悪役令嬢に憧れて
ライブの後、ささやかながら打ち上げも兼ねて少し話をすることにした。
話す内容もそうだがレベッカが男と二人で会っていると周囲に知られるのもまずいということで、商会が商談などにも使う口の堅い料理屋、その個室で。
「ワタクシ、悪役令嬢に憧れていましたの」
レベッカのプロデュースに関してはレベッカの希望に沿った形を色々と試行錯誤した形だった。正体を隠すために色々と演出を考える必要があって、その点では好都合ではあったのだが……何でああなったのかは正直疑問だった。
「また何でそんな難儀なもんに。普通は、お姫さまとかに憧れるもんではないのか」
「そうなのでしょうけれど、ほら、物語のヒロインというのは、大体において王子様と結ばれて終わり。その後、するであろう苦労を知っている身としては……少し無責任ではないかなと」
なるほど。レベッカも真っ当な貴族と言うわけでもなく、それでもその社会に関わっていかなければならないわけでその立場故の苦悩というのもあったことだろう。
それで手放しにめでたしめでたし言えない気持ちは分かったものの、何でそこで悪役令嬢に?
「生まれ持った血筋に対して、堂々と振る舞う貴族然とした尊大さが眩しかったのです。そうですわね、ディーヴェルシア様に出会って、その頃のワタクシを思い出した、と言う面もありますか」
「いやー……割とろくでもないけどな」
うふふとレベッカも苦笑して誤魔化した。
「それに……届かない恋心を自覚していながら、それでも手を伸ばしてしまうその姿に、いつかワタクシもそのような激しい恋をしてみたいと。そんな風に思ったのですわ」
そうか。
それが誰のモノにもならないアイドルとして、そんな届かない感情を量産することになっているというのもまた因果なもんだが。
「まあ、たとえ恋をするとしてもきっとそんな風にはなれないと自分で分かっているのがまた、滑稽ですけれどね」
レベッカは商人だ。
感情よりも先に勘定を優先する。そうすべきでないと判断したなら、物語に出てくる悪役令嬢のような愚かな振る舞いはしないのだろう。憧れてはいても、それは憧れのままに留める。そういう気性の、賢くて、そして優しい令嬢なのだ。
「滑稽なんてことはないさ」
プロデューサーとして、その夢を描けるように俺も協力するとしよう。




