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ボッチとビッチ  作者: カルロス藤崎
お付き合い始めました。
3/29

彼と彼女の休日



○○○



 土曜日、学校が休み。

 土曜日は、神だ。

 今まで、殺伐とした空気の教室で過ごしてきた俺にとっては、神と言わざるを得ない。

 佐藤ヒカリもクラスの下衆どもも、何もかも忘れて、ただ一人でゲームなり勉強なり出来る最高の日、それが2日連続。それの始まりの日、土曜日。

 あえてもう一度言おう。土曜日は、神だ。


「さて、とりあえずゲームでもするか」


 そう思って、テレビとゲーム機の電源を入れた直後、スマホが震えた。画面には『Hikari☆』の文字が出ている。


「…………」


 一応開いた。


Hikari☆『今日暇?暇ならデート行かない?』


 この女郎は一体何をほざきやがるのか。そんな所、クラスの奴に見つかったら俺、狙撃されるぞ多分。


佐川コウ『ざけんな、俺を殺したいのか』


Hikari☆『だってクラスで彼氏のこと聞かれたときにデートの話くらい無いと怪しまれるじゃん』


 む、それは確かにそうかも。いや、待て。それならさ、


佐川コウ『なら捏造しろよ。彼氏とのデートのハードルめちゃくちゃ上げて語ってやれば向こうは諦めるんじゃねぇの』


Hikari☆『無理。嘘だってバレたら怖いし』


 それは付き合うこっちも一緒だっつの。そもそも、愛のない交際してる事自体、バレたら即死コースなんだよな。その辺わかってるんだろうね、チミは。


佐川コウ『じゃあアレだ。クラスのうちの一人の誰か誘えよ。それ、他のクラスメイトにバレたら「お前だったのか!」「ブッ殺せ!」ってなるだろ』


 それで俺が殺される理由もなくなし、俺の命を狙う奴も一人消される。うん、完璧。


Hikari☆『よく何のためらいもなく人を身代わりにする提案ができるね』


 うるせーな。そもそも理不尽に暗殺だの何だのほざいてんのは向こうだろ。

 ていうか、何したらあそこまで好かれるんだよ。あ、お触りか。


佐川コウ『人ってのは誰かの犠牲の上に成り立ってるんだよ』


Hikari☆『んなことどうでもいいから出掛けようよ。金曜日に「じゃあ、デートの様子とか教えてあげるね」って言っちゃったんだよ』


 この女、何勝手な約束してんだオイ。


佐川コウ『雨降ってるぞ』


Hikari☆『降ってるのは雲の隙間から漏れてる日差しよ』


佐川コウ『学校に呼び出し食らってんだよ』


Hikari☆『今日、うちの高校、学校説明会なんですけど』


佐川コウ『あと10分で隕石降って来るらしいぞ』


Hikari☆『どうせ嘘つくならもっとマシな嘘つきなさいよ』


 それもそうですよね。てか嘘つくの下手すぎだろ俺。

 次の嘘を考えてると、連続でメールがきた。


Hikari☆『私と出かけるのがそんなに嫌?』


 ………そういう風に聞かれて嫌とか答えられる奴がいるかよ。


佐川コウ『分かったよ。どこ集合?』


Hikari☆『とりあえず、10分後に学校の最寄駅でいい?』


佐川コウ『あの、俺そこまで行くのに20分掛かるんですけど』


Hikari☆『遅れた分だけだ奢りね』


佐川コウ『おい、聞いてんのか』


佐川コウ『おい?奢らないよ?奢らないからね?』


佐川コウ『すいませんでした佐藤さん、奢りは勘弁してください。今僕お金ないんです佐藤さん』



×××



 駅前。私はそこで佐川君を待っていた。待ち合わせ時間から20分経過。


「悪い、お待たせ」


 佐川くんの声がした。ようやくきたか……そう思って、そっちを見ると何故か帽子とメガネを掛けていた。


「…………何?それ」


「変装だよ。他の男子に見られたらマズイからな」


 変装って……どこのスパイよ。もしくはエージェント。しかし、この人が眼鏡かけると、なんというか、顔の幼さが無くなって、なんなら少し怖いくらいね。


「で、どこ行くんだ?金ないからあんま遠いとこはアレなんだけど」


「それくらい決めときなよ。一応、デートなんだからね?」


「バッカお前デートだからこそだろ。男が彼女にセンスのある所を見せるために探したネットのにわか知識より、彼女が行きたいところに連れて行ってやった方が楽しめるだろ」


「………ほんとに佐川くんの彼女になった子は可哀想」


「だからそれはお前だろ」


 ダメだな。この人に普通の彼氏を期待しちゃ。私がちゃんと彼氏彼女の関係に見えるように行動しないと。

 私は佐川くんに手を差し出した。


「行くよ」


「? 何、手相?ごめん俺虫眼鏡持ってないよ」


「違う!手を繋ぐって言ってるの!……ていうか、虫眼鏡持ってたら手相できるの?今度お願いしても良い?」


「はぁ?なんで手を繋ぐの?バカなの?あと手相はできない」


「バカはどっちさ⁉︎デートなら手を繋ぐなり腕を組むなりするでしょ普通!」


「そうなの?でも手なんか繋いだ所で、歩きにくいだけだろ。お互い逸れないっていうメリットはあるかもしれないけど」


「ああもう、それでいいや。逸れたくないから手を繋ごう」


「いや、もう子供じゃないんだし、逸れるわけが……」


 ブツブツとうるさい男の胸ぐらを私は掴んだ。


「い、い、か、ら‼︎」


「お、おう」


 まったく、なんでこんなに私ばっかり疲れなきゃいけないの⁉︎手を繋ぐだけでこんなに口論するとかどんなカップル⁉︎

 佐川君の返事に満足し、胸ぐらから手を離した。


「………ふぅ。で、どうすんだよ」


「うーん、じゃあ佐川くんがいつも行く所連れてってよ」


「俺が?」


「うん。休日に行くとこ」


「や、俺基本的に休日は」


「基本的に家出なくても、極たまになら出かけるよね?その時に行く場所教えて?」


「お前なんで先読みしてんだよ……」


 いやわかるから。大体、佐川君という人が理解できてきた。要するに、引きこもりボッチって事よね。


「しかし、俺がいつも行くとこか……」


「うん。どこでも良いんだけど」


「本屋行って、ゲーセン行って……レンタルビデオ屋行ってラーメン屋行くか食材をスーパーで買って後は家から出ないぞ」


「じゃ、とりあえず私の買い物に付き合って」


「なんで聞いたんだよお前………」


 ほんとね。ダメ人間の生態なんて聞かなきゃ良かった。



○○○



 買い物に付き合って、とのことで俺は佐藤さんと手を繋いで歩いている。伊達メガネに帽子の時点で、普段、慣れない格好なのに、女の子と二人でデートなんて、これまた慣れない事してるなぁ、と切実に思う。 ホント、なんでこうなったのか。

二人で歩いてると、佐藤さんが俺のことをまじまじ見ていた。


「どした?」


「や、随分すんなりと手を繋ぐことを許可してくれたなぁって」


「なんで?」


「普通、男の子なら照れない?」


「俺が思うに、照れるという行為は周りの目を気にして、どう見られてるかによって恥ずかしさを感じるものだと思ってる。けど、俺は友達いないし周りには他人しかいない。そんな奴らにどう思われたって俺は気にしない」


「なんかあれだね。佐川くんって理屈っぽくて気持ち悪いね」


 ちょっ、なんでそうストレートに言うんですか。流石に傷付くんだけど。

 場所は大型ショッピングモール。スポーツ用品だの服だのプラモ屋だの本屋だなゲーセンだのフードコートだの、なんでも揃ってる素晴らしい場所だ。

 あ、ちょうど良いや。妹の新品の軟式ボール買っといてやるか。妹、野球やってんだけど、すぐにボール失くすんだよあいつ。


「佐藤さん、何見るん?」


「んー、とりあえずテキトーにぶらぶらと」


「スポーツ用品とか行く?」


「? 行かないけどなんで?」


 あー、行かないのかー。なら、今のが終わったら後で一人で行くか。付き合ってる側の俺が付き合わせるのは悪いし。


「や、なんでもない」


「行きたいの?」


「や、いい」


「………なんか用事あるんじゃないの?」


 なんだよ、俺の気遣いが分からんがか?


「いいって、一人の時に行くから」


「なんでさ」


「スポーツ用品はこのデパートの最果てにあるし、佐藤さんが用ないなら行く必要もないでしょ。元々、佐藤さんの買い物に付き合ってる訳だし」


 完璧な理論である。付き合っている以上、相手が用のない場所には行かない。それは時間のロスだからだ。用があるときは一人で行こうな。


「………面倒臭いなぁ、この人。ま、いいや。分かった」


 最初の方はなんて言ったか聞こえなかったが、納得してくれたようだ。とても、納得したような表情じゃないけど。


「じゃあ、ついてきて」


「あいよ」


 手を繋いでんだからついて来るも何もないだろ。

 数分後、移動した先はスポーツ用品売り場だった。あ、あの、なんで……?と、佐藤さんに視線で聞くと、ため息をついて子供を見る目で答えられた。


「あのさ、佐川くん面倒臭過ぎ」


「………は?」


「別に遠慮しなくていいから。仮にもデートなんだから、そんな気を使わなくていいよ」


「いや、気なんか使ってないけど。ただ、自分の買い物に他人を付き合わせるのは気が引けるってだけで」


「それを使ってるっていうんだよ」


 いやいや、今のこの現状が俺のデフォだから。つまりこれ全然気を遣ってないから。この思考回路が俺にとって当然の帰結だから。妹に「お兄ちゃん、ちょっとそれヤバイよキモいよ」って言われたけど。

 大体、そもそも自分の欲望に忠実すぎる奴が多過ぎるから、世の中に争いや揉め事が起きるわけで。気遣いと妥協を覚えれば、世界は平和になる。おい、これ本出せば売れるんじゃねぇの。

 まぁ、来てしまったのなら、むしろ買って行かないと、気を使ってくれた佐藤さんに申し訳ない。

 店の中に入り、野球コーナーへ向かった。


「で、何買おうと思ってたの?」


「野球の軟式ボール」


「へぇー、なんで?」


「妹と弟が野球やってんだよ。小学校で」


「へぇー、妹と弟いるんだ」


「そうは見えない?」


「うん。お姉さんかお兄さんはいそうだけど」


「ちょっとそれどういう意味?」


 この子、失礼過ぎない?クラスの男子達に向けてるあのキャラは僕の前では廃止してんの?

 冗談を言われたら、「あはは、何それー」と微笑みながら流す事は僕の前ではしないんですか?


「あ、ほら野球コーナー」


 到着し、ボールの売ってる場所に来た。これを……ついでだし、弟の分も買って行くか。


「見て見てー、佐川君」


「?」


 ボールを手にした俺に佐藤さんから声がかかった。そっちを見ると、バットを構えて立っていた。


「打てそう?」


「もっと脇を締めてヘッドを肩で担ぐように。膝はそんなに曲げないで、軽く跳んで着地した時くらいの角度」


「そんな詳しいレクチャーは望んでないんだけど……」


「バットを振る時は腰からな。なるべくコンパクトに、打ち上げないように叩きつけるように」


「なんでスウィングの説明まで⁉︎いいから!野球なんてやるつもりないから!」


「ああ、悪い悪い。つい癖で」


「癖って……?」


「ああ、弟とかに教えてるんだ」


「え、教えられるの?」


「俺も野球やってたからな」


 監督に嫌われましてね。まぁ、あの時は監督の方針に従わないでセンターからバックホームに刺したのがマズかったんだなアレ。チッ、嫌なこと思い出した。


「へぇ、意外」


「じゃ、会計行ってくる」


「あ、じゃあ私も」


 レジに向かった。

 軟式ボールを持って、レジに並ぶ。隣について来る佐藤さん。


「店の前で待ってていいぞ」


「あ、うん。分かった」


 流石に、会計までついて来るつもりはなかったのか、店の前に向かっていった。一つ、400円くらいで買えるので助かる。あ、ついでに粉末スポドリも買うか。レジの下にある粉末5本入りを取って、レジのお姉さんに出した。


「3点で1226円になります」


「えーっと……1506円で」


「280円のお返しです」


 お釣りを受け取り、袋に詰めてもらい、店を出た。よし、これで妹にお土産ができた。後は佐藤さんの買い物に付き合うだけ………のはずなのだが、


「ね、今暇?」


「可愛いね、ちょっと付き合ってよ」


 少し目を離した隙にナンパされてた。そうでしたね、俺の彼女は学校で一番可愛い女の子でしたね。

 まぁ、佐藤さんなら即オーケーしそう。だってビッチだし。よし、このまま俺は帰宅コー………、


「すいません、今日はちょっと彼氏と来てるので」


 ……スにはなりませんでした、はい。

 まぁ、ハッキリ言えばあのナンパ男達も諦めるだろ。


「えー、いいじゃん。そんな奴ほっとけよ」


「俺たちといた方が楽しいって」


 クソウ……諦めないどころか、ぐうの音も出ない程の正論を叩き出された。俺といるより、多分あの人達と一緒にいた方が楽しい。それは正論だと思うんだけど……、


「えぇ〜、それは本当だと思うけど……でもやっぱり今日は無理かなー。もう一度言うけど、彼氏といますし」


 佐藤さんが頑なにOKしない。てか本当だと思っちゃうんだ。

 まぁ、俺といたいかはともかく、嫌がっているなら助けてあげるべきなんだろうなぁ。でも、喧嘩になったら勝つ自信はないし、なにより喧嘩がバレて学校に通報でもされたら最悪だ。


「………なるべく穏便に済ませるか」


 緊張を紛らわすためにガムを噛んでから、その3人の元へ歩いた。



×××



 ああもう、しつこいなぁ……。断っても断っても……パッと諦めてくれるなら今度会った時に遊んであげてもいいけど、彼氏といるって言ってんだから空気読めよ……。

 佐川君も、多分こういう時は「勇気を持ってナンパしたヤンキーが可哀想、断られるなら佐藤さんからの方が良いだろ」とかわけのわからない超理論を語りそ……、


「あの、すいません」


「「あ?」」


 予想を反して、佐川君の声が聞こえてきた。あら意外、てっきり見捨てて来るものだと……え、何あれ。

 佐川くんが帽子のツバで顔の半分を隠し、その奥から伊達メガネの輝きをチラつかせ、クッチャクッチャとガムを噛みながら、眉間にしわを寄せて立っていた。どこからどう見てもヤンキーどころかヤクザである。


「あっ……⁉︎」


「うっ……‼︎」


 私に絡んできた二人は完全に怖気ついている。その様子に気付いてか、いや多分気付いてないんだろうけど、呑気な声で言った。


「あの、もしかしてアレですか?迷子か何かと勘違いしてます?」


 ちょっと待った、この人の頭の中で一体どういうシチュエーションが展開されてるわけ?


「いやー妹がお世話になりました」


 誰が妹?


「いや、さっきその子彼氏と来てたって……」


「超ブラコンなんですよこの子」


 イラっとしたので、佐川君の背中を抓った。「いたっ」と声を漏らしながらも、佐川君は言った。


「……ひっ、ひきゃッ……ヒカリも、悪かったな。一人にしちまって。そういうわけなんで、失礼します」


 照れるくらいなら下の名前で呼ばなきゃ良いのに。

 そう思ってると、佐川君は私の二の腕を掴んで歩き出した。ぽかんとしてる男達を私は見ながら、ニヤリと微笑みながら佐川君に言った。


「助けてくれてありがと、お兄ちゃん」


「うるせー。お兄ちゃんと呼ぶな」


 おー、照れてる照れてる。


「でも、助けに来てくれると思わなかったなー。ヤンキーのモノマネまでして」


「してねーよ。なんで向こうがビビってたのか不思議なくらいだ」


「そりゃ、帽子を目深に被ってサングラスを奥で輝かせて、ガラ悪くガムを噛みながら眉間にシワ寄せてたらビビるよ」


「や、帽子はビビってるのがバレないように、伊達眼鏡は光の反射がたまたまそうなっただけ、ガムは緊張紛らわすため、眉間のシワはまるで覚えがないだけなんだけどな」


 要するに、眉間のシワはただビビってただけってことね……。

 しかも……その怖い顔で、兄妹のフリして助けるとか、助けられといてアレだけどすごくカッコ悪かったです。


「まぁ、そういうわけで俺の用事は済んだ。次にどこ行くかは任せる」


「うーん、とりあえずテキトーにブラブラしたい」


「へいへい」


「…………ねぇ」


「なんだよ」


「いつまで二の腕掴んでるの?」


「すいませんでした」


「いや別にいいけどさ」


 手を離され、手を繋ぎ直した。


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