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神秘のエルデ  作者: 寝起き
7/9

別れと始まり

サーベルウルフとの死闘により気絶していたアイトは翌日には目を覚ましていた。

修行の総決算を終え2人が此処を出て行くのも時間の問題である。

恐らく今日が最終日になるだろう。

アイトもノイドもいつもの修行場所に向かった。


「おーい、オッサン来たぞー」

「…アレだけの大怪我をしてけろっとしているとは頑丈な奴め。今日で修行は最後になる。煩いガキ共が居なくなってせいせいするわ。…せっかくだ、此処で俺様とお前の実力の差ってものを見せてやろう。木刀を取れ。今日は全力でやってやる」

「良いね。アンタの全力、興味がある。もしかして俺勝っちゃうかもよ?」

「ふんッ!のぼせ上がる弟子の鼻っ柱を折るのも師匠の役目だ。良いか!俺にはお前に未だ見せていない必殺のアーツがある。特別に今回見せてやる。目に焼き付けて勝手に盗むんだな」

「はぁ!?未だ何か隠してんの?サラッと教えてくれれば良いのに…」

「隠し玉は多ければ多い程良いんだよ。いくぞ!!」


グラントとアイトが同時に切り込む。

力はアイトが勝っている。

しかし、技術面ではグラントに大きく軍配が上がる。

それ故に膠着状態が訪れる。

しかしそれは到達に破られた。


『狐刃奇月』


グラントはいきなり初出のアーツを放ってきた。

グラントが残像が出来る程の速度で上段に斬り込んでくる。

アイトは慌てて受けの構えをとる。

しかし突如刃の速度が落ち剣の向きが変化し横腹に叩き込まれた。

アイトは何とか仰け反り刃は掠めただけ。

しかしグラントの追撃は続く。

攻撃が突然スローモーションの様になり、防御をすり抜けてくる。

アイトの隙は次第に大きくなり決着の隙に刻一刻と近づいていくと思われた。

しかしアイトもこの場所での修行を経て進歩していた。

恐らくグラントに教えられた技術だけでは対処不可能ですあっただろう。


『誅刃我領』


グラントの秘技にアイトも秘技で応戦した。

アイトがこの修行で最も変わった点、それは自分を客観視する能力だった。

自らの強み・弱みを理解しその弱みを補う技術を自らの手で創造した。

『誅刃我領』は完全防御のアーツ。

此方から攻撃を仕掛ける事は出来ないが相手からの攻めに関しては如何なる攻撃も通さず返しの刃で命を刈り取る。

『誅刃我領』はグラントよ『孤刃奇月』に完全な対応をみせた。

グラントの攻勢の威を弾き、流れをアイトに引き戻す。


「…此れに対応してみせるか」

「アンタはいつもオレを低く見積もり過ぎだ!!オレ

の刃はもうアンタに届く所まで来てるんだ。アンタの必殺のアーツは既に見切ってるんだよ!」

「いや、予想通りだ。ならば予想通り必殺のアーツで仕留めるとしよう」


『竜刃乖嶺』


グラントが剣を一閃する。

アイトの『誅刃我領』は自分から一定範囲内に侵入した攻撃を全て防御可能なアーツだ。

しかしそれを用いても反応する事すら不可能であった。

正に神速の斬撃。

アイトの完全敗北であった。



「……俺の負けだ。くっそォッ!!最後くらい勝ちたかった!!」

「ふん!未だガキには負けんわ」

「最後のアーツ。アレ何だよ?明らかに他のアーツと格が違うだろ?」

「…アレは、かつて世界最強と言われた男が使用していたアーツだ」

「世界最強の男?」

「その名はドルムンド。俺の育ての親であり、師匠だった男だ。幾つものアーツを教えて貰ったが一つとして完全に習得する事は出来なかった…この『竜刃乖嶺』もその一つだ。オリジナルの4分の1も再現出来ていない」

「アレで未完成なのかよ…」

「あぁ…数十年間鍛錬に鍛錬を重ねてきたがこの程度だ。恐らく俺にはこれ以上の成長は望め無いだろう。

そこで俺からお前にこのアーツを託そうと思う。お前の力でこのアーツを完成させて欲しい」

「俺が!?」

「この修行は本来10年以上掛かるものだ。それをお前は1年で習得した。お前は確実に俺を上回る才能を持っている。それに…お前の仕草、高い態度、そして何よりその真っ直ぐな目、何処かドルムンドに似ている。お前ならもしかするとこれを完成されられるかもしれない」

「……良いぜ。オレがオッサンの思いごとそのアーツ引き継いで完全させてやる。そして目的を達成してまた此処に戻って来たらこのアーツでアンタに完全勝利してやる。それまで楽しみに待っててくれ」

「ふん、……あぁ、楽しみにしている」


日が落ちアイトとグラントの最後の修行が終わった。

アイトと別れたグラントは帰路に向かう脚を止めて道の真ん中で夜空を見上げてながらポツリと呟いた。


「団長。貴方を上回る男を見つけたかもしれません。俺はアイツに掛けてみようと思います」



此処はダラムの研究室。

ノイドはダラムに言われて椅子に座り最後の修行の内容を聞く準備をしていた。


「ふむ…ノイドよワシの過酷な修行をよくぞ耐え抜いた。正直に言えば死ぬだろうと思っていた修行も幾つかあったがその全てを己の力で潜り抜けてきおった。

コレは称賛に値する。…そこでじゃ。特別にワシがお主に黙っていた秘密を明かそうと思う」

「秘密?」

「最初の実験の正体に付いてじゃ」

「最初の実験って…たしか仮死実験だったっけ?」

「うむ、確かに仮死実験には違い無いのじゃが…実はこの場所の力を利用した実験を行っていたのじゃ。ワシが長年この場所を探し求めていた事は知っておるか?」

「ああ、ピリルに聞いた」

「うむ。この場所は特別なのじゃ。前にも話た通りワシら魔術師は魔術の深淵を求める者達の事じゃ。しかし魔術の深淵に至るには肉体を捨てて精神だけになる必要があり、この世界で深淵に至る事は不可能出来であると思われていた。しかし、この世界に数ヶ所だけ竜の墳墓と呼ばれる魔術の深淵と直接繋がっている場所がある。その内の一つが此処なのじゃよ」

「此処がですか!?確かに他の場所とは雰囲気が違うとは思ってましたけど…じゃあ一体どうすれば深淵に至れるんですか?」

「此処は深淵に到達し、生きたまま肉体に戻ってくる事が可能な場所なのじゃ」

「だからどうやってッ…」

「仮死状態になるのじゃ」

「……つまり…さっき言ってた秘密って…」

「そう。お主は既に深淵と繋がっておる」


ノイドは言葉を失った。

まさか自分が気付かない内に深淵と繋がっていたとは。


「つまり…此処でアノ薬を使えば…誰でも深淵に到達出来るという事ですか?」

「ふむ…かつてワシは7人の仲間と共に竜の墳墓を探し求めてあった。20年にも及ぶ放浪の末に遂にこの場所を探し当てたのじゃ。そして、ワシ達は古代の文献から深淵と繋がるには仮死状態になる事が必要だと気付いたのじゃ。7人の中で最も若かったワシは記録を残す為に残り他の者は仮死薬を使い深淵に飛び込んだ」

「…他の人はどうなったんですか?」

「全員意識が返ってこず死んだ…深淵に取り込まれてしまったのじゃ」

「死んだって…」


自分が本当に殺され掛けていたとは…今更ながら背筋ガキ寒くなる。


「でも俺何の変化も感じないんですけど」

「いや、確実にお主意識が戻った時から魂の色がヤツらと同じになっておる」

「ヤツらとは?」

「深淵に至った魔術師。偉大なる世界の全てを変え有る力『ロストマジック』を持つ者、『ロストウィザード』」


ロストマジックとはノイドが探す旅の目的である。


「アンタ…その、ロストウィザードに会った事があるんですか?」

「ある。若い頃に何度かな。皆揃いも揃って怪物じゃった…」

「じゃあ….俺が…ロストマジックを…」

「可能性は多いに有る。何者かに教えて貰う事によって習得できるモノなのか、自ら力を目覚めさせるのかは定かではないがな」


いきなり旅の目的に大きく近づき戸惑いが隠せない。


「良いな。お主は今無限の可能性を手にしているのだ。己の魔術を極めるのじゃ。深淵から力をひきだせ。旅で全ての物事を貪欲に吸収すれば確実に偉大な魔術師になる事が出来るじゃろう」

「そうだ、死者の完全蘇生を可能にするロストマジックを探してるんだ。何か知ってる事は無いか?」

「ふむ…直接には何も分からぬが、ドラドの街には知り合いのフクロウという情報屋がおる。その者に聞けば何か分かる筈かもしれぬ。そうじゃ、コイツを持っていけ。恐らく良い情報を提供してくれる筈じゃ」


そう言ってダラムは棚の引き出しから中に黄緑と水色の液体が入った小指程の大きさの円筒状の物体を出してきた。


「コレは?」

「コレはかなり古いタイプの『魔力蓄積管』じゃ」


『魔力蓄積管』とは冬の国という所で製造されている魔力の無い人が魔法を発動する為に使う道具だ。

冬の国は工業技術の先進国でポーションインジェクター等もその国の製品だ。

工業力は他国と100年分の差があると言われており、この世界で4大王国と呼ばれる強国の一つである。


「こんな骨董品に大した価値無いだろ?」

「フクロウは中々面白い男でのお。まあ渡せば分かる。取り敢えず持っておけ」

「ああ」


ノイドは魔力蓄積管を懐に仕舞った。


「ノイドよ、ワシからの最後の言葉じゃ。偉大な魔術師に必要な物は何じゃ?」

「……膨大な魔力」

「違う、必要な物は好奇心じゃ。偉大な魔術師は皆少年の様な目をしておる。お主の此処に来たばかりの時は暗い濁っておった目が今では光を放っておる。まあ、目の下の隈は消えておらんがな…良いか!お主の旅で見て聴いて感じた物全てがお主の魔法を研ぎ澄ましていく。旅を楽しめ。出会いを喜び!別れに涙し!この世の悦を楽しみ、苦を極め、労を積み重ね、友と笑い時には殴り合う!今の一瞬を全力で生きるのじゃ!!それがワシからお主に伝える最大の教えじゃ!!」


ダラムの最後の教えはノイドの魂の奥まで響深く刻み込まれた。

この人の言葉は何故か心のフィルターを素通りして直接心を揺さぶってくる。

それは恐らくノイド自身がダラムの様に感情を爆発させて生きている人間に憧れていたからだろう。

こうしてノイドとダラムの最後の修行が終了した。




「……グラント、アイトの修行は終わったのか?」

「あ?…何だてめえかピリル。最後の打ち合いを終わらせてきたところだよ」

「勝ったのか?」

「当たり前だろ?俺様に勝とうなんざ100年早え」

「そうか…グラント、実はッ…」

「そうだピリル。お前…最近掃除雑じゃねえか?…俺様の部屋に埃が落ちてたんだが。それに…アレだ…そう!前から思っていけどお前の料理不味すぎて食えたもんじゃないんだよ!あっ!それとお前俺様の食料庫の食料勝手に持っててただろ!嫌なぁ?流石にオレも限界でなあ…良い機会だ。あのガキ共と一緒に出てけ」

「え?」


グラントがピリルの言葉を遮ってクビを言い渡した。

ピリルはアイトとノイドに付いて行きたいと言おうとしていたのだ。

余りにタイミングが良すぎる。

それに喋り方がたどたどしいし、此方と目も合わせてくれない。


「ふっ、そういう事か……柄にも無く気を使いやがって………グラント、長い間世話になった。アンタにはこき使われたが僕の全てを与えてくれた恩人だ。感謝している」


グラントは反対方向を向いて空を見上げている。


「アンタには、言葉も掃除も料理も…土の塊に過ぎない僕に…人と一緒にいる喜びをッ……」


ピリルの頬を水滴が伝った。

コレは…涙なのか?

ゴーレムに過ぎない僕が泣く事を許されているのか?

土で出来た胸の中で悲しみと寂しさと感謝が渦巻く。


「ほらッ…グッウ…僕ッ……泣ける様になったんだ……まるで、人間みたいだろ?いっ、いつか…旅が終わったら……ぼッ、僕……いっぱい…グズッ、その時までに…沢山…料理覚えて返って来るから…その時は…一緒に…食べて……ぐれるか?」

「…ああ、その時まで腹空かせて待っててやる」

「必ずッ…必ずッ!帰って来るからな!!」

「ああ、行ってこい」

「うん…行ってくるよ…父さんッ!」


ピリルは目の下の涙を拭いグラントとは逆の方向に駆け出した。

これ以上此処に居れば決意が鈍りそうだった。



翌朝。

ノイドは出発の準備を整える為に朝早くに起きた。

するとテントの外から煙が立ちこもり何やら良い匂いがする。


「ピリル!?」

「ん?…起きたのか」


其処には朝食のスープを作っているピリルの姿があった。


「決心は付いたのか?」

「ああ、お前達だけじゃ心配だしな」

「ふッ、言うじゃねえか」


ノイドは軽くピリルの頭を小突いた。


「おッ!ピリルじゃん!!やっぱり来てくれたんだな!俺は信じたぜ!ノイドの奴なんか昨日心配して説得しに行こうとかッ……」

「オイ!アイトッ!!」


そうこうしている間に朝食の準備が終了した。

ピリルがそれぞれの器に盛り付ける。

今日の朝食はビッグマッシュルームのスープと硬いパンだ。

パンをスープでふやかしながら頂く。


「ズズッ……プフゥ、あったまるぅ。コレもう俺達の料理の腕前超えてるわ」

「味覚無いのに良くやるよ…」

「料理はサイエンスだ。気温・湿度・時間帯・年齢から最高の料理を導き出す。塩一粒たりとも妥協しない」

「…急にどうした?前までそんな凝ってたか?」

「僕は新しい料理を知る為に外の世界へ行く。グラントに料理振る舞うって約束した」

「はッ!良いんじゃないか?どうせなら世界最高の料理人を…じゃ無くて『世界最高の料理ゴーレム』を目指そうぜ」

「うん。目指す」

「よしッ!ならそろそろ出発しようぜ!明後日までに目的の町に行くんだろ?」


3人は手分けしてキャンプや焚き火を片付け、出発の準備を整えた。


「…そろそろ行くか」

「フッ、覚悟してたけどやっぱり寂しいもんは寂しいな…」

「言うな…全員同じだ。ピリルなんて俺達の何倍も此処に居たんだ。苦しさは俺達以上だろ」

「僕は問題無い。昨日完璧に別れを済ませた。流す涙はもう残ってない」

「そっか…」


目を閉じる。

森の音に耳を覚ます。

始まりこそ最悪であったが今では全て良い思い出になっている。

此処で学んだ事は大きい。

最早第二の故郷と言っても差し支え無い。

寂しさが胸に溢れる。

決壊しそうな胸の内を押さえながら鼻から大きく息を吸う。


「すぅぅぅ………グラント師匠!ダラム師匠!1年間お世話になりましたあァァァァ!!師匠達には感謝しかありません!!数年後!目的を達成しッ、世界最高の騎士、世界最高の魔術師!世界最高の料理人になって沢山の土産話と共に戻ってきます!!それまでえ!!衰えんじゃねえぞォォ!!ありがとうッ…ございましたァァ!!」


アイトか魔法陣を描き空に向かって放つ。

それは師匠達への感謝の念を込めた7色の花火であった。

3人はコレ以降決して振り返らずに歩いた。

6個の眼は未来を真っ直ぐ見据えていたのだ。



「うむ、奴らにしては中々良い別れの演出じゃったのお…おい、いつまで泣いておるのじゃ…」

「うるせえな!!アイツらは俺の息子同然なんだよ!!クソッ!!粋な事しやがって!!」


ダラムの屋上からグラントとダラムは弟子達を見送っていた。


「ふむ…しかし明日から暇になるのお」

「馬鹿野郎ッ!!アイツらが戻って来きた時に返り討ちにする為に筋トレだ筋トレ!!」

「フッ、果たして3人纏めて無事に帰って来るかのお?」

「信じるしかねえだろ。アイツらには才能が有る」

「そうじゃの。アイトもノイドもピリルも大いなる運命を背負っておる。奴らの行先には敵が多い。しかし確かにそれに打ち勝てるだけの才能は持ち合わせておる筈じゃ。まあ、確実に退屈はせんじゃろうな…」





〜ノイドのステータス〜


レベル→24

神託→『魔術師の神託』

MP→80

スキル→『魔力増加』×79

→『思考加速』×34

→『毒耐性』×11

エクストラスキル→『魔法陣高速構築』

→『空間接続』


魔法→『フレイム』(消費MP2)

→『ブラスト』(消費MP10)

→『レッドバレット』(消費MP72)

→『スピリチュアルミスト』(消費MP5)

→『サイクロン』(消費MP12)

→『ヒール』(消費MP3)

→『ポイズンヒール』(消費MP5)



〜アイトのステータス〜


レベル→28

神託→『戦士の神託』

スキル→『身体能力上昇』×87

   →『思考加速』×39

→『空間把握』×18

→『五感強化』×12

→『思考読破』×7

エクストラスキル→『無意識ノ領域』

→『精霊共鳴』

アーツ→『鬼刃十文字』

   →『飛刃霹雷』

   →『螺旋翼刃』

   →『誅刃我領』

→『竜刃乖嶺』



〜ピリルのステータス〜

レベル→37

エクストラスキル→『万象融合』





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