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ダンジョンマスター、アイドル始めました  作者: 山崎世界
第二章:勇者パーティアイドル始めます
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傭兵団長の答え

勇者と魔族の戦いについて人間視点からのお話

ディーヴェルシアのやろうとしてることが割ととんでもないことだったんだなと思っていただければ幸いです(言い訳)

 翌日、おっちゃんが何食わぬ顔で俺達……ていう言い方も変か。勇者パーティの前に姿を現した。


 団員のトリッシュが迷惑をかけた手前のアフターケア、という名目で知恵を貸すという。


「ふむふむ。なるほどね。まさか勇者のお嬢さんを正面から負かす相手が現れるたあ思わなかったが」


「ニナ様は敗北したわけではありませんわ」


「あーはいはいそういう気概は実にいいと思うよおっちゃんは。うん」


 睨みつけられながらも意に介さず、歴戦の傭兵団長は言葉を紡ぐ。


「恐らくだがそいつはダンジョンマスター固有のリーダースキルだよ」


「リーダースキルって?」


 口を挟んだ全員が驚いたように俺を見てくる。仕方ないじゃんか何も聞かされてないんだから。


 というわけで……リーダースキル。


 集団の長に就くことで発現する特殊スキル。その効能は様々だが、その集団の母数が多ければ多いほど効果を増すものが多いのがその特徴。


 たとえば赤枝の傭兵団団長エドモンド・ドラクリウス。おっちゃんが団長になった暁に発現したのは『四次元よじげん包決闘ポケット』。団員の持つアイテム、武装などを任意のタイミングで取り寄せることが出来る。このスキルにより、たとえおっちゃんが単独で戦う状況であったとしても、物量の面で傭兵団の団員全員を相手にするに等しいことになる。


 そして、ニナの持つ、剣を振るうことで自らに有利な戦場に仕立て上げる『奇跡』も、このリーダースキルに該当する。これがどういうことかというと、これが影響するのはニナ単独ではなくニナが味方とした者全員に影響を及ぼすということ。味方には祝福を、敵対する者には試練を。それがこのスキルの本質だという。


「それで、それがあのダンジョンマスターに効かなかったことにどう関係するのさ」


「そりゃ効かんだろう。何せ、敵じゃないんだから・・・・・・・・・


 考え込みながらも、おっちゃんは結論を導き出した。


「敵ではない、とはどういうことですか」


「そのダンジョン内での状況はよく分からん。だが、そのダンジョンマスターが持っている力が、恐らくダンジョン内での自らの支持者から力を巻き上げる類のものだとすると辻褄が合う。その勢力の中に……人間、しかも冒険者だな。が紛れ込んでる。だからこそ、勇者の力が働かないんだ。勇者ってのは、人間を守護する者だからな。だろう? 勇者のお嬢さん」


「ふ……ふざけないでくださいまし!」


 三人が衝撃を受けている中で、クリスがいち早く立ち直り、おっちゃんに詰め寄る。


「ニナ様に向かって、冒険者が、傅くべき者達が反旗を翻しているとでも言いますの!? そんなこと、許されませんわ!!」


「理想論だね。確かにそうやって一つにまとまりゃ苦労はないが、そうはならんのが人の世だよ」


 あくまで冷静に、戦闘のプロとして、傭兵団長エドモンド・ドラクリウスは目の前の事柄に対峙している。


「まあでもだ。方法がないわけじゃないんだ勇者のお嬢さん。お嬢さんに覚悟があればの話だがね」


「覚悟? 一体何の?」


「魔の味方をする人間たちを切り捨てる覚悟だよ」


 その声は温かくもなくさりろて冷たくもなく。どこにでも転がっている平温で、突き付けられる。


「勇者の力っていうのは、だ。正義を定める力だ。この世界に必要なモノ、不要なモノ、それらを選別し、正義を語る。それこそが勇者の力の本質だよ。まあお嬢さんは……理不尽に屈しない優しさを。残酷を退ける抱擁を。真っ当な人間なら当然持ち合わせるべき倫理観で今まで戦ってたんだろうさ。

 けどそれじゃあ足りないんだ。いいんだよ。勇者ってのは傲慢で然るべきだ。自分の気に入らねえ奴らは排除したって誰も文句は言わん。正義の味方じゃない。勇者こそが正義なのさ。まさか、こんなことを今さら言うことになるたあ思わなかったがね」


「団長……何、言ってるの?」


「何って、傭兵としての仕事だが? オレはあいにく勇者様じゃない。どこまでも現実的な方策しか持ち合わせが無い。世界を変えることなんざできはしない。その上で言っている。オレが間違っているというなら、まあそれはそうなんだろう。勇者にはそれを否定する権利がある。どうだ? 勇者のお嬢さん。いや、ニナ・セイクリッド」


「わた、しは……」


「……どうしてもって言うなら、そうだね。オレたちが代わりにあのダンジョンに出入りする冒険者たちを排除してやってもいい。報酬も要らない」


「どうやって、ですか」


 ニナは踏ん張っている。ニナも、勇者としてこの傭兵団の長に向き合っている。


「自分が殺されそうになっても、味方を続けるってのは無理があるんだ。そこまで深いつながりだとも思わんしな。そうだね……三割も殺めれば十分か。後は勝手に逃げ帰って、あのダンジョンに出入りしようなんて輩はいなくなるだろうさ」


 勇者の手を汚さず、見ないフリをすればそれで済む。


 そんな、逃げ道まで用意した。


 けど……そんなことをすれば、勇者は、どうしたって、ニナの心は壊れてしまう。


 勇者パーティは一体どうすればいいのか。道は示されても未だ混迷の中にいた。



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