レベッカをスカウト
さてゴブリンアイドルプロジェクトについては予想以上の成果が出ているようで何よりだ。
ゴブゾウの働きで多少マシになってきてたりはするが、基本的に冒険者はここに敵意むき出しで来るのは変わらない。
ヘルさんも含めてこちら側の戦力も充実してきたと言ってもいいだろう。となると、攻勢に打って出る頃合いだ。即ち売り込みである。
とはいえ、ヘルさんやゴブリンたちを動かすわけにもいかない。そんなことをすれば大混乱が起こること必至でゲリラライブどころの騒ぎではないからだ。
「理想としては、感化された冒険者がアイドルを真似して広めて……とかそこまで自主的にやってくれればとも思ったんだが。さすがにそれは現実離れしてるし他力本願が過ぎるってもんだろう」
と、俺は目の前の相手……レベッカに話しかけた。
「なるほど……それで、ワタクシにどのような御用でしょうか?」
レベッカは優雅に紅茶を傾けながら、可愛らしく首を傾げる。大方分かっているのだろうが、弄ぶようにこちらの機を窺う。
「俺にレベッカをプロデュースさせてほしい」
レベッカは口をあんぐりと開けたまましばらくして、クスクスと笑った。
「失礼。思ったよりも直球な言葉で……それで?」
「それでとは」
「ワタクシがそれに従わなければならない理由はございませんもの。それを望むのであれば、ワタクシをその気にさせてもらわなければ、ね?」
にこりと笑顔を傾けて、言う。その表情から、悪い感情というのは読み取れない。好意的に見てはいるものの、もう一押しといったところか。プロデューサーとしてのこっちの出方を見ているのだろう。
ふむ……レベッカ・シャイナンダークは商才に富んだ令嬢である。勝機というか商機を見出せば乗ってくると見たが、少々厳しいな。
「今さらのように聞こえるかもしれないが……俺は出会った時からレベッカにはアイドルの才能があると確信した。このまま黙って済ますのは世界にとっての損失ってやつなんじゃあないかと思うんだ。レベッカの魅力を最大限引き出すように努力はするが……レベッカ?」
「ああいえ、すみません。讃辞など聞き慣れているつもりなのですけれど、何故でしょうか。あなたの言葉は妙に刺さるような気がします。それはともかく……ワタクシとてレベッカ・シャイナンダークとして。家名を背負う立ち居振る舞いが求められるのです。おいそれと衆目の目に晒すほど、令嬢の肢体は安くありませんのよ?」
「その点は心配ない。別に正体を晒す必要は最初からないからな。仮面でも何でも被ったままでいい」
「……それでよろしいんですの?」
「ああ。まあそうだな。レベッカの立場上、色々と抑えているものとかあるだろう。歌って踊って、常とは違う自分になりきって……そうやって発散も出来るんじゃないかなとか……て、いや、俺が言えた義理じゃないけどな。でも楽しそうだとかちょっと思ったりしないか」
「……常とは違う自分、ですか……なるほど。いいでしょう。あなたに貸しを作る、というのも先行投資としては悪くないと見ました」
どうにかおまけ込みでレベッカの了承も得て、俺たちは人間サイド……冒険者たちの町へと赴くことになったのだった。




