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ボッチとビッチ  作者: カルロス藤崎
お付き合い始めました。
13/29

彼と彼女の脅迫状5



×××



 帰りの電車の中。俺は一人で悩みながら帰宅していた。

 授業なんて頭に入って来なかった。此方にも考えがある、とか言っていたが、何をするつもりなんだ?

 手紙をもらった直後よりは落ち着いてるが、誰がどこで俺を狙ってるか分からない。いや、相手が誰だか知らないが、普通は問題を起こしたいと思ってる奴はいないから、俺と佐藤さんが別れた、とハッキリするまで手出しして来るとは思えない。

 それでも、何処かで観察されている可能性もある。

 いや、観察されてても問題はない。俺からアクションできるのは、佐藤さんへのメールだけだ。佐藤さんがうちに来るようなことが無ければ平気だ。

 とりあえず、さっさと帰ろう。落ち着いて考え事が出来るのは自宅だけだ。

 最寄駅に着いたので、電車を降りて改札口を出た。あ、帰る前に夕食買わなきゃ。


「お兄ちゃん!」


「?」


 この声は、我がラブリーシスター、ヨウの声じゃないか。その隣にはセイの姿もある。


「よーっす!」


 たったか走って来て、俺の手を取った。もう反対側はセイが俺の腕の裾を掴んだ。


「おう。何、どした?飯の催促?」


「それもあるけど、迎えに来たんだよ」


「は?何、そうすれば好きなもの作ってもらえるとか思ってんの?」


「どんだけ疑ってんの。俺達の事なんだと思ってんの?」


 えー、お前らの行動動機なんていつもだいたいそんな感じじゃん。

 疑いの眼差しを向けてると、ヨウが不満そうな顔で答えた。


「最近、お兄ちゃん疲れてるみたいだったから、迎えに来てあげたんだよ」


「ほら、買い物も済ませた」


 セイが続いて、スーパーの袋を見せて来た。


「お、お前ら………!」


 感動した。こいつら、こんなに兄貴想いだったなんて………!でも、その、なんだ。こういう事は確認しとかなきゃな……。


「ちゃんと野菜買ったんだろうな」


「「………………」」


「おい、こっち見ろおい」


 こいつら………。まぁ、迎えに来てくれた気持ちだけでも嬉しい。怒らないでおいてやろう。


「とりあえず、野菜買いに行くから」


「えー!」


「横暴だー!」


「うるせぇ」


 幸い、こいつらピーマン以外の野菜は好きじゃないだけで、基本的に食えるから手間はかからない。まぁそれでも、ピーマンも買うんですけどね。

 二人が行ったスーパーとは別のスーパーに向かった。そっちのが野菜が安いし、何よりそのスーパーの袋を持って店内に入ると万引きしたと思れそうじゃん。その袋の中に商品を入れてレジを通らずに店を出れば、簡単に万引き出来てしまうから。


「ていうか、お前らに悟られるほど、俺って疲れた顔してた?」


 ふと思ったので二人に聞くと、ヨウな何食わぬ顔で頷いた。


「抜け忍になった主人公のライバルみたいな目をしてたよ」


「え?俺、瞳力とか持ってるように見えた?」


「そういう意味じゃねーよ」


 セイに呆れられた。俺達兄妹の中でも、飛び抜けてバカなあいつに呆れられると、何となくショックなんだけど………。


「そんなに疲れてるように見えた?むしろ憑かれてるように見えてた?」


「むしろ憑かれるような気がした」


「おい待て。それは無いだろ」


「そうだよ、セイ。さっきだって、普段なら私達が気付く前に私達に気付いて、後ろから抱き上げて来る気味悪い習性を持ってるお兄ちゃんが、私に呼ばれるまで私達に気付かなかったんだよ?」


 おいだから待って。そんな不名誉な習性ねぇよ。………あれ?無いよね?なかったはず。


「でも、セイの言う通り疲れてるにせよ憑かれてるにせよ、お兄ちゃんの様子は変だよ」


「そんなに?」


「うん。気持ち悪かったのが、気味が悪くなってるもん」


「酷くない?いくら俺でも傷付くんだよ?」


「じゃあ、せめて気味が悪いの治してよ」


 それはつまり、現状の俺を治せってことね……。でも、自覚が無いものを治せるのか?

 いや、可愛い弟と妹の頼みだ。絶対に治す。その為にも、情報を集めないと。


「何時頃から気味悪くなった?」


「いつだろう……」


「二日くらい前じゃね?」


「あーそのくらい」


 二日くらい前、というと……最初の脅迫状をもらった時、か………。


「昨日の夜、ひかりさんを駅まで送って帰ってきたときは気味が悪くなくて気持ち悪かったよ」


 うーん、なんだろうその表現……素直に喜べない。

 しかし、昨日の夜か………。ああ、全部分かった。脅迫状の有無だ。それによって、俺の精神的疲れが激変し、表情に出ていたんだろう。


「………悪かったな。でも、もう大丈夫だ」


 俺は二人の頭の上に手を置いた。


「本当に?さっきだって、私達に気付かなかった癖に?」


「原因がわかれば、お兄ちゃんは対策を考えられる出来る男なんだよ」


「何言ってんの?」


 おい、真顔やめろ。


「まぁ、なんでもいいけど。兄ちゃんは基本的に一人だから俺もうヨウも心配なんだよ」


「は?なんで心配?」


「誰かに相談とかできないでしょ」


「…………」


 確かに。いや、でもだからこそ、俺は一人で出来ない事態には至らないようにして来ているつもりだ。今回の事だって、その範囲内に入っている。だから、金田と和解できた。

 もう一人が八木だか村木だか知らないが、こいつらとの諍いも丸く収められるだろう。


「でも、大丈夫だよ。俺はこう見えて頭良いんだぞ」


「いや、こう見えてって……お兄ちゃんは頭良さそうに見えるよ?」


「え、ま、マジで?」


 初めて外見のことで褒められたわ。嬉しい、もっと褒めても良いのよ?


「というか、悪知恵が働きそうだよな」


「腹黒そう」


「卑怯者っぽい」


「小物っぽい?」


「小賢しいっぽい」


「ぽいぽい言うな。ソロモンの悪夢か」


 こいつらは本当にこの野郎。上げて落とす達人かよ。

 すると、まとめるようにヨウが言った。


「とにかく、ちゃんと相談する事。社会人になったら………なんだっけ、報告、連絡、相談で………連装砲?」


「ホウレンソウな。なんで武装にしちゃうの」


「それが大切なんだから」


「…………」


 んな事は分かってる。だけど今回の件に関しては相談できる相手がいない。

 まぁ、二人に心配かけるわけにはいかないか。俺は二人の頭を誤魔化すように撫でた。


「サンキュ。なんかあったら、まぁ相談くらいしてやるよ」


「なんで上から目線だし」


「それな」


「スーパー着いたら、好きなガチャポン1回ずつやらせてやる」


「「マジで⁉︎」」


 今日くらい良いだろう。二人の気遣いに感謝だ。



○○○



 私はクラスの男子とボーリング場にいた。サッカー部のメンツと四人で、一番負けた奴がゲーセンで三人に一回ずつ奢りという罰ゲーム付きで。彼氏ができて、お触りが禁止になった直後にボーリング奢ってくれなくなった辺り、佐川君の予測は当たっていたみたいだ。


「うぇーい!スペアー!」


 小林君が嬉しそうにガッツポーズした。直後、奥田君と太田君からブーイングが上がった。


「ああ⁉︎お前、ざっけんなよ!」


「死ねバーカ!」


「黙りたまえ負け犬共」


 小林君はこれで七投目にして102点以上取っている。ボーリングが得意みたいだ。一方、太田君はド下手で、まだ47点。よくこれで賭け事に乗ったなこの人………。

 そういえば、佐川君はボーリングとか上手いのだろうか。あまりボーリングしてる姿は想像できないけど、なんか意外と上手そう。あの人、小賢しく要領良く物事をこなすのうまいし。


「………とう、佐藤!次」


「え?あ、ご、ごめん」


 呼ばれて、私の八投目が始まる。現在、三位の私は61点。これなら、少なくとも太田君に負ける事はない。


「ほっ!」


 掛け声と共にボールを転がした。見事な曲線を描き過ぎて、曲がるに曲がった結果、一番左の一本しか倒せなかった。


「だーかーらー!佐藤は曲げ過ぎなんだって!」


「真っ直ぐ投げろよ!」


 太田君と奥田君の野次は本当に頷くしかない。けど、太田君にだけは言われたくない。

 まぁいいさ、もう一回投げられるんだから。

 私は二発目を投げようと、胸前にボールを構えて、歩きながら後ろに振り上げた。

 そして、転がそうとボールが手を離れる直前、ポケットのスマホから着信時の音楽が鳴り響いた。


「っ⁉︎」


 手が迷って、ボールは曲線を描く事なくガータールート一直線に転がっていった。


「……………」


「太田!お前これワンチャンあるぞ!」


「あるなこれ!」


「うるさいよ!」


 私は不機嫌そうにスマホを見た。佐川コウの文字があった。


「ご、ごめん。ちょっと電話出てくる」


「おー」


 私は彼氏からの通話を不機嫌そうに出ながら、女子トイレに向かった。


「もしもし?」


『あ、佐藤さ………何怒ってんの?』


「私のゲーセンでの一人1プレイ分100円玉貯金箱権を賭けた大事な一投を邪魔してまでの電話って一体なんなわけ?」


『は?何その権利。酷くいらないんだけど。そんなもん欲しいの?』


「負けた奴がその権利を強制的に得らされるんだよ!」


『へぇー。何のゲームなん?』


「ボーリング」


『一応聞くけど、誰といんの?』


「安心して。バスケ部のメンツじゃないわ」


『バスケ部って金田以外知らないんだけど』


「八木君と村木君もバスケ部だよ」


『……………』


 少し黙り込む佐川君。ていうか、いい加減に用件を話してくれないかな。


『ちょうど良かった。その八木と村木の事聞きたいんだけど』


「? どうしたの?熱でもあるの?」


『ねぇよ。念の為、その二人が佐藤さんを狙ってるかどうかも調べようと思っただけ』


 なるほどね。


「私も詳しいことは知らないよ。ただ、二人ともバスケ部で金田君と違って一年からベンチ入りではないけど、八木君の方は中学の時にバスケやってたみたいだよ。二人とも上手く金田君の自慢話に合わせてたから、どんな性格は知らないけど、村木君は貧乳好きで八木君は二次元オタクを語ってたよ」


 知ってる事を話すと、佐川君は少し黙り込んだ。


『知ってることはそれだけ?』


「え?あ、うん」


『…………なるほど。ありがと』


「ん?いや、全然」


『じゃ、また』


「あー待った」


 私は電話を切ろうとする佐川君を止めた。


『何?』


「その二人が何かあるの?」


『にゃぃっ……んんっ!……無い』


「いや、嘘下手すぎるから。あるの?」


『無いから』


「ちゃんと話してよ。一応、彼女なんだしさ」


『気にしなくていいから』


「そんなふうに言われて気にしない人がいるとでも………!」


 通話はそこで切られた。佐川君の嘘は本当にわかりやすくてありがたい。佐川君が他人に興味を持つようには見えない。八木君か村木君、何方かと何かあったんだろう。


「…………でも、佐川君は絶対に私には何も教えてくれないと思うんだよなぁ」


 気を遣いまくって、人に気を遣わせるのは多分彼くらいだろう。前々から、佐川君には疲れが見えていた。私も協力したい。だけど、佐川君ほど頭良くないし、二人は金田君と一緒に私から距離を置いてしまったため、こっちから話し掛けると不自然な気もする。

 ………松崎先生しかいないか。とりあえず、明日にでも松崎先生に相談しよう。

 そう決めて、私は女子トイレを出てサッカー部達の元に戻った。

 スコアを見ると、太田君がストライクを取っていた。


「……………」


 この後、三人に一回ずつゲームを奢った。




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