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ダンジョンマスター、アイドル始めました  作者: 山崎世界
第一章:ダンジョンマスターアイドル始めました
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生まれ変わった初ライブ

 そしてついにこの日が来た。


「緊張してきたなぁ……」


 滅多なことは起こらないとは思うが、今日はこのダンジョンのアイドル事業が上手く行くかどうかの試金石。


「まったく、あなたが緊張してどうするんですの」


「まあ気持ちは分からねえでもねえけどな。部下に自分の手ぇ放して仕事任す時ってえのはやきもきするもんだ」


 俺達、今までヘルさんのデビューに合わせて準備をしてきたレベッカとゴブゾウと共にダンジョン深部にあるモニターから様子を窺う。


 この二人(?)はもはや同志とも言える。


「さあお茶でもいかがでしょうか」


「これはどうも」


 レベッカが手ずから淹れたお茶をグイッと一口。


 火傷しない程度にほどほどに冷ましてあり、茶葉のふくよかな香りが俺を落ち着かせる。


「お、どうやら来たみてえだな」


 ゴブゾウが呟いた。


 最下層のボス部屋。いつもはゴブゾウの管轄ではあるが、今日は違う。


 ヘルさんのデビューステージ。その会場となっている。そしてその扉の前に、冒険者たちがやって来つつあるようだ。


「剣士に重戦士、女神官に魔法使いの男か……」


 ゴブゾウとレベッカがその冒険者たちの様子を見る。


「若いな。それほどスれてねえとみた」


「ええそうですわね。女神官はヒーラーとして雇われているだけでしょう。さっきからチラチラと見ていいとこ見せようとでもしているのでしょうか……これは、童貞ですわね」


 止めろそういうこと言うの。


「まあ、配偶者もいないでしょうし、遠慮は要りませんわね」


 どうせることは変わらないしな。


 え? 戦力? 考慮するまでもなしだ。


「というわけでヘルさん、もうすぐ冒険者ファンたちがそっちに来る」


『クスッ……そうですか。それは、楽しみですね』


 通信して聞こえたその声は、しっとりと濡れている。


 誰だ? と思われるかもしれないが紛れもなくヘルさんである。


『気を付けろ、ここのゴブリンリーダーは一筋縄じゃ行かない……昨今は何やら言いようもないほどの恐ろしい目に遭わされると評判だ』


『ああ、帰ってきた奴らはほぼ廃人となってるらしいぜ』


 そうこうしている内に冒険者たちも扉の前でエンカウント前の打ち合わせをしているようだ。


 さすがに尾ひれの付いた噂だと信じたいが……


「廃人同然と言うことはさすがにありませんわ……まあ、トラウマとなって冒険者を辞している方も少なくはありませんが」


 レベッカが内情を明かしてくれる、が……フォローになってるかは微妙だ。だがそれも今日までだ。


『何だ、急に灯りが、ロベルト、灯りを』


 突如光を失った中で、パチン、と指を鳴らす音だけが響く。


 そしてその直後、スポットライトが奥に佇むヘルさんを照らす。


『何だ、あの女は……』


『まさか、アレは』


『知っているのか! ディーン』


『このダンジョンの主、『地獄送りのヘル!』』



 何か凄い異名が飛び出してきた。


『何だって! 地獄をこの世に呼び出し、あらゆる苦痛を体現すると言われるあの!』


「まあやろうと思えばできるってだけなんだけどな」


 冷静に呟くゴブゾウ。


『な、何故地獄送りのヘルがここに……!』


 あまり言わないで上げてほしいなぁそれ……。


『飽いたのです』


 ヘルさんがあっさりと言い放った言葉に、呆然とする冒険者一行。


『あ、飽き……?』


『だって、いくら苦痛を与えても、ありきたりな反応ばかりで、つまらないというものです。ですから、私は生まれ変わったのです』


『生まれ、変わった……?』


 冒険者たちは油断なく、その視線をヘルさんに向ける。


『あら、不躾な視線ですね……警戒するだけならばよいですけれど、さっきから視線が私の胸や脚にかかっているのは、どういうことなのでしょうね?』


 くすくすとヘルさんの嘲笑が響く。


『い、いやぁ……それは』


 冒険者たちがうろたえながら、ああでもないこうでもないと狼狽えるがヘルさんはそれを笑って、許す。


『いいでしょう。さあ、どうしましたか? あなた方が生き残る道は、私の気分次第です。さあ、私を愉しませてください。あなた方も愉しんでください。さあ、どうしましたか? 野獣のように私に襲い掛かってもいいのですよ。それとも……そんなことすらも満足にこなせないのですか?』


 挑発的な笑顔に対して、冒険者たちも妖しい笑みで応える。


 弄ばれている。そう分かってはいても、他に手はない。

いや違う。魔族の誘いに、その欲求を刺激され、自ら動いているのだ。それが、このステージに入り込んだときから巧妙に仕掛けられた、淫魔の術中であることも知らずに。


 ヘルさんは、華麗に舞いながら冒険者たちの攻撃を難なく潜りぬける。



  ―――愛しい人よ


 安らかなその顔で―――


 ―――眠って。眠って。


 どうか、夢で逢いましょう―――


 そして戦いライブは終わる。冒険者たちは、倒れ伏して夢現である


 ヘルさんの歌をどの程度まで聞いてくれていたかは微妙かとも思うが、結果は後日にしかわからないか。


 後始末の為にゴブゾウが向かい、冒険者たちをダンジョンの外に丁重にお送りした。



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