表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ボッチとビッチ  作者: カルロス藤崎
お付き合い始めました。
8/29

彼と彼女の脅迫状



×××



 それから、数日経過した。

 数学の小テストも無事に終わり、私は伸びをしながらベランダでボンヤリしていた。

 佐川君のお陰かな。多分、80点は固いよこれ。おいおい、これ私数学できる人なんじゃないの。これなら、中間テストも問題ないだろう。

 ………ベランダ寒っ、教室戻ろっ。

 だが、今は別の問題がある。私の定期だ。佐川君の家にも道にも落ちていなかったし、駅員さんに聞いてもなかった。

 この前は、佐川君に500円借りて帰れたけど、今も一々、切符を買って学校に通っている。

 自分の席に座りなおし、ため息をついた。


「はぁ……お父さんに怒られる……」


「どしたん?」


 金田君が隣の席に座って声をかけてきた。つか、なんでナチュラルに私の隣座ってきてんの。


「んー、定期がどっかいっちゃってさー」


「え、それやばくね?」


「ヤバイよー。お金無くなっちゃうよ」


「何処で落としたん?」


「何処って……」


 答えようとしたところで口が止まった。佐川君の家、とは言えないし、佐川君の家は北浦和、普通の学生はそんな所に用なんてない。「そんなところに何しに言ったの?」って聞かれて誤魔化せる自信はない。


「わ、分からないんだよねー……」


 うわあ、私も嘘つく才能ないなぁ。目を逸らしながら冷や汗を垂らしてる自分の顔が簡単に浮かんだ。

 そんな私に金田君は微笑みながら言った。


「じゃあ、もう定期買い換えれば?」


 いや、それはあり得ない。


「だ、ダメなんだって!あの定期じゃないと!」


 あの定期ケースには、私と佐川君のプリクラが貼ってあるんだよー!アレをもしこのクラスの男子に拾われたら、佐川君が処刑され、私はまたセクハラライフに戻るハメになる。


「そ、そう、なんだ……そこまで、あいつを……」


 金田君が何故か残念そうな表情で俯いた。なんで怒ってんのお前。

 しかし、どうしよう。定期が見つからなくて、駅にも警察にも届いてないってことは、誰かが持ってる可能性が高い。ま、私の定期を拾ったのが、この学校の生徒である可能性なんて私の胸と同じくらいの可能性だろう。うわ、言ってて悲しくなってきた。


「ま、気にしても仕方ないよね。私、トイレ行って来る」


 そう言うと、私は席を立った。授業開始前のトイレは重要だ。授業中に先生に「トイレ」行ってもいいですか?なんて聞くと絶対他の男子が数人ついて来るから。

 教室を出る前に、ふと金田君の方を見ると、佐川君の席の方を見てきた。

 まさか、バレてないよね………?



○○○



 数学の小テストも無事終わり、俺は次の授業まで寝てることにした。

 学校で寝る、というのは良い。何が良いのか、例えば首都直下型の大地震が来たとする。その時に、必ずしもベッドで寝れるわけではない。つまり、学校で寝ると言うのは、座ったまま寝るための訓練になるわけだ。

 そのために、俺は休み時間の短い時間だろうと、というか授業中だろうと、それが体育の授業中だろうと寝る。


「で、ほんとに居眠りこいて体育の授業を丸々サボったと?」


 現在は放課後で生徒指導室。松崎先生に呼び出しをくらい、俺は超怒られていた。


「サボったんじゃないんです。誰も起こしてくれなかったんです」


「寝なきゃいい話だよね?」


「いやいやいや、俺忙しいんですよこう見えても。家事とか全部やらなきゃいけないし。その少ない時間の中で寝ることがどれだけ重要か分かりませんか?」


「起きれなかったら本末転倒だよね。地震の時にどこでも寝られるようにとか、色々ヘタクソで腹立つ言い訳聞かされるこっちの身にもなってくれる?」


「え、腹立ってるの?」


「今のタメ口でさらに」


 マジかよこの人……。沸点低いにもほどがあんだろ。


「ま、いいよ。今のは呼び出しの建前だから。次から気をつけるようにね」


 建前かよ今の。てかそんなテキトーでいいのかあんた。

 松崎先生はコホンと咳払いすると、真面目な表情で聞いてきた。


「それより、少し質問があるんだけど、」


「?」


「佐藤さんと何かあるの?」


「ブハッ!」


「ちょっ、汚いなぁ……」


 思わず吹き出しちまった。悪かったな、汚くて。

 机をハンカチで拭きながら、先生はニヤニヤと笑い出した。


「へぇ?あるんだ?」


「まぁ、少し。つーか、なんで知ってんだよ」


「そりゃ、これでも教師だからね。見てれば前までと様子が違うことくらい分かるよ」


「本当に『これでも』なんだよなぁ……(小声)」


「聞こえてるよ?」


 直後、脛にガツンッと衝撃。自転車でペダルを踏み外した時以上の痛みが脛に走った。


「いっ⁉︎」


「付き合ってるの?」


 うーん、どう答えたものか。教師だから、生徒のプライバシーを暴露するような事はないと思うが、ひょんな事から、ポロッと口から出ちゃったーなんてことはよくある。松崎先生は教師と仲良い方だから尚更だ。


「ちゅっ、っ、つつ、付きああ合ってぇ、ないですよ」


「どんだけ噛んでんの?どんだけ動揺してんの?」


 バカを見る目で見られてしまった……。嘘つくの苦手なんだよ。素直な人間なもんでね。……そう言えば、佐藤さんの定期見つかってねえな。あれから、毎日、自分の帰路と俺の部屋だけでも探してんだけど。


「ま、人の恋愛に口出しするつもりはないけどさー。気を付けなよ?この前、金田が図書室で完全犯罪の本読んでたから」


「金田って誰」


「同じクラスだけど。てか、アレだけ目立つ奴忘れる?普通」


「忘れるっつーか知らねーんだけど」


「………まぁいいや。殺されないようにね」


 おおっと、なんか物騒な事言い出しましたよ?この人本当に教師?


「てことは、その金田って人は佐藤さんのこと好きなの?」


「じゃない?まぁ、うちのクラスの問題だから、私もなんとかしなきゃならないんだろうけど、問題起きる前に注意すると、最近の学生は親召喚して来るから、下手に口出し出来ないんだよ」


「あーなんかそれ想像できます」


 最近の学生は、自分の行動に責任を持たない。物事の良し悪しの判断がつかない。それは、自分の悪さを認めようとしないからだ。

 悪さをして怒られれば、自分が悪かった部分を隠し、「怒られた」という事実のみを強調し、親に伝える。親は、そもそも怒られる根本的理由を知らずに、子供から聴いた子供にとって都合の良いように知らされた情報を持って、先生にクレームを言いに行くのだ。

 高校になると、生徒側に学校を選ぶ権利があるので、あまり学校側にクレームが来ると入学者が減る。


「大変ですね、高校教師って」


「君には助かってるよ。何回怒っても、親が学校にクレームどころか電話一本寄越したこともないからね」


「そりゃ、ウチは子供の頃から自己責任スタイルでしたから。何するにも自己責任でって感じ。つーか、そもそも家事で忙しくて問題起こす暇なんてなかったから」


「ああ、なるほどね……。すごい家だね」


「お陰で、俺は多分この高校で最強の高校生ですよ。炊事洗濯家事全般、文系理系芸術オールコンプリートしてますから」


「でも友達いないんでしょ?」


「いませんよ?」


「重大な欠陥だねそれ」


「……………」


 何も言い返せなかった。

 いや、それに関しては仕方ないんだよ。野球辞めて以来、どうにもトラウマが拭えなくて人に話しかけられない人になっちゃったんだから。


「とにかく、気をつけてよ。何かあったらすぐに私に相談すること。いい?」


「松崎先生固定ですか?」


「教師だって、全員が全員信用できるわけじゃないからね、ここだけの話」


 ふむ、それは確かに。噂で聞いたけど(盗み聞きとは言えない)、教師が佐藤さんを狙ってる、なんて噂もある。


「ま、もしもの時ね」


「うん。素直でよろしい」


 松崎先生は笑顔で微笑んだ。しかし、俺は先生に相談するつもりはない。松崎先生がどうしようと、俺が相談した時点で、松崎先生のクラスで問題が起きたことになる。

 まだ一ヶ月くらいしか同じ教室にいないが、松崎先生は俺とコミュニケーションを取ってくれる数少ない先生だ。

 だからこそ、余り問題は表に出したくない。生徒同士で解決できる問題なら、それで良いだろう。


「じゃ、俺帰りますんで」


「うん。また明日ね」


 先生に挨拶して、帰ろうと下駄箱の方へ歩いた。

 しかし、金田だったか。そいつが佐藤さんを好きとして、どのくらい好きなのだろうか。まぁ、中高生の恋愛なんてお互いが好きで恋愛してる奴なんてほとんどいないだろう。

 どちらかというと、恋愛してる自分が好きな奴が多いんだろうな。そんな奴なら、どうとでもなる。

 そんな事を思いながら、自分の下駄箱を開けると、手紙が入っていた。


「………?」


 宛名はない。耳を手紙に着けてみたが、カチ、カチと言う音は聞こえない。爆弾ではないな。何を想定してんだよ俺は。

 そう思いながら中を開くと、こんな事が書いてあった。


『佐藤さんと別れろ金魚の糞』


 直後、ドッと嫌な汗が額から流れた。ドッドッドッと心臓の動悸が早くなる。

 ………マジか。バレた。誰だ?どいつだ?

 いや、よせ。考えるのはやめよう。打開策を考えないと、殺される。殺されるって言うかイジメられる。

 落ち着け、動揺するな。この手紙から分かることを推測しろ。文字は手書き。筆跡で誰だか分かれば良いが、友達がいないので俺と佐藤さんの筆跡しか見たことが無いから分からない。この便箋は学校の購買で売ってる奴だ。手紙そのものも。………ダメだな、手掛かりはない。

 誰かに相談するべきか?教師は問題が世間に露見する事を酷く恐る。頼りにはできない。

 警察?恐らく、ガキのいたずらと取り合ってもくれないだろう。

 佐藤さんは………いや、無関係では無いにしろ、気を使わせたくない。何より、現段階でこの手紙には佐藤さんに危害を加えるとは書かれていない。巻き込むわけにはいかない。


「……………」


 手紙を出した奴は、少なくとも罪悪感は感じてるはずだ。自分がやった事は退学になるレベルなんだから、正体は隠そうとするはずだ。

 なら、俺に顔を見せることはないだろう。ただし、ここから小さいイジメが始まるのも時間の問題だ。

 ………いや、それなら昔から散々受けてきただろ。それなら、俺は今は動く必要がない。

 とりあえず、いつも通りに振舞って、向こうの出方を見よう。そう決めると、俺はとりあえず帰宅した。



○○○



 夜。私は自分の部屋の布団に寝転がって、スマホを見た。画面には、「佐川コウ」とのトーク画面が映っている。

 最近、金田君の視線が怖い。視線だけでなく、言動、態度、全てが何となく全体的に怖い。佐川君をかなり意識しているように思える。その事を、佐川君に相談すべきが悩んでいた。

 だけど、逆に相談するべきではない気もしている。ただでさえビビりな彼は、常日頃からクラスの男子生徒達に対して神経質になっているのに、これ以上負担はかけたくない。


「………やっぱ無理かなぁ」


 佐川君曰く、男子高校生は悪ぶってても悪さをする度胸は無いらしい。だけど、金田君が私か佐川君を見る目は身の危険を感じる。いや、まぁ佐川君を見る目と私を見る目は別種だけど。まぁ、犯罪者的な目をしてるのは間違いない。

 でもなぁ……佐川君はああ見えて、色々考えている人だから、金田君が何かする前に回避する方法を思いつくかもしれない。


「メールだけしてみようかな」


 そう決めて、『今、暇?』と送った。

 あ、いや待った。そもそも、私が犯罪的な視線を感じる、というだけで確証はない。冤罪だったら金田君にもうしわけない。やっぱりやめておこう。

 でも、もう送っちゃったんだけど……ま、いっか。佐川君ムカつくほど返信遅いし、後でなんでもなーいって言っておけば……。


佐川コウ『どした?』


 なーんでこういう時は早いのかな、こいつ。


Hikari☆『なんでもないよ』


佐川コウ『あっそ』


 …………これで良い、これで良いはずなのにイラっとした。普通、彼女がメールしてきたら、もう少し食いつくでしょ。少し意地悪したくなった。


Hikari☆『やっぱなんでもある』


佐川コウ『は?なんでもあるって何?猫型ロボット?』


 違うわよ!なんでイマイチ、ニュアンスを外して来るのかな⁉︎あーもうっ、なんで私がイライラしなくちゃいけないのかな!


Hikari☆『暇なんだから付き合って』


佐川コウ『もう付き合ってるだろ』


Hikari☆『交際的な意味じゃないよ!なんでそうニュアンスを外して惚けるのかな!』


佐川コウ『惚けてねーよ。てか、今それどころじゃないんだけど』


 何を言い出すのか……佐川君に予定があるとは思えな……いや、ヨウちゃんとセイ君の相手してるのかな。あの子達、かわいいけど生意気だし。さっきまでイライラしてた相手に、あの妹と弟を思い出すだけで許す気になっちゃうの、不思議だなぁ。


Hikari☆『ごめん、邪魔しちゃったね』


佐川コウ『いや、良い。大丈夫』


 あー……多分、気を使わせちゃったかも。佐川君は自分の事より他人の事を気にするタイプだから。


Hikari☆『本当に大丈夫。てか、お風呂行ってくるね』


佐川コウ『お、おう?』


 本当はさっきお風呂から上がったばかりです。たまにはこっちも気を使わないとね。それに、こっちも用があったわけじゃないし。

 そんな事を思って、スマホを充電機に挿した。

 すると、スマホがヴヴッと震えた。「ゴールドマネー」の文字があった。金田君からだ。


ゴールドマネー『佐藤さんが付き合ってるのって、佐川?』


「……………えっ?」


 私は、返信することが出来なかった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ