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ダスト・ブランド  作者: キチダ
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プロローグ

初めてです。お願いします。


 『Bar-TSURU』の店主、ツル・ババライは今日もせっせと仕事に取り組む。

 気がつけば、もう50半ば。この店をはじめてもう30年以上も経った。

 未婚で子供はいないが、そのかわり友人や知り合いはたくさんできた。変な連中ばかりだが、笑顔の絶えない日々が続いていてる。特別な出会いがなくとも、おもしろい人生は送れるものだとしみじみと感じていた。

 

 今はまだ昼時———

 夜には常連の客がたくさん来てくれるので、その準備の最中である。

 酒のグラスを一つずつ丁寧に拭き続けて、その作業が終えると、ドアの鐘がカランコロンと音がした


 「ツルさ~ん、ただいま戻りました~!。今日はスッゴイ野菜が安かったわ~!」

 「そうかい、そりゃよかったね。ハナコ、そろそろ椅子を全部おろしておいてくれ」

 このハナコという助手は大柄な()()で、この店のマスコット的存在だ。ツルにとってもありがたい働き手で、『Bar-TSURU』はこの二人で営んでいる。 ちなみにハナコの趣味は気に入った男性の体をなめるような視線を送り、()()()()()()()を徹底している。

 

 「そういえば、今日から同居人が来るんでしたっけ?ワタシ楽しみだわ~。かわいい子だったら、どうしましょう~!!」

 「楽しみなもんか。またアタシが貧乏クジを引いただけじゃないか。まったく……」


 一本のタバコに火をつけて、たくさんの愚痴のかわりに吸い込んだ煙を吐き出した。

 今までツルは一人の居候をこの店で面倒をみたことが二度ある。店を出て自立した二人は、その後この国『ラカイム』で有力な人物に成り上がっていった。そんな彼らを育て上げたツルは、常連の客の間で噂となり、よくわからない雑誌にも取り上げられて、「名伯楽」だとなんだと、もてはやされた時期があった。

 多くの人にチヤホヤされることを好まないツルは、当分はこの類の依頼は断わってやろうと思っていたところだ。

 しかし数か月前、ツルのもとにこんな手紙が送られてきた。


 ツルさんへ


 『突然ですまないんだが、オレんとこのガキを一人預かってほしい。この前一度、店に連れてきた小さい子だ。無愛想でちっともかわいくないヤツなんだが、一人にさせることは絶対にしたくねぇんだ。オレが面倒みきれないワケは後々わかると思うが、アンタの腕で一人前の男にしておくれよ。子供は嫌いだと言ってたが、優しいアンタだ。絶対引き取ってくれると信じている。んじゃ、頼んだぜ』



 この手紙が届いた数日後に、送り主のライデン・バウルが急な病で亡くなったときかされた。

 ライデンは旅好きな老人で知られており、この店に来るたびにたくさんの土産をみんなにみせていた。ツルは彼から外国のめずらしい酒を貰ったことがいくつかある。

 酒を飲んでも飲まなくても変わらない性格で、みんなからよく愛された人だった。

 彼の死を訊かされたときには誰もが言葉を失った。

 

 店の看板を「CLOSE」から「OPEN」に変えたとき、一人の少年がやってきた。

 灰色の髪に、むすっとした表情。いかにも人見知りで、愛想が悪そうな少年である。

 その顔を見たツルは、やはり子供というものは面倒で仕方がないものだと、あらためて感じていた———。

 






 

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