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勇者の魔法使い ─自力で行う異世界転移─  作者: 篳篥
第1章 懐かしき『コーラル』
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第2話 かつての異世界召喚


 当時、俺は12歳の小学6年生だった。


 冬休みの事である。年末年始を利用して、姉貴の気晴らしも兼ねた家族旅行に出かけたのだ。

 姉貴は俺の3つ上、当時中学3年生。そう、受験生である。しかし元々コツコツと勉強に励む優等生タイプだった姉貴は模試でも志望校にA判定を貰っていて、受験前だっていうのにそこそこの余裕があった。

 そんな姉貴に必要なのは最後の追い込みよりも心身ともにリフレッシュすることだと両親は考えたようで、姉貴の希望をふんだんに取り入れた家族旅行に出向いたのだった。


 俺としても、姉貴が大事な時期だというのは解っていたから、文句は言わなかった。

 言わなかったけれどしかし、そんな姉貴の希望する旅行先は何と言うか、まぁ、年頃の女の子が全力で楽しむ場所ばかりでつまり、思春期に片足を突っ込んだばかりの俺には微妙に居心地が悪かった。両親は両親で恋人時代に戻ったかのように仲良く過ごしたようだけどさ。つまりは居た堪れないのは俺だけだったわけで。

 だから気を遣ってくれたのだろう、帰りの交通手段は俺の希望が通った。それまで1度も乗ったことが無かった飛行機である。

 高所恐怖症だった母さん(だからこそ俺はそれまで飛行機に乗った事が無かった)だけは新幹線を使い、俺と姉貴、父さんの3人で国内の短いフライトを楽しむことになったのだ。


 けれど俺は今でも時々思う。思ってしまう。

 もしもこの時俺が飛行機に乗りたいなんて言い出さなければ、父さんも姉貴もあんな目に遭わなかったんじゃないか、と。


 機内では、帰るまでが家族旅行なのに、と母さんがこの場にいないことを姉貴が少し残念がっていたのを覚えている。姉貴も母さんの高所恐怖症は理解していたから、本気で言ってたわけじゃないけど。

 その少し後、機内に突如として魔法陣……当時はそうとは解らなかったけれど……と強い光が溢れ、そのいきなりの現象に皆が面食らって咄嗟の行動が出来ないでいる中、不意に空間が捻じれ、何かに強い力で引っ張られた。

 父さんが咄嗟に隣の席に座っていた姉貴を庇うように抱きしめ、次いでその更に隣にいた俺にも手を伸ばそうとして、俺もその手を掴もうとして……しかし掴めず、俺はそのまま放り出されてしまった。俺だけじゃない。父さんも姉貴も、他の乗員乗客も全員である。

 空中に、では無い。異世界『コーラル』に、だ。


 その後はまぁ、色々あった。本当に色々な。

 そしてその経験を以て言いたいことがあるとするとそれは一言、『異世界舐めんな』である。

 ラノベだとか少年漫画だとかゲームだとかを想像してワクワクしてちゃいけない。言葉は解らない、文字も読めない、魔物は出る、治安は悪い、インフラも大して整備されていない。もしも異世界に放り出された当初に親切な人たちに拾われていなかったら、その時点で俺はきっと詰んでいた。ワラエナイ。

 良い子のみんな、異世界での冒険に期待しすぎちゃいけないぜ。お兄さんとの約束だ。


 その後は『コーラル』にて日本に帰るための方法を探したけれど結局見付からず、最終的には自作せねばならなかった。それがあの【異世界転移】である。それもただ日本に帰るだけじゃないぞ、転移する場所や時間も任意で定めることが出来る超優れものだ。えっへん。


 でも、それには恐ろしいほどの年月を必要とした。


 俺が【異世界転移】の魔法を完成させ、そのまま帰還しては混乱を招くからと召喚時の肉体年齢に戻すために【年齢操作】の魔法も復元・会得して……その頃には、日本から『コーラル』に召喚された人間は、両手に指で数えられるぐらいに少なくなってしまっていた。

 ある者は戦いに巻き込まれ、ある者は病を得、ある者は自ら戦火に飛び込み。中には穏やかに寿命を迎えた者もいたが、その大半は非業の死を遂げた……父さんや、姉貴も。

 そしてその時点で生き残っていた者も既に『コーラル』に新たな生活基盤を得ていて、わざわざ日本に帰ろうという意思を持つ者はもういなかった。


 後に調べた結果、俺たちが乗っていた飛行機は航空中に突如墜落、海に落ちて大破していたそうだ。しかしその後の調査では機体の残骸は見付かったものの犠牲者の発見には至らず、大惨事であると同時に怪事件でもあるとして暫くニュースやワイドショーを騒がせた。

 当然、そんな中で1人だけ生還したなんて不自然な状況を作るわけにはいかない。俺はチケットは取ったものの直前で思い直して母さんと一緒に新幹線に乗り、飛行機には乗らなかった……そういう風に取り繕った。

 乗員乗客、合わせて132名が遭遇した異世界召喚。帰還者はこの俺ただ1人だった。


 だからこそ俺は、異世界召喚を許さない。あんなものはただの誘拐だ。そりゃあ中には、剣と魔法のファンタジーに心躍らせてそれを喜び、楽しもうとする者もいるだろう。それを否定する気は無い。

 けれど、大多数の者にとってはやはり、ただの理不尽な現象でしかない。それを俺は直にこの目で見てきたのだ。体験してきたのだ。

 邪魔をするな、こちらは異世界を楽しみたいんだ。そのように言われても止まる気は無い。それが俺のエゴでしかないことは解っているが、それでも俺は俺の主張を通す。

 今回の異世界召喚に巻き込まれた奴らは、全員連れ戻す。そして今度こそ、【異世界召喚】という魔法を完全に消失ロストさせてみせる。きっと、絶対にだ。


 あぁ、そういえば俺が『大賢者』だって話はしたよな? うん、俺ってば実は世界一……『コーラル』一の魔法使いなんだ。当時の、という但し書きは付くけどね。


 俺は『コーラル』にて友が出来、仲間が出来て行った。それはいい、いいんだけどいつの間にか魔王――後世には『支配の魔王』と伝えられている――と戦うことになってた……それって可笑しくないかな?

 しかもそのほんの数年後には新たな魔王――後世には『厄災の魔王』と伝えられている――と戦わねばならなくなっていた……本当に、これって可笑しくない?

 とにかく、そうして『支配』を皆で力を合わせて打ち破り、『厄災』を俺がタイマンで引き受けてぶっ倒した。それで2度世界を救った俺は目出度く大英雄、『大賢者』として称えられることとなったのだ。


 さて、そんな異世界召喚からの唯一の帰還者であり、『コーラル』の大英雄な『大賢者』たるこの俺、鈴代籐真改めトーマ・スズシロが新たな使命を胸に再度訪れた異世界にて現在何をしているのかというと。


 「忘れてた……俺ん家の鍵、置いて来ちまったんだったよなぁ……」


 久々に訪れた異世界にて、地に背を付けて引っくり返っていた……あるぇ?

 いや待って違うんだ。威厳もくそも無い姿だけど、これには訳があるんだよ。


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