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勇者の魔法使い ─自力で行う異世界転移─  作者: 篳篥
第1章 懐かしき『コーラル』
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第10話 時の流れは残酷


 本日の宿は『猫の目亭』に決めた。食堂が併設されていると聞いたので、ギルドの食堂の味と比べてみようと思ったのだ。それと『猫の目』っていう名前に惹かれたというのもある。


「いらっしゃ~い!!」


 辿り着いた『猫の目亭』の扉を開けると、恰幅の良いおばちゃんが元気よく声を掛けてくれた。おばちゃんは食堂のテーブルを拭いている所だったらしい。流石にもう昼飯時は過ぎたようで、食事客は殆どいなかった。若干名、茶を飲みながら談笑しているのみである。

 食堂は奥の厨房がこちら側からも見ることが出来る造りになっていて、そこではおばちゃんと同年代らしきおっちゃんが何やら作業していた。


「こんにちわ。あの、部屋は空いてますか?」


「ああ、空いてるよ! 泊まってくかい?」


「はい。あの……この宿はお2人でされてるんですか?」


 恰幅のいいおばちゃんと髭を生やしたおっちゃんの経営……『猫の目』なのに……。

 そんなこの世界では誰一人共感者を得ることが出来ないであろう考えは胸に秘めつつ尋ねると、おばちゃんはころころと笑った。


「そうさ、私たち夫婦が……ああいや、うちの娘もいるけどね。よく手伝ってくれる看板娘だよ! ハンナ! ちょっとこっちにおいで!」


 何、娘とな!?


「はーい! なぁに、おかあさん?」


 出て来たのはとっても可愛らしい女の子だった。

 淡い茶髪をツインテールにした、本当に、とっても可愛らしい、4~5歳ぐらいの女の子である。


「看板娘……うん、まぁ、そうだね……」


 この可愛い幼女なら、食堂でちょこまかとお手伝いでもしてたらお客さんたちは皆微笑ましげに見るだろうから、看板娘というのは決して間違っていないだろう。

 うん、間違ってはいないんだ……でも『猫の目』なのに……現実はこんなもんかぁ。


「お客さんだよ、ご挨拶は?」


「あ! えと、いらっしゃいませ! 『猫の目亭』へようこそ!」


 ちょっとあたふたと、まだぎこちない様子でペコリと頭を下げる幼女、ハンナ。確かにこれは間違いなく看板娘だ。可愛い。和む。もう『猫の目』とかそういう名前で連想するものなんてどうでもいいや。

 けど母子ってことは、ひょっとしたらおばちゃんも昔はハンナの様だったのかも……時の流れは残酷だ。


「こんにちわ。一泊いくらかな?」


 視線を合わせるようにしゃがんで問いかけると、ハンナはちょっと固まった。うろうろと母と俺の間で視線を彷徨わせたが、その母に視線で促されたのを受けて決意の目をした。


「いっぱくにしょくでぎんか3まいです! えと、こーか7まいでおべんとうがでます!」


 言い切って、どうだ、と言わんばかりに胸を張るハンナ。マジで和むわ。こう、まるで孫を見ているような気分になるというか。


「そっか。それじゃあ一泊お願いしようかな」


 ポンポンと小さな頭を撫で、再び立ち上がる。その直後、ハンナは今度は父に呼ばれて厨房に走って行った。元気な子である。


「すまないね、まだ不慣れな子で」


「いえ、良い子じゃないですか……ただ、出来ればもう少し色々と教えて欲しいんですけど」


「勿論さ。あの子も言ってた通り、基本は一泊二食で銀貨3枚だよ。さらに鋼貨7枚で翌日の弁当が付く。坊やは冒険者かい? だったら一泊じゃなく、数日分を纏めて支払うことを勧めるよ。昼の1時までに宿泊料が払われなかった場合は部屋の荷物を預からせてもらうからね」


「その場合の荷物はどうなるんですか?」


「1ヶ月はこっちで保管しておくけど、その後は処分させてもらうよ。悪いけどいつまでも置いておけないからね」


 ふぅん。俺の場合は【収納】があるからその心配は無いけど。


「それから、浴場も使うなら追加で鋼貨5枚。洗濯は量にもよるけど、大体鋼貨3枚~5枚だね。その場合は今夜10時までに洗濯物を出しといておくれ。最後に一応言っとくと、馬小屋を使うなら一晩で銀貨1枚だ。それで、どうする?」


 一応と言うのは、俺が馬を使っているようには見えないからだろう。しかしふむ、それなら……。


「一泊でお願いします」


「おや、いいのかい?」


「はい、とりあえずは。俺は置いてくような荷物はありませんから。馬小屋も使いませんし、明日の弁当もいりません。浴場もいいです」


 日本人として浴場は少し迷ったけど、生活魔法に【清潔クリーン】がある。これ1つで服でも体でも何でも綺麗に出来る。清潔ささえ保てられれば、入浴は1日ぐらいしなくても問題無い。


「それじゃあ銀貨3枚だね」


「はい、それじゃあこれで」


 銀貨3枚丁度を渡すと、おばちゃん改め女将さんは1度カウンターに入り、鍵を1つ取って来た。


「部屋は2階の3号室だよ。夕飯は6時から9時までの間にこの食堂に降りておいで。朝食は朝5時から9時の間だ。この時間に予定があってダメな場合は早めに教えておくれよ。用意しておくからね」


「わかった。ありがとう」


 言って鍵を受け取った直後、ハンナがこちらに戻ってきた。


「おかあさん! おとーさんがばんごはんのしこみてつだってって! ……あ!」


 女将さんを呼びに来たハンナは同時にこちらも見やり、そして顔を赤らめた。

 え、何? まさか今になって俺にニコポ・ナデポスキルでも備わったのか!? 相手は幼女だけど。

 しかしその直後、俺は肩を叩かれた。


「やぁ、トーマ。また会ったな」


 振り向くとそこにはイケメンがいた。爆発しろ。

 そしてハンナの視線は俺では無く背後のイケメンに向けられていた。爆発しろ。


「……本当に、よく出くわすよね。こんな広い街なのに」


 うん……知ってたよ。俺はモテないってことぐらい。いつもいつも、何故かいい人止まりだってことぐらい。


「そりゃ会うでしょ。1度目は冒険者ギルド、2度目はこの宿屋。1度目は目的地が同じだったんだし、2度目はトーマもギルドの入り口にいたお婆さんのアドバイスでここに来たんじゃないの?」


「まーね」


 再び出くわしたのはまたもやアランとレベッカというリース兄妹だった。

 最初に門の前で出くわした時はあの時だけの縁だと思ってたけど、こうも遭遇しまくってるとそうは思えなくなってきた。明日の初心者講習も一緒に受けることになるだろうし。


「あ、そうだ。明日もよろしく。初心者講習受けるんだろ? 多分、俺も一緒だから」


 しかしその言葉にレベッカは猫耳をピクリと反応させ、顔を顰めた。え、何で?


「それね。あ~あ、知ってたら祭りの後に登録に行ったのに!」


 今にも地団太を踏みそうな勢いだ。良かった、俺が嫌なわけじゃないらしい。どうどうと宥めておく。レベッカも本気で不機嫌になっているわけでは無いようで、すぐに普段の調子に戻る。

 

 そしてそんな俺たちの横で、アランは女将さんと話をしていた。ハンナがそんな女将さんの足元にしがみ付いてチラチラとアランを見ていることに、果たして彼は気付いているのかどうか。

 

 俺と違い、2人は5日分の宿泊代を纏めて支払うらしい。手馴れているように見えたが、そう言えば確か2人の父親は宿屋の親父だって言ってたよな。ってことは、2人も元はハンナと同じ宿屋の子。そりゃあいくらかは慣れもあるんだろう。


「はい、あんたたちは4号室と5号室だよ。これが鍵だ」


 どうやら今夜はお隣さんになるようだ。


「ね、トーマも今来たの? 遅かったね。あたしたち、ギルドに登録した後はここに来る前にちょっと街を見物してたから、結構時間経ってるのに」


 アランが女将さんといくつかやり取りを交わす間、レベッカが俺の腕を引いて話かけてきた。


「俺はあの後ギルドの食堂で昼を食べてから、服屋に行って、職人街にも行こうとしたから」


 言うと、レベッカは俺の身なりを上から下まで検分しだした。


「そういえば、あの暑そうな服じゃないね。職人街に行こうとしたって、実際には行かなかったの?」


 どうやらこの世界の人にも学ランは暑そうな服に見えていたらしい。そして続く言葉に溜息を吐く。あ、思い出したらまた眩暈が出そうに……。


「途中で凄い人込みを見付けてさ。何だろうと思ったらトーマス教の教会だった。で、色々疲れたから今日はもう切り上げることにしたんだ」


「あぁ、もうすぐ解放祭だもんね」


 トーマス教と言っただけで人込みの理由まで察せられてしまった。そうか、トーマス教はそんなに布教された宗教なのか。


「俺、トーマス教なんて知らなかったんだ。そんなに有名なの?」


「まぁね。イスメ村……あたしたちの村には聖神教の教会しかなかったけど、トーマス教については知ってるわよ。むしろ、トーマが知らなかった方がビックリなんだけど。そんなに辺鄙な場所にあったの? あんたの家」


「そうだね。昔は身内以外の人が来ることなんて600年近い間1度も無かった……らしい場所にあるよ」


 ふ、と遠い目になる。これもまた事実だからだ。今思うと、俺ってもの凄く気合の入った引き籠りだったんだなぁ。いや、別に外出をしなかったわけじゃないけど。

 どんなド田舎だそれは、と言いたげにちょっと引いた目をしてるレベッカに、誤魔化すように苦笑いを向けた。


「そういえば、トーマス教って元々はトーマス協会ってやつだったんだって? 今はどんな活動をしてるか知ってる?」


「え? えーっと、確かカルハル大迷宮の探索とか、封印解除のための新たな魔法の開発とかじゃなかったかな?」


「それと消失魔法ロストマジックの探索・復元もな」


 女将さんとのアレコレは済ませたのか、アランが会話に入って来た。そしてその内容は俺が得たい情報と被っていた。


消失魔法ロストマジック?」


 俺の本来の目的の1つ、消失ロストしていたはずの【異世界召喚】が再び使われた理由を探ること。そして最終的にはその根を断つこと。


「あぁ。あ、部屋に行きながら話そうぜ」


 言って階段へと向かうアランに俺も付いて行く。レベッカもだ。


「かつて大賢者様は消失魔法ロストマジックの研究に熱心だった、と言われているからな。その志を継ごうってことらしい」


 継がなくてよろしい。

 確かに俺は消失魔法ロストマジックを研究しまくったよ。世に知られた魔法には日本へ帰るための手段が無くとも、そこにならあるかもしれないと思ったから。結局は見付からなくて、自分で作ったんだけどさ。


「それで? その研究は実を結んでるのか?」


 少しドキドキしながら先を促すと、アランは苦笑した。


「禁忌魔法の方は今の所、全然ダメらしい。まぁ、本当は成功してるのに教団のトップが秘匿してるから俺たちは知らないってだけかもしれないけど」


 その答えに少しホッとした。良かった。

 禁忌魔法が禁忌と言われるのには、それ相応の理由がある。【異世界召喚】がいい例だ。だから日本に帰って来る前に【異世界召喚】の他の禁忌魔法も一切合切――少なくとも俺が知る限りは――破棄してきたってのに、復元されちゃあ堪ったもんじゃない。

 自分は研究して復元させておきながら人はダメだなんて勝手な話だが、これが嘘偽りない内心なのである。


 ただ、実際に禁忌魔法として破棄したはずの【異世界召喚】は使われてしまった。となるとこれから復元に成功するのか或いは……アランの言う通り、既に復元させていて秘匿しているのか。


 どちらにせよ、今回の【異世界召喚】の背後にトーマス教が関わっている可能性は十分にある。勿論、全く別の何かのせいという可能性もまだまだあるけど。

 これに関してはこれからも探って行った方が良いだろう。


「トーマス教の総本山ってどこにあるか知ってる?」


 部屋の前には既に着いていたが、まだいくつか聞きたいことがあったので2人を引き留めて会話を続ける。人が良いのか、2人とも特に嫌な顔はせずに付き合ってくれた。


「確か、アトラ帝国の王都じゃなかったか? カルハル大迷宮はあの国の領土内だし」


「アトラ帝国……」


 また知らない国だ。約800年の時の流れは大きい。でも、可笑しいな。


「カルハル大迷宮の辺りは、ウィステリア王国の領土じゃないのか?」


「? あぁ、昔はそうだったらしいけど……こらレベッカ、お前もちゃんと聞け。お前はこういう座学の話はまるで聞かないんだから」


「そ、そんなこと無いわよ!?」


 さり気なく後退して部屋に入ろうとしたレベッカを見咎め、アランはその頭部を鷲掴みにした。


「そんなことあるだろ? ったく、父さんの苦労が偲ばれる」

 

「ちょっと、レディの頭を掴まないで!」


 レベッカは抵抗するが、アランの拘束――恐らくは拘束なんだろう――は緩まない。


「親父さんの苦労?」


「ああ。父さんは昔から、戦い方や身の守り方だけじゃなくて、地理歴史や数学なんかの学門もそれなりに叩きこんでくれたからな」


「どんな親父さんだそれは」


 こう言っちゃなんだが、小さな村の宿屋の親父が出来る教育レベルじゃないだろ、それ……絶対只者じゃないぞ、お前らの父親。


「まぁ、ハイスペックではあるかな。俺もよく解んないぐらいには……で、レベッカは体を使うのは得意なのに頭を使うのは苦手だから脱走ばかりしてたってわけ」


「頭を使うのが苦手なんじゃないもん! じっとしてるのが苦手なだけだもん!」


 あ、この子アホの子だ。顔を真っ赤にして抗議するレベッカに、俺はほぼ反射的にそう思った。

 アランはレベッカの反論になってない反論は溜息1つでスルーした。慣れてやがる。


「はぁ……話を戻すと、確かにカルハル大迷宮はウィステリア王国の領土だった。けどアトラ帝国は元々軍国主義でさ。あちこちに侵略戦争を仕掛けてたんだ。とはいえ、15~16年ぐらい前から領土拡大よりも国力増強に力を入れ出したみたいで、今は平和らしいけど。で、その15~16年前に最後に滅ぼされたのがウィステリア王国だったらしい」

 

 その言葉は、俺にとって1つの衝撃だった。


「! ウィステリアが……滅んだ?」


「ああ。まだ俺が産まれる前のことだけど、その話を聞いた時は1000年以上続いた歴史ある国も滅びる時は滅びるもんなんだなって……どうした? 大丈夫か?」


 その衝撃からくる動揺はとても解りやすいものだったらしく、アランは勿論の事、レディに対しての手荒い扱いに憤慨していたレベッカすら心配そうな顔でこっちを見てきた。


「いや……何でも無い、大丈夫だ。ただ、ウィステリアには遠い親戚がいたはずだったから、ちょっとな。まぁ親戚とは言っても、今となっちゃあ血縁も薄れすぎていて、赤の他人と言っても差し支えないようなレベルなんだけど」


「そうなの? でも大丈夫よ! アトラ帝国は軍国主義とはいえ、国民を虐げるような国じゃないって聞いたことあるし! 侵略戦争当時だって、粛清したのはその国の王族ぐらいだって話だもの! だからその、トーマの遠い親戚だってきっと無事よ!」


「何だレベッカ、お前、そんなことぐらいは覚えてたのか」


「しっつれいね!」


 ことさらに騒ぐ2人はきっと、俺に気を遣ってくれてるんだろう。赤の他人と同レベルな親戚に対するものにしては、俺の動揺があまりにも大きすぎたから。


「……うん。そうだね」


 だから俺も、その厚意を受け取っておく。例えそれが的外れなものであったとしても。


「色々ありがとう。それじゃあまた明日、ギルドで会おう」


 段々とヒートアップしてきたのか、俺への気遣いとはまた別のちょっとした兄妹ゲンカを始めそうになっていた2人に一言告げ、そのままするりと与えられた客室へと滑り込んだ。


 客室は綺麗に掃除が行き届いていて、とても居心地が良さそうな空間だった。広さは6畳ぐらいだろうか。内装はシンプルで、備え付けられた机とイス、それにベッド。後は洋箪笥だ。


 俺はそのまま、ベッドにダイブする。シーツは真っ白で、飛び込んでみたら日向の匂いがした。しかしそれでも陰鬱な気分は晴れない。色んなことがありすぎた。


「【異世界召喚】とかトーマス教とかさ……知らない内にどうしてこんなことになるのかな」


 だが、それらは気疲れはするものの陰鬱な気分になるものじゃない。けれど。


「リリアナが逝った……」


 リリアナは当時の仲間内では最年少で、しかも長命種のエルフだった。その彼女が寿命で逝った。長命種の誰かなら、今もこの世界に生き残っている可能性もあるんじゃないかと少しは考えてたけど……無理かもしれない。

 

 いや、これは本来ならば落ち込むようなことではない。生きとし生けるものがその天寿を全うするのは喜ばしいことだ。

 ただそれでも、親しかった者の死を知れば痛ましい気持ちにぐらいなる。


 それに何より。


「ウィステリアが滅んだ……か」


 正直、俺自身も驚きだ。これを知ってここまで驚くなんて。

 『支配』のせいで滅んだ国もあった。『厄災』が滅ぼした国なんて数えきれない。その後、この世界で息を潜めながら生きていた約600年の間にも国の隆盛、栄枯盛衰なんて腐るほどあった。どれも全部見てきた。


 だからウィステリアが滅んでも、何も可笑しくは無いのだ。

 ましてや、日本に帰り、本当ならば『コーラル』の土を踏むつもりなんて欠片も無かった俺が気にするようなことじゃない。


 だがそれでも、無意識の内に考えていた。例え個人は生きていられないような年月が過ぎ去ってしまっていても、国ならば残っているんじゃないか、と。


 けど……そうか。もう、無いのか。あの子が……トーヤが作った、あの国は。




 成人を迎えたあの子に、俺は問うた。この先、どうするつもりなのか、と。


 『俺、国を作ろうと思うんだ』


 『何だ、それ。どうして?』


 『『厄災』のせいで起こった混乱は、まだ収まらない。もう30年近く経ってるのに』


 『仕方が無ぇさ。それだけのことを『厄災』はした』

 

 『俺、そんな人たちを助けたいんだ』


 『……まぁ、本気でやりたいなら止めはしないけど。半端な覚悟なら止めとけ。国を作ろうなんて、大変だぞ。俺は手伝わないからな』


 『解ってるさ。本当ならトーマが手を貸してくれれば、もっと色んなことが出来るんだろうけど。でもそれはダメなんだって、ちゃんと解ってる。けど……時々休ませるぐらいはさせてくれるよな?』


 『俺はお前を託された立場だしな。ここはお前の実家でもあるんだ。独り立ちしたからって、もう来るななんて言わねぇよ。いつでも来い』


 『ありがとう、大叔父様?』


 『からかうな。今更お前にそんな風に呼ばれても鳥肌が立つってーの』


 『ヒッデェなぁ。これでも、感謝してるのは本当なんだぞ? ありがとう、俺を育ててくれて』




 両親を幼い頃に亡くし、我が子同然に育てた姪っ子。そんな姪っ子もまた早死にし、後に託された姪孫がトーヤだった。俺にとっては孫同然だった。

 『厄災』を倒した後、俺が引き籠り生活を送りながらも本当に世捨て人にならなかったのは、あの子たちのためだった。


 宣言通り、後にあの子は一国を築いた。しかしその国も既に滅ぼされ、王族は粛清されたのだという。

 仕方が無い。もう済んでしまったことだ。そもそも、俺がとやかく言えるようなことじゃない。けど、それでもやはり思う。


 時の流れは、残酷だ。

 

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