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ボッチとビッチ  作者: カルロス藤崎
古川弓華さん
18/29

彼と妹の和解に巻き込まれた彼女



○○○



 日曜日。私は佐川君に料理を教わるため、佐川家に向かって歩いていた。

 ふぅ、なんか少し緊張するな。なんというか、花嫁修行する気分だ。花嫁修行なのに旦那に教わるんだけどね。

 佐川君の家に到着し、インターホンを押した。


『…………はい』


 すごい濁った声が聞こえた。佐川君だと1発で理解できてしまった。


「あ、あのっ……佐藤ですけど」


『! さ、佐藤さん⁉︎』


「? そだよ?」


 すると、ドタバタと家の中から足音が聞こえ、玄関が勢い良く開かれた。


「おはよう、佐川く」


「やっと来た……!ち、ちょっと早く上がって!」


「へ?……ひゃあっ⁉︎」


 無理矢理腕を引っ張られ、私は家の中に連れ込まれた。

 靴を脱いで、引っ張られながら佐川君の自室へ。前々から思ってたけど、普通に男の子の部屋に入ってるけど、これって問題じゃないのかな………。

 佐川君は私を部屋に連れ込むなり、座布団を二枚並べてそのうちの一枚に正座した。


「ど、どうしたの……?」


「助かった……。あと1分、佐藤さんが来るの遅かったら、俺ゲーセンに逃げてた」


「ほ、ほんとにどうしたの……?」


 この人がここまで狼狽えるのは珍しいな……。多分、相当ショックな事があったんだろう。

 ここは、仮にも彼女として話を聞いてあげなければなるまい。むんっ、と気合を入れて、佐川君の話を聞いた。


「…………ヨウに、嫌われた」


「はっ?」


「ヨウに!嫌われた‼︎」


 ………聞かなきゃよかった。何その悩み。いや、兄弟も姉妹もいない私には、妹さんに嫌われるとどんな感じなのかなんて分からないけど。


「………そ、そう。ドンマイ」


「と、いうわけで、助けて下さい」


「え、なんで?」


「なんでって、妹に嫌われてる期間が三日以上続いたら俺弾け飛んで死ぬよ?」


「ご、豪快な死に方ね……。いや、そうじゃなくて。なんで私に相談するのって事」


「彼女なんだから頼れって言ってたじゃん!」


「兄妹喧嘩は射程外だよ!」


「俺の射程は成層圏まで届く!」


「大気圏より上の範囲です!」


「間違えた。月まで届きます」


「無限パンチか⁉︎」


「…………えっ、佐藤さんってアニメ見るの?」


「え?あー………あっ」


 …………しまった。佐川君がアニメ好きなら、私も少しは知った方がいいと思って、何本かKUKIYAでアニメ借りて見た………こんな事は口が裂けても言えない。ていうか、そもそもなんで妹に嫌われて死ぬのかわけわからんし。

 よし、話を逸らそう。


「それより、料理教えてよ」


「え、いやアニメ……つーか相談………」


「料理教えてよ」


「え、いや……」


「じゃないとヨウちゃん呼んで帰る」


「よし、キッチンに行こうか」


 佐川君は立ち上がって部屋を出て、その後に私は続いた。

 階段を降りてリビングに入ると、ゲームをしていたヨウちゃんとセイ君の視線が目の前の佐川君に一瞬で集まった。キッと睨まれたと思うと、二人は舌打ちをした。

 で、私に気付いた二人は小さく手を振ってきた。


「おーい、ひかりちゃーん!」


「何々、なんでここにいんの?」


 兄の事は舌打ちで無視して、私には積極的に声をかけてきますか……。あの二人、割と平気で毒を吐くからなぁ。まぁ、一応答えておくか。


「お兄さんに料理を教わりにだよ」


「………ふーん」


「気をつけてね。そいつ小学生相手に平気でホームラン打つ高校生(笑)だから」


 ………確かにこれはいづらいだろうなぁ。少し佐川君が可哀想になったので、後ろから耳元で聞いた。


「………何したらこんなに嫌われるの」


「……助けてくれんの?」


「内容によります」


 明らかに佐川君が悪いのなら知らないけどね。

 すると、佐川君は突然、私の手を取ってブンブンと振ってきた。


「ありがとう!マジで助かる‼︎今度、最近誰にでも通用するとわかった、手作り手毬寿司弁当をご馳走する‼︎」


「愚兄うるさい。声でかい」


「はっ倒すよホント」


「はいごめんなさい」


 隣の妹と弟に冷たく言い放たれて、素直にノータイムで謝る佐川君。少し情けないけど、ちょっとあの二人も言い過ぎじゃない……?

 すごすごと台所に佐川君は引っ込み、私は改めて聞いた。


「………で、どうしたの?」


「……それがな。昨日、あの二人がいる野球チームの親子大会だったんだが……」


「うん、知ってる」


「えっ、知ってんの?」


「あー、うん。ヨウちゃんから聞いた」


「あっそう。まぁ、それで、その……あいつの球を初球でホームラン打っちまってな……」


「それで?」


「それだけ」


「………それだけ?」


 ………それはちょっと理不尽じゃないかな。野球はよく分からないけど、本気でやってる物に手を抜かれる方が嫌だろうに。手加減は必要だとは思うけど、それで子供側が怒るのはおかしい。

 と、思ったら佐川君が続けて言い訳を始めた。


「や、違うんだよ。そもそも俺は2人の球をホームランにするつもりなんかなかったんだ」


「へっ?」


「ファールにする予定だったんだよ。だけど、球が思ったより速くて引っ張りが足りなくて、それで綺麗なホームランに………」


「…………」


「ファール2本の後に空振りして三振取らせるつもりだったんだよ」


「………それ、2人に言ったの?」


「言ったよ?だって嫌われたくないもん」


 前言撤回。言ってないけど。120%お前が悪い。


「………そりゃ嫌われるよ」


「何でだよ⁉︎ちゃんと手加減ってことを弁えようとしてたんだぞ俺は⁉︎」


「あのね、ヨウちゃんは私に嘘吐いてまで行こうとしてたほど楽しみにしてた、佐川君との野球大会なのよ?それにファールで誤魔化したりなんてしたら、そりゃ嫌われるよ」


「………そうか。全力で全打席ホームランしてやった方が良かったのか………」


「いやそれは少し極端だけど……」


 この人バカなのかな。


「とにかく、謝った方が良いんじゃないの?今日の晩御飯は二人の好きなものでも作ってさ」


「………やっぱり?」


「当然よ。私がこれから教わる料理、それで良いからさ」


「………すまん。今度、手毬寿司弁当作ってきてやる」


「いらない。なんか女として負けた気分になりそうだから」


「いや料理教わってる時点でお察しなんだが」


 ………あ?


「ごめん冗談だから睨まないで」



×××



 とりあえず、佐藤さんに教えた料理は、ヨウとセイの好きなレンコンのはさみ揚げ。包丁の使い方とか覚えたようだ。当初の目的は果たした。

 だが、俺にとっての問題はここからだ。弟と妹に謝らなければならない。


「…………」


 レンコンのはさみ揚げを大量に皿に盛り付け、その皿を手に持った。

 そのまま、しばらくゲームをしてる二人を見つめた。


「………佐川君?何してんの?早く行きなよ」


 後ろから、佐藤さんが声を掛けてきた。いや、それは分かってるんだけどさ………。


「……あの、一緒に来てくれない?」


「どこまでヘタレれば気が済むの」


「………デスヨネー」


 分かってる、分かってるからそんな怖い顔で睨まないで下さい。俺、いい歳してビビリなんだから。

 ………とりあえず覚悟を決めよう。大丈夫、嫌われたら自決すれば良いだけだ。いや、ダメだろそれ。何も解決されてねーよ。

 いや、とりあえず謝れ。謝る時の言葉はどうする?


1、「手を抜いてすみませんでした」


 いや、普通すぎるな。とりあえず謝りゃいいと思ってると思われる。


2、「ホームラン打ってすみませんでした」


 煽ってんのかよ俺は。謝る相手を挑発してどうする。そもそも謝るポイントが違う。


3、「ナメててすみませんでした」


 いや、だからもう少し言葉を選べって。語彙力ゼロかよ。


4、「なんか色々………」


「早く行け」


「はいすみません」


 後ろから冷たい声を投げ掛けられ、俺は慌てて皿を持ってリビングに向かった。

 レンコンのはさみ揚げを食卓に置いて、二人に言った。


「……あー、ヨウ。セイ」


「誰?……ああ、ゴミ……お兄ちゃんか」


 ものっそい毒を吐かれたが、聞こえなかったことにしてめげずに謝った。


「その……悪かった。俺にホームラン打たれて絶望するお前らの顔が見たくなくて……」


「お前ら?」


「誰のこと言ってんの?」


「………ヨウとセイの顔を見たくなくて……その、ついワザと負けようとしちまった。まぁ、思ったより速くて引っ張り切れなかったんだが……」


「……………」


「……………」


 うっ、反応なしか。


「ま、まあ、俺が思ったより速かったと思うって事は、ホント上手くなったと思う。マジで。二人の好きなレンコンのはさみ揚げとか作ったから、マジ……せめて口聞かないのは勘弁して下さい死んでしまいます」


 なんか最後の方グダッてたが、本当にもうマジで頼むわ。

 すると、ヨウの方がソファーの上に立って、背もたれの上になった。おい、それやめろ。ソファー壊れんだろ、と思ったが、怒られてるので何も言えない。

 その直後、ヨウは俺の胸ぐらを掴んだ。


「ふひっ」


 引っ張られ、キスしそうな程の距離まで顔が近付けられ、思わず変な声が口から漏れた。

 そんな事、気にした様子もなく、可愛い顔で一生懸命に俺を睨みながら、ヨウは目の前で怒鳴った。


「次は打ち取るんだから‼︎」


 そう言うと、掴んだ胸ぐらを押して俺を後ろに投げ倒すと、ソファーから降りて食卓に向かった。

 いい歳して妹に投げ飛ばされた俺は、尻餅をついて壁にぶつけた頭をさすりながら、薄っすらと目を開いた。


「………ってて、ケツが……」


 すると、今度はセイがソファーから降りて、俺の上に馬乗りになった。

 こいつは投げてないけど、一応謝った方が良いよな。バッテリーだし。


「………セイも、悪かったな」


「や、謝罪はさっき聞いたから。ヨウが許すなら許すし」


「お、おう……」


 お前はそれで良いのか?まぁ、本人が良いからいいけど。


「それより、なんで打たれたの?俺のリードが悪かった?」


「そりゃお前。球速は悪くないけど正面高めってホームランコースだろ。内角高めよりマシだけど、格上に打たせるんなら高めは避けて低めか真ん中で勝負しろよ」


「なるほど………」


「それと、全力投球以外での勝負も考えろよ。速けりゃ良いってもんじゃないんだから」


 教えてやると、セイはなんかブツブツ言いながら食卓に向かった。相変わらず、バカ過ぎてあいつの考えてることはよくわからない。

 ふと台所の佐藤さんの方を見ると、俺のことを見ていたようで目が合った。佐藤さんは俺に親指を立てて、食卓にいるヨウに「それ私が作ったんだよー」と話し掛けた。

 ま、とにかく、一件落着かな。

 そう判断すると、俺はレンコンのはさみ揚げ以外のサラダや白米も用意しに台所に向かった。



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