奇跡なんて目じゃない
ニナ視点
何者かと交信していることはその様子から分かりましたが、一体何を話しているのかは見当もつきませんでした。
あいどる。
断片的に漏れた言葉の中で、謎の単語が何かのカギとなっているだろうことは分かりましたが……一体。
いえ。どうでもいいことですね。
それよりも、この目の前のダンジョンマスターに直感が働きました。この存在は今ここで消し去らねばならない、という啓示。事実、形勢はわたしが押しているはずであるのに、まるで手応えの無いような末恐ろしさが拭えません。
「アハハハハハハハハハ!!!」
笑い、出した……? と同時に凄まじい光が、彼女から漏れ出てくる。
「さあ、始めるわよ。わらわの生まれ変わったライブを」
そう言って、彼女は笑顔を浮かべてこちらに手を伸ばした。
笑顔。とはいってもそこに嘲りは無く、闘いの最中であるにもかかわらず、どこまでも……楽しそうだった。
「減らず口を」
「~~♪」
歌? セイレーンなどが用いるという魔歌ですか? すぐに耳を塞ごうと手を当てましたが……何ともない?
「……この歌自体に、魔法的な意味はありませんわ……」
魔法使いのクリスさんはそう結論付けたようです。その判断は信頼できます。
「ですが……歌声に応じてこのダンジョン内から凄まじい魔力があのダンジョンマスターの元に」
クリスさんを以てしても不可解な現象ということでしょうか、珍しく歯切れが悪い。
けれど、関係ありません。わたしには勇者としての力がある。いかにダンジョンマスターが自身に有利な戦場を築こうと、わたしの奇跡はそれを上書き……
「出来ない……!?」
剣が空を切る。
「あらどうしたの」
「ッ!?」
飛び退いた。飛び退いてしまった。
勇者が魔に屈するなんて、在ってはならないのに。
「たとえ勝ち目がないとしても。それでも、わたしは……」
「ああもう! 古い。古いわ。いいわ。もう、今日のところは帰りなさい……わらわは何度だってこうして歌い続けてやるわ」
そうしてパチン、と指を鳴らしてウィンクをしたと思ったら……わたしたち三人はいつの間にか迷宮の外にいました。
「強制転移……」
「あー……もう、ダメだねぇこりゃ。完璧に負けだ」
クリスさんとトリッシュさんもどうやら無事のようでした。
転移……その気になればわたしたちを閉じ込めることも……殺すことだって出来た。にもかかわらず、逃がした。
ディーヴェルシア・コンキスティドール。一体何を考えているのか分かりませんが、確かに、わたしたちは彼女に敗北したということ。
いいでしょう、その名前、はっきりと記憶しておきます。そして、必ずリベンジを果たして見せましょう。




