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ダンジョンマスター、アイドル始めました  作者: 山崎世界
第二章:勇者パーティアイドル始めます
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トリッシュ・スターライト脱退

ニナ視点で勇者パーティの現状を

今のところ上手くいってません

 わたしたちはダンジョンの近くにある宿屋に部屋を取り、再び出陣するための準備を整えていました。


 今日も、わたしの部屋に集まって作戦会議を始めます。


「さーて、それじゃああのダンジョンマスターへの対策を考えよっか」


 明るく言葉を放とうとするトリッシュさんも、心なしか無理をしているようで。


「対策? 対策など必要ありませんわ。ニナ様が敗れたのは何かの間違いです。もう一度正面からぶつかり合えば今度こそ勝機は……」


 大声を上げて気勢を上げるクリスさんを、しかしトリッシュさんは冷めた目で見つめています。


「ふーん、じゃあ何? この前負けたのはニナ様のせいじゃなくってそのお供であるボク達のせいってわけ? なるほど。それはそうかもね」


「っ!」


 クリスさんは苦々しく唇を噛み締め、そして口を閉じました。


 クリスさんも分かっているのです。ディーヴェルシア・コンキスティドール。あのダンジョンマスターの持っている力は計り知れない。


 クリスさんがわたしを信じてくれている通りに、わたしが強ければ、こうして険悪にならないで済んだはずなのに……。


「というわけでまあボクも本腰入れて色々調べてみたんだよ。冒険者たち呼び込んでわけわかんないことしてる目的もよく分かんないしさ」


「目的などそんなもの……ニナ様に打ち克つために何かしらの小細工を弄しているということではないのですか?」


「いえ……それは、多分違うと思います」


 クリスさんの考えに首を振り、トリッシュさんも曖昧に頷きます。


 上手くは言えないのですが、ディーヴェルシア・コンキスティドール。彼女の戦う姿はどこか気高くて、そういう策謀を敷いていた様には見えなかった。


 ただの所感でしかないのですが。


「アイドル……」


 結局のところ、その謎の言葉が全て。


「アイドル……ですか。それについては何か分かりましたの?」


「いーやそれに関してはまだ何のこっちゃわかんないけど……ちょっと気になる情報が掴めたんだ」


「その気になる情報、というのは?」


「うん。二人とも、プロデューサーって知ってる?」


「「……プロデューサー?」」


 クリスさんとわたしは二人して疑問の声を上げます。


「聞いたことありませんわね。生産職の方ですか?」


「すみません。わたしも……」


「そっか。うん。ボクも分かんないんだけどね。ただ、そのプロデューサーってのが来てからことが動き出したのは確かで、ダンジョンマスターの目的に必要不可欠な人材ってのは間違いないはずなんだ」


材?」


 クリスさんがピクリと眉を動かします。


「うん。そうそう。どこから攫ってきたのか、あのダンジョン内で動き回っている人間の男らしいんだよね、そのプロデューサーってのは」


「……それで? その男をどうするつもりですの?」


「んーそうだね。彼をどうにかして保護・・できれば、色々と捗ると思うんだ。情報を引き出すにしても、戦略を崩すにしても」


「それは……」


 言っていることは確かに的を射ている。それは分かります。


 けれど、危険すぎます。もしもそのプロデューサーという方が本当にダンジョンマスターの目的の要であるのなら、それ相応の警備で守られているはず。容易にたどり着けるはずはありません。


「まあそうだろうけどさ。でもここは賭けに出てもいい部分とボクは見てる」


「いいえ! 仮にそのプロデューサーとやらが確保できたとしても私達にすんなり力を貸すとは思えませんわ。そんなことのためにニナ様の御身を危険にさらすことなどできるはずがありません」


「そこらへんはまあ信頼して欲しいな。大丈夫だって。いざとなったら口を開かせる手段なんていくらでもあるんだからさ」


「……トリッシュさん、何をするつもりなんですか」


「何? ニナ様まで文句あんの? たとえ非人道的な手段取ろうとそれはボクたちにとっちゃあ仕方ないことじゃないの? 大丈夫だよ。何ならニナ様は知らないフリしてればいいし」


「そんなこと!」


 そんなこと……言わないでください。


「ま、いいや。じゃ、今日はここまでにしとこ」


 トリッシュさんは立ち上がり、手をひらひらと掲げ自分の部屋へと帰っていきます。


「何っなんですのあの方は、もう!」


「クリスさん、落ち着いてください」


「ニナ様もあの方に甘すぎます!」


「……そんなことは……」


 トリッシュさんは、わたしの至らない所を助けようとしてくれていて、そのために手を汚すことも厭いません。


 けど、そうやってわたしを遠ざけてしまうトリッシュさんが、いつまでたっても距離が遠いトリッシュさんが、辛い。


 わたしが負けたのは事実で、偉そうに言えるはずもなくて。わたしがもっと、物語で謳われている勇者様みたいに強ければよかったのに、なんて……誰にも吐けない弱音が心の中に浮かびます。


(……リュート、さん……)


 胸元の中に隠した、安物のペンダント。


 厚い鎧の下に隠したそれに、すがるように手をかざしてしまう。


(……もしも、リュートさんが傍にいれば何か変わるのかな)


 浮かんでしまった妄想。


(何を考えているんですかわたしは!)


 何で、そんなこと考えてしまったんだろうって。それに対する答えを出さないまま、必死に忘れようと心を留めました。


※※※


 翌日。朝食に顔を出さなかったトリッシュさんが心配になり、部屋をノックしたら、鍵が開いているのに気付きました。


 いつも警戒心が強いトリッシュさんからすれば有り得ないこと……嫌な予感がしたのも束の間、目立つようにテーブルの上に手紙が置いてあるのが見えました。


「……これは……」


 わたしは手紙の中身を確認し、慌ててクリスさんを呼びました。


 

ちょっとプロデューサーのこと捕まえてくる。ボク一人で大丈夫だから心配しないでね。大丈夫大丈夫。三日経ってもボクが戻らなかったら……そん時はまあ、うん。最初の約束通り、団長をお供にしてよ。団としての威信にかけても断りきれないと思うしさ。今まで色々とゴメンね。クリスにも適当に言っといて。


トリッシュ・スターライト より


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