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ボッチとビッチ  作者: カルロス藤崎
お付き合い始めました。
7/29

彼と彼女の授業3



○○○



 数時間ほど経過した。

 机に向かって「ん〜っ!」と唸っていた佐藤さんが後ろに大きくひっくり返った。


「だめだぁ!分かんない!」


 どうやら、ノルマの中のどうしても一問だけ解けないらしい。

 ふーむ、因数分解のたすき掛けか。

 かれこれ、休憩はちょくちょく挟んでたものの、4時間くらいぶっ通しで続けているし、ある程度は佐藤さんも理解してきている。


「………仕方ねえな」


 まぁ、これだけわかってりゃ小テストは8割は取れるだろ。


「何何、ノルマ負けてくれるの?」


「いや、小テストに出る問題教えようかなって思って」


「おい待てお前今何つった?」


 うおおい、今すっごい汚い言葉が佐藤さんから飛んできましたよ?その声の低さに思わず腰抜かしそうになっちゃったよ。


「え、何」


「今」


「小テストに出る問題を教えようかなって……」


「なんで最初からそれ教えてくれなかったの⁉︎あくせく勉強する必要なかったじゃん‼︎」


 ああ、それで怒ってんのか。ビビって損した。


「や、別に確証があるわけじゃないんだよ。俺が推測しただけだから」


「それでもだよ!出る問題分かってるなら答え丸暗記でよかったじゃん!」


 おーい、この女マジかよ。高一の春の段階で既に勉強する気ゼロとかヤバいやつじゃん。俺の彼女、俺と同じくらいクズいじゃん。あれ?これつまりお似合いカップルなんじゃね?


「いやいや、今回の小テスト、途中式は必要って言ってたし、答え丸暗記は無理なんだよ」


 教科書の回答には答えしか載っていないし。結局、自分で解くしかない。


「そもそも、俺が出ると踏んでる問題は全部俺が先生の言葉を基に推測した問題ばかりだから」


「は?推測って?」


「まず、次の小テストは教科書の問題から出るって言ってたろ。前回の小テストは10問だったし、今回も多分10問かな。なるべく、教師側としては広く浅く色んな種類の問題を出したいだろうから、各練習問題から1〜2問ずつ出題されると思われる」


「な、なるほど……?」


「前の小テストから推測するに、最後の2問は応用問題、他は全部基本しか出ない。教科書の練習問題の設問は(1)〜(4)まであって、そのうちの(1)、(2)は基本で、(4)は応用、(3)は基本だったり応用だったりするから、練習問題1〜6までは(1)〜(2)を抑えて、問題によっては(3)も抑える。7、8は設問がない応用問題だからそのまんま出る。点数を取るにはそこだけ勉強しておけばいい、というわけだ」


 自分の推測を思わずドヤ顔で語ってしまった。ははっ、完全に推測しきったわけではないが、ここまで完璧に範囲を決められるのは俺くらいだろう。

 が、佐藤さんは何故か微妙な表情で俺を見ている。


「………普通に勉強した方が楽そうなんですけど」


「アホか。教科書5〜18ページの範囲をここまで絞ったんだぜ。俺に感謝しな」


「なんでそんな推測してんの?バカなの?」


「少しでも楽に勉強するために決まってんだろ」


「うわあ……なんか卑怯……」


「効率的と呼べ」


「効率厨」


「あれ?なんかニュアンス違うんだけど?」


「でもまぁ、感謝してあげる」


 なんで上からなんだよ、こいつは。

 まぁいいさ。どうせ、多少なりとも勉強する事になるのは変わらない。今までの4時間の勉強は無駄ではない。


「よし、じゃあ帰る?」


「うん。ありがと」


 そう言って、佐藤さんはノートと教科書をしまい始めた。ていうか、ノートにちゃっかり俺の言った範囲をメモってるし。


「そういえば、あれだね」


「あれってなんだよ。指示語と『実際』と『ヤバイ』の組み合わせて会話が成立するのはリア充だけだぞ」


 名付けて『「それは実際ヤバイ」症候群』。


「結局、佐川君襲ってこなかったね」


「ブフッ!」


 この女は一体、何を言い出すのか。


「襲うわけねーだろ。退学処分になるわ」


「うーん。でも、私の周りの男子なら分からないなー」


「あー、それは否定できない」


 アレらは実際ヤバイからなー。あっ、俺も症候群だ。あれ?もしかして俺、リア充なんじゃね?


「でも、佐川君なら何となく信頼できるって、少し確信した」


「お前、確信するのおせーよ。そもそも俺、貧乳に興味は」


「あれ、ハサミどこにしまったかな」


「ゴメン、ゴメンって。ゴメン……マジゴメンなさい」


 言葉の限り謝ると、佐藤さんはハサミを探すのを辞めて、鞄を持ち上げた。


「よし、じゃあまたね」


「ああ」


 そう言って、佐藤さんが部屋のドアノブに手を掛けた直後、


「お兄ちゃん!セイが帰ってきたー!」


 ドアをヨウが蹴り開けた。

 佐藤さんとヨウがガッツリ目を合わせた。


「およ?」


 コウは めのまえが まっくらになった▼



×××



 突然、パジャマ姿の可愛い子が、私達の部屋に飛び込んできた。

 その子は、私の方を見ながらポカンと口を開ける。佐川君の方を見ると、顔は左手を当てて「忘れてた……」と、俯いて呟いていた。


「……もしかして、妹のヨウちゃん?」


「…………」


 聞いてみたものの、返事は来ない。

 妹さん(仮)は、不安そうな眼差しで私の肩に手を置いた。


「あの、あなたは……?」


「あ、えーっと、さが……コウくんのー……一応、彼女?の佐藤ひかりです」


「あの、何か脅されてるんですか?」


「………は?」


「友達もいないお兄ちゃんに彼女ができるなんて万が一、いや億が一、いや虚数の彼方に等しい可能性にもありえません!」


「ヨウ、お前今日の晩飯抜きな」


「誘拐犯は黙ってて‼︎」


「お前マジブッ殺すぞ」


「あ、あはは……」


 妹にここまで言われるなんて……なんだろう、流石に佐川君に同情せざるを得ないかな。


「細かい事情はあるけど、マジで俺の彼女だよ」


「マジで⁉︎兄ちゃんの彼女⁉︎」


「またうるせーのが来たよ。何なのお前ら、磁石なの?どっちかがいるともう片方も引っ張られてんの?」


 今度は野球のユニフォームに身を包んだ男の子がやって来た。


「うおー!スッゲェ可愛い人じゃん!なんで?うちの兄ちゃんのどこに惚れたの?………え、マジでどこ?」


「おい、素になってんじゃねぇよ。お前らマジで覚悟しとけよ」


 なんか、マジで可哀想になってきた。これで「私のストーカー退治のためです」なんて言ったら何を言われるか分からない。

 ………ここは、ヨウちゃんとセイ君の前でも本物の彼女のふりを……、


「大体、前に言ったろ。お互い、愛のない交際だよ」


 前に話してたのかよ……。

 私の決心を返せ。


「いいからお前らは自分の部屋に戻れ。俺は今から佐藤さん送ってくるから」


「えー。もう少しお話ししたいよー。佐藤さんと」


「うるせぇ。あ、お前らマジで飯抜くからな」


「え、じょ、冗談だよね?冗談だよねお兄ちゃん?」


「じゃ、行こうか。佐藤さん」


「冗談ですよねお兄ちゃん⁉︎すいませんでしたお兄ちゃん!」


「佐川君、妹と弟をいじめちゃダメだよ」


「ぐっ……!」


「そーだそーだ!もっと言ってやれヒカリさん!」


「ウルセェ!お前らほんとに飯抜くぞ‼︎……ったく、これだから会わせたかなかったんだ……」


「あ、そうだ。ご飯食べて行きませんか?」


「おおう……そう来たか……」


 佐川君がおでこに手を当てた。いやいやいや、待って待って待って。


「いや、いいよ。なんか悪いし」


「全然悪くないよ!どうせ作るの兄ちゃんだし!」


「そうだよ、うちの家計を使って上手くやりくりするのもお兄ちゃんだから気にしないで!」


「お前らはもう少し気にしろ」


 佐川君、そんなこともやってるんだ……。なんかもう、主婦みたいだなぁ。と言うか、ご両親は何をしてるんだろう。


「お願い!食べて行って!」


「じゃないと私達の晩御飯が抜かれる!」


 ああ、そういうことかこの二人……。というか、そう言うやり方、そこの兄にそっくりなのね。


「おい、なんだ佐藤さんその目は」


「べっつにー?でも、食べて行くと佐川君大変じゃない?」


「いや別に大変ではないかな」


 大変じゃないんだ……。

 ヨウちゃんはともかく、ユニフォーム着てるところを見るとセイ君は野球の練習してきてたみたいだし、晩御飯抜きは可哀想だよね。


「いいよ。じゃ、ご飯いただいて行こうかな」


「「いえーい!」」


 勝ち誇った笑みで、セイ君とヨウちゃんはハイタッチし、佐川君は「なんでこうなるんですかね……」と呟いていた。

 立ち上がると、私に聞いた。


「食えないものは?」


「特にないけど。あ、マヨネーズ」


「あいよ」


 そう返事をすると、佐川君は部屋を出て行った。

 ヨウちゃんが私に手を差し伸べた。


「行こ?」


「あ、うん……」


「兄ちゃんの料理、めちゃ美味いからな」


 セイ君も微笑みながらそう言った。

 やっぱり、佐川君に全然似てない。二人の方が全然可愛げがある。

 私も部屋を出て、階段を降りて、妹さん達とリビングの机に座って待機した。佐川君は料理中である。

 そのお向かいに座ってるヨウちゃんが、ニコニコしながら聞いてきた。


「で、実際の所どうなんですか?」


「何が?」


「うちのお兄ちゃんと。本当にお互いに好きなわけじゃないんですか?」


 ああ、その質問ね。


「残念ながらそうだよ。私は別にあんな卑怯なボッチ、好きでも嫌いでもないもの」


「卑怯なボッチって……まぁ、俺も兄ちゃんのこと卑怯者とは思うけど。この前デートに行ったんでしょう?アレはどっちが誘ったの?」


 呆れながら質問して来たのは、ヨウちゃんの隣のセイ君だ。


「あれは私」


「あーやっぱりか……兄ちゃん、チキンだからなぁ」


「お兄ちゃんが失礼なことしませんでした?」


 失礼なことかぁ。


「されたよ、たくさん」


「ええっ⁉︎……あの、愚兄は……。何したんですか?」


「まず、デートのお誘いを断った時点で減点5」


 言うと、ヨウちゃんは大きなため息をついた。妹に呆れられちゃってんじゃん……。

 あの時の断り方と言ったらロクなもんじゃなかった。


「断ろうとして嘘ついて減点9」


「あの兄は………」


「その嘘の内容がテキトー過ぎて減点6」


「兄ちゃん、嘘つくの下手だからなー」


「そこから遅刻して減点1」


「デートが始まる前から減点が21点も……」


 まぁ、あの約束の時間は若干理不尽だったから、ここは減点1で済ませておこう。


「手を繋ぐのを渋って減点5」


「あー、そういうのはうちの兄ちゃんは嫌がるかなー。ていうか、男はみんな照れ」


「渋った割に照れることなく手を繋いだので減点3」


「…………」


 フォローした弟を撃沈させるデートのスタートだった。


「あと手を繋ぐのに彼女に怒鳴らせたので減点3」


「手を繋ぐだけで減点11とかマジ何してんだよ兄ちゃん……」


 そこから、デートに伊達眼鏡と帽子による変装で減点3、

 妹と弟にお土産を買いたいなら素直に言えばいいのに、変に気を使って減点5、

 私がナンパされた時に兄を装って助けると言うヘタレ満開で減点1、

 私が洋服選んでる時に「似合う?」って聞いたら「買う買わないは自己判断だろ、他人に判断を委ねるな」とか言い出して減点5、

 夏に向けて、なるべく薄い服を選ぼうとすると「ビッチ臭い」とかほざいて減点3、

 スカートを選んでる時に、「そういえば、スカートって冬寒くないの?下から股間まで風がストレートに侵入してきそうだけど」とか言ってきて減点10、

 下着売り場に一緒に入ろうとしただけでビッチ呼ばわりで減点2、

 声を掛けてもゲームに夢中で減点5、

 トイレ行くときに、「う○こ」とはっきり言って減点3、

 なんか思い出すと腹たってきたので減点1……などと採点していった。


「……と、いうわけで、30点かな。うわ、赤点ギリギリ」


 こりゃ後で二人に佐川君怒られそーだなー……と思って、二人を見ると、目を丸くして私を見ていた。


「……な、何?」


「いや、細かく覚えてるんだな、と思いまして」


「30点とか言いながら、ひかりちゃん相当楽しかったんじゃないの?」


「なっ………⁉︎」


 ヨウちゃん、セイ君と言われ、カァッと頬が熱くなるのを感じた。


「ち、違うから!そんな事………!いや楽しかったけど!別に相当って程じゃ……!」


「おい、飯出来たぞ」


「ひゃふっ⁉︎」


「おうっ⁉︎」


 後ろから突然、佐川君に声を掛けられ、奇声をあげてしまった。


「ど、どうしたお前……」


「い、いきなり背後から奇襲しないでよ!」


「人聞きが悪すぎてビビるわ。普通に声かけただけだろ」


 な、何澄まし顔してんのよ……!ほんとに佐川君ってたまに腹立つ……!

 そんな私の気を知らずに、佐川君はヨウちゃんとセイ君に聞いた。


「何の話してたんだよ」


「「ノロケ話」」


「ち、ちがうから!何即答してるの二人とも⁉︎」


 私が言うと、二人は逃げるように台所へ向かい、食事の準備を始めた。


「………あいつら何言ったんだか。なんか悪いな、佐藤さん」


「本当にね、佐川君が」


「あいつらまだまだ小学生だから気に……え?俺が?」


 聞き返してきたが、私は無視して晩御飯の準備を手伝いに行った。



○○○



 ご飯を食べ終えた佐藤さんは食器を流しに運ぶと、鞄を持って肩から下げた。


「ご馳走様でした。佐川君、勉強ありがとね」


 どうやら、そろそろ帰るらしい。


「おう」


 俺は返事しながら洗い物を続ける。その俺の手をヨウが止めた。


「ストップ」


「なんだよ」


「送ってあげなよ」


「はぁ?」


 ………あー、そういや駅まで道分からないか。


「りょかい」


 返事をすると、洗い物を一旦辞めて、手を拭いてからパーカーを一枚上に着て、フードを被った。

 家の前で自転車を引っ張り出した。


「乗る?」


「いや、2ケツは危ないでしょ」


「おk」


 俺は自転車を引いて、「行こう」と佐藤さんに言って、駅に歩き始めた。

 が、後ろからグイッと引っ張られる。振り返ると、リアキャリアの部分を握った佐藤さんが、何故か納得してないような表情で俺を睨んでいた。


「え、なに」


「そこはもう少し粘ってくれる所じゃないの?」


「いや、別に乗せたいわけじゃないし。断られたなら尚更。これ押してるの帰りに楽して帰れるようにってだけだから」


「………ふーん。じゃあ、教えといてあげる。さっきのは一応、断っておく社交辞令だから。ほんとは超乗せて欲しいから。勉強して疲れたし」


「え、そうなの?なんで素直に言わないの?」


「乗せてほしいって即答したらドン引きするでしょ?」


「いや別にしないけど。てか、聞いといて、乗るって言われてドン引きする奴はいないでしょ」


 言うと、「ふむ、確かに……」と呟く佐藤さん。


「他の奴にはどうだか知らんけど、俺には気を使わなくていいから」


「気を使わなくていいなんて、佐川君に一番言われたくないんですけど!」


 ああ、それは言えてる。

 まぁ、乗りたいなら乗れば?みたいな感じで、佐藤さんを後ろに乗せて、自転車を走らせた。佐藤さんは後ろから、俺の脇腹を掴んだ。


「わひょっ」


「え、何?……キショっ」


「おい、キショいとか言うな。俺、くすぐり弱いだけなんだよ。掴まるなら腰に手を回してくんない」


「えー、胸の感触味わいたいだけなんじゃないのそれ」


「え?その胸から感触味わえんの?」


 直後、ゴヌッと背中を殴られた。


「………すいませんでした」


「次、胸でいじったらマジでアレだから」


 アレってなんだよ。逆に怖ぇよ………。

 で、佐藤さんは後ろから俺の腰に抱き着いた。

 …………あれ?ち、ちょっと待って?なんか、仄かな柔らかみが………、


「………あり?」


「どしたの?」


「いや、ちょっと……」


 あ、ヤバイ。この子、胸ある。貧乳貧乳ってバカにしてたけど、普通にある。

 どっちだ、無いけど触ると柔らかいパターンか、それとも着痩せするパターンか……。いや、今まで貧乳と言って否定して来なかったあたり、恐らく着痩せではなく小さくて柔らかいパターンだろう。

 おい、マジか。これ、別に貧乳も悪くないんじゃないの。俺が巨乳が好きな理由って、触ったら柔らかそーだなーってだけだし、逆に柔らかければ小さくてもいいわけで………、


「………」


 あ、ヤバイ。なんか変に緊張してきた。


「って、佐川君!前々!」


「へ?……ぬをっ‼︎」


 言われて慌ててブレーキを踏んだ。赤信号だ。


「ちょっとー大丈夫?」


 誰のせいだと思ってんの。貧乳も悪くないって思い始めちゃったじゃん。てか、むしろ小さいのに柔らかいって言うギャップがもう反則………、


「なんか、今まで見たことのないゲスい顔してるけど、大丈夫?」


「はっ!いっけね!」


 待て待て待て待て落ち着け俺!これじゃクラスの男子と同じだ。理性を保て、俺は物事の良し悪しの付く人間だろ。

 …………ふぅ、もう大丈夫。佐藤さんに謝ろう。


「………悪い、貧乳も悪くないとか目覚めかけてた」


 ゴヌッ、とまた背中に一撃入った。帰ったら、セイに湿布貼って貰おう。

 駅に到着し、佐藤さんが駅の中に入って行くのを見送ると、俺は自宅に引き返そうとした。

 だが、直前に、こっちをジッと見てる奴がいるのに気付いた。コンビニからジャンプを読むフリして俺の方を見ている。

 俺はなるべくそれに気付かないフリをして、スマホの自撮り画面でそいつの事を観察した。

 私服だから何処の学校かは分からない。顔は、どこかで見たことある気がするが、この距離じゃよく見えない。身長は多分、俺より高いくらい。

 ………だめだ、この距離じゃ大雑把な辺りしか分からない。

 すると、その男はコンビニから出て、駅の方に歩いて行った。

 …………おいおい、もしかしてあいつ佐藤さんの………。

 いや、確証も証拠もないのにそう判断するのは失礼だ。

 さっさと帰ろうと、家に自転車を走らせようとした直後、


「わー待った待った待った!」


 アホな声がした。振り返ると、佐藤さんがこっちに走って来ている。

 俺の目の前まで走って来ると、佐藤さんは顔を赤くしながら俯いて、目を逸らした。うわー、なんか嫌な予感するんですけど………。


「あ、あー……あのさ、」


「何」


「定期、落としちゃって……探すの手伝ってくれない……?」


 そういえば、最近気付いたことがある。俺の嫌な予感は良く当たるんだ、と。


「はぁ……わーったよ。どこで?」


「分かんない……」


「だよなぁ、とりあえず来た道を引き返しながら俺ん家戻るぞ」


「ごめんね……」


「気にすんな。一応、親に遅れるって連絡しとけよ」


「うん………」


 佐藤さんを連れて、自転車を押して自宅へ引き返した。

 その前に、ふと駅の方を見たが、さっきの男の姿はなかった。流石に考えすぎだったか。



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