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ボッチとビッチ  作者: カルロス藤崎
お付き合い始めました。
12/29

彼と彼女の脅迫状4



○○○



 翌朝。遅刻ギリギリセーフの電車の中で、私のスマホがヴヴッと震えた。

 佐川君からだった。かなり珍しいな。佐川君の方からメールをくれるなんて。


佐川コウ『金田と和解した』


 は?いきなり何?とはならなかった。すぐにピンと来た。


佐川コウ『まぁ、形だけの和解の可能性もあるけど』


 いやさすがにそれは考え過ぎでしょ……。金田君にそこまでする頭があるとは思えないし。

私はすぐに返信した。


Hikari☆『どんな感じで和解したの?』


佐川コウ『スタバで』


 いや場所じゃなくて。ていうか、佐川君がスタバに行ったの?似合わないにも程があるんですがそれは。


佐川コウ『そういうイジメする奴、佐藤さんは嫌いだよって教えてあげたら向こうが折れただけ』


 へぇ……意外とちゃんとした説教をしたんだ。ていうか、私と出会ってまだ一ヶ月くらいなのに、それで謝るって金田君どんだけ私のこと好きなの。


佐川コウ『お陰で昨日はゆっくり眠れた』


 なんか今日は佐川君機嫌良いなぁ。たくさんメールして来る。


Hikari☆『眠れてなかったんだ笑』


Hikari☆『やっぱり精神的に疲れとか溜まってたの?』


佐川コウ『まぁ、少しは』


Hikari☆『言ってくれれば良かったのに』


Hikari☆『一応、彼女なんだし』


佐川コウ『佐藤さんに気を使わせたくなかったんだよ』


 そういう気遣いは嬉しいけど、こっちとしてはもう少し頼って欲しい。じゃないと、巻き込んだ側としては少し申し訳ない。


Hikari☆『そんなの気にしなていいよ』


佐川コウ『いや、それ無理』


 それ無理って何。そんな難しいこと言ってないでしょ。まぁ、この件に関してうだうだ言っても仕方ないか。

 それより、ちゃんとまずはお礼言わないと。


Hikari☆『まぁいいや。ありがとね』


佐川コウ『?』


Hikari☆『助けてくれて笑』


佐川コウ『大袈裟だろ。てかなんで笑だよ』


Hikari☆『何となく』


 ちょっと照れ臭かったんだよ。察してよ。


佐川コウ『じゃ、そろそろだから』


 そう言われ、私は窓の景色を見た。学校近くの駅の風景だった。と、いうことは同じ電車に乗ってるのかな?


Hikari☆『同じ電車に乗ってるの?』


佐川コウ『いや、そろそろ家出る所ってこと』


 はっ⁉︎この電車、遅刻ギリギリの電車ですけど⁉︎


Hikari☆『何やってんの⁉︎』


佐川コウ『言ったろ、久々にゆっくり眠れたって』


Hikari☆『しかもただの寝坊⁉︎』


佐川コウ『松崎先生にさ、妹の看病してたって言っといてくれる?』


 いや絶対バレますしそれ………。学習しないのかな、この人。

 ………あ、松崎先生といえば、気になることあるんだった。


Hikari☆『松崎先生って言えばさ、佐川君って松崎先生と仲良いよね』


佐川コウ『ああ。多分、俺と学校で一番仲良いの松崎先生』


 …………色々とツッコミどころはあるけれど、とりあえずイラっとした。


Hikari☆『彼女にそういう事、堂々と言うかな普通?』


佐川コウ『はいはいごめんごめん』


 うわ、適当。今度、マジで殴ろう。


Hikari☆『仲良いと思ってるなら、遅刻とかで世話を焼かすのやめなよ』


佐川コウ『バッカお前世話焼かしたから仲良くなれたんだろ。世話焼かさなかったら仲良くしてくれないかもしれないじゃん』


 カマちょみたいな事を言い出す佐川君だった。ていうか、どんだけ松崎先生にカマって欲しいのよ。小学生か。

 ………ていうか、だから彼女の前でそういう話しないでよ。いくら教師でも松崎先生は女性でしょ?


Hikari☆『バーカ。怒られても知らないから』


佐川コウ『慣れてる』


 慣れてるって……。クラス内知名度ゼロなのに一番世話の焼ける生徒とかある意味すごいなぁ。

 そんな事を話してるうちに、駅に到着したので、私は電車から降りた。


Hikari☆『じゃ、私は遅刻したくないのでもう電車降りるね』


佐川コウ『あ、その前に一つ。金田が、佐藤さんを狙ってるのは俺だけじゃないって言ってた』


 それを聞いて、私は少し冷や汗を流した。そっか、まだこれで終わりじゃないんだ。


Hikari☆『分かった』


佐川コウ『じゃ、また』


 佐川君とのメールを切ると、私は電車から降りた。

 すると、階段を上がる松崎先生が見えた。


「…………佐川君の事は特に何も言わなくて良いや」


 寝坊したのは自分なんだから、大人しく怒られてね。佐川君。



×××



 俺は、学校に来るなり生徒指導室に連行された。松崎先生の長い説教(うち八割は雑談)を終え、俺は伸びをしながら二時間目の始まる前の教室に向かった。

 まだ自分の席に荷物も置けていない。椅子に座って、時間割を確認した。次は……歴史か。寝てて良いな。

 そう決めて、机の上に伏せた。直後、ヴヴーッとスマホが震えた。


「……………」


 佐藤さんからだった。


Hikari☆『怒られた?笑』


 うるせーなこの野郎。人の不幸を笑うとか最低だぞ畜生。

 ジロリと佐藤さんを睨むと、ニヤニヤしながら俺を見ていた。珍しく今日は男子達の姿はない。おそらく、いつもいる金田達がいないから、他のグループの男子達がお互いに空気と視線で牽制し合ってるんだろうな。

 とりあえず、返信しないと。


佐川コウ『うるせーよ。てか、一人で寂しいのか?』


Hikari☆『違うから!』


Hikari☆『佐川君と一緒にしないでくれる⁉︎』


佐川コウ『俺は常に一人だから、むしろ一人である感覚が当たり前になってるからね。寂しいなんて事は万に一つもありえないから』


 あれ、なんか自分で言ってて泣きたくなってきたよ。さすがに言い過ぎだよね俺。彼女も一応いることだしね。


Hikari☆『何その無駄な説得力』


 そこは否定しろよお前。


佐川コウ『とにかく、俺もう寝るから。おやすみ』


Hikari☆『あと4分で授業だよ?』


 まだ4分もあんのか。


佐川コウ『関係ないから。おやすみ』


Hikari☆『えー、構ってよー』


佐川コウ『無理だから』


 俺は通知をオフにして机に伏せた。ようやく眠れる………。そう思った直後、目の前の席からガタッと音がした。

 席の主が帰ってきたか?まぁ、関係ないな。そう思って本格的に寝始めた。


「佐川君」


「ブフッ」


 聞き覚えのある女性の声に、俺は思わず吹き出した。俺がこの教室で聞き覚えのある声と言ったら、確か二人しかいない。そのうちの一人は男だから、この声の主はほぼほぼ間違いがない。


「…………な、なんのつもりだテメェ」


 悪戯に成功したような笑みを浮かべて、佐藤さんは俺を見ていた。


「いやー。私、まだ佐川君とは話したこと無いなーって思って」


 …………なるほど、まだ過去に話したことないって事にするのね。アホかこの女。

 だが、こっちもこの場では下手な事は言えない。周りでは誰が会話を聞いてるか分からないからだ。特に、佐藤さんと誰かの会話なら尚更だ。

 だから、俺は早速切り札を出す事にした。ブレザーの内ポケットから、俺は佐藤さんの定期をチラ見せした。


「ッ⁉︎」


「これ、返して欲しけりゃ今すぐ席に……」


「なっ……だっ、ダメェ‼︎」


「ふぁっ?」


 突然、俺のブレザーの中を弄って来る佐藤さん。


「ちょっ、佐藤さん⁉︎格納庫弄るのやめてくれる⁉︎」


「だ、ダメェ!それはダメなの!返してぇ!」


 ああああ!教室中の視線をかき集めてる!ていうかなんだこれ⁉︎どんなプレイだよこれ!


「わ、わかった!返す、返すから落ち着け!」


 俺がそう言うと、顔を真っ赤に染めた佐藤さんは、恨みがましそうな目で俺を睨んでいた。何なんだよ急に。この定期に何があんだよ。


「はい」


 俺が定期を懐から出すと、餌をもらった人間に慣れてない猫のようにガッと奪い取った。

 で、ジロリと俺を睨みつけた。


「………見た?」


「何を」


「プリクラ!」


「はぁ?」


 …………あー、金田がそれに貼ってあるプリクラから俺の事割り出したんだっけか。ていうか離れてくれませんかね。周りの人すっごい見てるんだけど。

 ………いや、待てよ?これは使える。


「見てねえよ。何、彼氏とのプリクラでも貼ってんのか?」


「はぁ⁉︎何………‼︎」


 そこで、佐藤さんはピンと来たのか、少し冷静な顔になった。


「そ、そう、だけど……」


 これなら、クラスの面子に俺と佐藤さんは、彼氏彼女の関係でないことは伝えられる。


「なら、見とけば良かった」


「…………本人の癖に」


 小声でなんか呟いたが、多分周りには聞こえてないだろう。

 すると、教室に先生が入ってきたので、佐藤さんは自分の席に戻った。ていうか、何が貼ってあるんだよ、あの定期の裏に。

 さて、歴史は寝よう。テスト前に中身ペラペラと覗くだけでこれは点取れる。

 あ、いやでも教科書くらい出さないとまずいか。枕にもなるし。基本的に置き勉スタイルなので、机の中に教科書は入ってたはず………。テキトーに机の中に手を弄って教科書を引き当てようとすると、なんか教科書でもノートでも 漫画でも無いものが入っていた。


「?」


 薄っぺらいもの。それを取り出し見ると、封筒だった。これは見覚えがある。うちの購買で売ってるものだ。前にもこんな事があったはずだ。


「………………」


 開くと、手紙が入っていて、前の脅迫状と同じ字でこう書かれていた。


『女と別れろ。さもないと此方にも考えがある』


 再び、背筋が凍りついた。嫌な汗が頬を伝って流れて来る。

 なんだ?なんでだ?金田とは和解したはずだ。あれは嘘だったということか?

 いや待て。いくら金田でもこんな自分を疑えと言わんばかりの事をするか?

 そういえば、昨日は脅迫状の事は俺が勝手に「多分、金田の犯行だ」と決め付けていた。つまり、脅迫状だけは別の人物ということになる。


「………………」


 落ち着け。とりあえず、手紙をしまえ。考えろ。金田が犯人の可能性は捨て切れないが、他に犯人がいる可能性もある。金田だって、他に狙ってる奴がいると言っていた。

 待てよ?金田はあの性格だ。根は悪い奴じゃないかもしれないが、その他は良い奴とは言えない。その金田に友達が、取り巻き二人以外でいるか?ましてや、恋愛関係なんて金田の奴には絶対知られたくないだろう。

 つまり、犯人はあの取り巻き二人の何方かになる。


「……………」


 ダメだ。俺はあの二人のことを良く知らない。確か、村木と八木だったか?後で佐藤さんにこの二人のことを聞かないと。

 とりあえず、寝よう。



○○○



 お昼休みになった。佐川君が言ってたことは本当みたいで、金田君は私の所に来なかった。

で、その所為か今日はサッカー部のメンバーとお昼を食べているが、私はのんびり食事をする気分ではなかった。

 佐川君に、定期に貼ってあるプリクラを見られた可能性があるからだ。定期ケースの方のプリクラは良い。だけど、定期の方に貼ってあるのは見られたくない。


「…………はぁ」


「どうしたん?佐藤」


 サッカー部の太田君が心配してくれたので、私は笑顔を作って答えた。


「大丈夫……」


「ほんとかよ……。そういえば、さっきあそこの席の……なんだっけ、相模?」


「佐川だよバカ」


 私が訂正する前に、小林君が訂正してくれた。


「そう佐川。そいつとなんかあったん?」


 ああ、まぁさっきの見られてたらそういう質問来るのも当然よね。


「いや、私の定期を何故か佐川君が持ってただけだよ」


「は?なんで?」


「さぁ?」


 ………そういえば、なんで私の定期持ってたんだろ。やっぱ部屋に落ちてたのかな。


「盗まれたんじゃね?」


「あー、それあるわ」


「佐藤のストーカーとか?」


 この人達も失礼だなぁ………。よくもまぁ、知らない人をそこまでボロクソに言えるものだ。まぁ、こんな事で怒るほど私は子供じゃないけど。


「それはないって。私、佐川君と関わったのさっきが初めてなんだよ?」


「いやー、でも男って性に関してはマジで猿並みだからな」


「それな」


「ちょっとー、女子がここにいるんですけどー」


 食事中に下品な話するあんたらよりマシだっての。本当になんていうか、男子ってのは………。

 こうして話してると、本当に恋人役を頼んだのが佐川君で良かった気がする。こいつらだったら、恋人の立場を利用して何を要求して来るかわからない。


「そういえばさ、前々から思ってたけど俺達はこうして佐藤さんと飯食ってるけど、彼氏は良いのか?」


 奥田君が思い出したようにつぶやいた。はい、これが今一緒にご飯を食べてるメンバーです。太田君、小林君、奥田君。サッカー部はもう一人、山本君がいるけど、今日は学校を休んでます。


「別に、良いみたいだよ。そんな事気にしてないみたい」


「………ふーん」


 何故か面白くなさそうな顔をするサッカー部3人。本当は私だって女の子と食事してみたいさ。

 だけど、その、何。女子からはあまりいいように思われてない気がするんだよね。男子を一人で独占しちゃってるわけだから、良い風に思われなくて当然だ。


「………はぁ」


 まぁ、仕方ないよね。女子の友達を作るのは、男子達とホストクラブみたいになってから諦めたんだから、切り替えないと。

 そんなことを思いながら、サッカー部の男子達とお昼を食べた。



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