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神秘のエルデ  作者: 寝起き
4/9

修行〜ノイド編〜

翌朝、ノイドは早朝からダラムと森を歩いていた。

ダラムに付いて歩いているが魔物の気配は無い。

ダラム曰く、魔物の達の縄張りを上手く避けて歩けるルートらしい。


「ダラムさんの研究所って何処に有るんですか?」


2人はダラムの研究所へと向かっていた。

ダラムは洞窟に住んで居る訳では無く、大抵の場合食事の時にだけ現れるらしい。

何でも昔グラントとの賭けに勝って食事を世話してもらう事になったのだとか。

普段は洞窟から少し離れた場所に有る研究所で魔法の研究を行っている。


「ふむ、あの遠くに有る巨大な木が見えるか?」


ダラムは森の中でも一際背の高い木を指指した。

雲に届く程高く、幹もどっしりしていて樹齢は計り知れない。


「ええ…」

「あの中の空洞を利用して研究所としておるのじゃ。あれを見つける為に大変苦労したものじゃ」

「はあ、あれだけ巨大なら研究所位の穴も有るのか…」

「ほっほっほ、楽しみにしておれよグラントの所とは大違いであるぞ」


ダラムは上機嫌で歩調を速める。

ピリルが言っていたが、ダラムは悪い事を考えている時は上機嫌らしい。

余程ノイドの身体で行う人体実験が楽しみなのか。

一体どんな事を考えているのであろうか。

今から胃がキリキリと痛くなってくる。

そうこうしているうちにダラムが指した巨大樹にたどり着いてしまった。

近くで見るとやはり壮観である。

上を見上げると首が痛くなる。

近くにいると不思議と落ち着き、何故か優しさを感じる。

そんな不思議な木だった。


「ここから入るのじゃ」


ダラムは巨大樹の幹に取り付けられた大きな扉を指さした。

ダラムに付いて中に入るとそこは想像以上に研究所然としていた。

大量に魔術や薬、魔物などに関する書物の入った本棚が幾つも立ち並んでおり、ガラスのショーケースの中には名前が彫られた石と共に薬品が数え切れない程並んでいた。


「凄え…これ全部ダラムさんの?」

「当然じゃ、これは全てワシが若い頃から集めてきた薬品や道具、書物の数々じゃよ。我ながら大したコレクションじゃと思うわ」


ダラムは自慢気にこの研究所について自慢気に話始めた。

何でもダラムは昔『風の国』で数百人の弟子を抱える名の知れた魔術師だったらしい。

また、歩いていると剥製の中に明らかに人間の頭部に見える物を見つけた。

ダラムに本物かどうか尋ねるとニヤリと笑って『どうじゃろうな』と言っただけだった。

ダラムならやりかねない、そんな気がして身震いした。


「ではそろそろ実験を始めるかのお」


グラントは薬品室に入ってそう言った。

中には調合関係の書物や、調合用の鍋やすり鉢、そして大量の薬品が入ったビーカーが並んでいた。


「この薬品はなあ、ワシが調合した仮死薬じゃ。心肺機能を抑制する薬や、体臭を変化させる薬をある割合で混ぜてある。これを利用する事で心拍数をギリギリまで抑え、身体は腐臭を放つ用様になり一時的に屍になる事が出来る」

「何の役に立つんだそれ?」

「いろいろじゃ、例えば仮死状態になり魔物の目を紛わす事や、死体に扮して忍び込むなど用途は幾らでもある。しかしな…魔物に試してみたところ大抵がそのまま心拍数は減り続け、遂には心臓が止まってしまうのじゃよ。つまりこれは失敗作じゃ、しかし死にかけた状態で暫くキープする事は出来た」


何でそんな物の話しをするんだ?

そうノイドが思った時ダラムはニコッと笑ってノイドを見た。


「じゃからこれで試してみようと思う」


そう言ったのと同時にダラムはその薬をノイドの首を注射した。


「はっ?てめッ…なにし…がッ……」


突然の事にノイドは何も反応出来ない。

目が周り出し、視界の色が抜け落ちていく。

視界がグルグル回転し、何処が上で何処が下なのかも分からなくなってきた。

脱力感と共に足が触れている筈の床の感覚が無くなった。

地面に吸い込まれていく感覚。

暗闇の中に真っ逆さまに落ちていく。

段々頭がぼぉっとして、思考停止する。

手足が暗闇に溶けていく、体が徐々に無くなってゆく。

もはや自分が何なのか、何故この様な事態になっているのかも思い出せなくなっていた。

身体が完全に溶ける。

しかし意識は有った。

自分は暗闇に取り込まれた。

そして、自分は暗闇の一部になったのだ。

不安は無い、不思議と安心感に包まれていた。

意識に何かが流れ込んでくる。

ノイドは理解した。

不思議とノイドは理解していた。 

今自分の中に流れ込んで来ているモノは世界全てだ。

自分は世界の一部になったのだ、それはつまり世界は自分の一部になったと同意。

ノイドはとてつも無い全能感に打ちひしがれた。

歓喜、もし自分に目が残っていたなら間違い無く歓喜の涙を流しただろう。

もう不安は無い、世界に包まれ世界を包むその感覚に浸っていた。

しかし突如何かにグイッと後ろに引かれる。

身体を持たぬ自分を何で引っ張ると言うのだ。

ノイドは怒り狂った。

何故自分のこの快楽の邪魔をするのか、この場所に留まりたいと。

しかし何かはとてつもない力でノイドを引きずりあげる。

次第に意識が世界から分離していく。

徐々に上へ登っていく。

目や口、鼻、耳、骨、手足、皮膚などが纏わりついてくる。

目が帰ってきた事で涙が流れた。

ノイドは泣いた。

もう戻れぬあの闇の底を恋しがって……



ノイドは床の上で目を覚ました。

記憶が錯乱して周りを見渡した。

何かとても良い夢を見ていた気がするのだが…

視界の隅でダラムを見つけた


「ちっ…また失敗かのぉ…全く…理論は完璧の筈なのじゃが…しかし何故成功せん!!何が間違っておるのじゃ!!クソッ!!」


そう言って近くの椅子を蹴り飛ばしていた。

ノイドは段々思い出してきた。

ダラムの実験の実験台になっている事を。

怪しげな薬を打ち込まれた事を。


「何しやがんだ!このくそシジイ!!」


ノイドは怒りに任せて殴り掛かった。

その拳は見事ダラムに命中。

『ふぇ?』という気の抜けた声を上げてダラムは倒れる。

ノイドはダラムに馬乗りになり掴みかかった。


「ノッ…ノイド…生きておるのか?」

「生きておるのか?じゃねえ!今お前に殺され掛けたところだよ!!何変なもん注射してくれてんだ!」

「そんな事より…ノイドよ!!何が見えた!何を感じた!!!」


ノイドは怒りに任せて掴みかかったがダラムとてつもない剣幕で迫って来たのでたじろいでしまった。


「はぁ?……よく覚えて無いけど…何かが体の中に入ってくる様な……てか、気絶してる時に見た夢なんざ聞いてどうすんだ?」

「ふむふむ……深淵に触れた可能性かあるのぉ…………よし!ノイドよ実験はこれまでじゃ!明日からはお前の修行に移る。今日はもう帰れ」

「修行に移るってもう実験は終了したのか?」

「ああ、充分じゃ……それともまだ物足りぬか?」

「いやいやいや!!じゃっ、じゃあ帰ります!!」


次の実験に付き合わされるとたまったもんじゃ無いので急いで帰る事にした。

外に出ると既に真っ暗。

夜が森を飲み込んでいた。

体感はダラムの研究所に1時間程いただけなのだが、気絶している間にかなりの時間が過ぎていたらしい。

ノイドは足早に今朝アイトと共に作ったキャンプへ急いだ。


「そう言えば……今日の飯取るの忘れてたな」


今日から自分達だけで生活する事になっていたので食べ物も自分達で入手しなくてはならない。

しかし、もう辺りは真っ暗でこれから森に入り食料を入手出来るとは思えない。

アイトが何か入手している事を願った。

暫く歩くと焚き火の明かりが見えてきた。

アイトと何故かピリルの姿が見えた。

2人に向かって手を振り叫んだ。


「おーい!アイトただいまー、後何でピリルが此処に居るんだー」


アイトはノイドに気づいた様で

手を振り返した。

アイトは顔に何箇所か痣が出来ていて、ボロボロだった。

どうやらアイトもかなり厳しい修行を行なっている様だ。


「お帰りー、見ろよノイド!ピリルが飯持って来てくれたぞ!!」

「おお!ありがとなピリル!!でも何処から持ってきた?」

「食料庫から拝借した。どうせロクな物食べてないと思ってな」

「正直、俺何にも食料入手できてないから助かった。でも何処から持って来たんだ?」

「洞窟の食料庫からだ」

「大丈夫なのかよ…グラントにバレたら面倒臭いぞ」

「問題無い。お前達が食べるちっぽけな量盗んでもアイツは気付かないよ」


結局アイトも何の食料も入手しておらず、ピリルの善意に甘える事にした。

談笑しながら食事をし、話題はそれぞれの修行の話になった。


「ノイドは今日ダラム爺さんの実験を手伝ったんだろ?どうだった?」

「確か…あのシジイに失敗作の仮死薬打たれてそれから…」


ノイドは何か大事な事を忘れている気がした。

記憶に霞がかかっており、思い出そうとすると頭がズキズキ痛んだ。

そして何故か気が付いた時から言い表し様の無い喪失感を覚えていた。


「仮死薬!?しかも失敗作の!?大丈夫なのかよ…」

「大丈夫じゃねえ、多分本気で死にかけたんだと思う。あのシジイ俺が死んだと思って物に当たり散らかしてやがった」


話を聞いていたピリルは何か考え込んでいた。


「どうしたピリル?」

「いやっ…ダラムは此処に来た時から死者蘇生や、生物を仮死状態にする実験を繰り返しているんだ。まさかそれをノイドでやるとは…確かその実験を行う最適な場所だからと言ってわざわざ此処に引っ越して来た筈だ」

「ただの蘇生実験や、仮死薬の開発なら場所は関係無いよな…何で此処なんだ?」


暫く考えたが結局何も考えが浮かばなかった。

ピリルは2人が食べ終えると洞窟に帰って行ってしまった。

2人共疲れきっていたので直ぐにそれぞれのテントに入って深い眠りについた。



翌日から

ノイドの修行が始まった。

早朝から昨日と同じ様にダラムと共に歩いていた。


「ノイドよ、お主…死ぬのが恐ろしいか?」


ダラムは突然ノイドに質問してきた。


「俺は別に…」

「隠さんでも良い。お主からは怯えの匂いがするのじゃよ。獲物が放つ匂いじゃ。恐怖は身体を縛り、思考を狭める。また、魔物達はその匂いに反応して襲い掛かってくる。先ずはそれを克服しなくてはならん。さもなくば、どれだけ過酷な修行を行ったとしてもモノにはならん」

「分かってるさ…でも目蓋に焼き付いて消えないんだよ…真っ赤に純血したヤマノカミの目が。血まみれになったアイトの姿が。あれを思い出すたび足が竦んじまう…」

「ふむ…ノイドよ恐怖を消そうとしている時点で間違いじゃ。そればっかりは絶対に付き纏って来る。恐怖に晒されながらも心を整え、冷静でいる事が大切なのじゃ。そうじゃの…お主には心の支えとなる物が必要じゃな。よし、一つ老人のありがた〜い話しをしてやろう」

「話し?それが心の支えと何か関係あるのか?」

「まあ一先ず聞け。知っておるのお?ワシら魔術師には深淵信仰という物がある。どの様な信仰かと言うと、世界は魔術の法則によって形成されており、その世界を支配しておる魔術の事を深淵と呼んだ。ワシら魔術師はその魔術の頂点をに憧れを抱き、遥か昔からその深淵に到達しようとしてきた。そして、昔から魔術師の深淵に到達するには肉体を捨て、精神体になる必要が有ると言われておる。その肉体を捨て精神体に成る方法の一つが死ぬ事じゃった。この事から魔術師は死が近づく事は深淵が近づく事であると考え命を危険に晒す荒業を行い、その果ての死を目指す。それが深淵信仰じゃ。お主も魔術師の端くれじゃ。興味あるじゃろ?深淵に」


ノイドは超が付く程の魔術オタクだった。

幼い頃から魔術書を読み込み、魔術の練習に勤しんできた。

世界の法則をねじ曲げる魔術に魅了されたのだ。

そしてダラムの言う深淵。

当然興味が湧いた。


「ああ!一目で良いからその深淵の魔術に触れてみてえ!!」


「うむ、大切なのは此処からじゃ。死が目の前に立ち塞がった時この事を思い出すのじゃ。その探究心で恐怖を塗りつぶせ。そして死の近づきを歓喜するのじゃ。心の中でこう唱えよ『我死して魔術の深淵に至らん』とな」

「……我死して魔術の深淵にいたらん」


ノイドはこの言葉を心の中で何度も暗唱した。

とても脆く弱い自分の心を支えてくれる気がした。

暫く歩いていると突然ダラムが立ち止まった。

場所は景色が綺麗な崖上である。


「ノイドよ、写し姿の羊皮紙を見てみよ」


ノイドは羊皮紙を開いた。

そこにはいつも通り自分のステータスが書かれていた。

しかし、直ぐに異変に気がついた。

レベルが2に上がり、MPか10に増加し、スキル『毒物耐性』を得ていた。


「レベルが上がってる……何で?」

「ふぉふぉふぉ、アイトよレベルとは生物の生態的地位を表しておる。レベルが一つ上がるだけでその生物の能力は格段に上昇する。最早進化と言っても差し支え無いのじゃ。そしてレベルの上昇とは並大抵の努力で起こる物では無い。しかしと一つだけ方法がある」

「その方法とは?」

「死にかける事にじゃ。どうしようもない危機に遭遇した時に、その危機を回避する為に人間は自分の限界を超える事がある。それがレベルの上昇じゃ。要するに死地を越える度にレベルは上がってゆく。お主のレベル上昇の原因はおそらくワシの打った薬じゃろうな」

「なるほど、死にかけた時に自分の限界を越えるか……」

「じゃから、死にかけて貰おうと思う」

 

突如ダラムは崖の上からノイドを蹴り落とした。


「はぁ!?」


ノイドは慌てて何かを掴もうとするが間に合わない。

なす術無く落下していき、今度こそ死を覚悟した。

村を出てからもう3回目である。

しかし、崖の下は池になっており大した怪我はしなかった。


「ブハァッ、ハア…ハア……シジイ…お前毎回突然過ぎるんだよ!!死んだらどうすんだ!」

「ふん、下に池がある事を知って蹴落としておるわい。ノイドお主のおるその場所は比較的弱い魔物の生息しておるエリアじゃ。お主にはその場所から歩いてワシの研究所まで帰ってもらう。その場所からでもあの大樹は目視出来るじゃろう。よいか、比較的弱いと言っても立派な魔物が生息しておる。せいぜい死なない様に頑張んじゃのお」


それだけ告げるとダラムはふぉふぉふぉと笑いながら消えてしまった。


「……あの狸シジイ、帰ったら必ずぶん殴ってやるからな……」


ノイドはずぶ濡れになりながら池から上がった。

しかし、ダラムへの不満を言っていても仕方が無い。

今は自分が生きてキャンプには戻る事に集中しなくてはならない。

崖の下に落とされたせいで、崖の周りをグルリと一周して、研究所まで行かなくてはならない。

相当な日数がかかる筈だ。

そして、比較的弱い魔物が生息しているとダラムは言っていた。

恐らく自分が何とか出来るレベルに合わせてくれたのだろう。

ひとまず今は研究所に向かって歩くしか無い。

今自分はレベル上昇のお陰でMPが10に増えた。

これは『フレイム』5発ぶんであり、『ヒール』3回分である。

これを上手く利用して魔物に対処しなくてはならない。

やはり、魔物に遭遇しない様に慎重に進むべきだろう。

前回は疲労から警戒を怠ったのがあの悪夢の原因だった。

二度と同じ鉄は踏まない。

ノイドは慎重に森へ分け入って行った。

森は様々な音で賑やかだった。

風の音、虫の音、鳥の音。

大型の魔物の気配を見逃さない様に5感を研ぎ澄ます。

すると当然ひろうが蓄積してくる。

なので、こまめに休憩を取った。

移動中に集中を切らさない為である。

そのお陰で大型の魔物と遭遇する事も無く安全に進んでいた。

だが次第に日は傾き、夜が近づいていた。


(くそッ、やはり最大の問題は夜をどう乗り切るかだな…流石に暗闇の中進む訳にはいかない。完全に日が落ちきるまでに野営の準備を完了しなくてわ)


ノイドはある程度開けていら場所を見つけ其処で野営をする事にした。


(最低限焚き火の準備はしないとな。夜も明かりは必要だし、魔物避けにもなる)


ノイドは薪を集め、焚き火を作った。

夜の明かりとして、又暖を取る物として、魔物避けとして必要不可欠であり夜を越す為の生命線である。


(明日一日歩けば研究所まで付くだろうか…一先ず今は

夜を越す事を第一に考えねえと)


ノイドは焚き火に当たりながらリュックに入っていた干し肉を噛んだ。


(焚き火で全ての魔物を避けられる訳じゃ無い。熟睡して寝首をかかれない様にしないと…)

「ふあぁぁぁ…」

眠気が襲ってきてあくびが出た。

森を歩き回った疲れが出てきたのだ。

ノイドは物音がすると起きれる程度に浅く眠る事にした。

ノイドは村にいる時に冒険者には必須の技術であると本で読み、出来る様に訓練していた。

そしてその訓練が身を救う事となった。

眠りについて暫くした頃、焚き火からそう遠くない所から木の枝が折れるピシッという音がした。

ノイドはその音に敏感に反応し飛び起きた。


(何か来ている!?)


闇に向かって耳を傾ける。

ピシッ、パキッ、フッフッウ、キャキキッキ、ウーウー

足音に混じって小さな高い声がする。


(人か?いや人間の言語ではおそらく無い。確認しようにも此処からじゃ光が届かなくて良くみえないぞ…)


ノイドは火の付いた薪を音のする方になげる。

すると緑色のいぼだらけの顔をした、子供程度の体格をした魔物が複数体浮かび上がった。


「ギィィーググ、キッ、キィーー」


ゴブリンである。

ゴブリンは小型で子供並の知能を持つ魔物である。

体格に見合わず力が強く、群を作って狩をする。

人間や、家畜を捕食する危険な魔物である。

そのゴブリンが薄笑いを浮かべ、此方の様子を伺いながらゆっくり近づいて来ているのである。


(ゴブリン!?ちッ!コイツらは火を恐れないみたいだな…数は6体。『フレイム』を俺が使える回数は5回だ。全て当てたとしても一体残る……クソッ!考えろ、パニックになるな、この場を切り抜ける方法を考えるんだ……)


ゴブリンはこうしている間にもジリジリ距離を詰めている。


(この場を切り抜けるやには一度の魔法で複数体殺す必要がある。しかし『フレイム』では火力的に複数体を殺す事は不可能だ)


そしてノイドは判断した。

自分が未だ使ったことの無い、新しい魔法を使う必要がある。

そして一つだけ思い当たる魔法があった。

ノイドが魔術書で読んだ魔法の中に『ブラスト』という魔法があった。

『フレイム』とは桁が違う威力を発し、効果範囲も広くゴブリン達を一網打尽に出来る。

魔法を使うにはMPを使い魔法陣を構築し、その魔法陣によって魔力に法則を与えて制御する事が必要だ。

ノイドは『ブラスト』の魔法陣の構築方法を魔術書を熟読し、理解していた。

しかし『ブラスト』は威力が絶大な代わりにMPを12消費する為MPが足りず使用出来なかったら。

しかし、レベル上昇によりMPは10に到達。

マジックポーションを用いれば理論上は発動できる。

しかし『ブラスト』を発動するのは当然初めてである。

魔法の難易度は構築する必要のある魔法陣の数で決まる。

それぞれの魔法は魔法陣の数によって、

『一陣魔法』、『ニ陣魔法』、『三陣魔法』などに別れる。

一つ魔法陣が増えるだけで構築難度は跳ね上がる。

ノイドは今まで一陣魔法しか使用した事が無い。

しかもぶっつけ本番。

失敗すればMPは無駄に失われ、魔法の使えないノイドはゴブリンの餌食となるだろう。

ノイドはマジックポーションを打ちながら考えた。


(『ブラスト』を使うしか選択肢がねえ…クソッ!失敗したら詰みだ。絶対に失敗できねえ。俺に出来るのか…魔法陣の構築を少しでもミスったら死ぬんだぞ…)


ノイドの足が震え、杖を握る手が滑り、汗が頬をつたう。

その時ノイドはダラムの言葉を思い出した。


『命の危険に瀕した時この言葉を思い出すのじゃ。その探究心で恐怖を塗りつぶせ。そして死の近づきを歓喜するのじゃ。心の中でこう唱えよ………』


ノイドは右手を前に突き出しその前に杖を使って魔法陣を構築していく。

不思議と身体から余分な力が抜けていた。

右手に全身の魔力を集める。

右手からは紅の閃光が煌めき、手の平が燃える様に熱い。

まるで太陽を宿しているかの様だ。

魔法陣を2つも維持する負荷で全身の骨が軋む。

しかしノイドは笑っていた。


「ふっ、そうだ死だの何だの難しい理屈並べても現状は変わらねえ。思い出した、俺の魔術の原点は好奇心。そして俺が今向き合うのは俺の人生最大の大魔術。探究心で恐怖を塗りつぶせ、死こそ魔術師の悲願なり。我死して魔術の深淵に至らん!ブラストォォォ!!」


ノイドの手から放たれた純粋な魔力エネルギーは魔法陣を通り計算し尽くされた法則が加えられていく。

そして魔力は絶大な破壊力を秘めた砲弾となりゴブリンの群を直撃。

辺り一帯を吹き飛ばした。


「はぁッ…はぁッ…はぁッ……やっ…やった…成功した…成功したぞぉぉぉぉ」


ノイドは歓喜の余り反り返るほど程叫んだ。

しかし、突如近くの草むらがゆれる。


「ギィギャァォォォォォォ」


草むらからゴブリンが飛び出してきた。

先程吹き飛ばした群から逸れていたのだろう。

ノイドは慌てて杖で飛び出して来たゴブリンを殴りつけた。

ゴブリンは数メートル吹き飛ぶ。

しかし、致命傷にはならない。

ゴブリンは筋肉の塊であり、骨も太く硬い。

ノイドの打撃で殺すのは不可能である。

魔法を用いなければならない。

しかしMPは完全にカラであった。

『フレイム』だけでも発動出来れば倒す事が出来るのだが。


「クソッ!未だだ…未だだぁぁ!!」


ノイドは右手を突き出す。

ノイドははっきりと理解していた。

MPが無い事も、自分にはもう打つ手が無い事も。

しかし諦める事は出来ない。

歯を食いしばり目を血走らせ右手に力を込める。


(俺の中の魂の存在をとても強くかんじる…俺は今この瞬間に限界の扉をこじあけるぞ!)


その時、一瞬世界がスローモーションになった。

そして自分の身体の奥に衝撃を感じた。

すると不思議な事が起こった。

身体の奥がどんどん熱くなり、手の平の前に魔法陣が構築されていく。

魔力が湧いてきたのだ。

ノイドはその魔力を手の平に集める


「オォォォォォッ!フレイムッ!」


手から火球が放たれゴブリンに直撃。

ゴブリンを数メートル吹き飛ばし、瞬く間にを灰にきした。

その直後、ノイドをとてつも無い目眩が襲い、全身の力が抜けて気絶してしまった。



気がついた時には焚き火は消え、すっかり朝になっていた。

身体の節々が痛く強い怠さと、目眩がする。

しかし、身体の奥で脈打つ『魂』の存在感が増した気がした。

ノイドは荷物を纏めてあるきだす。

まだ、修行半ばである。

結局ノイドが研究所に到達するまでに1か月かかった。

進めば進む程魔物が強くなっていたからだ。

よって、ノイドは何度も挑戦と撤退を繰り返す事となり、とても時間が掛かってしまった。

しかし、徐々に実力を蓄え、そして幾多の試練を乗り越えて、修行前とは筋力も、魔力も、知識も比べ物にならない程進歩したのである。

そしてとうとう研究所の扉の前に立った。

扉をノックし、大声でさけぶ。


「お〜い!帰ったぞ!!………いないのか?」


不在なのかな?と首を傾げた時。


「ふぉっ、ふぉっ、ふぉー」


背後から豪快な笑い声が耳をつんざいた。


「ジッ、シジイ!?何で俺の後ろに?」


なんと、ノイドの背後にダラムが立っていた。


「解らぬか?案外鈍感な奴よのぉ…お主を背後からずっと観察しておったのしゃよ!!」

「観察って…まさか最初から!?」

「そのまさかじゃ。しかしノイドよ、中々やるではないか!幾度となく危うい場面があったが見事に切り抜け立派に成長しおった。褒めて使わす!!」

「ふっ…まあ、素直にその称賛は受け取ってやるよ」

「じゃが…ワシの尾行に気付かないのはまだまだ未熟じゃのお。それにじゃ…一度だけ助けに入ったからのお」

「助けに入った?いつ?」

「初日の夜にお主が気絶した後じゃな、意識が戻るまで魔物を追っ払っておったのじゃ」


確かに初日の夜気絶した状態で魔物に襲われる事無く夜を越せるとは考え難かった。


「そっか…その時はありがとうございます。助かりました」

「うむ、しかし最も大きな変化はお主の『魂』じゃ!

ワシには感じるぞ、ゆらゆらと便り無かったお主の魂がこの修行で芯通った。これは何にも勝る進歩じゃ。

しかしまだまだ修行は続くぞ。それも、今回とは比べ物にならん過酷な物じゃ。お主にそれに挑む覚悟はあるか?」

「ああ、もう迷いは無い!とっくに覚悟は出来てるよ!!」


ノイドはダラムの修行を終え大きく進歩した。

しかし!未だ修行は未だ始まったばかり、ノイドの修行はまだまだ続く!!


〜ノイドのステータス〜


レベル→21

神託→『魔術師の神託』

MP→75

スキル→『魔力増加』×74

→『思考加速』×32

→『毒耐性』×11

エクストラスキル→『虫の知らせ』

→『空間接続』


魔法→『フレイム』(消費MP2)

→『ブラスト』(消費MP10)

→『スピリチュアルミスト』(消費MP5)

→『サイクロン』(消費MP12)

→『ヒール』(消費MP3)

→『ポイズンヒール』(消費MP5)































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