ダンジョンマスター、アイドル始めました
ディーヴェルシアの設定ははたして消化できるんでしょうかという疑念が(おい)
強い。さすが勇者って言ってあげるべきかしらね。
――諦めてしまえばよいものを
黙れ。
――強い? 呆けたことを。妾が本気でかかれば、殺せぬものなど、壊せぬものなど何もありはしない。
違う。
――運命を変えることなど本当に出来ると思っておるのか?
どういう意味?
――夢想に浸るのはさぞ悦しかろうて。それが決して叶わぬと分かっていてもな。何せ、わらわは……
うるさい……うるさいうるさいうるさい!
――まあ、所詮は余興よ。五月蠅いことを言うつもりはない。じゃが……勇者でもない者を異世界から召喚するとはいささかやり過ぎではないか。
リュート……か。
――ここらで終わりにするのが、潔いというもの。そうであろう?
ここで……終わりに……
『……ディーヴェルシア!!!!!!!!』
その時だった。大声が、わらわの魂を震わせた。
『いいか! よく聞け! 今から、お前のライブ、始めるぞ!』
「は、はぁ? ライブ? あ、あんた、こんな時に……自分が今、何言ってるのか分かってんの?」
『はぁ!? お前が今さらそういうこと言うのか? 胸に手当てて今までを振り返ってから言ってみろや!』
「……だから何言ってんのアンタ!?」
『だから省みろってんだよ! ああもういい! 言っとくけどもうカメラ回ってるんだからな! 戦っているお前の様子を、このダンジョン内で絶賛生中継だ!』
は……はぁあああああああああああああ!??!?
『いいから胸張れディーヴェルシア! みんなの夢守るんだろ。この世界に無いかもれないモノでも、叶えるんだろ。その想いを届ければ、届かせれば、お前は――』
アイドルだ。
『俺は信じてる』
何これ……何これ何これ何これ!
顔がカァッて熱くなって。胸がドキドキうるさくて。暴れたくなるくらいに元気が溢れて、何だって出来そうな気がする。
「ねえ……プロデューサー」
『あん? 何だ?』
「……何でもない」
うん。大丈夫だ。
わらわはもう逃げない。
プロデューサーを、リュートを言い訳になんかしない。リュート……いや、リュートだけじゃない。ヘルも、ゴブゾウも、レベッカも。みんなを巻き込んでおいて、早々に諦めた方がみんなの為なんだってそんなのただの言い訳だ。
ダンジョンの中で紡がれてきた思いが、わらわの中に流れ込んでくる。
『ヘルさん。ヘルさんは、ディーヴェルシアの力になりたいってさ。そう思ってるんだよな』
『それは、そうですけれど……』
『なら、俺がその道を示して見せる。だから、力を貸してほしい……これもちょっと違うな。俺に叶えさせてほしい。ヘルさんの夢を』
みんな、みんな信じてくれてるんだ。
『ああ。まあそうだな。レベッカの立場上、色々と抑えているものとかあるだろう。歌って踊って、常とは違う自分になりきって……そうやって発散も出来るんじゃないかなとか……て、いや、俺が言えた義理じゃないけどな。でも楽しそうだとかちょっと思ったりしないか』
『……常とは違う自分、ですか……なるほど。いいでしょう。あなたに貸しを作る、というのも先行投資としては悪くないと見ました』
わらわが憧れたアイドルを。
『それよか今日のゴブリン突撃部隊のライブの振り付けは覚えたんだろうな』
『まァ俺が何か言えるわけでもねェしな。お前がそう感じてるってェなら、俺らに異議はねェ。納得いくまでやんな』
『そう言ってもらえると助かる』
守りたいって思ってくれているんだ。こうして、出来上がりつつあるアイドルの舞台を。
なら、へこたれてなんかいられないじゃない。
わらわは。アイドルになるんだから!




