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ルーンゴースト 【改稿版】  作者: ゆめあき千路


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034:フェルゴモール中央駅

 シャールーン帝国の心臓と呼ばれる首都『守護聖都フェルゴモール』


 その中央駅は、大陸最古の歴史を誇る巨大ターミナルであり、172階建ての高層ビルは最新技術の粋を結集した巨大指令センターだ。

 その鉄道網は複雑な血管にも似て、大陸全土を駆けめぐる。


 守護聖都フェルゴモールは大都会だ。広大な大陸各地からやってきた多様な人々が行き交い、多量の物資が到着しては各地へと配送されていく。

 中央駅ビルの中には、メイン街道と数えきれぬ(えだ)(みち)でつながれた全長十キロにも及ぶ巨大ショッピングモールがある。


 ルーンゴースト大陸の物産品すべてが揃う、シャールーン帝国最大のマーケットとして有名だ。




 超特急アルタイルは徐行運転になり、巨大なドーム屋根の下へ入っていく。


 屋内へ入ってからも5分ほど走行してから、ゆるゆると停車した。

 ドーム屋根の下には、超特急アルタイルの車体に似たカラフルな理律列車が何十両も並んでいた。

 ルーンゴースト大陸中を巡る特急列車の車両庫だ。


 人気(ひとけ)は無い。


 ユニスは機関車の方に耳を澄ませた。

 扉は開かない。待てども、機関車から車掌らが出てくる気配は無かった。 


「終着駅に到着しても、俺らにかまう気は無いってことだな。いいさ、放っといてもらう方がこっちとしてもありがたい」


 自動では扉が開いてくれないと判断するや、晶斗は乗降口の横にある小さなボックスを開けた。扉を手動で開ける仕組みだ。中のハンドルを右へ倒す。それから開閉口へ手を掛けた。扉はあっさり右へずれた。


 下の地面までは1,5メートルほど。

 ユニスが飛び降りるには少々怖い高さだ。晶斗が先に降りて、ユニスの腕を持って着地をサポートしてくれた。


 晶斗が「あっちだ」と、顎をしゃくった。


 まっすぐ前方の壁の上方、屋根との境目に隙間があって青空が覗いている。

 左の方には中央駅ビルの上部が見えていた。

 ユニスはうなずいた。


「歩いて行ける距離よ」


 車両庫に来たことはないが、中央駅周辺の地理ならよく知っている。


「とりえずあの壁の方まで行ってみようぜ」


 晶斗の先導で十数本の走行路を越え、中央駅ビルの見える窓の下へ到達した。黒いガードグローブを嵌めた左手の甲を壁に向けている。その甲の鱗状の部分がかすかに光った。

 晶斗は小さく舌打ちした。


「がっちりセキュリティシステムが入ってら。もっと強力なセンサーがなけりゃ、解除するとこまで分析できねえな」


 ガードグローブのセンサーでは、セキュリティシステムなどの(しや)(へい)があると、感知(センシング)が難しいという。


「ちょっとやそっとじゃ破れねえ。帝国の車両基地は金庫並みだ。どこかに破れる隙間はないか?」

「ぶっそうな言い方はやめてよ、銀行強盗じゃないんだから」


 ユニスは壁を透視した。


 壁の奥に、一定間隔に複雑な紋様が描かれている。

 外からの侵入を阻むセキュリティ用の守護理紋だ。理紋の効力がその中心から渦巻き状の強い光となって溢れている。光の先端は上下左右に伸びて隣の光と絡まり合うことで、隙間の無い光の網を編み上げている。


「ほんと、金庫並みだわ」


 光の編み目は一目が3センチ四方もない。効力の隙間を通れるのは小さな昆虫くらいだろう。しかも頑丈だ。超特急アルタイルが入ってきた入り口も、今は不可視の光の網で塞がれている。

 うかつに空間移送を試みれば、蝶が蜘蛛の巣に引っかかるように、異空間を移動途中で光の網に捕らわれるだろう。


「無理ね。普通の出口を捜しましょう。どこかにあるはずよ」


 遠くでガヤガヤと人の声がした。

 ユニスは晶斗に引っ張られ、近くの車両の陰へ隠れた。


「あの人達が入ってきた入り口から出ればいいじゃない?」

「堂々と行く気かよ。こういう所は一般人は立ち入り禁止に決まってるだろ。普通の客は車両庫まで乗り越さないし、どこから入ってきたのかくらいは絶対に訊かれるぜ。こいつの状態を、誤解の無いように説明できるか?」


 超特急アルタイルの外観は問題なくきれいだが、降車口から少なくない水が流れ落ち、地面に水溜まりを作っている。

 それに車両の側に居ると異常に寒い。周りの空気が、冷凍庫を開けた時みたいに冷たいのだ。車内にまだまだ大きな氷塊が溶け残っているせいだろう。


「たしかに説明しにくいわ」


 ユニスは晶斗に従い、車両の陰を移動した。


 車両と車両の継ぎ目からこっそり覗けば……。

 おおよそ100メートルほど離れているだろう辺りに、米粒のように小さく蠢く人々がいる。その近くの壁で光が反射した。左右にスライドして開いた。壁ではなく、透明な正方形の出入り口。


「ここの作業員か。……多いな」


 晶斗がユニスの頭の上で呟いた。


「もう始業時間なのね」


 車両庫の仕事は夜明けと共に始まるらしい。

 ユニスと晶斗は、車両の陰に隠れて移動した。

 灰色の制服の作業員達だ。これから仕事が始まれば、こちらへも来る。

 ここにいたら見つかるのは時間の問題だ。


「なかなかセキュリティの厳しい車両基地だ。出入り口はあそこだけらしいな」


 晶斗が通用口を指さした。人の出入りが途切れたので閉まっている。


「あの前に立った瞬間に、誰? と訊かれたら終わりね。せめて空間の隙間でもあれば……」


 通用口が開き、また何人か入ってきた。開放されている時間は、人が通り過ぎて十分に離れるまで。その時間は出入りする人数に比例する。そして閉まりきるまでの速度は一定だ。


 ユニスは閃いた。


「あのドアが開いている間に、あの出入り口に重ねてシェインホールを通すの。閉まるまでに通り抜ければ、守護理紋のセンサーには引っかからないわ!」


 通用口が左右にスライドする。これから入ってくる人がいる。

 ユニスは目の前の空間へ右手をかざした。

 右手を中心に、空間が歪み、渦巻いて、視界に入る景色がグニャリと歪んだ。

 歪んだ風景のすべてが色を失いモノトーンとなる。

 現実とはほんの少し次元のズレた空間『シェインホール』の開通だ!


「走って!」


 2人して、目の前の歪んだ空間に飛び込んだ。


 空気は脈打ち、全身をぬるい微風がなぜていく。

 人の列は途切れず、通用口は開放されている。

 つぎつぎと入ってくる人たちは、仕事を始める活気にあふれている。


 いつもと変わらぬ日常を消化するべく車両庫へきた人々だ。自分達が歩いているその場所を、見えない状態でまっすぐ突っ込んでくる人間がいるなんて夢にも思わないだろう。


 正面から歩いてきた人が、ユニスの体をすり抜けていった。

 晶斗はその現象に気付かない。肉眼では見えないから。晶斗にとってシェインホールにいる間は、薄暗いトンネルに入っているのとおなじ。


 ユニスは外をシェインの透視で『知覚』する。そうやって捉えた人々の存在は陽炎(かげろう)のよう。同一の場所にあれど次元がわずかにズレているから、互いの質量が接触することはない。


 自動ドアまであと数十歩。


 音が止んだ。


 真正面の通用口の向こう側で、作業服の人々が押しのけられて、白い制服の一団が現れた。


 金色の紋章付きの白い制帽、腰に剣を()いた屈強な一隊が、来る!


――あの制服、フェルゴモール守護騎士団!?


 守護聖都の治安維持、そして警察とは異なるがシェイン絡みの事件を管轄する。超特急アルタイルを調べに来たのだろう。


 シェインホールにいるからぶつかる心配は無いが、ユニスはとっさに()けて道を譲ってしまった。状況を知覚していたシェイナーゆえの条件反射だ。


 晶斗に騎士団は見えていない。だが、ユニスが転けそうになったと思ったのか、サッと手を掴んでくれた。


 シェインホールの出口を抜けるまであと数歩。


 通用口の開放に合わせてシェインホールを発動させ、ユニスが行使したシェインの波動を()()()した。

 しかし、訓練されたシェイナーが、異空間をこじ開けた痕跡に気づかないはずがない。ましてやフェルゴモール守護騎士団は、シャールーン帝国でも最精鋭のシェイナーで構成された、シェイナーを取り締まるための治安部隊だ。


 通用口をくぐった瞬間、ユニスは振り返らずにはいられなかった。


――フェルゴモール守護騎士団なら、わたし(シェイナー)に気づかないはずがないと思うけど……。


 彼らはユニスを振り向きもせず、車両庫の奥へ進んでいく。


――まさか、わざとわたしのことを無視していったというの?


 背後で小さくなった通用口が、閉まる。

 と、同時に、ユニスは晶斗と共に異空間のトンネルから出た。

 明るい人工灯。屋内だ。広い通路の両サイドには白いシャッターの列。

 ユニスは左腕を一振りし、シェインホールを消去した。もの珍しそうにキョロつく晶斗の腕をひっつかみ、急ぎ足で歩きだす。


「え? ちょっと待てって。ここはどこだよ?」

「中央駅の地下街よ。あの車両庫から直線で中央駅まで抜けたの。のんびりしている暇はないから!」


 フェルゴモール守護騎士団に気付かれなかったとしても、街中で、それも立ち入り禁止の車両庫でシェインホールを開けたのだ。この場から一刻も早く離れた方が良いくらい、ユニスにだってわかる。


 ユニスは最初に目に付いた細い脇道を曲がった。




 広い通路は地下街の街道だ。枝道は迷路のように果てしなく。


 どんどん歩いて、シェインホールを出た場所からはずいぶん離れた。

 人通りが多くなった。

 朝の通勤時間だ。行き交う人の服装は薄手で軽やかな都会風。砂漠の砂に汚れた武器を携帯する護衛戦闘士や遺跡探索家はいない。


 漂ってくるコーヒーの香り。ユニスの好きな花のお茶の香りも混じっている。


「開いている店で何か食うか?」

「朝ご飯のお店はまだ開いてないのよ」


 シャールーン人が好む暖かで豊富な朝食を出す店はこれから開店だ。


 地下街はとにかく広い。ユニスは地下街の交差点で何度も立ち止まり、掲示してある地下街の地図を確認した。


 さいわい10分ほど歩いたら、いつも買い物に来るエリアにたどり着けた。

 ここまで来ればユニスの庭のようなもの。

 いつもの階段から地上へ出た。


 駅前広場だ。緑の街路樹も、地面に敷き詰められた白と青の幾何学的なモザイク柄も、見慣れているのに妙に懐かしい。


 安心したら、ユニスのお腹がグウッと鳴った。かつてない空腹を感じる。それもそのはず、昨日の朝からまともな食事を取っていない。


 地下街の飲食店街へ戻るのはリスクが高い。

 超特急アルタイルの調査に来たであろうフェルゴモール守護騎士団は、まだ車両庫に居るだろう。

 万が一にも、超特急アルタイルに残っていたユニスのシェインの痕跡を辿って来られたら、逃げられない。


「駅からもう少し離れたらどこかで朝ご飯を食べて、それからわたしの家へ案内するわ」


 考えるのはあとにしよう。何はともあれ、朝ゴハンだ。晶斗だってお腹が減っているはずだ。


「それには賛成だが、その前に、ありゃ誰だ?」

「だ、誰が、どど、どこにいるの!?」


 全身の血の気が引いた。

 なぜ見逃してもらえたなんて思ったのだろう。相手はあのフェルゴモール守護騎士団なのだ。超特急アルタイルからユニスのシェインを検知し、追尾するなど朝飯前に違いない。


「あっちにいるすごい美人が、俺達の方へ手を振っているみたいだぞ?」


 なんとも怪訝そうな晶斗の視線をたどれば、広場の端から陽気な呼び声がした。


「ユーニスー、迎えに来てあげたわよー」


 スレンダーな女性が、右手を大きく振っている。


「ええッ、マユリカ?」


 ユニスは顎が外れるかと思った。


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