ゴブゾウの明日はどっちだ
最初からあーだこーだと本人を前にして選り好むというのも趣味が悪いということで、とりあえず書類審査から始めることにした。
「で、この子はどうなんだ」
「んーそうだなァ。ちょいとばかり肉つきが薄いな。もうちっと腹が張ってる方がいいメスだよ」
「そんなもんか」
俺には違いすらちょっとよく分からないが。
さらに言うならゴブリンの嗜好はやっぱりちょっとわからない。
「てえかアレだよ、さっきから『ゴブリンとしては~』とかそういう一般論的な論評ばっかだけどさ。ゴブゾウの中でこう、無いのか? こう……この子好き! みたいなの」
「俺の好み聞いてどうすんだよ」
それは……ねえ? 本当のところは隠すとして。
「ゴブゾウが応援できるかってのは重要だよ。上手く行く保証もないのに自分が好きでもないものの応援なんてやってられないだろ」
「俺は別にそれが仕事だってなら構わねえが……」
「ゴブゾウが仕事を抜かるとは思ってないけどさ。ただま、この世界に変革を起こそうってんだから、それは義務感だけじゃやってけないって思う」
「……正直よく分かんねえ、が……でもそうさな、真面目に選ぶとするか」
こうしてゴブゾウと俺はゴブリンアイドルの選別をこなしていった。
そこから、レッスンだ。歌はゴブリンに代々伝わるという楽曲を使い、踊りもそれに倣った。
そしてゴブゾウの小隊にはオタ芸も覚えて貰った。
「違う! テメエらアイドル舐めてんのか!」
「サー!」
熱が入り過ぎたのか正直この辺りの記憶がすっぽり抜け落ちている。何があったのだろう。ゴブゾウも教えてくれない。
そしてそれから数日、ダンジョンの隠し部屋にてゴブリン達のライブをひっそりと行った。さりげなく誘導なんかも行いながら、そこに時たま冒険者たちが迷い込むのを待った。
攻撃を仕掛ける者も少なくは無かったが、大半は単なるライブ会場と化しているそこに足を踏み入れてあんぐりと口を開けながら呆然とライブが終わるまで夢心地で立ち尽くす冒険者が多数。
それから。何をやっているのかと分析している内に、何だか楽しそうだとライブ会場に入り浸る冒険者たち。そして徐々にゴブゾウたちに混じり、ゴブリンのアイドルを応援するようになった。そしてそのうちに『ゴブリンって……いいよな……』と口走る冒険者たちがちらほら見受けられるようになったとかいないとか。
それから、ゴブリンアイドル達の噂を聞き付け、他のダンジョンから移住してくるゴブリン達が出て来たらしい。彼らは新たなゴブゾウの部下となったりはたまたゴブリンアイドルの一員と成ったり。まあ人員が増えることは願ったりかなったりである。
そしてこれが一番予想外の変化なのだが……
「フォオオオオオオ!!! ゴブ子ちゃんこっち見てーーー!!」
ゴブゾウである。
何とゴブゾウ、ガチでゴブリンアイドルに嵌ったらしい。今日も最前線で戦士たちを纏め上げ会場を一体とした見事なオタ芸を捧げている。この中には冒険者の人間たちも交じっているというのだから、空恐ろしい。
なお、
「アァン!? 結婚だ!? 違うんだなァそういうんじゃねェんだなァ。俺は彼女たちを見守れればそれでいいんだ。彼女になってくれとかよ。そういうのは、あの子たちを穢しちまうみたいでよ……………………まあ手を出そうとした奴は殺すけどな」
である。
まあ、結果的に幸せそうだからよかった……のか?
「おかしい……ヘルまではともかくとしてわらわがゴブリンにまで負けてるって何? おかしいおかしいおかしいおかしい……」
そしてディーヴェルシアにはどういうことだと問い詰められたのは余談である。




