プロローグ:勇者パーティについて
先の勇者襲来の折、その場にいなかったレベッカに話をするとともに、俺も勇者パーティの実態について詳しく聞くことにした。
「『至高の魔銀水晶』クリス・ブリリアント。古来より勇者と共に戦ってきた歴史を持つ、魔導の名門ブリリアント家。彼女は、その歴史の中でも随一の才能と言われていますわ。それはさながら、自然が奇跡のバランスによって鉱物を宝石へと変えるように、ブリリアント家の歴史という年月が生み落とした宝石のようだ、とその美貌も相まって謳われます。
ワタクシも実は、勇者のお供として旅に出る前の彼女と商談を持ったことがあるのですが……審美眼も確かなようで、中々に勉強をさせていただきました」
何と知り合いだったのか。そこまで親しい仲という感じでもないけど、レベッカとしてはある種の敬意を抱いているのが分かる。真っ当な貴族ってことで感じ入ったものがあるのか。
「『トリックスター』トリッシュ・スターライト。団員がそれぞれ異なる一芸に秀でた赤枝の傭兵団から派遣されてきたらしいのです。本来であればその団長である『青狸』様が勇者に同行するよう王国から命を受けていたらしいのですが、どういうわけか当時無名の彼女が遣わされることとなりました。そういう経緯もありまして、彼女は勇者パーティのメンバーの中でも一番謎の多い存在です」
なるほど。団長に直々に声を掛けるというのもその傭兵団にとってはたまったもんじゃないだろうな、とかそういう政治的な思惑とかが色々あったんだろうか、分からんが。
でもゴブゾウも苦戦してたしその傭兵団の中でも腕はいいことは確かだろう。うん、界隈で情報が知れ渡っているだろう青狸? さん? よりも、情報が出回る前の不確定要素としての一面が強いトリッシュの方が上手く立ち回れる機会が多いと踏んだんだろう。
それこそ分からないことだらけだが。
「そして『神託の勇者』ニナ・セイクリッド。のどかな農村出身、らしいですがある日、神託を賜り勇者として覚醒しました。その証である、瞳に刻まれた十字の紋様は余りにも有名……ですがリュートさんは知らなかったようですわね」
だって仕方ないじゃん? それは。
「まあそれは百歩譲りますけれど……何でワタクシに話して下さらなかったのです? 瞳に十字紋様など、目立つ特徴もあったというのに」
それは……ええっと……。うん、観念して全部話すか。また今回みたいなことになっても後悔するだろうし。
「なるほど。あの露天商に。それで、ワタクシに怒られると思ったのですか?」
レベッカはジトーっと呆れた様な目線で見てくる。
「まったく……ワタクシはあなたのお母様ですか」
ママーッ!
「……別に悪いお金の使い方ではありませんわ。より良い方策も確かにあったのでしょうけれど、勇者様の中であなたの印象をその場限りにせずきちんと残せたのですから」
褒められるのは嬉しい……ものだと思っていたけど、何だろうか。と思っていたけれど釈然としない。
レベッカは憮然とする俺をくすくすとおかしそうに笑って、俺の頭を撫でる。
「そうですわね。これは少し意地の悪い居方でしたわ……正直、にわかには信じがたいのですけれど。寂しそうな女の子を慰めた、というのであればそれは素敵なことだと思います」
ニナ……。
ディーヴェルシアと、このダンジョンと……俺と、対峙する勇者。
けど、俺たちはそうとは知らずに知り合って。次に会うことがあれば、俺はどうするんだろう。
何食わぬ顔で、素性を隠して笑顔を浮かべる? 分からん。分からんけど……仲良くしたいし。
『……よく分かりません。あまり、そういうことに関心をもっていなかったので』
『そっかぁ。でもいいもんだと思うんだ。アイドルに憧れて、将来の夢持って、歌って踊って……そういうのが憚られない世界ってのは』
『リュートさん……そう、ですね。素敵だと思います。わたしに出来るか分かりませんが、そういう世界になるように、わたしも頑張りたいなって思います』
ああもう。どうすりゃいいんだかな、なんて悩んでいた。
この時は、まさかどうしてああなるとは全く予想だにしていなかったのだった。




