エピローグ:悪役令嬢にしてください
レベッカの婚約は正式に解消されたようだ。おっちゃんとしてもまあ損はない話として済んだようで何よりだって話をした。
「さあニナ様。新しい衣装をご用意しましたがいかがでしょうか」
正体を明かしたことにより、ニナたちにもアイドル衣装の提供なんかも始めたようだ。
「でもさー本当にタダでいいの? いや、こっちも路銀に余裕があるわけじゃないから助かるけどさ」
「大丈夫ですわ。ニナ様たちが着たのと同じタイプの衣装をまた別口で売るための先行投資です。ニナ様たちはワタクシたちの作った衣装で、盛大にアイドルを続けてくださればと」
なるほど、そうやって利益を出す算段か。あの勇者が着た衣装! という最強の宣伝文句。
「素晴らしいですわ! 全世界にニナ様の栄光が目に見える形で広まるのですわね!」
クリスも相変わらずだなぁ。
「こ、これ、ちょっと露出が激しくありませんか」
ニナは及び腰だが、興味の視線は外さなかった。
※※※
レベッカもまたアイドルの一人であること。これが、本来の商会の仕事に影響が無いかも心配されたが概ね問題はなさそうだ。
「レベッカ様! いつも応援しています!」
「ありがとうございます」
道すがら声をかけられることも多く、つまり顔と名前を覚えてもらう機会が増えたという。
「レベッカ様に声をかけていただけるのなら! もう! ええ! タダでもいくらでも持っていってやってください!」
「シャイナンダーク商会の名前を覚えてくださるのはありがたいのですが、アイドルのことは忘れてくださると幸いです。奥様も見ていますわよ」
まあ、売れすぎるのも考えものだと苦笑しているが。
※※※
「リュートさん」
正体を隠す必要もなくなったため隠れ家も必要ないんだが、何となくレベッカに呼ばれて話をする。まあ、プロデュースのこととか話すことがないわけではないんだが。
「本当にありがとうございました。リュートさんのおかげで、ワタクシは、人生での一つの選択を間違えずに済んだと思います」
「なんかスケールのでかいことを言われた」
ふふ、とレベッカが笑いかける。
「そういえば、忘れていましたが」
「ん?」
「あの時、一番最初に、ワタクシに声をかけたのは、リュートさん、でよろしいのですわね」
あー……それか。
「いや、うん。自然に発生したもんじゃないと意味がないんじゃないかとは思ったけど……」
「ああ、いえ。別に責めるつもりは」
「ただ、その役目を譲るのはちょいとばかり……うん。一番最初にレベッカを見出したのは俺だぞ、とかそんな風に思ったらつい出ちゃったというか」
アンコールに関してはそういう文化がないから促した面があるんだけど。最初の方の声は、うん。言ってしまえば独占欲だ。プロデューサーとしてというかプロとしてあるまじきことと思うが、許してほしい。
あの、レベッカ。何か言ってほしいんだが。
「ねえ、リュートさん。リュートさんには好きな人はいらっしゃいますか?」
「はい!?」
思わず驚きが口に出た。
いや、レベッカが冗談めいた口調で言っているのがわかるんだが、その、何だ……?
「ニナ様かディーヴェルシア様、でしょうか。もしもリュートさんが主人公の物語があるのだとしたら、ヒロインとなる方は」
すっと、頬に手を伸ばしてくるレベッカ。
「それはそれで微笑ましいと見守る心境であったのですけれど、イヤですわ。こんな、物語に出てくる悪役令嬢のような心地にさせるだなんて、ひどいお方」
「レべッ……カ?」
思わず手を伸ばすと、レベッカはその手から逃れる。
「冗談ですわ」
何だ、冗談か、とほっとしたような、残念なような?
「今は、ね」
片目を閉じて悪戯に微笑むレベッカは俺を弄んでいるようで、アイドルに戻ってよかったなとプロデューサー冥利に尽きた。
うん。そういうことにしておこう。
まだまだアイドルプロデュースは続いていくんだろうとは思いますがこのあたりでいったん区切りとさせていただきます
こんなところまでお読みいただきありがとうございました!




