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ボッチとビッチ  作者: カルロス藤崎
お付き合い始めました。
6/29

彼の彼女の授業2



×××



 数学、それは私にとって最強の天敵であり、学生生活最強のラスボスとも言える、勉強する意味が分からない教科である。将来、一番使いそうもない科目だからだ。

 例を挙げよう、例えば国語。文章を書くための文才、それと漢字を学べる。

例えば社会。歴史、地理、公民、世界史と学ぶべきものが多いし、それのどれもがこれから役に立つものだ。

 例えば英語。このグローバルな時代にイングリッシュはもはや必要不可欠である。

 例えば理科。職種にもよるが、理系なら必要不可欠な科目だろう。

 だが、数学ってなんだ。何に使う?数学教師以外で数学って使う?

 本当にやる意味が分からない。


「と、いうわけで、来週の小テスト助けて下さい」


「ちょっ、バカお前なんで俺に学校で話しかけてきてんの?」


 今は放課後。メールで佐川君を屋上に呼び出し、頭を下げた。男子達には「先に帰ってて」とメールで送ってある。


「お願い!他の科目はともかく、数学はヤバイの!」


「おい、話聞いてんのかビッチ」


「ビッチじゃないよボッチ!」


「いや、そこじゃねぇ。お願いだから学校で俺に話しかけないでくんない。俺まだ死にたくないんだけど」


 佐川君は大きくため息をつくと、後頭部をぽりぽりと掻きながら言った。


「………だいたい、なんで俺なんだよ。周りの取り巻きとかいんだろうが」


「嫌よ。何されるかわかんないもん」


「お前信用しないにもほどがあんだろ……」


「いや、男子達の信用を無くさせたのは佐川君だからね?」


 その辺分かってるのかなこの人は。いや、分かってなさそうかな。


「つーか、やるとしても学校じゃ無理だぞ」


 確かに、この学校は色んな部活が放課後も校内で活動してるため、学校では無理だ。かといって、私の家は男子たちに知られてるし……、


「じゃ、佐川君の家ねー」


「は?」


「いいでしょ?どーせ誰も来ないんだし」


「ねぇ、それどういう意味?つーか、うちだって妹と弟いるし」


「別に家族ならいいじゃん。ていうか、その方が私も襲われる心配なくていいし」


「襲わねーよ。つーか俺、貧乳に興味ないし」


「で、他に言い残すことは?」


「待て待て何で遺言みたいになってんの?ちょっ、謝るから鞄から紙辞書取り出して振り上げるのやめろ」


 言われて、私は鞄に辞書をしまった。

 まぁ、結論は出たな。


「じゃ、とりあえず佐川君の家ね。いつにしようか?」


「昨日」


「はぁ?」


「や、すいません。土曜でお願いします」


 思わずマジギレしちゃったよ。

 その私にかなり怯えながら、佐川君はおそるおそる聞いてきた。いや、そんな怯えられると正直ショックなんだけど。


「でもお前、俺の家わかんの?」


「当日に駅まで迎えに来てよ」


「ああ、なるほど。りょかい」


「じゃ、当日ね」


「…………あれ?なんで俺、女子を自分の家に連れて来ようとしてんだろ」


 今更疑問の声が聞こえたが、私は無視して屋上を出た。さぁて、土曜が楽しみだなー。

 半ばウキウキしながら階段を降りてると、金田くんが下で待っていた。


「や、ヒカリちゃん」


「あ、金田君……どうしたの?」


「ヒカリちゃんこそ。屋上は立ち入り禁止だぞ」


 ………あ、ヤバイ。それもヤバイけど、よくよく考えたら屋上には佐川君が……!

 いや、まずはそれより言い訳を考えないと。


「いや、何となくね。なんで立ち入り禁止されてるのか気になっちゃったんだけど、策はやけに高いし、立ち入り禁止されてる理由が全然………」


「誰か上にいるの?」


 …………なんでそんな真面目な顔するのこの人。

 とりあえず、話を逸らしておこう。


「いないよ。それより、金田君は?」


「一緒に帰ろうと思って待ってたんだ」


「じゃ、帰ろっか」


 ここで断るのは無理だ。大人しく帰って、彼の自慢話を聞こう。



○○○



 土曜になりやがった。

 佐藤さんとの勉強会の日。………あー、落ち着かない。今にして思えば、なんで俺あの時引き受けたんだろ。異性が一つの部屋に集まって勉強会とか、保健体育の授業にならなきゃいいけど。いやいやいやいや、俺に下心はないからね?ないからね?

 実際、向こうも俺だから信頼できるってトコもあると思うし、その信頼を裏切るわけにはいかない。

 …………佐藤さんからの連絡が遅いな。


「ちょっとお兄ちゃん、何ソワソワしてんの?キモいんだけど」


 ヨウがパジャマ姿でリビングに入ってくるなり、毒をぶちまけた。

 今日は野球の日なのだが、ヨウは昨日まで風邪を引いていたので休むらしい。


「セイは?」


「さっき家出たよ」


 そうか、あいつは野球か。クッソ……今日はこいつらが野球だから佐藤さんとの勉強を許可したのに。

 佐藤さんとこのバカ姉弟を合わせてはならないと、俺の第六感辺りが告げている。


「で、何ソワソワしてんの?」


「なんでもない。つーか、お前寝てろよ」


「………面白そうな匂いがする」


「お前もしかして会話が出来ない子なの?」


 うちの子ってこんなバカだったかな。


「ね、ね!もしかして誰か家に来るの?」


 おい、バカのくせになんでそこだけ鋭いんだよこいつ。


「いいから寝てろ。ぶり返すぞ」


「いいじゃん!」


「おら、早く部屋戻ってろ」


「………うー、じゃあお茶。それとおんぶ」


「あ?何アホ抜かしてんだ」


「じゃあここで寝てやる」


 ……………ここはマズイな。玄関からここを通らないと俺の部屋にはいけない。妹と佐藤さんを会わせるわけにはいかない。


「わーったよ、おんぶでも背負い投げでも大腰でもしてやるから来い」


「投げる気満々じゃん」


 文句を言いながら、ヨウは冷蔵庫の麦茶を飲むと、俺の方にヨタヨタと歩いて来た。

 俺はヨウの前にしゃがんで背中を差し出すと、後ろにもたれかかるように乗って来た。なんだこいつ、割とまだ具合悪そうなんだな。まぁ、風邪ってのは治りたての時もなんとなく怠いもんな。

 すると、後ろから「えへへ」と言いながらヨウは微笑んで言った。


「久し振りの、お兄ちゃんのおんぶ……」


 嬉しそーだな。そういえば、こいつが高学年なってからはあんまおんぶしてあげてなかったっけか。

 だから、現在、俺の背中に仄かな柔らかみが当たってるのに今まで気づかなかったのも無理ないよね。


「成長しねぇなぁ……ヨウ、」


「何、妹にセクハラ?本気でキモいんだけど。お父さんに言うよ?」


「ごめん、冗談です。それだけはやめて。ラーメン奢るから」


「ん、よろしい」


 で、二階に運び、部屋のドアを開けた。

 ベッドの上にヨウを放ると、部屋を出ようとした。


「あ、お兄ちゃん」


「あ?」


「来客の事、否定しなかったね?」


 …………ほんと、可愛くねぇ妹だな。



×××



 駅前まで迎えに来てもらい、私達は佐川家に向かっていた。

 隣を歩く佐川君は何故かいつもより目を腐らせて、何処かしら体調悪そうな表情で歩いていた。


「あの、大丈夫?」


「………大丈夫。ちょっと胃が痛いだけ」


「…………大丈夫?」


 なんで胃が痛くなるの……自分の家でまで気まずい思いをしてるのかなこの子は。

 そんな事を思ってるうちに、到着した。一軒家で、二階建てでベランダがあり、ベランダの下に車庫もある普通の家。


「そういえば、いないの?」


「何が」


「妹さんと弟さん」


「ぃ、いない」


「へぇ、いるんだ?」


 この人、嘘つくの下手すぎでしょ。私の周りの男子の自慢話バリに薄っぺらい嘘をつく。


「でも会わせねぇぞ」


「なんで!」


「お前はうちに何しに来たんだよ……」


 ああ、それは確かに……。ていうか、勢いでお願いしちゃったけど大丈夫かな。佐川君って人に勉強教えられるほど頭良いのかな。

 お願いしといて失礼なことを考えてると、佐川君が玄関に向かったため、後ろを追いかけた。

 鍵を開けて、中に入る佐川君。靴を脱いで、私に視線で「はよ入れ」と言ってきた。


「お、お邪魔します……」


 もう何度も男子の家に来てるのに、何故か緊張気味に挨拶してしまった。

 佐川君はスリッパを玄関に置き、私に「履いてもいいよ?」みたいな視線を送ると、家の奥に向かった。私はありがたくスリッパを借りて、佐川君の後ろに続いた。

 弟さんと妹さんに会うことなく、私たちは佐川君の部屋に到着した。

 佐川君の部屋は、なんというか古本屋のようだった。ベッドと机とタンスがあり、それ以外の壁にはオール本棚。そして、その本棚には漫画本や小説がズラリと並んでいる。いや、所々にDVDがあるな。

 そして、その本棚の一番上にはフィギュアやらプラモデルが並んでいた。


「………佐川君って、オタクなの?」


「んー、まぁそうなるかな」


 返事をしながら、佐川君はお茶をちゃぶ台の上に置いた。


「へぇ……意外。そうは見えなかったから」


「でも、にわかオタクって奴だぞ。自分の興味出たアニメや漫画しか見ないから」


「ふーん……」


「漫画やアニメはオタク呼ばわりされるだの、現実味がないだの言って見ないって奴が多いけど、普通に面白い話が多いし、最近のは人間関係とかリアルに描かれてるのも多いから面白いぞ。むしろ月9とかのムカつく恋愛ドラマの方が余程リアルに見えないまである」


「うわあ、すごい偏見……」


「だってこの世に『お前が好きだ、ずっと側にいてやる』なんて告白をする奴がいると思うか?俺がそんなこと言われたら、まず上から目線すぎるのでマイナス、『側に』とか抽象的過ぎる表現なのでマイナス、『お前』とか言っちゃってるのでマイナス。それから……」


「まだあるんだ……。というか、なんで『お前』ってダメなの?こっちが『あなた』って呼べば夫婦みたいでいいじゃん」


「『お前』ってのは語源的には神仏を敬う時に使う言葉なんだよ。敬われ過ぎて気持ち悪いだろうが」


「そっちなんだ……」


 神様、私の前の人、仮にも彼氏なんですけど……。


「それより、勉強するぞ。さっさと終わらせてさっさと帰れ」


「何その言い方〜」


「妹達にバレるの嫌なんだよ」


「ね、妹さん達、名前はなんて言うの?」


「妹がヨウ、弟がセイ」


「へぇー。隣の部屋いるの?」


「いるよ。あ、叫んだら数学絶対教えないから」


「なんでわかったの……」


 この人もしかして私のこと好きなのかな。攻略パターンが分かってるとか本当愛が重い。


「良いから教科書出せ。やるぞ」


「はーい。佐川先生」


「いや俺は医者にならならんから」


「今のはわざと間違えたよね」


「ごめんなさい」


 たまにつまらんギャグをねじ込んでくるんだよねこの子。

 コホン、と咳払いをすると佐川君は教科書を開いてシャーペンの芯をカチカチと出した。


「じゃ、まずは問1からな。まぁ、この辺の範囲は中学の時の数学できれば余裕だから」


「………じゃあ悩んでる私はなんなのさ」


「………男にかまけて勉強し忘れてるアホの子?」


「私に喧嘩売ってるのかな?」


「そう言われたくなけりゃ、ちったぁ勉強しろ」


「うるさいなー」


 仕方ないじゃん。男達に誘われて断りきれなかったんだもん……。


「たまには断る事も覚えた方がいいぞ」


「ちょっと待った。なんで今、私が考えてることわかったのさ」


「何となく」


 む、ムカつく……。なんか思考読まれるってムカつく!

 あー、クッソー……まぁいいさ、佐川君の考えてることだって、たまに私だって読める事あるもんね。それより、勉強しないと。



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