エピローグ:番狂わせは起こらない
ニナたちと別れ、俺はというとおっちゃんと二人並んで歩いていた。
「おっちゃんもぼちぼち帰らんといかんからね。これ以上離れてるといい加減、おっちゃんを忘れて新体制でよろしくやっちまわあな」
「それは一大事だな」
「いやー本当にな。オレ嫁が五人いるんだけどな。ちょっとした小競り合いの筈が指揮官が無能晒して死んだせいで泥沼化してな。オレが指揮とることになったりしてんだよこれが。オレぁヴェートリッヒかと。それで五年くらい経って嫁の元に帰ってきたら『誰だテメエはいきなり現れて好き勝手言ってんじゃねえぞ』ってこんな小せえガキが立ちはだかってくるわけだ。で、誰? って聞いたらオレが旅立つ前に仕込んだ子供が生まれて大きくなったって。それで未だに父親だと思われてねえんだなこれが。だから定期的に嫁の元に帰るようにしててだな……」
「どこからツッコんだらいいんだそれは」
誰だよヴェートリッヒ。
「そいじゃまあ……」
おっちゃんは手を差し出して、止まった。何だ?
「また会おうって言うとだな。戦場で敵として会うことになったなんてなぁザラでな」
「ハハハ……笑えねえな」
「くっハッハッハ」
結局曖昧にしたまま、俺たちはただ固く握手を交わした。
それにしてもディーヴェルシア・コンキスティドール、ね…………まさかたあ思うが、ちょいとばかり調べてみるか。
※※※
こっそりと迷宮に侵入したつもりだったが、すぐに気付かれてどたばたと魔物たちがわらわらと立ちはだかった。
「おいおいおい何だよ。今、ちょいばかり敗走したばっかでな気が立ってんだ……てリュート!?」
早めにゴブゾウと会えてよかった。
「りゅヴとざああん! ぼんどによがっだああ!!」
ヘルさん……泣き止んで。アイドルがしちゃいけない顔になってるから。
「けどリュート、お前、ホントに良かったのか?」
ゴブゾウが小声で尋ねてくる。
「何がだ?」
「ま、お前がそれでいいんなら歓迎するがな」
ゴブゾウと笑い合う。
「リュート!!」
そしてディーヴェルシアまでわざわざ息を切らして足を運んできた。
「あの、その……」
何度か言葉を選ぶようにして、やがて絞り出すように
「……お帰り」
ぶっきらぼうに言った。
「ああ、ただいま」




