エピソード0:時空の狭間、時空嵐
ルーンゴースト大陸共通暦3323年。
シャールーン帝国暦:月の世紀12023年。
ルーンゴースト大陸の南、シャールーン帝国南東の小さな村。
時刻:午後3時。
その日まで、里山は安全だった。
ふもとは子どもたちの遊び場だ。
危険な獣はおらず、空間は国中のどこの村よりも安定している。
何年か前、この村に、非常に優れた能力を持つシェイナーが滞在したという。そのシェイナーが徹底的に村の空間の『掃除』をしていったという言い伝えだ。
だからこの日も元気な女の子たち、五歳になって村に伝わるしきたり通りに師母から理の名を付けてもらい、シェイナーの修行をすることになったマイ・ユーニスとマユ・リカは、二人で遊びに出かけた。
だって、ほんの一時間前までは、うららかな日差しの午後だったから……。
「お空が真っ暗だわ」
山道から外れた野原で、急にマイ・ユーニスは空を見上げた。
「まさか、お空は青いし、雲は白いわ」
マユ・リカはユニスと同じように空を見上げた。
マイ・ユーニスは首をかしげた。
「変ね。わたしには暗く見えるの。まるで雨の日の夜みたい。ほんとに暗くなったら師母様に怒られちゃうから、もう帰ろうか」
夕暮れが迫っている。
お花はたくさん摘めたもの。
二人は野原を引き返した。
とつぜん、地面が崩れた。
穴だ。二人して深い穴へ、転がり落ちた。
さいわい怪我はしなかった。まだ子どもで体重が軽かったのと、穴は斜めに傾斜しており、崩れた土の上は柔らかかったから。
どうしてこんなところに穴が?
のちの調査で、長の年月、入り口を塞いでいた地盤が弱くなっていたとわかるのは、数ヶ月後である。
ともかくも、落ち込んだ穴の中で、マイ・ユーニスとマユ・リカは動けなくなった。
マユ・リカが足が痛いという。
右足をくじいたようだ。
マイ・ユーニスはマユ・リカよりも奥へ転がっていた。
「泣かないで!」と言ったのは、どちらが先か。気がつくと二人とも泣いていた。
「そのうちきっと、誰かが見つけてくれるわ……」
暗闇で、お互い同じ言葉をかけた。
でも……。本当に見つけてくれるだろうか。
大人は仕事で忙しい。
それでなくとも小さな女の子の悲鳴だ。穴の中では反響したが、里にいる大人には聞こえなかっただろう。
――こんなところに深い穴があるなんて、誰も知らないんだわ……。
マイ・ユーニスは身を起こした。
奥の方に、光が見えた気がした。
「マユ、そこで待ってて。あっちに何かあるみたい」
「やだ、マイ・ユーニス、どこにもいかないで!」
直後、奥から銀光が輝いた。
「マユ・リカ、光を見ちゃダメ!」
マイ・ユーニスは叫んだ。
マユ・リカは慌てて目を閉じた。
「こっちに来ちゃダメよ! ぜったいに来ないでッ!」
光。光の洪水だ。
何にもまさる銀色の輝き。
マイ・ユーニスは、穴の奥で銀色のプレートを見つけたのだ。
それが燦然と輝き出した。
マイ・ユーニスが見つけたから?
まるで銀の満月のように輝くプレートを、マイ・ユーニスは光がすっかり消えるまで見つめていた。
やがて光が消え。
謎のプレートも消えて。
それが今後のマイ・ユーニスの運命を大きく変えるきっかけになるとも知らず。