幕間:レベッカくんの答え
レベッカ視点です
話が終わってから、なぜかワタクシは一人、秘密裏に青狸様に呼び止められ、二人きりで話をすることになりました。
「まあ話ってのは他でもない。リュートが答えてはいたが、オレが本当に聞きたいのはレベッカお嬢さん、あんたの答えだったんだ」
やはりそうでしたか。
「まあおっちゃんとしても、あの答えは中々に気持ちがよかったから、それに免じて答えなくても別に構わんとは言っておくが」
しかし、それではあまりにも礼を欠いています。青狸様に対してもそうですが、リュートさんに対しても。
青狸様がリュートさんに対して敬意を払うというのに、その想いを向けられた先のワタクシがそれに甘んじては片手落ちというものでしょう……いえ、これもまた違う。
ふさわしい言葉を選ぶなら、それだと悔しいから、でしょうか。
「はっきりしたものがワタクシの心の中にあったわけではないのです」
これは、誰にも語らなかったワタクシの胸の内。まあ、嘘を吐いたわけではないのですが必要不可欠でないのをいいことに隠していたことは事実ですわね。
「ただ、婚約の話を両親から聞いた時、ワタクシの頭に……リュートさんの顔が過ったのです」
とはいえ、それが婚約の話を撥ねつけた理由というには乏しく、事実、ディーヴェルシア様たちにも語った理由というのが真実なのですが。
「だがまあそこら辺の余計なもんを取っ払って考えてみりゃあ、どう思ってるのか答えは見えてくるってもんだろう」
「さて、それはどうでしょうか。今となっては、ね」
だって、もう遅いのですもの。
『それじゃあ、レベッカの価値を認めさせたことにならない』
『おっちゃんが並べ立てたメリットとやらにレベッカだからってのは入ってるのか? レベッカの魅力ってやつを本当に見てるのか?』
口説いているわけではないとわかってはいますが、ゆえに真っすぐすぎる言葉はワタクシの胸を穿ち過ぎて……。
けれど、ワタクシだけでその答えにたどり着いたとはとても言えなくて……もしもリュートさんの言葉がなかったら、ワタクシは
「まあいいんじゃないかね。そんなもんで」
しかし、青狸様は気楽に言ってのけます。
「いいじゃねえか。自分が間違いそうになった時、それを立ち止まって考えさせてくれる存在ってんで。そんなもんだよ。そんなもんだ」
「それは経験談ですか?」
「さあねぇ。おっちゃんはね。小難しいことはようわからんのよ。ただまあ、お嬢さんがおっちゃんと結婚なんてゴメンだっていう単純な感情がほしかっただけ」
なるほど、青狸様の求めた答えというのはそういうことだったのですね。
「お嬢さんの腹も決まっただろう。これでお互い、心残りなくきっぱりと断れる」
「そうですわね」
このような形で意見の一致をみるというのもなんだかおかしな話ではありますが、ワタクシたちの、少なくとも当人同士の意思で婚約関係は終わりを迎えるのでした。




