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ボッチとビッチ  作者: カルロス藤崎
古川弓華さん
21/29

彼と彼女の妹弟達

 


 ○○○



 放課後。私は佐川くんと一緒に帰宅していた。もはや、日課となりつつある一緒に帰宅、だけど会話が弾むわけでもなかった。だって、佐川くん基本的に用がないと声かけて来ないんだもん。

 私は私で、なんかこの状況が恥ずかしくて無口になっちゃってうし……。


「………あっ」


「どしたのっ?」


 佐川くんが不意に声を漏らしたので、私は食いついた。何か話題でも提供してくれるのかな。


「いや、メール来たから。………あ、ヨウからだ」


「……………」


 彼女の前で妹からメールが来たからって喜ばないでほしいなぁ。


「………うーわ」


「どうしたの?」


「お腹空いたって飯の催促。それで、家に何もないの思い出した。帰りに買い物しないと……」


「……………」


 今更だけど、佐川くんすごいなぁ。普通、家での家事をそこまでこなす男子高校生いないでしょ。私なんかより全然、嫁っぽい気がする。


「………ね、佐川くん」


「何?」


「私も買い物行っても良い?」


「は?なんで?」


「んー、なんか佐川くんって主婦っぽいじゃん?」


「いや、全然意味分からないんだけど」


「いやだから、どんな感じで買い物するのか知りたくてさ」


「どんな感じって……異文化同士で暮らしてるわけじゃないんだから」


「良いから行くの。彼女のお願いが聞けないの?」


 問い詰めると、佐川くんは諦めたようにため息をついた。


「………わーったよ」


「やったね」


「そんな喜ぶような事じゃないでしょ……」


 半ば呆れられた気がしたが、とにかく二人でスーパーに向かった。

 電車に乗って移動し、いつも使ってるスーパーに入った。


「ふーん……ここ使ってるんだ」


「知ってんの?」


「知らないよ?」


「じゃあ今の呟きなんだよ………」


「いいじゃん、ほら行こう!」


「夕飯買うだけなんだが………」


 我ながら、なんでテンション上がってるのか分からないけど、とにかくテンションが高かった。

 佐川くんはスーパーの中を見回ると、とりあえず野菜を手に取った。キャベツの山を見ると、中でも比較的大きいキャベツを二つ、手に取った。


「…………」


 重さを測ってるんだろう。左手に持ってるキャベツを籠に入れると、続いてニンジンの方へ行った。

 しばらくニンジンを見ると、スマホを取り出してマイク付きのイヤホンを挿した。

 マイクの方を自分の耳に入れると、もう片方を私に差し出してきた。


「?」


「つけて」


「う、うん……」


 言われるがまま耳につけた。………佐川くんの顔が近い。なんか、変に緊張してきた……。

 そんな私の気も知らずに、佐川くんは電話を掛けた。


「もしもし?」


『あ、お兄ちゃん?早く帰って来てよ。腹減ったよー』


 ヨウちゃんの声だ。


「今買い物中。家にニンジンあるか見てくれない?」


『ニンジン……?あ、あるよ?50本くらい』


 うわあ……兄妹揃って嘘が下手クソだなぁ………。


「分かった、じゃあな」


『うん!あ、今日の晩飯は手羽先が』


 佐川くんはそこで電話を切った。


「よし、ニンジン買ってくか」


 鬼か、この人は。ていうか待って。


「あの、なんで私にイヤホン貸してくれたの?」


「いや、セイが出たらあいつヨウと違って嘘上手いから、聞き分けてもらおうと思って。まぁ、意味なかったけど」


「あー……なるほど」


「じゃ、ニンジンとー……あとじゃがいも」


 佐川くんの目利きは続いた。袋の中のじゃがいもやニンジンで、なるべく大きい奴が入ってるのを選び抜いて籠に入れていった。


「……真剣だね」


「そうか?」


 声を掛けると、佐川くんはキョトンとした表情で首を傾げた。だって、私からしたらそんな大差あるように見えないんだもん。どれでも同じじゃないの?


「でも、なんかこうやって買い物の様子見てると、佐川くんほんとの主婦みたいだね」


「まぁ、実際家でも主婦やってるからね」


「ご両親は何をしてるの?」


「共働きってだけ。サラリーマンとOLかな」


「ふーん……。意外と普通だね」


「意外とってなんだよ……」


「いや、佐川くんとヨウちゃんとセイくんの親だし……」


「ねぇ、それどう言う意味?」


 割と変わった人達なんだと思ってた。まぁ、職種が普通なだけで、人格はどうだから分からないけど。


「さ、それより買い物しよう買い物」


「おーい、何誤魔化してんの?どういう意味?おーい?」


 無視して買い物を続行すると、佐川くんも仕方なく買い物を続けた。結局、ヨウちゃんの言う通り手羽先を買って、あとは牛乳とジュースとアイスとポテチと、と段々ただの妹や弟達へのお土産になっていったが、とにかく買った。

 結果、両手一杯に袋を持つハメになっていた。その佐川くんを見て、本当に買い物帰りのお母さんみたいだなぁと思った。


「ず、随分買ったね……」


「まぁ、うちのクソガキ二匹は大分食うからな。野菜は食わないのに」


「子供だから仕方ないよ」


「子供っつっても、もう小学生高学年だぞ」


 確かに……私も中学上がる前には好き嫌いなくなってたなぁ。ま、どうせ佐川くんが甘やかしたからなんだろうけどね。

 今回の佐川くんの買い物で買い物の仕方は覚えた。ようは、同じ値段を払うならなるべく大きいのを買え、ということだろう。肉とかになると、何処産かも見ている。

 今度、試してみようなんて考えながら、私は佐川くんの左手の荷物を握った。


「?」


「持ってあげる」


「マジ?悪い」


「ううん」


「でも、持つならこっちにしてくんない」


 左手の袋を引っ込めて、右手の袋を渡して来た。

 何が違うのかな、と思って中身を見ると、左手の袋の中にはジュースや牛乳が入ってて、重そうだった。

 そういう気配り出来るんだ……。意外と良い人だなぁ、やっぱり………。


「そっち卵入ってるから。割らないでね」


 訂正、上げて落とす達人だった。本当に余計なことばっか言うんだから………ため息をついて佐川くんの隣を歩いてると、佐川くんが立ち止まった。


「どうしたの?」


「福引やってる」


「へっ?」


 佐川くんの視線の先には、確かに福引のテントがある。3000円分の買い物で一回らしい。


「ま、いっか。帰ろう」


「えええなんでよ。やっていこうよ」


「どうせなんも当たんないでしょ。ティッシュだよティッシュ」


「そんなの分からないじゃん」


「そう言うならやって来て良いよ。ほらこれレシート。袋は預かっとくから」


「……わかった。一等が当たってもあげないからね!」


「いらねーよ」


 何が一等なのか分からないけど。にしても、絶対当たらないと思ってるな……!ふんっ、絶対見返してやるんだから。

 レシートと袋を交換して、テントに向かった。佐川くんは欠伸をしながら待機している。まったく、ついて来てくれても良いのに……。


「おじさん、一回」


「おうっ!」


 3000円分のレシートを渡し、福引の回す奴の取っ手を握った。狙うは、一等。私は深呼吸して、右手に力を入れた。

 ゴロンゴロンとお馴染みの音を立てて回すと、コロッと金色の球が落ちた。直後、ガランガランとベルの音が鳴り響いた。


「うおおお!出たあああああ!一等賞ー!」


 …………えっ?嘘、本当?いや本当?景品表の横の当たりの球の色を見ると、確かに金色が一等だった。


「うっそマジ⁉︎やったやったねやった!」


 年甲斐もなく飛び上がってしまった。よっしゃ、これは自慢できる。佐川くんにメチャクチャ自慢してやろうと思い、景品を受け取った。


「はいよ、嬢ちゃん」


「ありがとうございます」


「テーマパーク一泊二日ペアチケット」


「…………えっ?」


 い、一泊二日ペアチケット……?

 おじさんに封筒を渡され、私は中を確認した。みんな大好きディズツーランドのペアチケットが入っていた。


「……………」


 こ、これ……どうしよう……。私じゃ使えないじゃん……。クラスには友達いないし、パパは騒がしい所嫌いだし……あれ?どっちかというと、佐川くんより私の方がボッチなんじゃ………。

 いやいやいや!ないから!私友達だっているから!ちょっとパッと浮かばないけど、いるにはいるから!

 そんな事より、これどうしよう……。佐川くんにあげようかなぁ……いや、でも佐川くん家は三人兄妹だし、下二人は小学生だから、泊まりなんて心配だろうし………。


「……………」


 今、頭の中に「佐川くんと私が行く」というのが浮かんだ。いやいやいや、あり得ないから。てかダメだから。彼氏彼女と言っても、お互い好きとかそういうのはないし。そもそも男女の泊まりがけはダメでしょ。


「おい、何してんの?」


「きゃうぅっ⁉︎」


「おうっ?」


 いきなり声をかけられて、思わず悲鳴をあげてしまった。それに向こうもビックリして悲鳴をあげた。


「ど、どうした……?」


「い、いきなり声をかけないでよ……!」


「え?あ、うん。まぁ『いきなり』のタイミングは人それぞれだよな」


 佐川くんは無理矢理納得したような顔で頷くと、改めてといった感じで聞いた。


「なんか当たったの?その封筒」


「へっ?あ、う、ううん!ティッシュだよこれ!」


 私は慌てて背中に隠した。


「………いやいやいや、ティッシュを封筒に包むか普通……?」


「い、いいの!ティッシュなの!松坂産の!」


「いや松坂産は牛が高級ってだけで、なんでも高級なわけじゃないから。ていうか、松坂産ティッシュって何?」


「いいから!じゃあ、私帰るから!」


「えっ?いや、袋持ってくれるんじゃ……」


「じゃあね!」


 私はなんか恥ずかしくなって、逃げるように走って駅に向かった。

 どうしよう、本当にこのチケット、どうしよう……。



 ×××



 佐藤さんに逃げられ、俺は結局重い荷物を一人で持って帰宅した。玄関の鍵を開けて、袋を左手にまとめて持って、右手で開けた。


「ただいまー」


 声を掛けると、バタバタと三人の子供がやって来た。


「おかえりー、兄ちゃん」


 弟のセイ。


「お兄ちゃん、おかえり」


 妹のヨウ。


「お兄さん、おかえりなさい」


 誰だお前。


「おい、その子は?」


「ん?友達の古川」


「古川って………」


 古川さんの弟か……。すごい素直そうな子だなぁ。というか真面目そう。うちのクソガキと違って。


「古川幸人です。よろしくお願いします」


「ん、おお。佐川コウだ」


 真面目な子だ。確かに、古川さんの弟とっぽいかもしれない。


「ていうか、夕焼けチャイムはとっくに鳴っちまってるけど、良いのか?」


「それが、遊んでるのに夢中で、つい帰り損ねてしまったのです。これでは、姉上に怒られてしまいます」


 あ、姉上……?何、武士なの?


「姉って、古川弓華さんだろ?」


「! 姉上をご存知なのですか⁉︎」


「知ってるよ。同じクラスだし。この前の野球大会でお前の姉、誰かと話してたでしょ?」


「………ああ!ヨウの球を初球ホームラン打った挙句に『空振りする予定だったんだ!』と煽っていたお兄さんですか⁉︎」


 ………なんで鮮明に覚えてんだよ。あ、ヨウたんま。睨まないで。俺が悪かったけど俺が言ったんじゃないから。


「う、うん……もうその話はいいかな……」


「試合終わった後、大変だったんですからね!ヨウが泣いて泣い……」


「わ、わー!わー!わー!古川黙れ!違うから!泣いてないから!」


 顔を真っ赤にしたヨウは慌てて幸人の口を塞いだ。すごく可愛いので、脳内メモリにその顔を保存してると、セイが言った。


「それより兄ちゃん、腹減ったよ」


「あーりょかい。幸人くん、晩飯食ってくか?」


「んー!んー!」


「ヨウ、手ぇ離してやれ」


「お兄ちゃん!本当に泣いてないからね⁉︎」


「分かったから」


 後でからかってやろうと心に決めて、とりあえず今はそう返事すると、ヨウは渋々退いた。


「で、幸人くん。どうする?」


「いいんですか?」


「ああ。三人で食ってる中、一人だけ食わさないのも悪いしな。家族に連絡が必要なら、俺から古か……弓華さんにしとくよ」


「では、ご馳走になります」


「おしっ。じゃあ少し待ってろ」


「兄ちゃん、今日の晩飯なんだ?」


「手羽先」


「やったね!」


 ヨウが復活した。

 三人は引き続き、といった感じでリビングでゲームを再開した。その間に、古川さんに電話を掛ける。佐藤さんの件で相談されてから、電話番号とアドレスもらった。今はまだ部活中か?まぁ、一応かけてみるか。


「………………」


『もしもし?』


 あ、割とすぐに出た。今日部活休みか?


「古川さん?」


『どうしたの?急に電話なんて……』


「ごめん、忙しかった?」


『ううん。今日は部活オフだし、家でゴロゴロしてた』


「ああそう。今、うちにおたくの弟さんが来てるんだけど」


『ユキくんが?』


 ユキくんって呼んでるんだ……。このブラコンめ……。


「そう。で、うちで飯食って行く事になったから」


『ええっ?い、いいわよそんな!』


「いや、もう食う気満々でうちの弟達とゲームしてるから」


『まったく……ごめんなさいね』


「いいよ別に。うちのがそっちでお世話になる事もあるかもだし」


『そうね。じゃあ、お願いするわ』


「じゃ、また」


『ええ。あ、その前に一つ』


「何?」


『………あなたの妹とユキくん、親密な関係って事はないわよね?』


 ………こんの、クソブラコンが。


「じゃ、切るわ」


『ちょっ、待ちなさい!答え聞いてな』


 切った。スマホの電源を落とし、調理を開始した。



 〜2時間後〜



 食事を終えて、ゲームの最中に寝ちゃった幸人をおぶって、古川さんと待ち合わせした公園に向かった。

 公園に到着すると、古川さんは既に待っていたようで、不機嫌そうな顔で腕を組んでいた。あのポーズ、超似合うな。


「お待たせ」


 声を掛けると、こっちを見た。


「それ、ユキくん?」


「ああ。ゲームの途中で寝ちゃった」


「本当にごめんね……」


「いや、いいよ」


 そうだ、ちょうど良い機会だ。クラスの女子の情報を聞こう。

 幸人を渡しながら、古川さんに調理実習中に見つけた敵と思われる奴らのことについて聞く事にした。


「古川さん、まだ時間ある?」


「? あるけど……」


「少し聞きたいことあって」


「何よ」


「古川さんと一番仲良い女子って誰?」


「何?急に」


「佐藤さんと仲良くなるためだから。教えてくれない?」


 そう言うと、古川さんは表情を変えた。まぁ、嘘は言ってないな。あいつらをなんとかしないと、古川さんと佐藤さんが仲良くなれても、必ずこれから先に邪魔が入る。


「うーん……そう言われてもなぁ……やっぱり、ソフト部仲間のミホと美咲と梨花かなぁ」


「本名は?」


「あんた同じクラスでしょ……」


 ほっとけ。クラスメイト全員が全員を把握してると思うなよ。クラスメイトの名前覚えるなら、寿限無覚えるっつーの。


「田辺ミホと相澤美咲と渡辺梨花、みんなソフト部なのよ」


「ふーん……どんな奴なん?」


「みんな良い子よ?」


 うん。ダメだ。この人、良い人過ぎて人の悪い所が見えないタイプだ。古川さんの話を聞いても参考にならない。

 今度、その三人を観察してみるしかない。


「分かった。ありがと」


「何よ、それだけで良いの?」


「あ、外見的特徴も教えて」


「顔と名前くらい一致させなさいよ……」


 呆れられた。名前と外見的特徴をスマホのメモ帳にメモった。田辺と相澤と渡辺、か。よし、覚えた。



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