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勇者の魔法使い ─自力で行う異世界転移─  作者: 篳篥
第1章 懐かしき『コーラル』
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第13話 初心者講習 魔法編 ~特別講師・大賢者~


 極々基本的な事とはいえ、魔法を人に教えるのは久々だ。

 そもそも俺は、誰かに教えて後進を育てるよりも、自分自身の鍛練と研究を優先する性質である。まぁ、『厄災』との戦いの後に死んだことにしたせいで他人と深い関わりを持つこと自体が少なかったのだから、それ以前の問題もあったけれど。

 そのため『俺が魔法を教えた』と自信を持って言えるのは、リリアナとトーヤぐらいだろう。ただしトーヤはその事実を口外しなかったため、世間的にはリリアナが俺の唯一の弟子と言われている。


「魔力ってのは、みんなが持っているものだ。魔力を持っていない生命体はほぼいないと言っても良い。実際に魔法適性が無い人でも、魔力を用いてマジックアイテムやスキルを使うことは出来るだろ?」


 ちなみに『コーラル』におけるマジックアイテムは、現代日本における家電のような存在だ。この地下の照明もそうであるように、人の暮らしとマジックアイテムは切っても切れない関係にある。

 そのためマジックアイテムに魔力を流す・込めるという技術は、皆当たり前に持っている。これはもう理屈では無く、感覚で覚えているようなものらしい。


 だからこそ、そういう概念を持たない異世界人(俺たち)は当初、マジックアイテムを使うことも出来なかった。何しろ誰かに教えてもらおうにも、『コーラル』の住人にとっては出来て当たり前のことだから俺たちが何故出来ないのかが解らない。そのためアドバイスの仕方が解らない。

 これはどちらかが悪いのではなく、育った環境の影響なのでもうどうしようもない。例えば日本に『コーラル』の住人が来たする。異世界人に家電の用途を説明することは大抵の人に出来ても、その仕組みまで事細かに説明できる人はそう多くないだろう。そういうことだ。

 しかし郷に入っては郷に従え。俺たちは当時、四苦八苦しながらマジックアイテムの使い方を習得したものだ……思わぬ副産物も有るには有ったけれど。


「で、だ。じゃあ魔法とスキルの差は何かって言うと当然、魔法適性の無い人は使えないのが魔法なわけだけど。そもそも、魔法適性って何だと思う?」


「ふぇ?」


 レベッカがかなり間の抜けた声を出した。構わず続けよう、答えを求めて質問したわけじゃないし。


「魔法ってのはね、魔力に魔法式を組み込むことで構成されるものなんだ。マジックアイテムとかは、魔法を対象に付与エンチャントして作る物だろ? それと元は同じで、魔力に魔法式を付与エンチャントした物が魔法。魔法適性の有無ってのは、この付与エンチャントが出来るか出来ないかってことなんだよ。えぇと……【水球】」


 右手と左手に1つずつ、小さな水の玉を作り出した。ごく初歩的な下級水魔法である……決して球技の一種では無い。

 ただし【水球】自体は下級水魔法ではあるが、そうして作り出した水玉をその場に維持し続けるのにはそれなりの技術が必要になる。それを知っているのはこの場ではオスカーだけだったようで、ほぅと感心するように自身の顎を撫でた。


「この右手の水玉を魔力のタンク、左手の水玉を魔法式の構成工場だと思ってくれ。で、必要量の魔力を練り……取り出し、魔法式を構成する。【着色カラー】」


 【着色カラー】は主に染色に使われる生活魔法である。文字通り、色を付けて染める効果を持つ。それにより右手の水玉が青色に、左手の水玉が赤色に染まった。


「これで魔法に必要な魔力と魔法式は準備された。魔法適性が有る人ってのは、この2つが繋がっている状態なんだ」


 言って両手の水玉を接触させると、それは団子のようにくっついた。


「そうして魔力と魔法式を組み合わせると……」


 2つの水玉。その境目から、赤と青が入り混じって紫色になった水が滴り落ちる。


「そんでもって、魔法式が不完全だったり、必要最低限の魔力量に達していなかったり、2つが上手く組み合わさらなかったりすると……」


 言いながら細かく操作する。

 赤(=魔法式)からの供給が少なくなればそれは青(=魔力)に飲み込まれて紫(=魔法)にはならない。逆もまた然り。2色の比率を合わせつつも混ざることは無いように操作するとマーブル状になり、これも紫にならない。


「これが魔法に失敗した状態。あくまでも例え話だけど、これが魔法の仕組み。そして魔法適性が無い人は、この2つが切り離された状態にある」


 今度は両手を離し、2つの水玉を遠ざける。


「こうなっていると2つを組み合わせることが出来ないから、魔法にならない」


 右手からは青い水を、左手からは赤い水をそれぞれ滴らせる。当然、それらが紫色に染まることは無かった。


「残念なのは魔法適性の有無が完全に生まれつきってことだね。こればっかりはどうしようも……ない」


 実を言えば、そのどうしようもない資質をどうにか出来る方法は有るのだ。少なくとも俺は1つだけ知っている。しかしこれは決して世に出してはならない方法なため、目の前の彼らに明かすことは無いだろう。


「けれど魔法にはならなくても魔力の放出は出来る。そんな人たちも使えるのがスキルってわけ。スキルってのは基本的に、個人の技術や才能に魔力という力を上乗せして威力を底上げするものなんだ。全部が全部そうでは無いみたいだけど、大体はそういう感じらしい……ここまではいい?」


 切りが良い所で確認を取って見ると、頷く3人。おい、リース兄妹はともかくとして、だ。


「オスカー、あんたまで感心顔で頷かないでよ」


 元Bランク冒険者なんだろ。


「いや、俺は魔法適性が無いから魔法の仕組みに関しちゃさっぱりでな。興味も無かったんだ。小難しい理屈を語られても頭痛くなるだけだしよ。そういう意味じゃあ、お前の説明は解り易い方だったぜ」


「そりゃどうも、ありがとう。とはいえ俺は人に教えることは滅多に無いから、ちょっと不安でもあったんだけど」


 けど解り易かったんならいいや。そうホッとしていると、アランが挙手をした。


「なぁ、ちょっといいか?」


「何?」


「俺はその仕組みを初めて知ったけど、今まで簡単な魔法は使えてたぞ? 魔法式とか魔力量だとか、そういうのを気にしたことは無い」


 あぁ、それね。


「簡単な魔法なら、理論を知らなくても感覚で出来ちゃうからね。物心ついた頃にはいつの間にか日常会話ぐらいは理解してるだろ? 初歩的な魔法が理論を知らなくても使えるのはそれに近い。けど難しい単語や難解な言い回し、滅多に無いような諺だったら調べたり学んだりしてから使うようになるはずだ。本格的に魔法を使うようになりたいなら、そのプロセスを踏むようにするんだよ」


 またも例え話を交えて説明すると、成る程と納得してくれた。


「じゃ、次に具体的な話に行こう。魔法ってのは、その発動に必要な魔法式の複雑さや魔力量によって位階分けされている。下から順に、下位・上位・高位」


 右手で3本の指を立てて突出し、そして1本ずつ折って説明する。


「下位魔法ってのが1番単純な魔法」


 2本目の指を折る。


「上位魔法ってのは基本的に、下位魔法の上位に位置する魔法」


 そして3本目、最後の指も折った。


「高位魔法は、上位・下位魔法とはまた違う位置づけに存在するもの。ただしその2つよりも難しいとされる。空間魔法や時魔法、回復魔法などの使い手のごく限られる魔法だ……尤も俺が【収納】を使えるみたいに、高位魔法でも下級だったらそこそこ使い手もいるんだけどね」


 ちなみに【鑑定】は情報魔法の1つであり、高位魔法である。


「そしてこの位階の中で更に、クラス分けもされている。こちらも下から順に、下級・中級・上級・最上級だ。ただし系統によっては、その更に上の神級ってのも存在する」


「系統?」


「その辺は後で纏めて話すよ。基本的にこれらは、難度が上がる程に魔法式は複雑になり必要な魔力量も増える。ただし、中には魔法式は滅茶苦茶複雑だけど必要魔力量は少なかったり、逆に魔法式は単純なのに必要魔力量はバカみたいにデカかったりっていう捻くれたのもあるけどね」


 そしてそういう捻くれたのに限って妙な効果を発揮したりするんだよ。


「さっきアランと話した、理論を知らなくても使える単純な魔法ってのは大体が下位下級魔法だ。んで、俺が昨日失敗した【転移】は最上級高位魔法……ついでに言っとくと、難しい魔法程失敗時の反動はデカい」


 こうして改めて話すと、【転移】に失敗という事態のヤバさは一目瞭然だなぁ。


「基本的に、同じクラスの魔法なら位階が高い方が難しい。下位下級魔法よりも上位下級魔法、上位下級魔法よりも高位下級魔法って感じでね。ただしそれはあくまでも同じクラスで比較した場合で、下位最上級魔法と高位下級魔法を比べれば下位最上級魔法の方がよっぽど大変だ」


 あ、レベッカがちょっと混乱しだしたみたい。段々解って来た、この子一杯一杯になると白目を剥いてくるんだ。


「……まぁ、ここまで来れば大丈夫か。俺たち自身の話に入ろう。さっき適性玉を使った時、アランが使った時は白の、俺が使った時は青の光が点っただろ?」


「ああ」


 問題無く話に付いて来ているアランが頷いた。


「適性玉は性質・属性も判別する。この性質や属性が、さっき言った系統ってのと関わって来るんだ。下位魔法なら水魔法とか、火魔法とか、風魔法とか。そういうのを系統って呼ぶ」


「つまり、魔法の縦割りが系統。系統内でさらに難度ごとに横割りにしたのがクラス。更に系統の難度ごとに序列を付けたのが位階ってこった」


 講師なのにずっと黙ってるのもアレだったのか、オスカーが久々に口を開いた。長いこと冒険者をやってきただけあり、魔法の仕組みには興味無くても魔法そのものの知識はちゃんとあるらしい。


「例えばさっきトーマが使った【水球】は正式には、『下位に属する水系統魔法の下級難易度である【水球】』だ。つってもこれじゃ長すぎるから、大体は『下級水魔法【水球】』としか言われねぇがな。言ってて俺も舌噛みそうだ」


 そうだね、俺だってそんなの普通は言わない。


「性質・属性は、そうだなぁ……その人の魔力を何に変換しやすいか、つまりは得意分野を教えてくれる。とはいえ得意な魔法が好きな魔法になるとは限らないし、違う属性の魔法を覚えられないなんてことも無い。あくまでも目安の1つだよ」


 実際、俺も色んな属性の魔法を覚えた。やってやれないことは無いのだ。


「下位魔法に属する系統が、そのまんま属性として使われる。火・水・土・風・雷・木・光・闇・音・無の10種類がそうだね」


「え、火・水・土……え?」


「……後でメモ書きして渡してあげるから」


 約束すると、猫耳娘はあからさまにホッとしていた。


「そして適性玉はこの性質に反応して光の色を変える。火は赤、水は青、土は茶、風は白、雷は黄、木は緑、光は金、闇は黒、無は無色。音だけは色じゃなくて金属音が鳴る」


「つまり、俺は風、トーマは水が得意分野ってことか」


「そういうこと」


 首肯するとアランは心当たりがあるのか、得心がいった様子を見せた。


「道理で村で魔法を習った時、生活魔法を除けば風魔法が1番使いやすいと思った。そういえば、生活魔法はどういう分類なんだ?」


「一応、無属性になる。無属性は他の9つの属性が無いもの全てを統括した系統だからね。ついでに言うと、無属性の人は得意分野を持たない代わりに、苦手分野も持たない傾向にある。つまりは自分の好きな系統がそのまま得な系統になるってこと」


 その辺、たまに悲惨な人がいるんだよね。本人は目立つのが嫌いなのに光属性だったり、超熱血なのに水属性だったり。だから問題があるってわけじゃないんだけど、その……イメージ的に。


「続けるぞ? 上位魔法に属する系統は下位魔法の上位と見做されている。火魔法の上位である熱魔法、水魔法の上位である氷魔法って感じでね。風魔法の上位は大気だったはず」


「大気?」


「空気とでも言えばいいかな? これが神級になると天候も操れるようになる」


 あ、そうだ。まだ神級の説明してなかった。


「神級ってのは、他のクラスと違って全ての系統に存在するわけじゃないんだ。ここの分けられるのは天変地異をも起こす魔法。まるで神の御業だ、という意味合いで付けられたクラス名らしい」


「天候って天気だよね? それって天変地異なの?」


「嬢ちゃん……良く考えろ。もしもお前さんたちの村に竜巻が連続で直撃したりしたらどうなる?」


 答えたのは俺では無くオスカーで、レベッカの頬は引き攣った。想像したんだろう。


「ただの雨だとしても、何日も続きゃ水害が起こる。反対にずっと雨が降らなきゃ干上がっちまう。神級魔法ってのはそんなのばっかなのさ……安心しろ。そんな魔法が使えるような奴がゴロゴロいたりしたら、神級なんて呼ばれてやしねぇ。完全に消失ロストしているわけじゃ無ぇが、使い手はいない。それが神級魔法の現状だ」


 そうそう。かつては地殻変動を起こして地形を変えた化け物もいたけど、あくまでもそれは昔の話だ。


「……こんな所かな? 魔法の仕組み、系統・位階・クラス。後は各自で魔法書を読むなり、先輩に聞くなりして魔法式を理解すること。修行によって魔力を高めること。魔法を使う上で鍛えるのはその辺かな」


「魔法使いって皆、魔法を使う毎に魔法式だの魔力量だのを一々考えてるの?」


 レベッカは辟易とした表情だ。頭を使うのが苦……ではなく、じっとしているのが苦手らしい彼女からして見ればまだるっこしいんだろう。

 そんな彼女に俺は苦笑を返した。


「そうでもない。要は慣れなんだよ。簡単な魔法を理論を理解してなくても使えるように、難しい魔法でも1度習得してしまえば後は割と勢いで出来ちゃうものなんだ。習得するまでが大変だけど。ただ、やっぱり難度が高い魔法を使う時とかは、魔法式の構築や魔力の捻出に時間が掛かったりして即時発動とは行かなくなる。優秀な魔法使いってのは、より早く正確に魔法を放てる奴のことを言うんだ。どんなに威力が高くても、発動までに時間が掛かり過ぎたり構築が甘すぎたりしたら、実戦では使えないからね」


「威力……やっぱり、人によって魔法の威力って変わって来るの?」


「あぁ」


 そうか、そこを話してなかった。


「そりゃそうさ。俺の知る限りでも、同じ【ヒール】……下級回復魔法のはずなのに回復可能範囲も速度も段違いってのもいるぜ」


 そう。オスカーの言う通り、確かに魔法は使い手によって威力が変わる。それは紛れもない事実だ。

 だが。


「ヒッデェ話だと、あれだ。下級氷魔法に【凍結フリーズ】ってのがあるんだがな? 前に俺の知り合いが使った時は目の前のモンスター1匹を短時間凍りつかせただけだった。けど伝説によりゃあ、大賢者様はその昔、『厄災』に対して放った【凍結フリーズ】1発の余波で死の大陸……当時は黒大陸か。その大陸を丸ごと凍りつかせたって話だぞ? しかもその氷はまだ大部分が溶けてねぇときてる」


「待って、それは無い。ってか、あり得ない」


 その話は断固として否定させてもらう。根拠だってある。


「魔法は魔力と魔法式の組み合わせによって成立するって話をしたよな? この時に込める魔力が少なすぎると魔法は発動しない。けれど魔力を込めすぎても暴発して失敗に終わる。けれど放つべき魔法式が許容する魔力量ってのは、一律では無い。えぇと……」


 何て言えばいいんだ? また例えるか。


「【水球】を放つためには、魔力が最低でも5は必要だとするぞ。この場合、魔力が4以下しか込められていなかったら発動しない。だから頑張って魔力を捻り出し、10の魔力を込めた。しかし【水球】の魔法式が対応できる魔力量は8までだったため、上限を超えてしまった【水球】は失敗。魔力の暴発が起こってしまうってことだ……大丈夫か?」


「うん……だいじょうぶ……」


「この場合、込められる魔力は5~8までだ。当然、魔力がより込められている方が威力は出る。この見極めを謝ると、さっき言ったような大失敗に繋がるってこった」


 ふむ、とアランが口を開いた。


「つまり……魔法式を一瞬で構築し、同時に8の魔力も練って【水球】を発動するのが最も優秀な魔法使いってことか?」


「この場合はそうなる。とはいえ、魔法式を一瞬で構築し、同時に5の魔力も練って【水球】を発動する魔法使いも十分に優秀な部類と言えるぞ。やっぱり練る魔力量は少ない方が早いから。その辺は個人の技術の問題だね。ある人は1秒で5の魔力を練って、ある人は2秒で5の魔力を練って……そういう風に差が出るから」


「成る程……レベッカには後で俺から説明しておく」


 見ると、レベッカはいつの間にかパンク寸前になっていた。


「あ~、別にいいよ。アランが解ってくれてるなら。レベッカは魔法は使えないわけだし」


 さて、反証に戻ろう。


「で、その大陸氷漬けの話だけど。第1に【凍結フリーズ】ってのはさ、あくまでも『対象を凍結させる』という魔法式を組み込んだ魔法なんだ。ここに『その氷は溶けない』なんて魔法式は存在しない。だから、いくら寒冷な黒大陸とはいえ【凍結フリーズ】で生み出された氷が1000年以上も溶けないなんてことはあり得ない。それに、対象……伝説の中ではその対象が『厄災』だけど、それ以外を凍らせるなんてことも無い。そういう魔法なんだ」


 魔法ってのはあくまでも魔法式に従った結論だから、案外融通が利かないんだよ。何でもかんでも思い通りに出来るわけじゃ無い。


「第2に、この『対象』とするのに大陸丸ごと1つってのは規模がデカすぎる。とてもじゃないけど、下級魔法である【凍結フリーズ】の魔法式ではそれを可能とするだけの魔力量を許容できない。暴発するのがオチだ」


 そしてそれだけの魔力を暴発させたらどうなるか……考えたくも無いな。


「だから、おr……大賢者……様が【凍結フリーズ】で黒大陸を丸ごと凍りつかせた、なんてのは完全に後世の作り話、デマだ。【凍結フリーズ】で大陸を丸ごと凍らせようと思ったら、何発撃たなきゃいけなかったことか……でも、魔法に明るくない人たちって結構そういう話を信じてるんだよなぁ」


 本当に、そうやって話を盛られていくのは残念だ。いや、盛られること自体は諦めてるんだけど。でもちょっと考えれば嘘だと丸わかりな話をされちゃうとさ……?


「何? どうしたの?」


 パチクリとした3対の目で見られ、少し座りが悪くなる。言いたいことがあるなら言ってよ。


「いや、恐ろしく理路整然と否定されたもんだから、つい納得しちまってな……お前、本当に詳しいな」

 

「何度も言うようだけど。俺は魔法使いなんだからね」


「そうか……そういやお前、水属性だったな。大賢者様と同じだ。んでもって氷魔法は水魔法の上位。ひょっとして目標にでもしてんのか?」


「………………そうだね」


 そっか、そういうことにしとこう。それなら大賢者に憧れて色々調べたんで詳しいです、と言えるもんな。その割にはトーマス教を知らない? ド田舎にまでは布教されてなかったんだ、で通そう。


「あれ?」


 ふと疑問を感じたのか、アランが首を捻った。


「でも確か、死の大陸って今も実際に結構な範囲が凍ってるんじゃなかったか? 大賢者様の仕業じゃないなら、一体どうしてそんな……まさか自然に凍ったとか? 確かにあっちは結構寒いらしいけど」


「? 何言ってるんだ? あれは大賢者……様がやったんだぞ? 他にいないでしょ、あの時代にそんなこと出来そうな人」


「は?」


 3対の目が、今度は驚きに見開かれた。


「え、でもお前がさっき、違うって」


「俺が違うって言ったのは、黒大陸を凍りつかせたのが【凍結フリーズ】1発って所だ。黒大陸を凍らせた時に使ったのは【凍結フリーズ】じゃなくて、【絶対零度アブソリュート・ゼロ】だ……と、思う」


 ヒクリ、とオスカーが喉の奥を引き攣らせた。


「ア、【絶対零度アブソリュート・ゼロ】だと……? そりゃあれか、神級氷魔法の【絶対零度アブソリュート・ゼロ】か? 指定した範囲の全てを永久に凍りつかせるとかいう、あの……」


「少し違う。【絶対零度アブソリュート・ゼロ】は別に永久に凍りつかせるわけじゃないよ。いつかは溶けるから。いつになるかは解らないけど……うん。きっと大賢者様も、約1400年が経った今でも溶けてないってのは流石に想定外だったと思うよ」


 いや本当、マジでね。


「あ、これはあくまでも俺の私見でしかないけどね。ただ、大賢者様なら神級魔法でも使えただろうな、と思って。だったら【凍結フリーズ】1発で大陸を氷漬けにしたっていう話よりは、こっちの方がまだ現実的なんじゃないかなって」


「神級魔法の時点で現実味は薄れてるが……そうだな。大賢者様だからな」


 乾いた笑いを溢したオスカーは、多分思考を放棄している。無理も無い。俺だって、もしも他人だったら1回の魔法で大陸を氷漬けにしてしまうような化け物のことなんて考えたくない。そしてそんな技を食らっても死なない化け物も大概である。

 結局のところ、過去の英雄のことだから、で納得したり楽しんだりするのが無難なのだ。


「ま、そんなわけで。俺の魔法講座はこんなところかな? オスカー、補足とかはある?」


 パンと1つ手を叩いて尋ねるとオスカーは少し考え、そして首を横に振った。


「いや、無ぇな。よし、これにて初心者講習は終了! お前ら、明日……は祭りだからそっちに行くか。解放祭を存分に楽しんだら、気合入れて仕事に取り組め! 勿論、無茶は禁物だ! トーマ、お前はあとでカウンターに昇格申請してこいよ! それじゃあ、解散!」


 よっしゃあ、終わったぁ!


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