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勇者の魔法使い ─自力で行う異世界転移─  作者: 篳篥
第1章 懐かしき『コーラル』
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第11話 初心者講習 座学編


 部屋の前で別れた後は、翌日の初心者講習までリース兄妹との再遭遇は無かった。まぁ、同じ宿とはいえ別に約束してるわけでも無い。普通だろう。


 ちなみに『猫の目亭』での食事は非常に美味だった。ギルドの食堂が可哀そうになってくるほどである……いや、ギルドの食堂も決して不味くはないんだけど。

 イストルとの約束もあるからどうせもう数日はこの街に滞在するんだし、その間はあそこに連泊しようと決めた。滞在先を決めるうえで、食事というのは非常に大事なのである。教えてくれたサマンサ、ありがとう。

 もう1度ギルドで薬草・薬品を売り払えば、宿泊代ぐらいは稼げるし。昔暇を持て余してた時期に、暇つぶしで摘んだり作ったりしてストックしておいたのが大量にあるんだよ。あ、暇を持て余してた時期ってのは、引き籠り生活を送りながら魔法の研究をしてて、でも中々成果が出なくて行き詰ってた頃の事ね。


 さて、そんなこんなでやって来ました初心者講習。

 

 朝10時集合と言われていたので9時半頃には着くように宿を出る。ゆっくり歩いてたら予定を5分ほどオーナーしてしまったけど、遅刻では無いので問題無いだろう。俺より10分ほど遅れてリース兄妹が、そしてそれからさらに5分が経った10時10分前に講師が集合場所に現れ、それで今日のメンバーは全員集合となった。

 そっか、やっぱり俺とリース兄妹以外には昨日ギルドに登録した人はいなかったのか。


 現れた講師は、軽めの鎧を着こんで帯剣もしている壮年の男性だった。元冒険者のギルドの職員と聞いていたけれど、職員と言うよりはむしろ冒険者そのものに見える。本当に引退しているんだろうか?


「よく来たな、新米ども! 俺が今日、お前らの初心者講習を担当するオスカーだ!」


 口を開いたその男・オスカーだが、その声は非常に活気に満ち溢れていた。やっぱりこの人、何で現役を退いたんだ?


「まずは移動するぞ。今日はたまたま祭り直前で人が少ないが、本来ここは公共の場だからな。移動先はギルドの地下だ。講習はそこでやる」


 確かに今日も昨日と同じく、食堂は賑わっているのに2階のカウンターはガラガラだった。むしろ今日の方が少ないぐらいだ。みんな、祭り好き過ぎだろ。

 オスカーに引き連れられ、俺たちはぞろぞろと連れ立って階段を下りる。地下へ降りる階段は食堂の厨房に入る扉の横にあった。


「そっちには行くなよ! そっちは酒や食料の貯蔵庫だからな!」


 階段を降りきった先には左右それぞれ1つずつ扉があった。オスカーは左側の扉を開いて俺たちを中に促しつつ、その正面の扉を指差した。そうか、だからこんな見つけにくい所に地下への階段があるのか、と納得する。


 入った先は地下だけあって真っ暗だったが、最後に入ったオスカーが入り口のすぐ横のマジックアイテムを起動させるとすぐに明るくなった。明るすぎず暗すぎずの丁度いい塩梅の光が室内を照らす。


 中には学校の体育館ぐらいの広さのリングと、どこかに通じているらしい扉がいくつかある空間があった。地上に見えていたギルドの面積よりもずっと大きい。地下だから成せることなんだろう。【空間拡張】の魔法が施されているようには見えないし。


「ここが闘技場。やっぱ今日は人がいねぇな……で、いくつか扉があるのが見えるだろ?」


 確かに見えるので、1つ頷く。ほぼ同時にリース兄妹も頷いていた。しかもよくよく見れば、扉には数字が割り振ってある。


「1の扉は武器、2の扉は防具、3の扉はマジックアイテム、4の扉は薬草・薬品類、5の扉はそれ以外の装備品を保管している倉庫だ。ギルドに登録した冒険者ならそれぞれ貸し出しを行っている……薬の類は販売だから、薬屋に行った方が早ぇけどな。ただし破損・紛失した場合は弁償または賠償となるから気を付けろよ」


 装備品の貸し出しだと!? どこまで親切になってるんだ、冒険者ギルド!


「この闘技場も、事前に申請しておいてくれりゃあいつでも使用可能だ。ただし、やり過ぎて壊したりしねぇように!」


 肝に銘じます、はい。


「ただし……そこのボウズ共」


 俺とアランを見据えるオスカー。


「テメェらはよっぽどの緊急時でも無い限り、6の扉は開けちゃいけねぇ。どうしても開けたきゃ、死の覚悟をしてからにしろ」


 恐ろしく物騒なことを言われた。


「え、死って……ってか、何で俺たちだけ」


「明言はされて無ぇがな。6の扉の先は女子更衣室ってのが暗黙の了解になっている」


「了解」


「触れることすらしないと誓おう」


 俺たちは揃って、それはそれは心の籠った宣誓した。だって、女性冒険者の更衣室ってことだろ……ガチで怖ぇよ。ぶった切られそうだ。ナニをとは言わないけど。


「続けるぞ。1階と2階はもう知ってんな? 1階が食堂で2階がクエストの受注や採集物なんかの買い取りをするカウンターだ。3階は職員しか入れない事務室や待機室だから、お前らが知る必要は無い。そして冒険者ギルドはどこの支部に行っても大体が同じ造りになっている。もしも他の街のギルドに行っても、遠慮なく利用しろよ」


 いえっさー。


「施設の説明はこんな所か。冒険者ランクとクエストランクについて、基礎的な部分は登録時に受付で聞いてると思うが、もう少し突っ込んだ話もしておくぞ」


「お願いします」


 俺がペコッと頭を下げると、オスカーは頬を掻いた。


「あー、あまり固くなるな。敬語もいらねぇよ……それで、だ。クエストは基本的に、3種類ある」


 言って3本の指を立てると、それを1本ずつ折っていく。


「常時依頼、指名依頼、そしてこの2つ以外が通常依頼に分類される。常時依頼と通常依頼は……ボウズ、トーマっつったか? 昨日、お前もクリアしただろ?」


「え? トーマ、もうクエストやったの?」


 レベッカが目を丸くした。いつの間に、と言わんばかりだ。


「やったって言うか、お金を作るのに薬草や薬品を売ったら、俺が受けられるランクのクエストにそれの採集があったんだよ。運が良かっただけだ」


 もしくは裏ワザとも言う。もしもソフィが事前に仮登録を勧めてくれていなければ、あれらをクエスト達成とは認めてもらえなかっただろう。


「常時依頼は、常に需要がある薬草の採集や倒しても倒しても湧いてくるモンスターの討伐に対して出ているものが殆どだ。それを受けられるランクの冒険者なら誰でも出来る。1度に全てを達成できなくても大丈夫だ。例えば薬草10枚で1回分の常時依頼だったら5枚ずつ2回持ってくれば認められるし、スライムを5匹倒して来いっつー以来だったら1回1匹ずつ5回に分けて倒しても認められる。薬草ならカウンターが枚数分の査定表を渡してくれるし、モンスターならギルドカードに討伐モンスターリストが載るからすぐに解る」


 そして、とオスカーは続ける。


「通常依頼だが、冒険者の間で単にクエストと呼ばれる主にこれだ。常時依頼はギルドが依頼主になっているが、通常依頼はそれぞれで依頼主が違う。行商人の護衛や手強いモンスターの討伐、遺跡の調査……そういうのは大体通常依頼だからな」


「トーマはその2つともクリアしたのか?」


「うん。Gランクの常時依頼を3種類4回と、Fランクの通常依頼を1回」


 そして今日も帰る時にやろうと思ってる。


「おいお前ら、今は大人しく聞け。最後、指名依頼は文字通り、指名を受けて受けるクエストだ。自由参加の常時依頼や自己責任の通常依頼と違い、指名依頼は基本的に拒否できない。先方がよっぽど悪質なら別だが、そういった場合は本人に話を通す前にギルドの方で断っている。だからもし指名依頼を受けたら、全力を尽くせ。尤も、指名依頼を入るようになるのはCランク以上だから、お前らには暫く縁は無いだろうがな」


 更に言うなら、指名依頼を持ち込まれるのは大抵が名の売れた冒険者だ。つまり、Cランク以上になっても地味~に活動して目立たないようにしていれば、指名依頼が入ることは滅多に無い。


「次に昇格についてだ。おいトーマ、ギルドカードを出してみろ」


「あ、はい」


 言われ、懐からギルドカードを取り出す。オスカーはリース兄妹にも俺のギルドカードを見てみるように促した。


「ほら、このランクの横に付いている数字。これがポイントだ。これが満たされると昇格が可能になる。ただし、昇格するには本人がギルドに行って申請しなきゃならねぇ。加えて」


「GランクがFランクに昇格するには初心者講習を受けていることが絶対条件、Bランク以上に昇格するには試験をパスしなければならない……だよね?」


 ソフィに教わったことをそのまま口にすると頷かれた。


「そうだ。昇格に必要なポイントが溜まった状態だと、昇格するまで次のクエストが受けられなくなるから注意しろよ……ただし、その状態でもパーティの一員としてならクエストに参加できる。ポイントを得ることは出来ねぇがな」


「ハイ、質問!」


 ビシィッと挙手をするレベッカ。


「GランクからFランクに昇格するには50ポイントが必要みたいだけど、今、トーマは62ポイント溜まってるよね? これってどうなるの?」


「必要ポイント分以上が溜まってる場合は繰り越しだ。つまりコイツの場合は、次のランクへの昇格に必要な分の……FランクからEランクに上がるには100ポイント必要なんだが、初めから12ポイントを持っている計算になる」


「あの、俺も質問いいかな?」


 レベッカとは対照的に、アランの挙手は控え目だった。


「必要ポイントが溜まった状態だと次のクエストが受けられないって、Cランクまではそれでいいだろうけど、B以上になる場合はどうなんだ? 試験を受けても、合格しなければ昇格できないんだろ? 落第してたらずっとクエストも受けられずにくすぶり続けるのか?」


「それか。そういう場合はちっとばかし事情が変わる。例え試験に落ちて昇格できなくても、上を目指す意志が認められれば特例として、クエストを受けることは出来る。ただしポイントは付かないし、猶予期限は5年だ。試験は何度でも受けられるが、5年経っても合格できなきゃクエストは受けられなくなる。試験は5年が過ぎても受けられるが、5年経ってもダメだった奴がその後に昇格できたって話はまず聞かねぇ。除名処分以外の理由で冒険者を辞める奴は、大抵がこれだ」


 そこまで言って、オスカーは苦笑いした。


「かくいう俺も、Aランクに上がることが出来なかったクチだ。クエストが受けられねぇからってギルドへの登録が抹消されるわけじゃねぇし、冒険者としてやってけねぇってわけでもねぇが……限界を感じてな。それで現役を退いて、今はこうして職員として働いてんだ」


 なるほど、そういうことだったのか。ってことは、オスカーは元Bランク冒険者ってことか。


「悪いな、つまらねぇ話をしちまった……まだ質問はあるか? 無いなら続けるぞ」


 俺には特に質問は無い。リース兄妹にも無いようだ。2人は若干気まずげな様子だが。


「クエストに設定されたポイントは基本的に、常時依頼で10、通常依頼で20、指名依頼で30だ。クエストを達成すると冒険者はこれだけのポイントを獲得する。ただし、自身のランクより上のランクなら1割増し、下のランクなら1割減だ」


 えっと、てことは昨日の俺のポイントの内訳は。


俺(Gランク)……Gランク常時依頼(10)×4+{Fランク通常依頼(20)×1.1}×1=62


 なるほど、ピッタリだ。


「あくまでもこれは基本的な目安だ、クエストの難度や規模によっては変動もある。特に高ランクだとな。だがまぁ、変動したとしてもさほど大きな差は無ぇ」


 ふむふむ。


「次に達成報酬についてだ。これはクエスト達成時に支払われる報酬のことだ。大抵は依頼書に依頼内容と一緒に書かれてるから、各々で自分の実力やクエストの難度と相談して稼げ。ただし注意しなきゃならねぇのが、クエストに失敗した場合の違約金だ」


「違約金?」


 レベッカが何故違約金? といった感じで首を傾げた。


「クエストを受けるってのはつまり、この仕事をこなしてみせますって先方に示すことだからな。これは一種の契約なのさ。だからそれを失敗するってことは契約違反、よって違約金が発生するってこった。ギルドは冒険者のサポートはするが、クエストに関してはあくまでも仲介所でしかねぇ。だからクエストに失敗した場合の違約金は冒険者自身が払うことになる。んでもって違約金は、基本的にそのクエストの達成報酬と同額だ。場合によっては増減するがな」


「もしも、先方の方が誤ったクエストを出していたら?」


 げんなり顔をしたレベッカの頭を撫でつつ、アランが尋ねた。


「ギルド側でも多少は事前調査はするからそういった事例は少ねぇが、その場合は違約金の必要は無い。例えば、Gランクのお前……アランっつったな? お前がFランクの通常依頼を受けてモンスターの討伐に行ったとする。だが、そこにいたのは依頼にあったモンスターでは無かった。この場合はクエスト失敗とはみなされない。むしろ、もしもそこにいたのがもっと凶悪なモンスターだったりした場合は迷わず逃げろ。新米の内は慎重に動け。無茶な事をすると死ぬぞ」


 軽く言っているが、オスカーの目は本気だった。実際、そうやって血気に逸った新米が何人も死んでるんだろう……っていうか本当に死ぬからな、そういう奴ら。俺だって死にかけた。


「ああ、そうだ。パーティを組んでクエストに挑んで達成した場合だがな、ポイントは人数で等分した後にランクに応じた計算をしてから分配される。達成報酬は自分たちで取り分を決めろ。どうしても決まらない場合はギルドに仲介を頼むって手もあるがな」


「はい、質問」


 今度は手を挙げたのは俺だった。


「確か、必要ポイントが溜まった状態でもパーティでのクエストは受けられる、ただしポイントは付かない……だったよね? その場合はポイントの分け方はどうなるんだ?」


「あー、そうだな。例えば……お前ら3人がパーティを組んでFランクの通常依頼を受けたとするだろ。その場合、クエストを達成した場合のポイントは20だ。3人じゃ割り切れねぇがそういった場合は切り捨てで1人6ポイント。受けたのが1ランク上のFランククエストだから、それに1割増しすると6.6ポイント。この場合は繰り上げになるから最終的に1人7ポイントを得ることになる。だがトーマ、お前はポイントを得られない状態だ」


「その場合は……他の2人で20ポイントを分けて1人10ポイントずつ、さらにそれぞれ1割増しで11ポイントを得る?」


「と、思うか? だが残念ながらそうはならねぇ。この場合でも他の2人が得るのは7ポイントのみだ。トーマはあくまでもポイントが付かないってだけで、クエストは受けてるわけだからな」


 ふむふむ。


「じゃあもう1つ質問。パーティを組んだら受けられるクエストのランクも変わるんだろ? だったら、えーと……例えば、AランクとGランクの冒険者がパーティっていうか、ペアを組んだとすると、A~Fランクまでのクエストを受けられるようになるんだよな?」


「制度の上ではな。実際には殆ど無いような組み合わせだが」


 そうかな、あっても可笑しくない組み合わせだと思ったんだけど。Aランクの人と一緒に行動できればGランクとしては安心安全だろうし……あ、Aランクの方にメリットが無いか。


「まぁ、例え話ですから。それでこのパーティがAランクの通常依頼を受けた場合、どうなるんですか?Aランク冒険者の方は10ポイントでいいんだろうけど、Gランクの方は?」


「その場合は……16ポイントになるな。基本、ランクが1つ上がるごとに1割づつ割増しされると思ってくれ。だからGランクがAランクのクエストをこなした場合は1.6倍になる」


「……なるほど、だからこういう組み合わせが滅多に無いんだ。Gランクの人からしたら、Aランクの危険なクエストをこなしても16ポイントしか貰えないって、割に合わないよね」


 まぁ、そうでなくても流石に危険なAランクのクエストに付いて行くGランクなんてまずいないだろうけど。


「本人の経験にはなるから、全くの無駄とは言い切れないがな。もっと言うと、Gランクの冒険者なんてAランクのクエストに付いて行っても足手纏いになるだけだ。それじゃあ達成報酬の分け前をもらうどころか、むしろ授業料を払わなきゃいけねぇってもんだぜ」


「ってことはさ、ひょっとしてさっきの組み合わせでFランクの通常依頼をこなした場合に得るポイントは、Aランク冒険者がが5ポイントでGランク冒険者が11ポイント?」


「その通りだ。パーティを組んだ場合に下のランクの奴は上のランクのクエストを受ける時はランクごとに1割づつ割増しされるが、逆に上のランクの奴は下のランクのクエストを受ける時はランクごとに1割づつ割引きされる。だからAランクの奴がFランクのクエストを受けるとポイントは0.5倍になるってこった」


 ふむふむ成る程と話し合ってる傍らで、いつの間にかレベッカが白目を剥いていた……そういえばこの子、勉強苦手なんだった。


「おーい、大丈夫か? 付いて来てるか?」


「だ、だいじょーぶ……でも、さんすうにがて……」


 あ、これ本当にヤバそうな感じのやつだ。そう思った直後、アランが凄くイイ笑顔でレベッカの肩を叩いた。


「レベッカ……A・C・Dランクの3人組みパーティの冒険者がBランクの通常依頼を達成した場合、各々が得るポイントはどれだけだと思う?」


「!?!?!?!?!?」


 あ、レベッカがパンクした。尻尾がピーンと逆立って、毛がブワッとなってる。

 アランが出した問題は実際の所、そんなに難しいものじゃない。けれど、元々算数が苦手らしい上にテンパっている今のレベッカを追い詰めるには十分な威力を持っていたらしい。

 こいつ、鬼のような兄貴だな……明らかに妹で遊んでやがる。それとも、昔から座学を放り出して来たらしいレベッカへの意趣返しか。


「あーっと……まぁ、ポイントの計算はギルドの方でやるからよ、お前らは基本的なシステムさえ理解してくれてりゃいい……おい、泣くな嬢ちゃん!」


 オスカーも困ってるじゃん……って、レベッカ本当に涙目だ。やめたげてよぉ。


「解ったら今後はちゃんと勉強もすること。さ、オスカー。続きをお願いします」


 あ、やっぱり意趣返しだったのか。レベッカも悟ったようで、もの凄いジト目で兄を睨んでいる。あ、尻尾がゆ~らゆらと揺れて。猫が尻尾を振ってるのは不機嫌な時なのに。

 しかし何だ、この空気の中で丸投げされたオスカーがちょっと哀れになってくるなぁ。


「あ~、そうだな……けどまぁ、こんな所か。他にも何か質問がある場合はギルドの職員でも先輩の冒険者でも、好きに聞きに行け。大抵の奴は解る限りは教えてくれるだろうさ」


 あ、もう終わりだったんだ。良かったねオスカー、こんな空気の中で説明続けることにならなくて。


「最後に、これから教えるのはギルドにおける掟だ。これが守れないと思うようだったら、この後すぐにカウンターへ行って登録を取り消して来い」


 これまでと一転、オスカーの雰囲気が変わった。陽気で豪快な感じのおっちゃんから、どこか厳粛な感じへと。自然、俺たちの姿勢も正される。


「まぁ掟とは言っても、そんなに難しいことじゃねぇ。殆どは常識的に考えりゃ解るこった……行くぞ」


一、冒険者の行動は自己責任

一、法に触れてはならない

一、一般人に危害を加えてはならない

一、ギルドからの指令は絶対 (ただし指名依頼以外での指令は滅多に無い)


「以上だ。簡単だろ? だが、時々守れないバカが出て来る。掟を破った場合、悪質だったり反省や改善の意思が無いとみなされた場合は除名処分などの制裁が加えられる。気を付けろよ」


 オスカーは俺たち1人1人の顔を確認し、それぞれが登録を解消する気が無いことを確認した。


「よし! そんじゃあ次は実技に関してだ! 昼飯食って、1時間後にまたここに集合! いいな!」


 その号令と共に、俺たちは一時解散した。

 実技というなら、戦闘力の事だろう。つまり、俺の正念場はこれからだ。

 さて、俺はどれぐらい誤魔化せば無難なのかねぇ?

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