何そのデメリットアタッカー
「よう、調子はどうだ」
今日も今日とてディーヴェルシアのライブに向けての特訓に向かう矢先、ゴブゾウに声を掛けられた。
「順調……とは言えないな」
「……何だ? 前にも言ったが何か困ってんなら力になるぜ」
「いや、こればっかりはな……どうなんだろう。俺、考えすぎなのかね」
色々と試したりしているものの、未だディーヴェルシアのアイドルとしての理想像が見つからないままでいる。
理想を追い求めるのは大事だ。けどそれに固執して前に進まないっていうのはディーヴェルシアの為にならないんじゃないか……とも思う。未完成でも続けているうちに、不意に見つかることもあるかもしれないじゃないかと。
「まァ俺が何か言えるわけでもねェしな。お前がそう感じてるってェなら、俺らに異議はねェ。納得いくまでやんな」
「そう言ってもらえると助かる」
俺が欲しかった言葉を貰えている感じと言うか、コイツ、いい上司なんだろうなと思う。
「ゴブゾウ!」
「ゴブゾウさん」
ゴブゾウを呼ぶ声が聞こえたのでふと振り向くと……言葉を失った。
「ん、おォお前らか」
ゴブゾウに至っては慣れた様子で普通に返事をするが、いやちょっと待て。
「冒険者……だよなあんたら」
そう、ゴブゾウに話しかけたのは人間だ。それも武器や防具を装備している冒険者然とした男たち。
「そうだけど……兄ちゃんは? そんな装備で大丈夫か?」
「ああ、いや俺は」
「まァまァいィじゃねェか」
おっと、ゴブゾウに助けられたな。
「それよか今日のゴブリン突撃部隊のライブの振り付けは覚えたんだろうな」
何そのデメリットアタッカー。そういえばゴブリンアイドルのグループ名付け忘れてたけどもしかしてそれなのか? それにしてしまったのか。
「おうよバッチリだぜ」
「お、俺、ヘル様のライブに行くんだけど、こうでいいのか」
ヘル様!?
「んーそうだな。そこまで気張らなくてもいいぞ。成るようになるから」
ゴブゾウは冒険者たちに囲まれながら、ライブ鑑賞のいろはを教え込んでいた。
異世界人の俺が言うのも何ではあるが、これはきっと不思議な光景なのだと思う。
「……リュート、どうかしたのか?」
じっと見つめている俺に、ゴブゾウは落ち着かない様子で尋ねた。
「いや、何かな。お前、いい奴なんだよなー……って」
「なーに言ってんだお前は」
ゴブゾウは照れ臭そうに手を振る。
「いやでもそうだよな。最初は、うん。ゴブリンとこうして一緒に何かするなんて考えもしなかったけどよ」
「話してみると案外、変わんねえんだなって」
「ゴブゾウさん、結構面倒見いいっすよね」
冒険者たちは口々に言う。
ずっと思っていたことなのだろう。言い出すにはやっぱりまだ少し壁があって、けれどまたちょっと近づいたから言い出せて。
「お前ら……」
「あ、そうだ。今度、罠抜け教えてくださいよ。詳しいんでしょゴブリン族」
「俺、宝箱の開け方教えてほしい」
「あーそうだな。別にそれくらいなら構わねえけどよ」
冒険者たちとゴブリンが一体となったダンジョンと言う名のライブハウス。
そうか。これが、ディーヴェルシアが夢見たモノ……
ブゥウウウウウウウン……!
「!?」
そんなことを考えていた時、迷宮中にサイレンが鳴り響きゴブゾウが突如、身体を強張らせた。
「どうした?」
「侵入者だな。それもとびきり手ごわいのが来やがったみてえだな……ものすごい勢いでもうすぐここまで辿り着く。チッこんな時に」
ゴブゾウはすぐさま俺達を横切って、素早い動作でどこかへと消えて行った。




