序
彼のお墓は海の見える高台の上にあった。
一緒に受験して、一緒に合格発表を見に行った。
一緒に合格を喜んで、春から一緒に高校へ通うはずだった。
それなのに。
「ねぇ、なんで死んじゃったの?」
答えてくれるはずなんてないのに、それでも訊かずにはいられない。
ねえ、なんで――。
「あっ」
吹き抜けた風が、わたしの帽子を攫う。
咄嗟に伸ばしたわたしの手は届かず、黒い帽子は空に舞い上がりそのまま波のうねる海の上を飛ばされてゆく。
もう、戻らない。
わたしのいるところから、遠く遠く離れていってしまう。
遠く。
帽子も、彼も。
帽子はあっという間に遠ざかり、空を飛ぶ鳥ほどの黒い点にしか見えなくなる。
わたしは青い空へと必死に目をこらしていたけれど、やがてその姿は空に溶けて消えてしまった。
もうどこにも見えない。
わたしは空へと伸ばした手を、ゆっくりと下ろした。
空のままの自分の手を、ぼうっと見やる。
わたしの手に、つかめるものはない。
つかみたいものは、遠ざかってしまったのだから。
それなのに、わたしはあとを追うこともせず、ただ流されるままに生きている。
それでいいの?
本当にいいの?
何度も何度も自分に問いかけたけど、結論はいつも出ないまま。
心を決められないまま。
空は広すぎて。海も広すぎて。
それなのに、ひとりで生きるには広すぎるこの世界を去る決心もできないまま、わたしはここで見つかるはずもない失ったものを探している。
失くしたものを諦めきれない心がもう一度わたしの目を空へと向けさせるけれど、今更、そこに求めるものがあるはずもなくて、わたしはお墓へと目を戻した。
わたしにはもうなにもない。
戻ってくる答えもない。
彼の声も、笑顔も、ぬくもりも。
もうどこにもありはしない。
そう、もう、なにも――。
わたしは孤独に耐えきれず、自分の身体を抱き占めてその場にしゃがみ込んだ。