シャイナンダーク商会に栄光あれ
タイトルの言葉を入れ忘れたことに今さら気づく痛恨のミス
ライブが終わった後、青狸様がワタクシたちのもとに来て、ワタクシを連れてくるように依頼された、と言いました。
『まあ悪いようにはならんと思うよ』
と、自らのお立場もあるでしょうに気遣っていただきました。そこまでされて逃げているわけにもいかないでしょう。ワタクシは実家に戻ることとなりました。
実家にはお父様やお母様たち親族だけでなく、支店を任せられている上役、そして何よりシャイナンダーク商会の長であり、ワタクシも数度しか面通ししたことのないお爺さまの姿がありました。
「レベッカ。レベッカ・シャイナンダーク。問おう。今回の家出について、少なからぬ損失は出た。それをおいてもなお、利をもたらすことができると判断したのか」
レベッカ・シャイナンダーク。ワタクシはいまだ、この家から断絶されてはいない。そのことが、恐ろしく、そして喜ばしい。
ワタクシは今まで商会に隠していた活動を述べました。アイドルという存在を。それを支援するために仮面を被り、自らもまた暗躍したこと。
利益。ディーヴェルシア様やニナ様たちと深くコネクションを得たこと。名前を出すのは失礼ではないかとも思いましたが、あとでそれについては謝りましょう。全てが終わった後で。
「ふむ……」
お爺さまは深く唸り、沈黙が下ります。
「……天晴である」
そして言い放たれた言葉に、ワタクシは一瞬、呆けてしまいました。
「いや、そうでなくてはいけない。ふむ、なるほど。孫娘のワガママとして、結婚はイヤだと言われれば聞くつもりではおったよ。じゃが、それに甘んじず、自らの価値を高め、それを跳ね除けることを選ぶとは……うむ。天晴である。ワシの若いころを思い出す」
「いや一緒にしてやんなよ」
「何じゃ青狸。ワシが若いころに世話をしてやった恩を忘れたのか」
そうして、お爺さまは自分の若いころの話をしてくださいました。
何でも、お爺さまは若いころ自らの身体を資本として商人兼冒険者、をしていたらしく。たびたび商売で損失を出してはその補填を自らの身体で補っていたそうです。売り物となる素材を自ら狩り、資金が尽きたとなればドラゴン退治でも何でも買って出て、商隊の輸送の護衛には自らがついて経費を節約して。
そうして自らの商才を磨いていき、シャイナンダーク商会を大きくしていったとか。
青狸様との付き合いももその時の縁で、今回の縁談をまとめた経緯も、シャイナンダーク商会は青狸様の弱みを握っているから、というのが大きいとか。
「で、でもお義父さま、レベッカも女の子なんですよ? 商才があるといっても、いつまでも売れ残ってしまったらと心配で心配で……」
「お母さま……」
お母さまの考えは薄々わかっていましたが。お母さまは貴族の家から政略結婚で嫁いできた経緯で、今回の縁談についてワタクシとは最初から温度差がありました。娘としてお母さまに心配をかけたくない、という感情も確かにあるのですが……。
「うーむ、じゃがな、そう心配せんでもいいと思うぞ」
「どういうことですか?」
「いくらアイドルというものに商機を見出したとしても、家出をしてまで付き合う気概は中々持てはすまい。とするなら……まあ、原因は十中八九意中の男じゃろう」
「「「なっ!?」」」
まさかと青狸様を見ますが、彼も驚いているようで首を横に振ります。
「ほう、その反応は当たりか。うむ、よいな! 意識してかしてないかは知らんが、より良き方向へと導くパートナーであればそれは最上だ。会ったこともないが、中々に好印象だぞ」
「レベッカ…………誰なんだそれは。ちょっと父も興味が湧いた。今度、連れてきなさい」
お父さま……あの、顔がこわばっていますよ?
「……後はそうじゃな。アイドルというものは、よくわからんが。こうして婚約解消を申し出た以上は男女の付き合いが支障を来すのじゃろう。で、よいのか? お主が満足するまで待っていてくれるような相手なのか」
「それは…………はい」
あの方は、誰よりもアイドルという存在を知っていますから。それに、こうしてアイドルをしているのは皆さん同じで、有利も不利もないでしょうし。
「そうか。レベッカ個人のことも、アイドルというものについても話を聞きたいところではあるが……」
お爺さまは少し考えて、笑顔を浮かべます。
「今、ともに祝杯を挙げたいのは、ワシらとではあるまい」
「……ぁ」
浮かんでしまったのは、きっと、ワタクシがどうなったかヤキモキしながら待っている皆様。ディーヴェルシア様。ヘル様。トリッシュ様。クリス様。ゴブゾウ様……それに、リュートさん。
「少し、寂しいがな」
お爺さまと抱擁を済ませて、ワタクシは早足を抑えられず駆けていきました。




