ。だから酒場にいる女性はみんな引くほど酒に強いわよ」
「はあ……変わったシステムだな」
「まあ、二日酔いするレベルなら話にならないわね。私を持ち帰りたいなら樽を飲み干すくらい出来ないと…………私は気味悪がられて誰からも誘われないんだけど」
シャルの顔が後半急に暗くなった。
アイトは話を逸らために話題を変える。
「なあ早く案内してくれよ。昨日は宿屋抑える為に宿屋街しか歩いてないんだよ」
「ああ、ごめんごめん。付いて来て」
シャルに付いて行くととても広い通りに出た。
通りの両端には多くの店が立ち並んでおり、道は様々な服装をした、肌の色の違う人々や乗り物が行き交っていた。
「此処はドラドのメインストリートのダンク大通り。この街の盟主であるダンクの名前から取られてこの名前になったの。それであの奥にある巨大な門が見える?」
シャルの指差した方を見るとそこには巨大な門があった。
その門は完全に開かれその間を通って遠近法によって豆粒の様に見える人々が街に入って来ていた。
「アレはこの街で一番大きな門である北門よ。この街には東西南北に門があるの。そうそう!アンタ達が破壊したのは一番小さくて人通りの少ない南門よ」
「すげえ……店は此処に密集してるのか?」
「いいえ、此処は一番人通りが多い場所だから地価がとんでもなく高いのよ。それこそ国公認の大商人クラスでないと店は構えられないし、庶民向けの店も少ないわね。例えばぁ……あの店!あの店でステーキ何て食べたら10万ゴールドは下らないわ。此処は唯この光景を見せたかっただけ。あそこの道に入れば休めな屋台村があるからそこで庶民らしく遊びましょ」
そう言ってシャルは右折する道を指差した。
確かに余り豪華ではない庶民的な服装の人々がその道に入って行っている。
アイト達はシャルに連れられてその道に入った。
そこはまさに屋台村と言うに相応しい場所だった。
メインストリートの気品のあの有る店とは違いとても活気かある。
「いらっしゃいッ!いらっしゃいッ!激ノ国コンドド地方産の焼き豚だよ!此処で食べれるのはウチだけッ!!あッ!そこのお姉さん一口摘んでかない?やみつきになるから!ねッ!」
「うーむ……締めて380ゴールドでどうでしょう」
「あらぁ、ちょっと厳しいわね。360ゴールドなら買うんだけどなぁー」
「寄ってらっしゃい!見てらっしゃい!此処に取り出し立てまするは興ノ国の冒険者が激戦の末に勝ち取った!何と!ホワイトワイバーンの卵でございます!興ノ国の商人から裏ルートで手に入れた超目玉商品!この機を逃せば一生お目にかかれませんよお!さあ380万ゴールドでどうだ!」
「「白玉姉妹の〜フローズン白玉!!」」
「暑い今の季節にピッタリのヒエッヒエのプニプニ白玉!」
「何でこんなに冷たいのに凍って無いのか知りたいって?それはぁ〜企業ヒ・ミ・ツ」
「「フローズン白玉いかがですかー!!」」
接客や値切りの声でとんでもない音圧だ。
魅力的な商品から胡散臭い商品まで大量に揃っていて目移りしてしまう。
先ずどれから手を出そう……
「此処で貿易街ならではの遊びをしましょ?」
シャルが一つの屋台の前で止まった。
どうやら肉に串を刺して売っている様だ。
「此処は闇串屋って言ってあらかじめ何の肉なのか知らされずに食べて何の肉か当てるの。世界中の食べ物が集まるこの街ならではでしょ?おじさん一本お願い」
「あいよぉ!嬢ちゃん!!」
シャルが串を受け取り口に頬張る。
シャルが口の中で肉を食べながら店のシステムを説明してくれた。
「この…肉をッ……食べふぇ、何の肉かあふぇられたら…2本……おまけしてッ、くれるの…」
「どうだい嬢ちゃん。今日のはおじさんちょっと自信有るんだよねぇ」
「ふむふむ……固めね。おそらくチキン系。しかも自信が有ると。つまり中々街に入って来ない肉ね!だとすれば風ノ国か冬ノ国…冬ノ国は寒すぎてチキン系は居なかったはず。よって風ノ国産。風ノ国、チキン系………分かった。ハルホロ鳥ね、しかも雄」
「その答えで良いんだな?」
「ええ」
シャルと屋台のおっさんの間に静かな火花が舞った。
「フッ、正解だ。性別まで全部な。正に完敗ってヤツだ。ほらッ、持ってきな」
そう言っておじさんはアイトとピリルに串を一本ずつ渡した。
「凄え!!シャルお前良く分かったな!!」
「伊達にこの街で長い間冒険者してないわ」
アイトがシャルから貰った串を食べようとすると何かにズボンの裾を引っ張られた。
下を見ると。
『ワイのは?』
ポタリが羨ましそうにアイトを見上げていた。
「悪い忘れてた。てかそもそもシャルにはお前の姿見えて無いんだったな」
『ならそろそろ姿見せた方が良いか?』
すると何も居ない自分の足元に向かって話すアイトを見てシャルが訝しげな表情で見ていた。
「ちょっとアイト。誰と話してるの?もしかして未だ酒残ってる?」
「あ、ごめん。いやー実は此処にッ……」
そう言い掛た時アイトは面白そうな物を発見した。
「ルーレット〜、ルーレットは如何ですか〜。ルーレットで運試しッ!数字と色を指定してそこに見事入ったら景品プレゼント!!色の一致は3等!数字の一致は2頭!数字色両方の一致は一等!一等の景品はコチラ!
5kgの魔物の卵!!何か孵るかはお楽しみ!!いかがすか〜」
アイトはルーレットの屋台に駆け寄って行った。
「コレやろうぜ!」
「別に良いけど…そういうのって私無駄金すってる気がして嫌いなのよね」
「大丈夫だって!一等を保証するぜ!!」
アイトは足元に居るポタリに何やら耳打ちした。
『ふむふむ…ほうッ、成る程ぉ……面白いやないか』
アイトとポタリはニヤリと悪い笑みを浮かべる。
「おっさん。一回頼むよ」
「良いね兄ちゃんッ!500ゴールドだよ」
「はいよッ」
アイトは屋台のおっさんに500ゴールドを手渡した。
アイトは静かに足元のポタリに目配せする。
ポタリは親指を立てて答える。
「じゃあ数字と色を指定してくれ」
「う〜ん……赤の14で」
「了解ッ!赤の14に500ゴールド頂きましたぁ!!さあて!運命の女神を振り向かせる事ば出来るのか!?それでは張り切って!!ルーレットォォォッ!
スタートッ!!」
そう言いながらおっさんは手でルーレットを押し回転させていく。
「それではお兄さん、好きなタイミングで中央の丸い窪みでにこの玉を落として下さいッ!落とした瞬間から私は回転を止めて私とお兄さんの勝負開始です!」
おっさんは懐から紫色の小さな水晶玉を渡した。
アイトはそれを中央の窪みに静かに落とした。
水晶玉は数字の書かれたポッドの方に転がってゆきポッドの上で玉が転がっている。
次第に速度は落ち、数字が目で追える様になってきた。
恐らくもう一周分の速度は無いだろう。
そしてアイトが掛けた赤の14が近づいて来る。
しかしダメだ、まだ入るには若干速度が速すぎる。
負けた…誰もがそう思ったとき、ソレは起こった。
玉が14の上に来た瞬間ピタッ!とルーレットの動きが止まり玉は14に入った。
「はあッ!?あッ、赤の14番……当選…です……」
「よっしゃあ!!」
アイトの作戦が見事に成功したのだった。
おっさんはフラフラとした足取りで屋台の奥から大きな卵を持って来た。
「えぇ……色と数字が一致しているので、一等の魔物の卵をプレゼントします……おめでとうごさいます……」
露骨にテンションが下がってしまったおっさんは渋々卵をアイトに渡した。
「あっ、ああ……ありがとう…」
アイトは流石に少し悪い気がして卵を抱えて足早に屋台の前から立ち去った。
「ねえッ!ねえちょっと!!アンタ何したの?屋台に行った流れも不自然だったし、一発でルーレットの一等取る何てあり得ないでしょ!!」
早足で立ち去るアイトをシャルが追いかけて問いただした。
「悪い悪い、そろそろ種明かしするよ。シャル、ちょっとしゃがんで拳を前に出して」
「こう?」
シャルがしゃがんで小さく拳を突き出すと電気が流れた様な痛みが走った。
「痛ッ!?……え?何この青色のカエルッ!?」
『どうも、ワイはポタリっちゅうねん。仲良うしてな』
「へ?」
シャルは説明を求めてアイトの顔を覗き込んだ。
数分後
「はあ〜アンタがまさか中級精霊と契約してたなんて……精霊使いの剣士……中々の拾い物ね……」
「それでポタリが見えない事を利用してルーレットを止めたってわけ」
「アンタ見た目の割に中々悪どい事するわね」
「あはは…そうだピリル!お前も卵持ってみるか?」
「うん」
卵はピリルの顔と同じ位あり、ずっしりと重かった。
「で、どうするのその卵?魔物の卵なんだから売ればそこそこの値段すると思うわよ?」
「う〜ん…どうすっかな……」
「孵化させたい」
ピリルが言った。
「大丈夫?魔物を孵化させるって結構難しいわよ?」
「頑張る。ちゃんと返して孵化後も面倒見る」
ピリルは本気で言っている様だ。
家事等の面倒見が良いピリルの事だ、きっと何とかなるだろう。
「良いんじゃないか?俺も興味が有るし。ポタリも手伝うだろ?」
『ワイはゆで卵にした方が……』
「お前この流れで良く言えたな…… ともかく孵化させる事にするよ」
「そ、なら私がとやかく言う筋合いは無いわね。それじゃあ孵化に必要な物が必要ね……毛布とか、干し草とか。この後はソレ買いに行く?」
「そうだな、そうしよう!」
4人はその後何店舗か回って孵化に必要な物を集めた。
ピリルはその間もずっと大切そうに卵を腕に抱えていた。
余程気に入った様だ。
孵化に必要な物を買いそろそろ今日はお開きにしようかとなった時に街の中央の広場に人だかりが出来ていた。
何やらとても盛り上がっている様だ。
「シャル何かのイベント?」
「特に何も聞いて無いわね…」
アイトは人だかりの中にいた男性に話しかけた。
「すみません、これって何でこんなに人が集まっているんですか?」
「はあ?お前しらねえのか!?もうすぐ勇者様が此処の広場で活動開始宣言をなされるんだよ!」
「勇者?」
アイトは勇者というモノが何か分からず首を傾げた。
そんなアイトにシャルが耳打ちで説明してくれた。
「勇者っていうのは『勇者の神託』を受け取った人のこと。他の神託とは格が違って人類の限界を超えた力を発揮する事が出来るの。まさかこの街で活動開始宣言をするなんて…」
「へえ、何か良く分からないけど凄そうだな」
その時元々騒がしかった広場が更に一段ヒートアップした。
「来たぞ!勇者様だ!!石舞台の上に居られるぞ!」
「なんて凛々しいお姿」
「隣にいるあの美女は何者だ?」
「分からん…だが勇者様と共に行動しているのだ。きっと凄まじい御仁に違いない」
アイトも釣られて皆の視線を追うと石舞台の上に2人の人影があった。
1人は金髪で綺麗なとても高価そうな服を身に纏った青年だった。
もう1人は白色の生地に金糸で美しい刺繍が施されたローブを身に羽織った薄緑色の髪をした女性と少女の間の様な風貌をした女性だった。
右手に杖を持っているので恐らく魔法使いだろう。
「鎮まりなさいッ!!」
薄緑色の髪の女性が広場全体に良く響く声で一喝した。
正に鶴の一声である。
「これからこの場において勇者ブライト様の活動開始宣言を執り行います。今この場に置いて発言の権を持つのは他ならぬ勇者ブライト様!」
そう言いながら薄緑色の髪の女性は隣の金髪の青年を示した。
恐らくこの金髪が勇者ブライトなのだろう。
「そしてその従者であり魔術の名家レグスト家の当主である私キルト、そしてこの場を借りて新たにパーティーメンバーとして迎え入れる男、貿易街ドラドの盟主であるダンクの息子でありドラドコロシアムにて3連覇を達成した武人バンクッ……!?」
「オオウッ!!」
人混みの中から耳がキーンとする程の咆哮が轟いた。
そして人混みの中央にいた人が突然宙に放り投げられ始めた。
そしてそれはどんどん石舞台の方へ近づいて来る。
そして前方人を投げ飛ばしながら褐色の肌をした大男が現れた。
身長はグラントよりも大きいのではないだろうか。
「……品のカケラも無い登場ですねバンク。これであの盟主ダンクの息子ですか。血とは信用ならない物ですね」
「はッはッはッ!!我ながら中々面白い登場だっただろう?よっこら…せッ!!」
そう言いながらダンクは2m近く地面との差が有る石舞台に軽くジャンプして飛び乗った。
すると勇者ブライトが一歩前に出て右手を差し出した。
「コロシアムの覇者バンクよ、私にはこの世界に永遠の平和を齎すという使命がある。その為にはお前の武勇が必要だ。力を貸してくれないか?」
するとバンクは神妙な顔付きになって跪きてを両手で握手に応じた。
「はッ!!この不祥バンクは勇者ブライト様の剣として世界の為にこの武勇を使い尽くす所存でございます。偉大なる旅路にご一緒出来ること心から感謝申し上げますッ!!」
その瞬間広場に割れんばかり歓声が響いた。
若き勇者の旅路の仲間にこの街の盟主の息子であるバンクが選ばれた。
これ程名誉な事は無い。
そして今までこの街のコロシアムの王として並いる敵の頭を無理矢理平伏させてきたダンクが若き勇者に平伏し、忠誠を誓った。
それは何とも言い難い神秘的な光景であった。
「皆聞いてくれ」
勇者が一言発した。
その瞬間あれ程盛り上がっていた観衆が一瞬で口を閉じた。
「私達はこの時この場において活動の開始を宣言する。この世界に散らばり、人の世に仇なす魔物、魔神、邪神、そして未だに何処かで息を潜めているロストウィザードを1匹残らず駆逐しこの世界に真の平和を齎す事を誓う。そして記念すべきこの地に置いて私達は力を示そう。この地で新たに発見された巨大ダンジョン、それを最速で攻略し私達の名を世界に響かせる。皆、楽しみに待っていてくれ」
ワアアアアッ!という歓声が再び上がる。
広場の熱狂はピークに達した。
「おいシャル、アイツの言ってるダンジョンって俺たちが狙ってるヤツじゃないか?」
「そうよッ!!あーもうッ!最悪のライバルじゃない!!よりによって勇者なんて!!」
シャルは頭を悔しそうに頭を抱えた。
「アイツ勇者って言ってたけど、クエスト条件は俺達と変わらないんだろ?」
「え?そうだけど…」
「なら問題無いだろ?先に攻略すれば良いだけだ」
「何言ってんの?勇者とそのパーティーよ?勝てる訳無いじゃない!!」
「やってみなきゃ分かんないだろ?大丈夫だって、俺達を信じろよ。なっ、ポタリお前もそう思うだろ?」
『無理やな。諦めて飲み屋行かへん?』
「お前は酒飲んでグダグダしたいだけだろッ!!とにかくやってみようぜ。今から落胆したって仕方ないだろ?」
「そうだけど……」
シャルは完全にテンションが下がってしまった。
「あっそうだッ!ダンジョンのクエスト解放が明後日になったわ。つまり明日から受付開始って事。だから明日はノイドも連れて酒場に来て。じゃっ、お疲れ」
そう言ってシャルは帰って行った。
アイト達も宿屋に戻ることにした。
「ただいま〜ノイド起きてるか〜」
すると奥の部屋からノイドが顔を出した。
顔色はまだ悪いが朝よりもマシになった気がする。
「お帰り。どうだった?」
「楽しかったぞ!店とか屋台がいっぱい並んでてさ。後…これ!」
そう言ってアイトはピリルが抱えている卵を刺した。
「何だこれ!?……魔獣の卵か?」
「当たり!屋台のルーレットの景品だったんだよ」
「はぁ…で、食うのか?」
「ピリルが育てたいってさ。俺も興味有るし、お前もこういうの好きだろ?」
「まあな」
その後部屋中に柔らかな干し草を敷き詰めて、卵を毛布で包んだ。
後はピリルがずっと抱き抱えて温め、数時間おきに転がすという世話をする。
ピリルが用事で世話できない時はアイトとノイドが代わって卵を温めるなどの世話をする。
ポタリは体温か20度も無いので結局見ているだけだった。
「所でノイド。お前体調の方はどう何だ?」
「ああ、言われた通り熱めの風呂に入ったら頭痛も弱まった。だから午後はちょっと調べ物しに酒場のギルド受付に行った」
「調べ物?何の?」
「シャルのだよ。パーティー契約の時受付が言ってただろ?パーティーメンバーの経歴は同じパーティー内の奴なら誰でも閲覧出来るって。それでアイツの素性を調べてみた。そしたら気になる点が一つ」
「気になる点?」
「シャルのパーティーがアイツを除いて全滅したクエストにある共通点があった。それは、依頼主がドラド自治会であり、報酬がドラド盟主であるダンクの宝物庫から一つというものだった」
「それって…」
「ああ、俺達が受けるダンジョンのクエストと同じだ」
「偶然、じゃ無いよな…」
「そもそも全滅した2つのクエストも元々アイツのパーティーが普段受けている難易度とは訳が違ったんだよ。明らかにこの報酬に固執している。恐らく余程ダンクの宝物庫に欲しい物が有るのか」
「……明日、本人に聞いてみるか?一緒にクエストをやるならこの報酬に固執する理由が知りたい」
「そうだな。まあ、この巨大貿易街の盟主の宝物庫だ。かなり価値のある宝が有るだろう。案外金目当てかも知れないけどな」
明日シャル本人に話を聞くという事で話は纏まった。
この日は前日の反省を踏まえて酒は控える事にした。
アイトとポタリは一日中歩き回って疲れたのか直ぐに就寝した。
ピリルは疲れも溜まらず、好きな時にシャットダウンして機能を停止出来るのでアイト達と同じ頃に卵を抱きかかえてながら干し草の上で寝た。
ノイドは中々寝付けない様で、夜遅くまで小さく明かりを付けて本を読んでいた。
こうしてこの日も夜が更けていった。