勇者パーティのアイドルデビュー
いつの間にやら十万字
ニナ、クリス、トリッシュ。三人のデビューの準備は着々と進みつつあった。
おっちゃんが俺の要望に合わせて服飾を手掛ける。
「しかしおっちゃんホントに何でも出来るんだな」
「そうでもあるが、そうでもないな。何だかんだでファッションってのは技術だけじゃどうにもならんとこが肝心だし。やっぱりオレじゃあ専門外だ」
そうか、そうだな。レベッカはその辺り情熱を持って仕事をしてくれたからな。おっちゃんに文句は付けられるわけはないが……そうだな。レベッカをこの勇者パーティに紹介できるような場面が訪れればと少し惜しんだ。
「やっほー! リュートぉ似合うー?」
着替え終わって最初に現れたのはトリッシュだ。明るい青と赤を基調とした衣装。腋とへそを露出して、足元はスパッツでいやらしさよりも健康的な色気が醸し出される。
いつものポニーテールには白くて大きめのリボンが結ばれて、表情豊かなトリッシュの魅力を引き立てている。
「トリッシュさん! もう……」
次に現れたのはクリス。シックな薄い青を基調としたロングドレス。胸元を開け、動きやすいように入っている切れ込みから覗く白い脚は、女性のセクシーさを真っ直ぐに映し出している。
「ど、どうで、しょうか、リュートさん」
「おう、似合ってるぞニナ」
「そう、ですか……?」
おずおずと最後に現れたのはニナだ。白のブレザー調のミニスカート衣装。そこにいるだけで場が華やかになるような、正統派のアイドル。
この三人。それぞれが違う方向性で補い合い、支え合う理想的なメンバー構成。
イケる。この三人を前にして、胸にドンドンとこみ上げてくるプロデューサー魂とでもいうべき情熱。
『こおらぁああああああ!! 勇者どもおおおお!! でぇてきなさああああああいい!!!』
心機一転、さあ練習を始めようとしたところで、いきなり大声が降ってくる。
この声は……
「ディーヴェルシア・コンキスティドール……」
ニナが呟く。
「へえ、これが相手の親玉かい。なかなかに可愛らしい声をしてるじゃあないか」
「呑気なこと言ってる場合じゃないってば団長!」
「……想定よりも随分と早いと思いますが。青狸様、攪乱はあなたのお仕事でしたわよね?」
「ん? ああそうだね。そいつは悪かった。これは確かにおっちゃんの手抜かりだね」
クリスの詰問に対し、おっちゃんはしれっと俺の顔も見ずに言い放つ。
辺りはざわざわとにわかに騒がしくなっている。そりゃそうだ。ディーヴェルシアが何をしでかしているのかは分からんが、迷宮の外にダンジョンマスターが打って出てるとくれば気が気でないだろう。
『何!? 出てこないの!? わらわがこうして出向いてやってるっていうのに、そういう態度取るの? ふーん、勇者のくせに? へえ』
「誰の入り知恵かは知らんが中々に痛いところを突いてくるな敵の大将は」
ディーヴェルシアの今の状況は長期戦に向かない。ニナとしては隠れているだけで勝ちではあるが、それは出来ないのだ。勇者だから。人類の旗印たる勇者が、ダンジョンマスターの軍勢に対して逃げたりすればそれは人類全体の士気に影響する。
とはいえ。一度敗走した相手に対し、また負けるようなことがあれば……その想像はニナたち自身の意志を挫く。
「行きましょう」
それでも、ニナの決断は早かった。クリスとトリッシュも力強く頷いた。
「クハハ、もう少し迷うと思ってたんだがね」
「そう、ですな。確かにそうだったかもしれません。以前のわたしたちなら」
おっちゃんの笑いに、ニナたち三人は何故か俺の方をちらりと見た。
「いいね。パーティってのはだな。『こいつらさえいれば世界を敵に回したってどうにかなる』ってな無敵感が何よりも重要だ。最初に見た時はどうなることかと思ってたが、何だ。こんなに立派なパーティになるたあ思わなかったよ正直……頑張んな、お嬢さんたち」
「はい、ありがとうございます。青狸さん」
おっちゃんに深くお辞儀をしたニナは、俺の方に向き直る。
「リュートさん……」
「何だ?」
「……リュートさんに応援してほしい、とは言えません」
ニナにそれを言われたら困るな、と自分でも思っていて、それをニナの方から言わせてしまったことに申し訳なく思った。
「だから、せめて見守っていてください。わたしたちを」
「分かった」
にこり、とニナは微笑みだけを残し、戦場へと向かう。
ニナとディーヴェルシア。その決戦の第二幕が今、開かれようとしていた。




