終わらせるための
「恋愛と結婚は違う。恋はいつか終わる。結婚するなら、信頼できる人がいい。俺は最近そう思う」
なんて、20歳の分際で言う、目の前の人が私の好きな人。ただの私の片思い。二人きりの研究室。彼はいつものようにコーヒーをすすっている。
彼の前で、私は、”絶大な信頼を誇る友人”として振る舞う。そして、彼からも”絶大な信頼を寄せる友人”と思われている。
出会ったのが学生時代でなかったら、もしかしたら彼は付き合ってくれたかもしれない。
”結婚するなら信頼できる人がいい。”
彼の言葉が本当なら。
彼を好きになったのは3年も前。私は着実に友人として彼と共に行動し、恋人枠を狙っていたはずだった。彼の一番の女友達でいようと思っていたし、そこから始まる恋愛もあると思っていた。
でも彼は違った。彼は、彼よりも10センチ以上小柄な可愛い女の子のことが好きで、付き合った。彼から絶大な信頼を置かれた私は、度々彼の相談相手になった。
「やっぱお前、信頼できるわ」
私が欲しいのは”信頼”じゃない。君の”恋心”が欲しかった。
せめて幸せであれ、そう思ったのに。
そのあと振られて泣く彼に、付け入ることもできなかった。
私は弱い。彼に引かれるのが怖くて、自分から友人の枠を飛び越えようともしなかった。
この恋を終わらせる。とっくに賞味期限が切れた恋。食べたらお腹を壊すかもしれない。でも、私は迷わず口にする。長すぎたこの恋を終わらせるために。彼の信頼を裏切るために。
「話したいことがあるから、また聞いてほしい」
メールに文字を打ち込んで、ため息をついた。一息置いて、送信ボタンをおす。
彼は少しでも、私のことを考えてくれるだろうか。気になってそわそわしてくれるだろうか。
戦わなかった私には、そう思ってくれるだけでもう十分幸せなことだ。”恋はいつか終わる”のだから。