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ボッチとビッチ  作者: カルロス藤崎
お付き合い始めました。
5/29

彼と彼女の授業



×××



 土日の連休を明けて、今日から学校。しかし、私はいつもと違って気が重く感じていた。以前なら、学校に行くくらい憂鬱でも何でもなかったが、佐川君と話してから、これから五日間もセクハラを上手く躱さなければならないと思うと、気が重い。

 そんな事を考えてると、後ろからドンッと肩を叩かれた。


「おーっす!ヒカリちゃん」


「! 金田くん。おはよ」


「教室まで一緒に行こうぜ」


「うん、良いよ」


「いやー、朝からヒカリちゃんと登校とかクッソラッキーだわー」


「盲学校の敷地内だけどねー」


 金田充、一年にしてバスケ部のスタメン(らしい)。のだが、基本的に自分の自慢話しかしない。一年でスタメンになったのがよほど嬉しいのか、練習試合での自慢話が特に多い。こっちはそういうの、なんて返したらいいのか分からなくて、「へぇー!」「すごいね!」「やるじゃん!」「流石!」をループしてテキトーに相槌していた。


「そういえば、結局デートは行ったん?」


 今回は、意外にも私の話を聞くようだ。


「うん、行ったよー」


「……へぇ。どこ行ったの?」


 一瞬、金田君の声が低くなった気がしたが、すぐにいつもの自信満々な声に戻った。


「………ん、駅前のイ才ン」


「へぇー」


「おーっす!佐藤、金田!」


「おはよ」


 さらに、後ろから村木君と八木君が混ざって来た。

 村木君がニヤニヤしながら金田君に言った。


「何話してたん?口説いてた?」


「バカ言うなバカ。なわけあるか。大体、佐藤さんは彼氏持ちだぞバカ。寝取りなんてクソみたいな真似するかよバカ」


「おい、一々『バカ』って口挟まないと次の会話に移れねーのかバカ」


「ま、まぁまぁ、二人とも私の為に争うのはやめて」


「「お前の為じゃねーよ!」」


「ジョーダンだよ、ジョーダン」


 あ、佐川君にあんま男子をからかうなって言われてたっけ。まぁ大丈夫でしょ。村木君は貧乳好きで八木君は2次元オタクという、割とイカれた部分の多い人達だが、悪い人たちではない。

 特に、八木君なんかはたまに私達が遊びに誘うと、「いや今日は一番くじの発売日だから」とか言って断られたこともある。いや、その理由で遊びに誘われて断るのもどうかと思うが、友達が私にくっ付いてきてるから俺も付き合ってる、みたいな感じなんだろうな。


「なんか彼氏とデート行ってたみたいで、どうだったか聞いただけだよ」


「へぇー、デート行ったんだ」


「どうだったん?」


 やはり来たか、その質問。さて、ここからは慎重に答えないと。彼氏の特徴を言うときは、誰にでも通じる特徴を言わなければ。それでもって、嘘は言わないほうがいい。

 冷静に、言葉を選ばなければ。


「えーっと、とりあえずテキトーにぶらぶら回った感じ?ほとんど私の買い物に付き合わせちゃったけど。意外と気を使ってくれたのか、文句一つ言わずについてきてくれた」


「へぇ、いい奴じゃん」


「そうかぁ?それくらい誰でもそうじゃね?」


「まぁ、人によるだろ。俺なら無理だわ」


 村木君、金田君、八木君と呟いた。「「2次元は黙ってろ」」「ああ⁉︎」と喧嘩腰になる3人。それを収めるべく、私は定期ケースを出した。その裏に、帽子と伊達眼鏡を着けた佐川君とのプリクラがはっ付けてある。


「あ、プリクラ撮ったんだー。見る?」


「お、見る見る」


 見せると、3人とも顔をしかめた。


「…………誰?」


「なんか、目がやばくね?」


「つーか、帽子のセンス」


「ねぇ、これ佐藤さんの彼氏?マジ?」


 ボロクソに言われてますねー、佐川君。まぁ、眼鏡と帽子取ればそこそこイケメンのはずなんだけどね。

金田君がプリクラを見ながら、私をジロリと見て聞いてきた。


「………ねぇ、これ本当にヒカリちゃんの彼氏なん?」


「そうだけど?」


「本当に?こんなのが?」


 こんなのって……流石にちょっとイラっときたんですけど。


「おい、人の彼氏に『こんなの』はないだろ」


 横から八木君が言うと、「あ、そか」と金田君はつぶやいた。


「ごめん、ヒカリちゃん」


「ううん、実際『こんなの』だから。気にしないで」


 まぁ、こんなの、だもんね!仕方ないね!プリクラはキッチリ割り勘するし、晩御飯誘ったら「いや、妹達と食うから」とか断るし、彼氏としては本当ロクなもんじゃない。

そんな事を話しながら、昇降口に到着。上履きに履き替え、ローファーを下駄箱にしまい、教室に向かった。

 教室に到着した。流石、休み明けというべきか、前のような殺伐とした雰囲気はなかった。人の噂は75日目というが、男子高校生の噂は1週間弱のようです。

 自分の席について、教室の一番右の前から二番目の席を見たが、佐川君の姿はない。どうやら、まだ来ていないようだ。


「お、佐藤!おはよ」


「佐藤さん、うぃっす」


「久しぶりー」


 男子の群れが現れた。さて、捌くか。



○○○



 俺は電車に乗った。時刻は朝の8:30。ここから学校の最寄り駅まで20分かかる。ホームルームの開始はあと10分だ。つまり、圧倒的に遅刻確定である。

 まぁ、駅から学校まではそこまで遠くないので、その間を走れば良いだろう。それまでは電車に乗ってて、どうせ時間という名の距離は縮まらないし、のんびりしよう。

 すると、ヴヴッとスマホが震えた。


Hikari☆『どしたの?学校来てないみたいだけど』


 佐藤さんからだ。多分、来てない俺を心配、いや心配はしてないけど気にはなってるって程度かな。


佐川コウ『電車乗り損ねて遅刻確定』


 言えない。借りたDVD返し損ねて一度引き返したなんて言えない。


Hikari☆『バーカ』


佐川コウ『うるせー。とりあえず、一限始まるまでには行くから』


Hikari☆『ふーん。まぁ、学校ではどうせ話せないんだけどね』


佐川コウ『それな』


 そこで会話は途切れた。すると、電車が止まった。駅に着いたのかと思ったが、違った。窓の外は線路、駅は見えない。

 イヤホンを取ってアナウンスを聞いた。


『ーーー人身事故のため、停車いたしました。ご乗車のお客様には、大変ご迷惑をお掛け致します』


「……………マジ?」


 地味な呟きが漏れた。おいおいマジかよ。って事はだよ?

 ………遅延証もらえてどんだけ遅刻しても怒られないパターンじゃん。


「ッシャオラ!」


 小さくガッツポーズした。



〜数時間後〜



「や、ですからですね先生。俺が遅刻したのは電車が遅れたからであって、」


「だからね、佐川。なんで他の生徒は来れてるのに君だけ遅刻してるの?って事なの」


「それはあれでしょ先生。俺だけ家遠いんですよ。だから……」


「君の家、学校の最寄りから3駅でしょ。なんですぐバレる嘘つくかな」


「実は俺の両親って共働きなんですよね。小学生の妹と弟がいる俺は、親の代わりにあいつらの事を見送らなきゃならないわけでして」


「じゃあなんで今まで遅刻せずに来れたの?その理論だと、今まで遅刻せずに来れてるのがおかしいよね」


「や、あの二人今日遅刻しそうになってたから……」


「うん、もう良いよ。よく分かった」


 そこで俺の台詞は、担任で体育教師の松崎に遮られた。現在、三限と四限の間の休み時間で、遅刻について怒られてる最中である。けど、分かってくれたようだ。分かってくれたならそれで良いか。


「とりあえず、生徒指導室おいで」


 何もわかってねーよこいつ。とりあえず、説教は回避したい。


「や、もう直ぐ授業なんでそれはちょっと……次、体育なんで。てか、先生も体育でしょ」


「ふむ、なら昼休みになるけど」


「よし、じゃあ今怒られましょう」


「いや、体育だから。無理だな。昼休みに生徒指導室おいで」


「グッ……!」


「じゃ、体育なんだから早くおいでよ」


 まぁいいさ。体育は着替えの時間を考慮して、5分か10分早く終わる、しかも女子は更衣室で男子は教室で着替えるから、男子の方が早く教室に着くのは必然だ。いくらでも逃げようはある。

 体育の授業なんてずっと暇なだけだし、逃走ルートを考えておくか。



×××



 昼休みになった。私は、男子達とお昼を食べるのに誘われたが、今日はお弁当を持ってきていないので、「購買で買ってくるから先に食べてて」と断っておいた。

 早足に廊下を移動してると、通り掛かった生徒指導室から聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「……じゃ、まずは逃げようとした理由を聞こうか?」


 松崎先生?


「や、だから逃げようとしたんじゃないんですって。トイレに行こうとしてただけなんですって」


 ………と、佐川君。何してんのあの人本当に。


「トイレ行くのに周囲の状況を確認しながら教室を出るか?」


「そりゃいつ暗殺者が狙ってるか分かりませんから」


 しかもあの人、前々から思ってたけど言い訳が下手くそ過ぎるし……。


「相変わらず、人を苛立たせる言い訳を言う男だね、君は」


「いやいやいや!そんな事で怒るとシワ増えるし白髪増えますしその若さで禿げますよ。だから落ち着いてください」


 うわあ、落ち着かせようとして煽って行くスタイルの人初めて見た。


「………まぁいいよ。あとでしばくから。まぁ、遅刻指導ってわけだから、今からお説教するけど、」


 え?後でしばくの?


「え?後でしばくの?」


「まず、遅れた理由を聞こうか」


「実際、マジで人身事故なんですよ。ほら、遅延証」


 人身事故なんてあったっけ?


「だからね、佐川君。なんで周りのみんながその人身事故に巻き込まれてないのに君だけ巻き込まれてるのかってとこなんだよ」


「ああもう、わかりましたよ。悪かったから昼飯食わせて下さい」


 佐川君は諦めたようにそう言った。彼の脳内計算の結果、ここでグダグダと言い訳をしても自分に利益はないと考えたようだ。


「うん、素直でよろしい。分かってるなら怒らな」


「途中でビデオ返すの忘れて引き返した俺が悪かったから、怒らないで」


「うん、その一言で怒ることにしたわ」


「なんで⁉︎」


 そりゃそうでしょ……口が滑ったどころの騒ぎではない。


「KUKIYAの延滞料金と学校での成績を天秤に掛けてどっちが大事かなんて考えてみれば分かるでしょ!」


「延滞料金ですね。アレ、1日過ぎるだけでバカにならないんですから。その点、学校は一年でインフルを除いて欠席は5回、遅刻はさらに3回で1回欠席になるから、実質15回分のストックがありますから」


「「うわあ………」」


 指導室の中の先生と廊下の私の声がハモった。スゴいクズいなぁ……私の彼氏。


「そういう計算しちゃうんだ……色んな意味でしっかりしてるね」


「お褒めに預かり、光栄です」


「褒めてないから」


 先生がイライラしてるのが私にも伝わって来た。先生ごめんなさい、仮にも私の彼氏がごめんなさい。


「いい?親御さんに君はお金を出してもらって学校に来てるんだから、本来は延滞料金と比べる事すらおかしいんだよ。その辺わかってる?」


「分かってますよ。親に出してもらってるお金だから、俺は安心してビデオを返しにいけるんです。学費を自分で払ってたら、延滞料金なんて知りませんよ」


「……………」


 ダメだこいつ、早くなんとかしないと……。

 なんかこの人に友達ができない理由がわかった気がする。


「佐川、マズイよ。その考え方は本当にマズイ……」


「まぁ、流石に今のは半分くらい冗談ですけど」


「だよねだよね、冗談だよね……半分?」


「まぁ、これからは学校優先しますよ」


「何その『仕方ないからやってやる』的な感じ。ちゃんと私の話分かってる?」


「分かった分かった」


 おっと、そろそろ話終わっちゃうかな。冷静に考えたら、これ盗み聞きだしここから退かないと。


「あ、所で佐川」


「なんすか?」


 まだ話し終わってなかった。いや、盗み聞きなんだから何にせよ退かなきゃダメでしょ。


「………あのこと、まだ誰にも言ってないよね?」


 あのこと?え、何それ気になる。佐川君と松崎先生って何かあるの?


「あのこと……?」


 おい、佐川君、全然分かってないんだけど。


「ほら!入学前のアレ!」


「ああ、いやそんな気にするようなことじゃないとおもいますけど……」


「いいから!絶対誰にも言わないでよ!」


「はいはい分かってますよ。どうせ言うような友達いませんし」


「むぅ……ならいいけど」


「じゃ、俺昼飯行くんで」


 っと、逃げないと。私は早足で購買に向かった。

 しかし、あのことってなんだろ。なんか弱味でも握ってるのかな。



○○○



 生徒指導室から出ると、昼休み開始からすでに10分削られていた。昼休みは40分あるので、後30分で飯を食わなければならない。

 今日は弁当は持って来ていない、食堂は生徒で溢れ返ってるので俺に居場所はない。


「………購買にするか」


 それで屋上で食べよう。

 あそこは施錠されていて、誰も来ない。高校生なんて悪ぶってるだけで、実際に規則を破る度胸なんてない口だけの連中ばかりだ。誰もこないだろう。

 そう決めると、廊下を歩いて購買へ。さて、何にするかね。とりあえず、アロエヨーグルトと赤飯おむすびと……お、チョコクロワッサンあるやん、ラス1の。買おう。

 チョコクロワッサンに手を伸ばすと、横から別の手も伸びてきた。ふと横を見ると、知らない女子生徒がいた。


「…………」


「…………」


 顔を見合わせること数秒、俺は手を引き、隣のメロンパンを取ってレジに向かった。

 あーあ、買えなかった。まぁいいか。メロンパンも嫌いじゃないし。

 レジで会計を済ませると、屋上に向かった。

 出入り禁止してるくせに鍵一つ付いてないドアを開け、屋上に出た。

 壁に寄りかかれるように、入り口の壁のすぐ下に座り込み、パンの袋を開けた。メロンパンか、食べるの久しぶりだなぁ。

 変に感動しながらかぶりつこうとした直後、隣のドアが開いた。出てきたのは、さっきチョコクロワッサンを譲った女子生徒。

 何故か不機嫌そうな顔をしたその子は、甘栗色の髪を横に払うと、「んっ」と袋を差し出してきた。


「………は?」


「んっ!」


「何んすかあんた。傘貸してくれるツンデレ少年かよ」


「あ、あんたがさっき譲ってくれたチョコクロワッサンよ。半分あげる」


 …………は?そんなことのためにわざわざ来たの?バカなのこの子?


「いや、いい」


「はぁ⁉︎なんでよ!」


「なんでって……俺、それの金払ってませんし」


 一応、先輩の可能性を考慮して敬語を使っておいた。


「いいわよそれくらい!」


「いやいや、必要以上の対価を知らない人から巻き上げるのは無理です」


「巻き上げるってほどのものじゃないでしょ!てか、知らない人って同じクラスじゃない!」


 え?そうなん?それは悪い事をした。とりあえず敬語やめよう。


「とにかく、俺はいらない。てか、はやく屋上から出た方がいいぞ。ここ、立ち入り禁止」


 言い切ると、女子生徒はぐぬぬっと悔しそうに唸った後、ボソリと呟いた。


「じゃあ、あんたのメロンパンも半分寄越しなさいよ」


「は?」


 何言ってんのかなこの子。何そのムカつく恋人みたいな行動。


「それでプラマイ0よ!文句ある⁉︎」


 なんだよこいつ。どういう奴なんだよ。プラマイ0だからなんだよ。

 ………あ、もしかして、


「メロンパン食べたいの?」


「ちっがうわよ!ただ、私は他人に借りを作りたくないの‼︎」


 一ノ宮家の子かな?


「あーわかった、わかったよ。半分貰えばいいんだろ」


「………最初から素直にしてればいいのよ」


「素直に言うと別にいらない」


「いいからもらいなさいよ!」


 パンを半分ずつ交換すると、女子生徒は屋上から出て行った。

 …………で、君は一体誰だったのよ。


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