勇者パーティ
「隆斗さま!」
その後、ヘルさんが慌てた様子で駆けつけてきた。
「大丈夫ですか? お怪我は」
「いや、何ともないが……とりあえずちょっと移動しよう」
周りに目を配って、言う。周りには冒険者たちばかりで、突然現れたヘルさんに面食らっている。
中には「ヘル様……」と恍惚の目線を向けてくるのもいて、ヘルさんの顔もひきつっている。
ヘルさんは俺の手を引いて、強引な様子でこの場を去る。
「お、おい。お前何者だ?」
冒険者たちの一人からそんな声が飛んでくる。まあ当然だな。
「プロデューサーだ!」
とりあえずそう返事をしておいた。
※※※
そしてヘルさんと俺は迷宮のコアまで行き、ゴブゾウの様子を窺うこととなった。
画面からは爆炎や砂埃ばかりでどうなっているのかは今一つよく分からなかった。
また一つ、爆風が舞う。
『くっゴブリン風情が!』
派手に魔法を撃ち鳴らしてはいるが手応えが無いのだろう、忌々しく吐き捨てる女の声がする。
迷宮内であってもなお輝く金の刺繍が施されたローブを纏い、魔女特有の大きいとんがり帽子を被った女だった。その瞳は勝ち気に釣り上げた、水晶のように透き通った瞳と、長い髪。豊かな胸元を露出し、足元も切れ込みの入ったセクシーな衣装に身を包んでいるものの、どこか気品が漂う美女だった。
『ハッハァ! 面白いことを言うな嬢ちゃん。手も着いてるし足もある。人間が出来るこたァ大体出来るんだ。可能性って意味じゃそう大差ないんだぜ案外』
そのセリフは相手を手玉に取っているように聞こえる……が、その声色には若干の疲れと苦みが混じっているような気もした。
「ゴブゾウさん! 戦況は」
どういう原理なのかは分からないが、ゴブゾウとは通信が取れるようだ。
『よくねェな。敵は三人、剣士系、魔法使い系、それに斥候までいやがる。このスカウトが中々のもんでな。長鞭でこっちのトラップを尽く破壊してくるから俺らお得意のゲリラ戦法が上手く働かねえ』
膂力に乏しく、魔法に優れた種族でもないゴブリンにとって使える手札は少ない。だからこそ、小回りを含めた戦術の器用さであったり、数を揃えたりしてその不足を補う。
迷宮内の仕掛けを利用するのもそういった補助の一つで、ゴブリンと侮って力で押してくる相手には対処できる。
ゴブリンの一匹が魔法使いの後ろを取る。だが、パァアアン! と大きな破裂音が響き、ゴブリンを弾き飛ばす。
『ああもうクリスってば。だからちゃんと周りに気を配んなきゃダメだって』
『うるさいですわよ! 何のためにあなたのような傭兵が雇われていると思っていますの』
『あーはいはい』
ゴブリンを弾き飛ばしたのは鞭だった。その鞭は縦横無尽に迷宮内の壁、地面に叩きつけられ、ゴブゾウの部下が隠れ潜んでいた物陰や迷宮内に設置されている地雷などの罠を詳らかにしていく。
スカウト系職業。膂力に乏しくまた魔法に優れているわけでもないが器用さに優れ、罠の解除などの特殊技能に優れた職業――つまりゴブリンと同種の力を持ちその扱い方を知っている人間がいる。
「て、あれは……」
「どうかなさったんですか隆斗さま」
姿を見て、驚いた。ゴブゾウの相手をしている小柄な少女は、ポニーテイルの……ニナの連れの、確かトリッシュ。
じゃあ、まさか……ここを襲撃している冒険者、剣士系の最後の一人って。
『けどまさかゴブリンのゴブゾウまで居るとはねぇ……面倒だなー』
『何を弱気なことを言っていますの!』
『……トリッシュさん、クリスさん、下がっていてください』
その声が響いた時、一瞬、世界が平伏した。
ドクン、と心臓が一つ大きく鼓動した。
『……マジかよ』
「そんな……」
ヘルさんとゴブゾウの戦慄する震え声が響く。
「勇者……ニナ・セイクリッド」
瞳に十字の紋様が浮かぶ……あの時、出会った少女がそこにいた。




