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ダンジョンマスター、アイドル始めました  作者: 山崎世界
第二章:勇者パーティアイドル始めます
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ニナ・セイクリッドは勇者である

 ニナは一体何をしているかというと、とりあえず出来るだけ人目に慣れることから始めればいいということで特に目的もなく辺りをぶらぶらしている。


 果たしてこれで効果があるのか……というと疑問。大いに疑問。というわけでちょっと冒険してみよう。


「何がというわけなんでしょう……」


 はい、俺たちは今、冒険者御用達の鍛冶屋……ではなく婦女子御用達のおしゃれな服屋に来ている。


「まあまあまあ! とてもよくお似合いですわ勇者さま」


「うぅ……」


 店員に薦められるままにあれやこれやと試着を繰り返している。露出度の高い真っ赤なドレスや、ジャケットを羽織ったパンツスタイル、腰元にリボンがあしらわれた素朴な衣装など、なるほど。どれもよく似合っていて、中々やるものだと感心する。


「どうです? 良く似合いますよねェ?」


 店員がこちらにも話を振ってきた。


「ん、うん。そうだな」


 今着ているのは、白いワンピースだった。純真で清楚なニナのイメージに、最もよく似合っているのではないかと思う。


「うぅ……」


 落ち着かない様子で、ニナは身体を縮こませて、麦わら帽子を被った。それもまた似合ってるかな?


 そうしてそのまま、足早に店を後にする。


「はっ、着替えるの忘れてました」


「あっはっは、おっちょこちょいだな、まあそんなことしようとすれば俺が止めてたけどな!」


 観念したのか、帽子を目深に被って歩き始めた。


 こうしてると、勇者って誰も気づかないかもな。ニナの一番の特徴って言えば瞳の中の十字紋様だし。


「何だか、懐かしいです……」


 ぽつりと、ニナが呟く。


「昔は、こうして誰に憚ることも無く出歩いていたはずなんですが。でも……勇者として旅立って、しっかりしなきゃって」


 ニナが人一倍緊張していたのは、慣れもあるだろうが、それ以上に責任感が強すぎるからだ。勇者らしい振る舞いをしなければって頑張って来たから、自分の行動一つ一つにびくついてしまう。


 気にすることは無いと思う。ニナは誰が何と言おうと勇者で、その軌跡は誰が何と言おうと立派だ。ニナが勇者でなくたって、支えてくれる人間だっている。


 それを言うのは簡単だがやはり難しい。ニナが勇者であろうとする覚悟も、ニナの魅力の一つだからだ。だから、外野からその覚悟に水を掛けるのもまた、よくない。


 さて、どうしたものだろうか……と、考えているとニナは立ち止まった。


「どうしたんだ?」


「……あの子が」


 ニナの視線の先を見る。すると、そこには泣いている小さな女の子がいた。周りには、誰も居ないな。


「どうかしましたか?」


 ニナはゆっくり屈んで、少女と目線を合わせる。


「おかあ、さん、と……はぐれちゃった」


「そう、なんですか……」


 ニナは俺の方を振り返り、俺も頷いた。


「一緒に探すのを手伝います。だから、泣きやんでください」


「ほんとう!?」


 少女は顔を上げて、ようやっとニナの目を見て、そして驚いた。


「ゆうしゃさま」


「はい、勇者さまです」


「ゆうしゃさまー!」


 ニナが微笑んで、抱きついてきた小さな身体をニナは穏やかに抱き締めた。


 話をよく聞いてみれば、この子はどうやら迷子になってから色々動いてしまったらしい。そのため、ここで待っていても見つからない公算も高い。


「……」


 ニナはこくりと一つ、覚悟を決めるように頷いて、麦わら帽子を脱いだ。


「わたしは、顔がよく知れていますからわたしが迷子の女の子と一緒にいる噂が広がるのは早いと思うんです」


「いいのか?」


「はい」


 迷わない。何だかんだで、ニナは強い子なのだ。


「こんにちは」


「おお、勇者さま。そちらの女の子は?」


「迷子の子供みたいで、今、この子の親を探しているんです。見つかったら、どうか」


「おお、それはそれは」


 それから、積極的に町の人たちに話しかけたりもした。


「うぅ~あーうー」


 俺とニナの間に挟まる形で女の子が両手で俺たちに掴まり、やがて緊張もほぐれたのかあるいは不安をかき消そうとしているのか歌を歌い始めた。


「~~♪」


 そして、ニナが女の子と笑いながら……歌を合わせた。


 その歌声は、優しくて温かい……自然なメロディだった。そうか、これがニナの本来の音色……。


 それからしばらくして、町人に急かされるようにして一人の女性が俺たちの前に立った。


「おかあさん!」


「レイナ!」


 レイナちゃん、はどうやらお母さんと会えたようだった。母親はしきりに俺たちに会釈をし、レイナちゃんもばいばい、と姿が見えなくなるまで力いっぱい手を振っていた。


「……歌えてたんだ。さっき」


 余韻が消え去る直前に、俺は忘れないようにと告げる。


「そう、なんですね……」


 ニナは、驚いた顔をして、胸に手を当てた。


「わたし、何だかつかめた様な気がします。自分が、どうすればいいのか」



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