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009:テストその③

 淡い緑の空間に、あざやかに(あか)い小さな竜巻が発生した。渦巻く風が紅く見えるのは、その内側に紅い煙を内包しているからだ。

 小さな竜巻はいきなり、


 ポン、ポポン!


 3つに分裂。すると渦巻いていた風がピタリ、(しず)まった。


 そこには3つの紅煙みたいなかたまりが残った。

 むくむくと風船みたいに膨らんでいく。

 奇妙な3つのかたまりが……いや、頭部が丸くなり、手足が伸びて、あきらかに人体を模した3体が、横並びになる。

 真ん中に立つ一番体格がいいやつが、かすかに揺れた。


「チィッ! ナンダコリャ、コレ以上動カネエゾ。オイ、ナントカシロヨ!」


 さっき聞こえたダミ声だ。壊れた歯車が軋むみたいな喋り方が耳ざわりだった。


 直後、

 キンッ!

 金属を弾いたような、音が響いた。


 紅い3体の上に一筋の銀光。その光は流れ星のように落ちて、銀色の軌跡が空間を裂き、さらに広がった。

 空間の裂け目から、紅色の煙のようなものが大量に漏れ出した。毒々しい深紅はまるで血が流れ出しているようだ。


「なんだ、こりゃ?」


「別の空間の色がにじみ出しているんだわ。誰かがシェインでむりやり空間を繋いでいるの」

 晶斗の手を離さず、ユニスは少し後退りした。


 みるみる周囲は紅く染め変えられた。

 その間に、3体がまた変化した。全身が引き締まる。細部の(おう)(とつ)はとぼしいながらも人間だと判別できるシルエット。

 紅く染まった空間に、すっくと並ぶ紅いのっぺらぼう3人。


「なあ、さっさと行こうぜ。眺めていてもしかたない」


「この人達の後ろへ行きたいけど、空間ごと塞がれちゃってるのよ」


 3人の歪んだ存在そのものが、ここの空間を歪めているのだ。

 どこかに隙間はないか……。ユニスはつい、右足を踏み出した。


「待てっ、前に出るな!」


 晶斗に手で押し止められた。


「オイ、お前ら、ここから出て行けッ」


 真ん中ののっぺらぼうは、晶斗より頭ひとつ分高く、横幅は倍はある。大男だ。紅いから、大紅男(おおべにおとこ)か。その顔の口らしき辺りが、ワクワクと動いている。


「この迷図は、俺たちが先なんだよッ」


 大紅男が、突進してきた!


 晶斗がユニスの手を引き、瞬時に位置を入れ替わる。

 ユニスがあっと思った時には、大紅男は蹴り飛ばされていた。

 真正面から腹を蹴られた大紅男は、吹っ飛んだ!……はずが、デカい図体は、そこの宙に留まっている。

 蹴り飛ばされた瞬間の、身体をくの時に折り曲げたかっこうで。


「ああ、アニキが?」


「アニキ、だいじょうぶで?」


後方に居た2人がバタバタとその場で駆け足をしてから、起き上がらない大紅男の方へかがみこむ。

 紅男3人が一カ所に集まると、その体からさらに濃い紅色が空気中に滲み出して、3人のいる周辺の紅色をいっそう深くした。

 大紅男は両手で腹を押さえ、ウーム、とうめいた。

 晶斗の蹴りは鳩尾へきれいにヒットしたようだ。


「なんだよあいつら。空間の歪みでなんで紅いんだよ?」


「あの人たち、別の地点から移動せずにこちらへ干渉するために、空間を無理やりねじ曲げて繋げたのよ。、すごく怒っているわ。そのせいで空間まで怒りの色に変換されているってとこかしら。シェインを使っているのはそうとう強いシェイナーね」


「シェインの理論はどうでもいいが、逃げたほうがよくないか?」


 晶斗がユニスの手を軽く引っぱった。手はずっとユニスと繋いだままである。


「あら、少しくらいなら離してだいじょうぶよ。わたしたち、シェインでしっかり繋いであるから」


 ユニスは晶斗の手を離し、両手を上げた。


「そこで、相談! 逃げるより良い作戦があるけど、やってみる?」


 ユニスがボソボソと『作戦』を晶斗へ耳打ちしているあいだに、大紅男が鳩尾(みぞおち)を押さえながらやっと上半身を起こした。


「よくも俺様に蹴りを入れてくれやがったな。生意気な野郎だぜ。おい、お前ら何をボケッと見てやがる、いいからやっちまえッ!」


「へいっ!」


 前に出てきた紅男二人の右手に、銀色の小さな棒が出現し、シュルッと倍くらいに伸びた。丸みあるその先端で、バチッ! と青白い火花が弾けた。


「おら、どうだ? ちょっと触れば、全身(しび)れて、一日は動けねえぜ」


「そっちの()っこいねーちゃんも、悪く思うなよ。命まで取る気はねえから、彼氏がやられるのを、おとなしく見ているんだな!」


「えっ、カレシじゃないわよ!?」

 ユニスの言葉を聞く人はいなかった。


 晶斗はユニスを背後に庇い、紅男たちはじりじりと距離を詰めてくる。


麻痺棒(スタンスティツク)か、久しぶりに見るぜ。絶対俺より前へ出るなよ」


 晶斗は声を弾ませていた。危険な武器を向けられているのに、うれしそうだ。


 スタンスティックはシンプルな銀の棒だ。棒の胴部分に刻まれたシェインの効力を持つ『()(もん)』が空気中の静電気を集めて放電し、触れた敵を一時的に麻痺させる。遺跡地帯ではガードナイフの次にポピュラーな武器だ。


「いいわ、お手並み拝見といくわ」


 ユニスはおとなしく後退した。晶斗と違い、危険なことには近寄りたくない。


――わたしならシェインで空間のどこかへぶっ飛ばして片付けるんだけど。


 もし、ユニスがシェインを使おうとすれば、彼らの仲間のシェイナーが出てくるだろう。この場へこの3人をこんなふうに送り込める強力なシェイナーだ。おそらく今も、透視されている。


――いまはわたしと晶斗の出方を見てるんだわ。いったい何者かしら?


「このやろうッ!」


 踏み込んできた紅男の一人が、晶斗に銀の棒を振り下ろした。


 晶斗は最初の攻撃を(かわ)すと、一瞬で紅男二人の間へ踏み込んでいた。

 意表を突かれた襲撃者たちは、とっさに間合いを取ろうとした。

 晶斗は左側にいた紅男の右手首を掴み、足払いをかけてあっさり転がした。


 その隙にもう1人が晶斗の背後に回りこんでいた。激しく火花を散らすスタンスティックを何度も突き出す。


 晶斗はぎりぎりで攻撃を躱した。左足を(じく)に体を回転させ、突っ込んできた紅男の手から銀の棒を蹴り飛ばし、晶斗の蹴りを避けようと頭をのけぞらせたところへ、晶斗の肘撃ちがヒット! 紅男はあっけなく倒れた。


 その間に、先に転がされた方は態勢を立て直していた。が、晶斗へスタンスティックを向けながら、じりじりと後退している。


 その時、こっそり復活していた大紅男が、再び(ほう)(こう)をあげた。


「うおおおおおおーっ!」


 手指を熊手のように曲げ、まっすぐ晶斗に突っ込んでくる。


 大紅男の両手は空を掴んだ。

 すぐさま固められた拳が振られた。

 拳は空を切った。晶斗の頭があった位置で。


 大紅男の図体に似合わない素早さで繰り出されるパンチを、晶斗は軽快なフットワークで避けている。

 一発が晶斗の左頬をかすめた。


「あぶなっ……!?」


 ユニスが息を呑んだ刹那、晶斗が右手で大紅男の左肘を掴んだ。そのまま左横へ踏み込み、ガラ空きの大紅男の左脇腹へ、左拳を叩き込む。負けじと大紅男も反撃するが晶斗へは一発もヒットしない。攻撃も防御も晶斗の方がだんぜん速い。


 他の紅男2人は、先に晶斗にやられたダメージもあってか、自分たちとはレベルの違う大紅男と晶斗の闘いをみまもっている。


「これならだいじょうぶね」


 ユニスは戦闘にくるりと背を向け、元来た方へ走った。


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