ヘルさんはかわいいなあ!
ヘルさんのサキュバスモードは次回
「う、うぅ……」
恥ずかしげにアイドル衣装を着て出てきたヘルさん。
その姿を見て確信した。
「「イケる!」」
うん? ハモった? と隣を見ると俺と鏡合わせのようにレベッカがサムズアップしている。
「何がですか!」
ヘルさんの叫び声である。
「素晴らしいですわ! レディとして完成されたその肢体を包む可愛らしい衣装。一見アンバランスに見えますがそのスタイルを際立たせ、さらに気後れしてしまいそうな美女のヘルさんの美しさを損なうことなく近づきやすい可憐さという魅力を付け加えているのですわね」
握手である。
「お前ら楽しそうだな」
「逆に聞くが何でお前がそんなローテンションで構えられるのかが分からねえよ、賢者タイムか」
「ハハハ、いや、オークやゴブリンみてえな下級魔族が上位魔族に欲情でもしようもんなら目を潰されたって文句言えねえからな」
世知辛い……。
「てのはまあ冗談として、種族が違うからな。人間からしたってゴブリンで欲情すんのは一部の変態くらいなもんだろうよ。ああいや、人間を差別する気はねえけど」
「なるほど……」
うーん……人間相手にはこれで行けるとは思うが亜人族の需要を満たすにはまた何かしら考えていかなきゃならないのか……まあ現状考えるのは止めて頭の片隅に置いておくにとどめておこう。
「それでヘルさんのパフォーマンスというか、戦い方を見ておきたいんだけど……いいだろうか」
「え……え? 隆斗さまに、ですか?」
「無論だ。この中で冒険者に近いのは俺なんだから」
「……隆斗、さまに……」
ヘルさんは何やらぶつぶつと顔を伏せて考え事に耽る。
む、弱ったな、ヘルさんのコンプレックスに軽々と触れるべきでないと分かっていたはずなんだが……。
「いえ! 決していやというわけでは無いんです! が!」
「……あらあら」
ヘルさんが顔真っ赤で敬礼しだした。
「えっと、ヘルさん……」
「まあまあ、大丈夫ですよリュートさん。ヘルさんを信じてあげてくださいな」
無理しなくても……と声を掛けようとしたところでレベッカが肩を叩く。
信じろ、と言うその言葉は俺に刺さった。
そうだ。俺はプロデューサーだ。アイドルのことを信じないでどうするというのだ。
「というわけでワタクシとゴブゾウさんは失礼いたしますわ……」
優雅に礼をしながらレベッカはゴブゾウを促して、ゴブゾウも特に何か言うことも無く従った。
「あ、そうそう。くれぐれもやり過ぎないように気を付けてくださいませ」
「レベッカさん!」
最後言い放った言葉の意味は掴み損ねたが、とにかく、俺とヘルさんは向かい合う。
「……それでは、行きます」
※※※
なるほど。アレが淫魔か……何てえかすげえ。
となると、そうだな。今日は一対一だったけど多対一を想定して……
「……死にたい」
ヘルさんが隅っこでうずくまって地面に指をいじいじしている。
んー……サキュバスとしての戦いの最中のヘルさんは確かに俺の知ってるヘルさんとは違う。
けれどとても魅力的だと思った。今のヘルさんも好きだけれど、昔のヘルさんもそこまで卑下することは無いんじゃないかなってさ。
「イケるんだ。ヘルさんはディーヴェルシアの力になれる」
「隆斗さま……」
「ヘルさん自身が自信を持てなくても、俺のことを信じて、どうかついてきてください」
ヘルさんに手を伸ばす。
「……はい」
ヘルさんは控えめに、俺の手を取った。弱りきったその微笑みは、可愛いなと不謹慎ながら思った。




